第十六話
ちらり、と、立役者であるマラヤに目を向け、すると彼女は少し得意げに頬を緩め、
「これでいいんでしょ? まったく、あんたってホントに世話が焼けるんだから……」
お、おお、ありがとな。さすがにこればっかりはどうしようも無かったから、正直ものすごい助かった。だってあいつら、俺が近づいただけで自然と祈りの体勢に移るんだもんよ、注意しても全然聞いてくんねーし……
あっ、と。それよりも、今は村長に事情の説明だったな。彼女は途中で気絶しちまったから、きちんと俺が話さないと……
そうして俺は、改めて蛇討伐の経緯と推移を、なるべく分かりやすいように噛み砕いて村長に伝えた。
その話の中で、村長は何度も驚いたり怖がったり興奮したり、と、それこそ大掛かりな劇でも見ているような反応をいくつも取り、そうして聞き終えるころには、すっかり話の虜になっていた。
それは近くで聞いていた村人たちにも同じことが言え、特に子供たちなんかは、それはもう楽しそうに、まさにわくわく、なんて音が背中に浮かんでいるのかと思うほどに、夢中になって聞き入っていた。
聞かせていた俺も、ちょっと興が乗り、昔町で見聞きした吟遊詩人の語り口を真似したりして、それこそ劇中で話す天の声になったような心持ちで、快く顛末まで語らせてもらった。
当然、慣れない語り部だ、ところどころ噛んだり、拙かったり、みんなには内緒だが、ちょっと話を盛ったり切ったりしてしまったが、それでも、みんな、話し終えたときは、わぁあ、と歓声を上げ、決して盛大とは言えないけど、それでも精一杯の拍手を送ってくれた。
唯一、そうされて、気分よく笑う俺の隣で、間近でそれらを見逃した彼女だけが、こちらをじっとじとりとした半目で睨み付けていた──
そこからの顛末は、それこそ単純明快。だって蛇の皮おばちゃんに渡して(さすがに運ぶのは俺がやったが)、家に帰ってぐっすり寝た、というだけなのだから。
ああ、あと、そうだな、話すべきことは……おっと、そういえば、まだあったな。
何って、ほら、あれだよ、あれ──
後日。といっても精々数日だが、まあとにかくあの討伐からそれぐらい経ったあと、俺は孤児院の外にある広場に、とあるものを携えて、マラヤと共に並び立っていた。
服は……何やら手間と手順と時間が多分に掛かっているようで(まあ、魔物の皮なんて扱ったことないだろうし、さもありなん)、まだ本格的なそれではなく、村の人からもらった複数の服を切り貼りして間に合わせた有り合わせを着用している。つぎはぎだらけで見映えはあまりよろしくないが、それでもあの布かぶりよりはマシ、なはず。
……。マシだよな? うん、よし、大丈夫。少なくともあのときみたいに少し引けばもろに出てしまうようなものではない、から、うん。
「ほんっとうに、大丈夫なんでしょうね? ここまで来て、やっぱりあれでした、なんてシャレにならないわよ」
そわそわ、と。普段強気な彼女にしては珍しい、少しだけ慌てた様子で、俺にものの出来を遠回りに問い掛ける。
いやぁ、大分久しぶりだったから結構時間掛かっちまったが、その分丁寧に丁寧に作り上げたから、出来自体に問題はまったく無い。まあ全盛期に比べると雲泥の差だが、それでも、子供のおもちゃにしたら大分上等なものに仕上がった。
そう。俺と彼女がこんなところでこんなうだうだやっている理由は、ほら、例の人形を壊してしまった子供への賠償。いや、なんかそう言うと堅苦しいな……要はお詫びだよお詫び。
「で、なんだ。もうそいつには声掛けてもらったのか?」
「ええ……昨日、あんたから完成したって聞いて、ちゃんと院長に、今日の朝ここに来るようにって、言伝てを頼んだわ。
さすがに……もう壊したってことは……謝ったけど……でも……」
うつ向きながら、口でなにやらもごもごと。
まあ、そこからの子供の態度は想像に難くない。子供ってのは、そういった理屈より自分の感情を優先してしまう。思いは伝わっていたとしても、思わず怒りのほうが先んじて顔に表れてしまうものだ。
まして大切にしていたオモチャを壊されたとあってはなおさらだ。ここ数日は、まさに針のむしろだったろう。そういったやらかしってのは、子供のコミュニティに一瞬で波及するからな、もう全員から蛇蝎のごとく嫌われてしまっただろうし。
だからこその、こうした場所と時間を改めての謝罪。詫び。というかこうでもしないと、子供ってずっと仲直りさせてくれないからな……俺も昔、傭兵仲間のおちびたちに似たようなことやらかして、そんで似たような方法で謝ったことがあるからよくわかる。
あいつら元気にやってるかな……傭兵が親元だからな、まずまっとうな職にありつけているかどうか心配だ。親があまり学が無いやつらだったし、身元も不詳だったから……いや、そこは隠して、せめてどっかの私塾あたりで計算と読み書きを覚えていれば……まだ……まだ……?
……。うん、とりあえずは大丈夫だろ。何せ親が親だからな、そうでなくともたくましく生きてはいるだろう。
今はそんなことより、彼女と子供たちの関係修復……お、
「どうやら、来たみたいだな」
ぞろぞろと。正面にある玄関から、大人子供含めた全員が、俺たちがいるところまで歩いてきた。




