第二十四話
「なんだ? ほら、今いいところなんだから、このまま観戦に集中させてくれないか?」
肩をすくめ、わざとらしく眉を寄せ、二人の名勝負(偽)を指差し、あとついでにくく、なんて薄く笑みをこぼしてみせる。
端から見れば、俺は自身の命が脅かされそうになっているにも関わらず、にやにやと軽薄に笑うやべーやつに映るだろう。俺も見たら絶対関係を避ける。
さらに深読みしたがる誰かがいれば、なぜこうも余裕綽々なのか、なにか裏でもあるのでは、と、無闇に、ありもしない思慮を巡らせていることだろう。
まあ、裏があることは否定しない。そもそもこの場面も、ある程度狙って起こした状況だし。
とはいえ、別段こいつらに用事があって、それでいちいちこんな回りくどい集合をかけたわけではない──狙っていたのは、こちらへの傾注。
おそらくこいつら、そこの貴族が負けそうになったら、なにかしら、それこそあからさまな妨害行為を、様々なかたちで仕掛けてくる腹づもりだったはず。でなければ勝負が始まったあとあんな近くには寄らないだろうし。
だが、景品──本来自身の首に迫る処刑の刃に怯え、今ごろ必死で少年の勝利を願っているであろう俺が、そりゃあ薄ら笑いを浮かべ、目の前の勝負を楽しむさまを見たら、そりゃあこいつらはなにかあると訝しみ、その様子を確かめるために、さらにはあわよくばを狙うため、近付かざるを得なくなる。
そう。それこそが俺の狙い。
こうして注目を集めることで少年から意識を逸らし、そしてその過保護な敵意を、その一心に受け持つ……なに、慣れたもんさ、こういうのは。
さあ、あとは、どれだけ引き付けておけるか……
「貴様、どうしてそのような態度を取れる。いいか、若が勝てばそちらの首を、我々の手で掻き切ることとなるのだぞ。
そのような結末が訪れると、もう決まっているのに──」
「簡単なことさ。正直、俺にとっちゃどっちでもいいんだ。
例えここであいつが負けて、それで命を落とすとしても、それは俺の運と信頼が足りなかったってだけの話。別段惜しむような命でもない、だったら楽しむことに使わなくっちゃあ、な?」
軽く、薄く、しかし立てた板に水を滑り落とすように、てきとうな、相手の気を引けそうな言葉をべらべらと口から垂れ流す。当然笑みは崩さずに。
「狂っている──「ああ、よく言われるよ。それで、あんたらは、わざわざ俺の正気を確かめに来たのか?」……っ、」
「だったらさっさとここから離れてくれ。俺は楽しいことは大好きだが、こうして無粋を差されるのは、はっきり言って気にくわないんだ──それとも、なにかい。
あんたらが、俺を楽しませてくれるのか?」
顔を変えず。しかし口調と声色には、愉悦と殺気をたっぷりと孕ませて。
たったそれだけ。それだけで、おそらくは腕にいくらも覚えがあるだろう護衛たちは、その口を、閉じた貝のように次々つぐんだ。
はは、おもしろ。むくつけき男どもが、先ほどまで向けていた敵意を、目ごと俺からあらぬ方向に逸らしていやがる。これならこっちに手を出す、なんてばかなまねはしねーだろ。もししても軽く追いはたくけど。
というか下手に手を出されていたら、脇に控える女性二人の、一度は収まった激情が、炎というかたちで彼らに噴き出すところだった。今だってちりちりと、その手のひらに幾つもの欠片が花弁のように舞っているというのに。




