第十五話
「──静まりなさい、我が民よ」
……っ、助かった……ようやくかよ、待ちくたびれたぜ、相棒……ふふ、こういうときはやっぱり元王族だよなぁ……だってあれだけ盛り上がっていた信仰者たちが、まるで冷水でも浴びせたみたいに押し黙ったもんな……さすがだぜ……
あ、でもこの間みたいな、逆に引っ掻き回してそのスキにとんずらってのは、今ちょっと難しいんじゃねーかな、村人全員集まってるわけだし、あとそうしたら列を成して追ってきそうだし。
「いいですか、我が民……えっと、えー……我らが盾は、このような、人が自身にかしずく姿など、まったく望んでいません。むしろ、そのようなことをされて、少し困ってすらいます……」
そうですよね? という確認に、俺はそれっぽく鷹揚にうなずいてみせる。
なるほど、今回は本心を伝えて幻滅させていく感じか。確かにこれなら上手くすれば鎮火できるかも……現に既に信仰者たちに動揺のどよめきが広がっているし。
うし、全力で乗ったぜその案。どんな応えもどんとこいだ、全部に望まれた対応を返してみせるぜ……!
「先日も伝えた通り、このかたはあなたがたがこうして信仰することすら、その実厭うています。彼にとって、自身を敬う行為、それそのものが、もはや苦痛なのです」
よし、いいぞいいぞ。いい感じであいつらの失望を買ってきているぞ。このままいけば、まず間違いなく焦がれていた平穏が手に入る……
「それは何故か。簡単なことです。
──信仰が無くとも、彼は、あなたがたを、なんの迷いも憂いもなく、守り通すから、です」
そうそう、そ……ん?
「彼は言っています。
信仰・崇拝・尊敬・敬虔。そのようなものは、自分にとってなんの価値もなく、されることは、ただいたずらに、時を浪費しているに過ぎない。
だから、自分を信じてくれるのなら。敬ってくれるのなら。君たちは、ただ自分たちの日常を、気兼ね無く過ごしてほしい。それだけが、私の願いなのだ、と」
え。いや、俺別にそんな御大層なことは……ああいや、反応だよな、反応。
よし、……とりあえず笑っとこう。笑顔は対人において万能なんだよって母ちゃんあたりが言ってた気がする。あれ、父ちゃんだったかな……まあいいか、どっちでも。
けどおちゃらけてちゃ、今の空気じゃダメだな、そう、こう、……こうやって、ちょっと、渋ぅい感じで……ふっ、みたいな。
「おお……見ろ、あの威厳に満ちた、まさに“不敵”な笑みを……あれぞまさしく、新たな我らの主、いや盾!
ああ、その背に阿ることを、どうか、どうかお許しください……!」
解釈。解釈がおかしい。あれ、いや、確かにさ、俺カッコつけて笑ったよ? でもさ、これはちょっとおかしくないか? つーかなんでこいつらはこんな好感度クソたけーの、普通さ、化け物殺したらさ、遠巻きでこの様子見てる一般村人みたいに怖がるでしょ、それがなんで、こんな信奉の眼差し向けてくんの、むしろこっちが怖いんだけど、なんなのこいつら、誰か助けて?
「そう。あなたがたは、それでいいのです。ただ、彼を信じ、敬い、共に在り、肩を並べ、その日常を、ただ当たり前に享受する……それが、この人の、ただ唯一望むことなのですから……」
おい。おい。そこの元王族、口の端がぷるぷる震えてんぞ、実は笑い堪えてるだろ、この状況ちょっと楽しくなってきてんだろ、いい加減にしろよ。
「うう……なんと、なんと慈悲深い……俺たちの安寧だけが、報酬などと……」「やはり神、神なのでは?」「尊い……」「偉大がすぎる……眩しい……」「生きているだけで、もう、もう……!」
こわい。とてもこわい。あいつらがむけてくるかんじょうすべてがこわい。
なんでこんな、俺奉られかけてんの、ちょっと待って待って期待が重い、辛い辛い、なんでこんなことになってんの……誰か説明してくれ……
「さあ、我が民。このかたの真意を知ったのです、こうしてこのまま喧騒を続けるのは……
──彼を、困らせることになりますよ?」
はっ、と。それまでがやがやと俺を称えていた彼らが一斉に息を呑み、そして一斉に俺をじっと見つめる。
それが数秒。やがて彼らは、少し、いやとてつもなく後ろ髪を、まるで竜の顎に噛まれているような遅緩で、とぼとぼと肩を落として村の奥へ引っ込んでいった。
よ、……よかった、これで解放された……しかもあれなら今後下手に崇拝活動されることも、無くはないだろうがまず間違いなく減るだろう。




