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勇者の盾は、もう要らず。  作者: あんころもち
第四歴 勇者の盾、その外出。
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第三十話

 まあ、そりゃそうか。今までの態度見てりゃわかる、こいつこうして謝ったこととか、ましてこんな、自分の罪を認めて相手に謝るとか、これまでまったく無かったんだろうし。


 だが、こいつの性根がこうやって叩き直る下地は、既にこれまでの過程で出来上がっていた──とはいえ、ほとんど偶然に近いが。


 要は鋼の鍛造と一緒だ。こいつの正気を覆っている、やたらと高くて硬い傲慢を、まず何度も非難することで、それこそ茹でた卵の殻をぺりぺりと剥がすように叩き壊していき、そこから感情を激しく揺さぶってその冷熱を促し、そうして少しばかり柔らかくなったところで──渾身の(説教)を思い切り叩き込む。


 そうすると、ほれ、


「まったく、そちらの御仁の言うとおりだ。ふふ、いくら貴族の末子に生まれたからとて、決して長には収まれぬからとて……その不満をこうして民に向けるのは、うむ、間違っていた。


いや、本当は気づいていたのかもしれないな……このような、そう、家に泥しか塗らぬ恥ずべき行為。こんなことを続けたとしても、この胸に渦巻く暗澹(あんたん)への不安は、晴れるはずが無いのだと……」


 いや誰だよ。こいつ誰だよ。いくら正論をぶつけて、自分が他人に迷惑かけたことを知ったっても、ここまで劇的に変わるってことある?


 あ、そうか、こいつあれか、元々こうして自分の言葉に酔いやすい気質なのか……まあ貴族の若いのってそういうところあるよな。なんか自分が劇の主役にでもなったかみたいな、そういう英雄願望(思い込み)が激しいやつ。


 いや、いいんだけどね……別に俺はこいつの更正がしたかったわけじゃないから、どうせ三日で終わる改心だとしても、この場を乗りきれるならなんだっていいし。


「誓うとも。この場にいる全員に、いやさこの国、この世界すべてに対して──ああ。


聞いてくれ、みんな。僕──ジルコニア・シンセティクスは、もう、このような無体など、無法など、金輪際(おこな)わないことを、今、ここに誓う──」


 堂に入っている、というより、悦に浸っている、といった様子の、微熱まじりの高らかな声──ま、たった一度(たた)いただけで、今まで歪みに歪んでいたものが、すっぱりまっとう(・・・・)になるなんざ思っちゃいない。


 というかなろうがなるまいが、もう俺にどうでもいい話だ。正直約定さえ守ってもらえれば、もうそれでこいつへの興味も失せる。二度と会うことも無いだろうし。


 そんで、一度こうなっちまえば、あとは単純な話に持っていける……とはいえ、ここでこの騒ぎに乗じて抜け出す、なんてことはしない。


 そうなれば、もしかすればこの場酔いしたジルなんとかくんが、自身が使える人手の限りを尽くして、俺たちの居場所を突き止めかねない──そうなってしまえばこの町にあるであろう彼の屋敷にご招待食らったあと、なんだかんだと引き留められ、結局長く滞在する羽目になりかねない。それはさすがに避けたいところだ。


 なにせ、俺はともかく俺以外の道連れ全てが魔で正体を隠している状態。ほんの一時(ひととき)の逗留ならともかく、長く滞在してしまうとなれば……いつ、どこで素性が露見するかわかったもんじゃない。


 だから、ここは……


「誓ってくれたのならなによりなにより。なら、俺たちは俺たちの用事を果たさせてもらうぜ……」


 未だ泥酔するように陶酔を深くする彼に声を掛け、事態を半ば呆然と見守っていた、両隣の少年少女に目を配り、ついで顎でカウンター席へ向かうように指示を向ける。


 すると、意図はわからずとも、ともかく従うべきだと判断してくれたのだろう、二人は少しだけ、テーブルの上に立って熱っぽく言葉を、深酒した酔っぱらいの吐瀉物のように勢いよくぶちまけるジルなんとかにうんざりとした目を向けると、小さく息を吐いて、彼に背を向けて歩き出した。

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