第六話
とはいえ、子どもには少し刺激が強い話だから、要点だけまとめて……えっと、
「まずな、俺、昔傭兵……てもあんまわかんねえか、とりあえず戦争だの戦闘だの、そういった人手と戦力が要るときにだけ、どっかの幕下に入る契約兵士のようなことをしていたんだが、その時分によ、人を率いるようなこともあったんだよ。でも……それでちょっとやらかしちまってな、それ以来やらないようにしてんだ、隊長とかそういうの」
本当のことだ。昔、腕を買われて、少しだけ大きい戦争のときに守護隊の長を任されて、そこで、……従ってくれた部下、その全員の命を散らせちまった。
あの事態ほど自分の……なんだろうな、別に無力は感じなかったな、一人でも、というか人を率いなきゃ相応の成果は上げてたし、事実そのときだって、一人で全部守りきった。
だから感じたことと言えば、そうだな……絶望的なまでの指揮能力の低さ、だ。あれ以来俺は人を率いることに極力関わらないようにした。なるべく指示に従うだけの一兵士、一傭兵として徹するようにした。
だから、受けられない。まあ広告塔ぐらいにはなってもいいが、隊長はな……他の人に任せたほうが賢明だよ。いや、ほんとほんと。
だが、と、食い下がろうとした少年に、しかしそこで、それまで黙って経緯を見守っていた彼女が、こら、と叱るような声で制止。
「教えたでしょう? 無理強いはいけません、無理やりはいけません、無理押しはいけません、それらは騎士のやることではありません、と。
きっとライトさまにも深い事情がおありなのでしょう、そこをねじ曲げ、無理往生に無理無体しては、それこそ我が家の名折れです……」
眉を寄せ、垂れがちだった目尻をぴっと上げ、とつとつとした調子で、血が昇りかけた彼の頭を冷やすように、お説教、そうだなこれお説教だな。
なるほど、確かに彼女は母代わりなんだな。あんなに突っかかる気満々だった彼を、ほれ、こんなしおしおになるまでこってりと絞ってるんだから。
「まったく、態度を改めて大人になったな、と思えばすぐこれです、まだまだ子供なんですから……あら、」
これはお恥ずかしいところを、と、わずか赤らんだほほを隠すように手を当て、照れを誤魔化すように笑う彼女は、自分のようなおっさんから見ればまるで十代、いやかろうじて二十代の女性にしか見えない。さっきまでの母っぷりとは大違いだ。
いや、これはこれで母親っぽくはあるのだが、そこはそれ。
「とにかく、そういうわけだ。盾をもらう代わりに、ある程度のこと……人員集めとか、人員そのものとかはやってもいい。
けど。悪いな。どうしてもこれは譲れねえんだ」
ともあれ、譲歩できるのはそこまでだ。これ以上は、たとえ装備一式積まれたってどうするつもりもない。ここだけははっきりとさせておかなきゃな。じゃないと下手に希望を持たせちまうし……
「……。はい、分かりました。でも……」
まあ。そうか。そりゃ迷うか。確かに端から見れば、今、この村の戦力の一番上に鎮座してんのは、まず間違いなく俺だ。
その俺から、直々に、言ってしまえば自警団の長を断られたんだ、他に候補が無いってのが現状だよな。
けど、だからって自分がなるわけにもいかない。確かにきちんとした訓練を受けていて、実力もその年にしてはまあまあといった少年だが、それでも、貫禄、というのか、それとも威厳、というのか。ともかく人をまとめるだけの風格とやら、まだどうにも獲得できていない。
もう少し色んなことを経験すれば、この子ならじきにまとえるだろうが、今はまだまだ、年月が足りない。残念ながらな。
そうなると……これは、まだ当分先の話になりそうだな、守備隊の発足とやらは。
まあまだこの村も安定しているとは言いがたいし、それが賢明だと思う。ここはいずれの目標に定めておいて、まずは地固めに徹すべき段階なんじゃないか? あくまで素人考えだが。




