第二話
いやまあ、本人がいいならいいのだが……それにしても……
「盾、欲しいなぁ……」
こういった訓練をするなら、というかそうでなくても、正直なところ、素手で盾役しているっていう事実に、こう……もにょっとした違和が、ある。
いや、別に無くちゃ困るってものでもない。事実盾でなく自分の身だけでこなしていた時期も少なからず存在するし、というか生半可なそれだとよく柄とか握り潰していたから、長く一つの盾なんて、あの決戦のときにぶっ壊れたあれぐらいしか使ったことが無い。
でも……こう……なんか、なんかなぁ……なんていうか、うん、もうカッコつけずに言ってしまうと、だな……この、目の前の、夢を目指す少年の前で、カッコつけたいのよ、大人として。
だってほら、師匠とかさ、俺あんまやったこと無いし、こんなきらきらした尊敬向けられたことも無いし、だからさぁ……ちょっと、張り切りたいっていうか……
「? 盾、ですか?」
おっと、この情けない無い物ねだりが、目の前にいる純朴な少年に聞かれてしまったようだ。うーんこれは恥ずかしい。
恥ずかしいついでに、そうなんだよー、そしたらもっと色んなことできるのになー、と冗談めかして流そうと「ありますよ、盾。ちょっと古いですけど」え。
え、あんの、あんの盾?! あ、いや、あれだよ、盾っつっても木で出来たやつとか、兵士のお古とか、そういうもろいやつじゃなくてさ、もっとまともな「はい、ですからありますよ。もっとも、ぼくは使ったこと無いんで、ちゃんと丈夫かはわかりませんけど」マジか!
「マジです。
えっと、……良かったらでいいんですが、使ってやってくれませんか? どうも、ぼくが使うには、まだちょっと、大きすぎるし……」
それに、と。彼は少し興奮したように頬を赤らめ、目を輝かせ。
「そっちのほうが、きっと盾も喜ぶと思うんです! だって、他ならぬあなたさまに使ってもらうんですから、これほど栄誉なことはありません!
例えそれが、家に代々伝わっていた盾だったとしても、です!!」
……え? いやごめん、今なん、……なんて?
「はい! ですから──
家宝の盾を、あなたさまに、差し上げます!!」
彼が、言うには。その家に代々伝わっていた家宝、というのは、それはそれはもう歴史ある立派なものらしく、なんでも彼の家の初代が、とある戦争で領地を侵されそうになったとき、それを携え、掲げながら、自ら軍の先頭に立ち、敵軍へと向かっていき、そして初代に傷ひとつ負わせること無く、その敵を追い返すまで主を守りきった、とかいう逸話があるらしい。ほんとかよ。
で、だ。当然、そのお家も、魔族が滅びると同時に没落……いや没落ってか少年とその乳母残して全部滅んでしまっていて、だからこそかたちだけの当主になってしまった彼も、そんな復興やら何やら、そうしたややこしいことはもう諦めているようで、少し深く尋ねてみたが、力なく笑うだけで、そういった野心はまったく見られなかった。
だが、それでも、まだ未練……というか、執着、あるいは思い出とやらが、心のそこかしこに残っているらしく、その、家の象徴であった、そしていずれ自分がまっとうなかたちで受け継ぐはずだったその盾を見るたび、……避難の折、半ば押し付けられるかたちで渡してきた、……両親の、悲痛そうな、そしてそれを無理矢理隠すように被っていた笑顔を思い出し……いつも、胸が、軋むように痛む、のだそうだ。
だからこそ。いつも優しかった、暖かだった記憶を思い起こしてしまうから。このまま、手元にあれば、ずっと過去に囚われたままになってしまうと確信できるから。
だから──俺に、渡したい、と。彼は、彼が話してくれた、別れ際の両親のような、堪える笑顔で、そう告げる。
そうすることで。尊敬できる自分に使ってもらうことで。その踏ん切りが、つけられそうな、そんな気がするから、なんて言葉で、自分を無理にごまかして。
えっ、と、その、なんだ。その……おもい。
いや、信頼されるのは嬉しいよ? 尊敬してもらうのだって、とても喜ばしい。
だけど、だけどさあ……会って数日の人間にだよ、そんな輝かしい過去の全てが詰まった象徴を、さあ……渡すってのは……どうなの、どうなんだよ。
まあ、さぁ……くれるっていうなら、そりゃもらうけど……欲しかったのは事実だし、それに……こんな話されて、やっぱいいわ、とか言えねーよ、受け取る以外の選択肢ないじゃん……気がおっも……




