第十九話
「それがあんた、こんな、よりによって生々しいかたちで……ああもう、これじゃ、せっかく……!」
……いや。いや言えよ、分からねえよ、なんだよそれ、こんな遊び心出したの全部無駄になってんじゃん、ここ数日の徹夜全部無駄になってんじゃん……
「うぎゃ、あああ……あああぁ……!」
おおう、やばい、やばいぞ……なんかジェムくん、涙どころか下から生暖かいなにかを、その……漏らしながら、よつんばいで逃げようとしてんだけど……周りの子供たちも非難轟々だよ、罵詈雑言の嵐だよ。もう俺ここ来れねえよ、だってあんな剥き出しの敵意を子供全体が四方八方から浴びせてくんだもん、どうしようもねえ……
「ほか! ほかには、ほかにはなにか無いの?! なんでもいいから、あれ以外だったらなんでもいいから!」
俺の渾身の名作をあれ扱いはやめてくれ、久々にいい出来だったんだ……しかし、ほかのもの、ものねえ……これ渡せば大感激で歓喜の渦に包まれると思っていたから……ほかなんて……あ、
あるには、あったな……ただ、これ……ほんとうにてきとうに作ったやつだから、お出しするのは、恥ずかしい、というか……いや、うん、ええい。
どうせこれ以下の状況なんてそうそう無いんだ、こうなったらいっそのこと、ばーっと出しちまおう。
一度うなずいて覚悟を決め、今もなお逃げようと手足を這いずらせている彼の前まで歩き(悲鳴をあげられた。大分ぐさっときた)、袋の口を開いたまま、くるりと逆さまにして地面に向ける。
するとどざかららら、と細かい音を立て、袋の中身が一斉にぶちまけられる。
また、怖いものが出てくると思ったのだろう、彼はぎゅう、と強く強く目を閉じ、そこから頑なに開こうとしない。
仕方ない。これは仕方ない。俺だってこんな状況じゃそう思う。だから──ひょい、と、地面に投げ出された中身の一つを指でつまみ上げ、また同じように、彼の手に載せ、
「すまんな、知らなかったんだ。今度は蛇じゃあない、目を開けて、しっかり見てみてくれないか?」
なるべく優しい声と口調を心掛け、彼の手を柔く握りながら、諭すようにお願いする。
初めのうちこそ首をぶんぶんと振って、どころか掴んだ手からすら逃れようとしていたが、振りほどけないと知ると、観念したかのように、いや実際観念したんだろう、震えたまま、その固く閉じた目を、強張りを残しながらゆっくりと、徐々に開いていく。
まずは薄目。そこから蛇ではないと確かめると、目蓋を一息に開き──
「わぁ……!」
感嘆。そして、手のひらに載った小さい、それこそ子供の手にもよほど余る、簡略化した動物の模型に、きらきらとした感動の目を向ける。
どうやら喜んでもらえたみたいだな。いや、こっちは手慣らしに、それこそ菓子のおまけぐらいの感覚で作った、適当極まる作品でな……ぶっちゃけどこも動かんし凝った仕掛けもない。精々きちんと立たせるために簡易な台座をすえつけてあるぐらいだ。
正直本命とは比ぶべくもないちゃちい出来だから、あとでほかの子供たちに配ろうと持ってきていたやつだったが……なんだ、こっちでも良かったのか……てっきり男の子だっていうから、いっぱいがちゃがちゃ出来たほうが喜ぶと思ったのに……いや、うん、出来じゃないよな、苦手なもんだったから拒否したんだよな、うん、わかってる、わかってるよ……
「それ以外にも、たくさんの動物があるぞ? ほら、イヌにネコ、あとウサギ、それに……」
一つ一つ、手に取りながら、取らせながら、どれがどれかきちんと説明していく。いや、あまりに単純化しすぎたせいで、ちょっとわかりづらいものもちらほらあったりするからな。こうしとかないとあとで不満が出かねない……
「あー! ズルいぞ、ジェムのやつだけぇ!」
「そうよそうよ、そんな、かわいいのわたしもほしいぃ!」
っと、おお? なんだ、周りで見てた子供たちが、なにやらわらわらと俺……というかこの模型の山に群がり始めた……まあ、ジェムくんの反応と、あと動物か。動物だな。やっぱり子供受けがいいな、動物は。
はは、みんな夢中になって、まるで金山を採掘する鉱夫のように、無数の模型をためつすがめつ、楽しみながら、喜んで山を崩し、漁り、そうして目当てを見つけて、……笑っている。
……やっぱり、眩しい、眩しいな、あいつらも、それを笑んで見守る大人たちも、そして、……この光景、空間、すべてが。




