第十二話
すかさず、周囲を確認──よし、獣はいないな。まずは安心。
とすると……人……なわけないか、こんなところにわざわざ来るやつなんていないだろう。ましてこんな、草木も眠る深い夜に。
というかそもそも、まだ魔の大陸だぞ? こんな、まさしく魔境と呼ぶべき危険地帯に、魔族以外に住んでるやつなんかいるわけないだろ。
ましてこっちに殺気なんぞを飛ばしてくるやつなんて、無い無い、無いな……や、でも、待て、待てよ。確か魔物にも、魔族とか人間ほどではないにせよ、それなりに知性を持ってる種も、いることはいたな……
でも、それだって、言葉を話すとか、ものを使うとか、そんな器用な真似は……いやいや、でも、知らない種ってこともあり得る。なにせ魔物って、今でも新しい種が次々と見つかっている、らしいから。
ましてここは、ほぼ前人未到の未開の大陸、何せつい数ヵ月前に渡れるようになって、しかも詳しく調査する間もなく戦争の舞台になったから……ほとんど人の目に触れてないんだよなぁ。だからいてもおかしくない。……なんでか俺はそんなとこの奥深くまで入れて、しかもそこで生活できているが。
うーん、だが、そうだとして、そんてこっちがまだ見たことないそれだったとして、ここまでわざわざスキをさらしてやってるのに、まだ襲いかかりもしないってことは……警戒心が相当強いってことで、そうすると……うん。
よし、無視だ無視。一応一晩中起きて警戒はしとくけど、こうしてこっちが起きてる限りは襲ってこないだろうから、それほど脅威じゃないな。
さーて、それじゃあ木彫りに戻るとすっか。今度は動物じゃなく、もうちょっと、こう……
結局。俺に塵に等しい殺気を向けてきたなにかは、予想通りにその姿を現すことはまったく無かった。
さて、この件を三人に話すべきか迷ったが、結論として伝えないことにした。だってあれだ、まだ居るかどうかすらまだ未確認だし、そもそもこの大陸特有の種かもしれないんだ、どうせこっちはもうすぐ大陸離れるんだし、だったら無駄に不安を煽ることはしないほうがいいだろ、と判断したゆえである。
そうして迎えた朝。俺を含めた四人は朝食を手早く摂り、野営の片付けを終えると、そこから町への遠出を再開させた。
やたらと足元がおぼつかなくなる橋の雲を渡り、あの勇者一行の拠点がある大陸に足を踏み入れ、そこから警戒をより一層強くしながら(少年とアラゴさんには不思議がられた。あればかりは追われないとわからん恐怖だからな)、時折地図と地形を見比べつつ軌道を修正し、……そうして、そうだな、大体半日ぐらい経ったころ……
ようやく、その町とやらに続く、石畳の街道に、脚の裏を載せることができた。
さぁて、ここからが本番だ。ここまでは奇跡的に人間とすれ違うことは無かったが、さすがにこれ以降は人通りも多くなる。この姿のままでは色々と不味いことになろう。当然、指名手配食らっている俺も含めて。
だが安心安全、魔族である三人には、例の偽装魔法がある。一応使えるか聞いてみたが、どうやら全員問題無く行使できるようで、よかったよかったといったところ。
しかし少年が使えるのはちょっと意外だった。彼の性格からして、こう……こういううそを吐くやりかたは気にくわないのでは、と危惧していたし。
いや、つーか使えなきゃ付いてくるなんて言わないか。これは本当に杞憂だったな、ちょっと心配しすぎた。
翻って、それ、というか魔法そのものが使えない俺はどうするか。ふふ、ふふふ。当然、対策は用意してある。や、してあるというよりは急遽整えた、といったほうが正しいのだが……ふふ。




