第十七話
さて、これでまず片方の矛を納めることには成功したが……問題は、
「なにを! こそこそ! やっているんだ! はやく、このぼぉくに! お酌をしたまえ! したまえぇ!!」
この明らかに悪酔いしている貴族様に、どう穏便の二文字を浸透させるか、だな……
とりあえず俺は出たら駄目だな。さっきも言ったが求められてない上に、下手に話しかけようもんならキレて暴力を振るわれる。そしたらせっかくの説得が水の泡になって帰っちまう。
となると、ここは……
「えっと……すまんが、三人とも。このどうしようもない人間さんに、なるべく気を荒立てんよう相手してやってくれないか?」
うわ。二人の顔があからさまに嫌悪に染まった。いや気持ちはわかるけども。
「二人とも。こうなってはどうしようもありません。人間のあしらいに関しては、ライト様に一日の長があります、ここは素直に従っておきましょう」
ああ、うん、こういうとき、話のわかる大人がいると助かる……本当にありがたい。
「大丈夫です、こういった対人はそれなりではありますが慣れています。特に貴族様への対応なら、騎士のお家に勤めておりましたから、ある程度わかっております。
お二人とも、私が主導しますので、どうか合わせてくださいますよう」
こくり。嫌悪と不安を入り交ぜた感情を面に滲ませつつ、少年少女は、明らかに営業用の笑みを被った彼女の先導に付き従い、そのまま貴族の酔っぱらいの元へと歩いていった。
さて、ああは言ったが、一応なにかあったときのために、ある程度近く……そうだな、ちょうどカウンター席が空いてるし、適当な酒でも頼んで様子を見守るとしよう。どうせ浴びるほど飲まないと俺酔えないし、ちょっとつまんでも大丈夫だろ。
さあ、三人は上手くやってくれるかな……?
貴族様の接待は、思った以上にすんなりと盛り上がっていた。
この立て板に水を流すような流暢でことが上手く進んでいるのも、人当たりが良く、かつ貴族を盛り立てるほめそやしがとてもうまいアラゴさんの活躍あってのことであり、おかげでほかの二人は適当に相づちを打って酒注いで笑顔浮かべてるだけでどうにかなってしまっていた。
おそらく、子供二人にお鉢が回らないように、と、自ら矢面に立って彼の気を引き受けてくれている──これならそうそうこっちが介入する事態には陥らない、と、思うが……何事も例外はあるからなぁ……
それとついさっき気づいたんだが、あの周り、明らかにこんな大衆酒場にそぐわぬ、きちんとした格好したやつらが、取り囲むように点在している。まあ、さすがに同じ席には着いていないようだが……あれは、まず間違いなく……
……ふむ、うん、なるほど、まさかあれだけの警戒を引き連れているとは……あれ、その中身はともかく、ああ見えてけっこうなご身分らしいな。
なんでそんなやつがこんな場末とも言っていいこんなところにいるのかはわからないが、辺りの客の迷惑そうな、そしてうんざりとした反応を見るに、まあまあの常連らしい。
一体どういうやつなんだ、いや別にいいか、聞いたらなんか余計な事態を招きそうだ、ここはあくまでもこの場を乗り切ることだけを考えよう。




