第十話
「あら、天幕、ちゃんと出来たのね」
おっと、マラヤか。そっちの仕事は終わったのか?
「ええ、まあね。とりあえず、焚き火するところはきちんと作って、一応魔法で試運転して……あとは……えっと、トルマくんが拾ってきた枝木を、そのとき近くに置いておいたわ。
これで、よかったのよね?」
ああ、問題ない。それで少しは薪の水分が飛んでいく、はず。つってもそんな長いこと置いたわけじゃないから、そんなに効果は無いかもだが。
「そう。でも、わざわざ魔法じゃなくて、いちいち木とか使って火を保つなんて、なんか遠回りっていうか……原始的っていうか……」
いいんだよ、こういうのは雰囲気が大事なんだ。あと、燃料用意しとかないと、見張るときに困るだろ、一晩中なんだし。
「見張る? ああ、確かにここらへん、まだ魔物とか出るものね……え、いや、でも、それって交代しながらなんだから、あたしの番に点け直せば結局……」
ああ、それなんだがな──見張りは、俺一人でやらせてくれないか?
「……え?」
いや、考えたんだがな。ほら、この中で一番そういうのに向いてんのって、やっぱ俺だろ? で、他は……その、正直に言ってしまうが、お前含めた他の三人は、いざというとき、恐らくぼろが出る。もうちょっと言うと、事態に対応しきれずに負傷、ないし危険を延焼させかねない。
何せ、交代とはいえ十全ではない、それも眠気なんていう、一番行動が遅れる異常が身体に常駐するんだ。戦闘慣れしてないお前らだと、確実に後手に回る。
危機の前でそうなっちまえば……あとは、わかるよな?
「……。ええ。自分が殺される、だけじゃない。近くで無防備になっちゃってる仲間も、その道連れにしてしまう……」
そうだ。俺としては、下手にお前らに無理させて、そうなっちまうのが一番怖い。
だったら、そういったのに無駄に慣れてる俺が、見張りを一手に引き受けるべきだし、それが最上だ。
わかってはもらえんだろうし、不服だって不満だって多量にあるだろうが、ここはこらえてくれ。あとついでにお前が他の二人に話してくれ。多分俺から言ったら、ちょっとだけど角が立つ。本人たちの知らん、心のどっかでな。
「……ええ、わからないけどわかったわ。二人にもきちんと伝えておく。
…………」
おいおい、そんなふてくされた子どもみてーな顔すんなって。まだお前は、まあ少年もだが、お前なりに若いんだ。弱くて当然、頼って自然、守ってもらって当たり前なんだよ。
いいからここは、いい大人の俺に任せとけって。
「……うん。ありがとう……」
おう。なぁに、どうせこの天幕、俺まで入ったらあふれちまうんだ、だったら外で一晩見張りやってんのが一番ってもんよ。
そんじゃ、言伝てよろしくな。
「……ええ。それじゃ、またあとでね」
ひらり、と手を振り、そのまま踵を返して二人の元へと向かう彼女を、ほんの少しだけ見送り、それから、これから長丁場になる後々を思いながら、けれどこんな面倒も、大人としてなら悪くないな、なんて、柄にもないことを、噛み締めるように味わった。
……多分、きっと、口の端をわずかに上げながら。
ぱち。ばち。たった少し前に入れた枝木が、断末魔のように火の粉と音を舞い上げる。
そんな光景を幾度見送りながら、俺は天幕の前にどっかりと座り込み、辺りを、首を回さず目のみを動かして警戒していた。
未だ、危険は無い。忍び寄ってもいない。俺という存在が功を奏しているのか、それとも他の知らないなにかが原因か、とかく今のところ、なにも起きてはいなかった。




