第二十六話
そして、なにより──ライトさま。あのかたも人間。で、あるはず……肌の色や、その目のかたち、特徴。主だった人間のそれとほとんど一致している。まず間違いない。
異常であるのは、その戦闘の総合力。確か自分では、雇われ兵を長年続けていたゆえの経験と知識だと仰っておられたが、しかしたったそれだけで、果たしてあの、いくら戦闘要員が壊滅していたとはいえ、まず魔族ても、その討伐は不可能であろうあの大蛇を、いともたやすく仕留めきれるだろうか……?
自分自身、そう人間を見てきたわけではない。いや、まったくと言っていいほど、というかじっくり見たのはあのかたが初めてだ。
だが、それでも、その実力が、やけに英雄じみていることだけはわかる……魔族の中にも、あれほどまでの実力者は、はたしてそうそう見たことが無い。
加えて、本人は魔を一切使えない、と言うではないか。それであの力。あの技。あの耐久。正直言って、どれほどの才覚と環境と、そして努力を噛み合わせたのか。想像するだに、その過酷な過程に震えてくる。
思わず、別の種族の血でも入っているのか、と疑ってしまうくらいだ。あの巨大な体躯、鋼よりも硬い筋肉、そしてそのくせ、ひどく優しげな、ともすれば少年にも見えがちな(いや、まあ、髭や髪はあまりよく整えられておらず、ほとんど伸びっばなしであるから、ぎりぎり青年に見えなくもないが)、年若く、線が細い顔立ち。まあそのせいで身体との差異が少しばかり不気味に映るのだが。
はっきり言って、全てが人間離れしている。そう人間に詳しくない自分にだって、それは明らかだ。
だが……別にどうでもいい。ここまでつらつらと疑っておいてなんだが、どうせ彼は自分のような若輩を、面倒な態度を被りながら、それでもなにくれと目をかけてくれている……そんな、優しく、面倒見のいい彼だ。そしてそれ以上は、今はまったく必要ない。
無いから、これ以上の推論を止める。それだけでいい。そうであるだけでいい。思考をあえて停止させて、彼の腹を、無意識にだって、自分は無闇に探りたくない。
さて、それじゃあ、そんな彼が、拙い自分のために考えてくれた段取りを、一つ前に進めよう。なに、心配はいらない──なにせ。
「ぬ、っ……ぐ、はぁ、ふ……っ!」
……もう。この、無能の、意欲はともかく、体力そのものは、こちらの顔に、生ぬるく酒くさい息を幾度も浴びせるほどに、削れてしまっているからだ。
では──この茶番に、さっさと幕を、引くとしようか。
一際、大きな、木を裏の拳で叩く音が、酒場の端から端まで響き渡る──ああ、そうか、そうだな、確かにそろそろちょうどいいだろう。
正直、こうして、大柄な大男に囲まれて、じろじろなめ回すように監視されるのは、ああ、飽きてきたところだ。まあ、俺のほうが頭ひとつかふたつ大きいがね。
くく。いやぁおかしいおかしい。あれだけこっちに注目していたそいつらが、まるで雑魚の群れのように、一斉に発生源へと向き直って、そんでどたどた、なんて焦った足音を立てて、額に冷や汗かきながら、自身の雇い主のところにまで走っていったんだから。




