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勇者の盾は、もう要らず。  作者: あんころもち
第四歴 勇者の盾、その外出。
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第二十九話

「落ち着いたかな? それじゃあさっそく余計なお世話といこう。


まず、そこの少年。反りが合わないやつに腹が立つのはわかるが、それにしたって、それ以上は言いすぎになる。お前は没落したとはいえ、それでもお前の家の、最後の一人だ。人を諌めるのならまだしも、(けな)すことは、お前だけではなく家の品位まで(おとし)めることになる……節度を持ちな、少年(ガキ)


 はい。と、少し、いやだいぶしょんぼりと、ともすれば泣き出しそうな顔と声で、しかしそれを俺に見られることを嫌ったのか、膝の上に手を置いて、くっ、と顔を、深く深くうつむかせた。


 これでこっちは大丈夫。あとは……


「は、はは、そうだ、そうだとも! 貴様にはそもそも目上の者に対する態度がなっていないのだ、いやあ、よくぞ言ってくれた「おっと。じゃあ次はあんたの番だな」え……」


「おいおい、なにを驚いた顔してんだ? そりゃあそうだろ、俺は別にそっちの味方をしにわざわざ間に入ったんじゃない。


仲裁……ないし、喧嘩両成敗の憎まれ役を引き受けて、さっさとこの下らない事態の解決に来てやったんだぜ?」


 と、いうわけで、と。


「まず、あんたはそもそもからして、こんな場末、とまではいかなくとも、こうして市井(しせい)が多く通うこの酒場で、こんな風に、剣呑な護衛まで連れていちいち飲みに来ている。それが一つ目の迷惑。


そして次に、そんな誰もが気持ちよく分け隔てなく酒を飲める、言わば平等なところで、自身の血の威を借りて、見ず知らずの他人に無理矢理付き合わせた。これが二つ目の迷惑。


さらにそのあげく、いくら挑発を受けたからといって、自身より位が低い者に対して手を上げかけ、加えてそいつから受けた勝負の景品を、気に入らないからといって無かったことにしようとしている……これが三つ目、最後の迷惑。


わかるか? 今、高貴なるあんたとやらは、この、人としての品格すら疑うくらいの迷惑を、そこら中にぶちまけている……まずは、そのことを、自覚しろ」


 とん、と、そいつの額を、なるたけ軽く指で押してやる。


「っ、ぐ……!」


 軽くのけ反り、そして押された箇所を片手で押さえ、しかしこちらに目を向けることは無く、ただじっと、考え込むようにうつむき、ぎっ、と音が立つほどに歯噛みしていた。


「いいか? 位が高いのはあんたの親が、あるいはご先祖様が、必死こいて上り詰めたからだ。


頑張って頑張って、自分のために、家族のために、遠い未来の子孫(おまえ)のために、将来、金や飯について困ることが無いように、と、まあそんなことを考えていたかまでは知らんが、けれど少なくとも、そうやってお前がなまっちろい肌のまま生きていけるのは、そんな遠い昔の、血の繋がった誰かが、先に苦労を負ってくれたからだ。


そんな。先人の苦労に、泥と恥を以て返すのが──おまえの言う、高貴なる者とやらの、ありかたなのか?」


 ぎり。さらに歯が、軋む。


「ああ、だが、まだ間に合う(・・・・・・)


おまえがさっきの話を聞いて、たった少しでも、今までの自分の行為を恥だと思えたなら、今からでも遅くない、それをわずかでも(そそ)げる機会が、まだ残されている──」


 その先は、言わずとも、伝わったのだろう。


 うつ向いた彼は、なにかをこらえるように、身体全体に、知らず込めていた力を、息を吐くように、ゆっくり、ゆっくりと抜いていく、と。


「……。すまなかった。これは僕の落ち度だ。いや、落ち度などという、まるでそちらにも非があるような言いかたはよそう──


僕が、全部、悪かった。今までの横暴・専横、ここに陳謝する──すまない」


 深々と、座礼。それはそれまで主の動向を見守っていた護衛たちに、動揺とどよめきをもたらした。


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