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勇者の盾は、もう要らず。  作者: あんころもち
第四歴 勇者の盾、その外出。
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第二十二話

「では、こちらが求めるものは、そこな男の謝罪と命だ。なにせ私の名誉をとことんにまでおとしめたのだ、それぐらいのものでなければ釣り合わん……」


 おっと? これはまあまあ危ない条件を出してきやがりましたよ。確かにあれだけ、必要だったとはいえああまでぼろくそに、それこそ肥溜めに蹴り落としたぐらいの侮辱を繰り返したんだ、そりゃそれぐらい求めるか……ましてあいつやたら自分のこと高く見積もってるし。


 けど、特に心配はしていない。まあ、そりゃ、俺がこいつ、そして護衛と思われるやつらに、たとえどんな手段を使われても、大した損害を(こうむ)れるとはまったく思えないし、そもそもそれ以前に──うん、たった少しだけ相手してやった仲だけど、俺は少年と、その実力を信じているからな。


 いや、というかね、あのおぼっちゃんに力で負ける存在なんて、それこそ子供ぐらいしかいないと思うのよ。そりゃ魔法だったらまだわかんないけど、……体つきはね、もう、豪奢(ふく)なんかじゃ隠しきれないほどほっそい、つまり筋肉らしい筋肉が全然付いてない、や、付いてないこたないけど鍛えられてない……あれじゃあ、はっきり言って、少年の敵じゃないよ。


 だが、彼に与えた指令は、“拮抗したいい勝負、あとは流れでどうとでも”という、ふわっとしてるくせにだいぶ技術が要求される難易度が高いそれ。まして相手がよっぽど弱いんなら、ああ、さらに倍増される。


 そこだけは彼の手練(てれん)と演技に期待するしかない……っと。


 そろそろ、始まるな……






 初め。初め、あの尊敬するライトさまから、作戦の全体の子細を教授されたとき、はっきり言おう、正気を微かに疑った。


 だが、詳しく聞けば聞くほど、なるほど、この状況では果たしてそれしか策は無く、いやきっとほかにもあったのかもしれないが、しかし自分には彼以上のそれはまったく思い付かなかった。


 加えて、詳細、というより直接を避けてはいたが、しかし言葉に込められた微かな気づかい、そして親切。恐らくだが、いや間違いなく、この変更した策は、こちらのことを想ってのことだと、わずかにだが感じ取れた。


 見ていて思ったのだろう。思った以上に、目の前でいらいらと体を揺すって、こちらをめ付ける、この無礼がすぎる人間が、相手をするにはあまりに神経を逆撫でする存在で、さらに、そこから生まれるいら立ちに、自分と元王女さまが耐えきれない、と。


 信頼されていない──わけではない。だって、なぜなら、あのままであれば、まず間違いなくこちらの理性を飛ばすに値する熱が、自分の頭を支配しただろう、と、確信を持って言えるからだ。


 それは元王女さまも同じで。だからこそ、この策を隣で聞いていたときもまったく文句など言わず、ただ少しだけ、悔しそうに拳を握りしめていた。


 せっかく頼られたというのに。それに応えられない、というのは、ああ、確かに腹が立つ──信じてくれなかった誰かにではなく、不甲斐ない自分自身に。


 けれど、この、胸にもやもやと立ち込める、子供っぽい自分へのわるい(・・・)激情を、今は、隠す。ごまかす。いや、たぶん、多分に(おもて)に表れているだろうけど。


 そうして、ごまかして、また、任せてくれた、尊敬する彼の期待に、今度こそ応える──これは、まずなにより彼のためであるが。それ以上に、この、胸に渦巻いてくだを巻いている蛇のように嫌らしい自分の悪感情に、少しばかりの決着をつける、いい機会でもあるのだ。


 さあ、では、彼の依頼を完遂しよう。なに、自分なら出来る。いや、出来なくてはならない。卑しくも、これから彼の側に在りたいと、そう抜かしたいのであれば、これぐらいは悠々とこなせなくては、きっと同じ舞台に上がったとはいえないのだから。

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