第二十七話
さて、本来ならここで俺、というか俺たちも彼らに倣って自分たちの仲間の元へと赴くべきだが、しかしそうもいかない理由がある……いや、なに、そんな複雑な事情じゃない。
単純に。敗者となった傲慢なお偉方が、例え私刑とはいえ、自身が処断しようとした誰かに来られたら、ああ、それこそ立つ瀬が無く、その敗北した事実を沸き上がる激情でごまかしかねない、と判断したゆえだ。具体的に言うとこの場で暴動が起きかねない。しかも極めて下らない発端で。
だからこそ、ここで見守るしかない、というわけだが……まあ、あの少年なら大丈夫だろ。だってあいつ、この場にいる奴らの中では一番荒事に慣れているからな。あ、もちろん俺抜かしてだよ?
それに騎士としての教育も、半ばだけではあるが、一応受けているから、それなりに交渉も、通り一遍であればこなせるし……だからその実、けっこう優秀な万能選手だったりする。
とはいえ、まだまだ。伸びる土壌は整えられていても、肥料になる養分が足りておらず、今は全てが中途半端という印象。まあこれからだよこれから。
「では、あらかじめ取り決めていた約定に従い、まず一つ──この場での出来事は、例え身内ですら口外しないこと。
そして次に、今後一切の、そちらからこちらへの不干渉……さっ、履行してもらいましょうか」
お、どうやら少年が戦後処理に入ったみたいだ。おーおーあの顔一杯に広げたわざとらしい作り笑い、相手をがっつり煽ってんなぁ……いやはや、もう相手が手を出せないからって、中々大胆なことをする。
「ぬ、むぐ……はっ、なん、なんのことだ? そんな約束、し、した覚えが、ない、ないなぁ……!」
……。おおう、そうきたか。はっきり言って人間的にはどうかと思うし正直見苦しいことこの上無いが、こいつ、交わした約定を、証拠が無いのをいいことに、無かったことにしようとしてきやがった。
まあ、確かに契約内容を書面に起こしたわけではないし、そもそもただの口約束だ、そうされてしまうと勝ったこちらとしては弱い。
だが、見たところ、苦し紛れの苦肉の策のようで、額に汗を、目には涙を、そして話す唇は細かに震え、ああ、そうしてまで自身の敗北を認めたくないのか。
おそらく、もう、彼にとって、取り交わした約定などどうでもよく、ただ、このまま負けるのが気にくわないからこそ、こうして目の前の少年に、少しでも意趣返しをするために、こんな子供でもやらないような幼稚な反発を彼に向けている。
しまった。思った以上に相手が子供だった。これでは例えまた再戦に持ち込んで、今度は余地が無いほどに叩きのめしたとしても、また同じことをされてしまう……くそ、仮にも青年ぐらいの年頃だろうに、どれだけ甘やかされてきたんだ、親の顔をぶん殴りたい。
くぅ……こんなことなら、きちんと紙に書いて血判でも押しておくんだった。そうすりゃこんなこと、たやすく防げたってのに……
「ぼ、僕は負けていない、ああ、いないともさ! だから、その、そうだ、その約定とやら、果たす義理とて当然あり得ん!
そもそも、僕がこのような下々《しもじも》のものが粗雑にやるような、こんな野蛮に付き合ってやったのだ、まずはそのことに感謝を「──おい」……ひっ……」
「先ほどから聞いていれば、よくもまあみじめったらしい下らん言いわけをべらべらべらべら……それでよく高貴、などという言葉が、ああ、自分にも当てはまるなど言えたものだな。
しかも、なんだ、その言いわけの行き着く先が、ただ負けたことを認めたくないだけ、という、……はっ、正直、そこらを歩く幼子のほうが、貴様よりまだ潔いだろうよ」
作り笑いに嘲りを。作った声に侮辱を込めて、少年の口が、それまでの鬱憤を晴らすかのようにくるくると愉快げに回り始める。
だが、まずい。いや挑発すること自体は別に悪かないが、それでも、この場面でこの煽りは、少々事態が悪い方向へと転がりかねない。




