表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の盾は、もう要らず。  作者: あんころもち
第四歴 勇者の盾、その外出。
54/88

第十一話

 良いことだ。こうしてひまつぶしに巻き上がる火の粉の数を数えられる程度には余裕がある。あとついでに、なんか最近趣味になりつつある木工に没頭できるくらいにも。


 木工はいい。彫刻用の小さな刃物を、こうして木に滑らせていると、そしてその度に思い描いたかたちに素材が変わっていく様を見ていると、こう、なんだろう……心が安らいでいく。


 しゅっ、しゅっ、かっ、くくっ。音が響くごと、落ちる木屑ごと、余計な罪悪(雑念)が削れていくようで。つまらない思考も、無くなっていくようで。


 けれど、ああ、これは、つまるところ逃避、というやつなのだろう。こうしてなにかに集中を浪費することで、目の前に、いや、背後に転がるすべて(・・・・・・・・・)から、文字通り目を逸らしている。


 いけないことだ。わかっている。けれど、今は、まだ、それどころじゃないから。まだ、なんとなくだけど、やるべきことがあるから、だから……


「いや。言いわけか、それも……」


 いかんな。一人になると、ついついこんな下らないことで頭を満たしてしまう。うーん、やっぱ俺って心が弱いわ。


 ……あー、やめだやめ、こんなこといちいち思い返してたって、問題が解決するわけでもねえ、第一暗いのは今の空だけで十分だっての……うーん、例えがいまいち。こういうのやっぱ向いてないな。


 とにかく。今は今の目的を果たすことだけを考えよう。なんかほとんど成り行きで始まった遠出だが、色々買い揃えたいものがあったのは事実。幸い行商の人たちからは、売上金の一部を報酬……いや、半ば無理やりなのに報酬ってのも変な話だが、報酬にしてくれるってことで話ついてるし、それならこれを機に、少しやりたいことでも見つけてみよう。


 けど、あるだろうか……こんな歳いったおっさんに、こう、長く続けられるような趣味、みたいなものが……とりあえず今は、この木工でお茶を濁しているけど……


 でも、これ、始めた経緯が経緯だからな……別にそのものに忌憚は無くても、それでも一つ、木を彫るたび、思い起こされる苦味がある。


 だからできれば、これはあくまでもたまにやる特技ってことで、ほかに趣味を見付けたい。人はそういった心を癒すなにかが無いと、いずれどこかで壊れてしまう。


 別にそれがいやってわけじゃないが、でも出来れば穏やかな心持ちで天寿を全うしたい。まあ死んだ時点でそこがそうなんだろうが。


 うーん、これじゃおっさんってかおじいさんだよな……こう、庭とかで、のんびり植物とか世話してる感じの。でも、まだ、老後っていうには……余生だよ? 余生だけど……


「あっ……」


 やっべ、せっかく上手く整えられたのに……ああ、これじゃあまたマラヤに笑われるなあ……失敗、失敗。


「はぁ……」


 からん、と、削っていた木を火の中に放り込み、それがぱちばちと燃えていく様を見つめながら、これで何回目だっけ、と、火に沈んだ数々の失敗作に思いを馳せる。


 まあいいか。材料ならそこらにたくさんあるし、それに本命自体はもう完成してるし……やっぱり色気出そうとするとミスっちまう……飾り気なんて付けるもんじゃないな。


 かろん。また新しい材木を手に取り、次はどうしてやろうか、とためつすがめつ見つめながら、次のかたちを構想して


「──」


 ふと。首の後ろに、ほんの少しの痺れが走った。ような気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ