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勇者の盾は、もう要らず。  作者: あんころもち
第三歴 勇者の盾、その服飾。
35/88

第十二話

『ぎじゃ、じゃああああああああああああああぁ!!!!』


 向かってくる。向かってくる。その大きなあぎとを開き、盛大に叫び声を上げながら、もはやただの獲物ではなく、殺すべき仇敵として、たかだが一人の人間に、はは、あの大災害が襲ってくる。


 しかも空から、地面に尾の先すら付けずに、その巨体に見合わぬ高速で、文字通り風を切り裂きながら、一心不乱に俺の元へと急降下……よし、狙い通り、とまではいかないが、それでも充分狙える範疇……三、


 二ぃ、


 一……よし、


「今──!」


 だん、と地面を強く踏み切り、間近、それこそ息の掛かる距離まで近付いてくれた大蛇の牙を、垂直に飛んで避けたあと、そのままぐいと腕を伸ばして鼻っ柱の傷口に手を、拳にしながら思いっきり叩き込む。


 ずぶ、ぶしゃ。大した抵抗も無く、そんなぬかるんだ音を立てて沈んだ拳を確認、そこからぐん、と、腕を軸にして身体を回転、そこから、ほんの、ちょっぴりだが──


 あの、大蛇の上空に、俺は飛び上がっていた。


 腕を抜く。大蛇を見る。するとあいつは俺を見失っているのか、舌をちろちろと何度も何度も揺らしていた……はっ、


 そりゃそうか。だって、お前──


自分の上(・・・・)なんて、生まれてこのかた獲られたこと──一度だって無いんだもんなぁ!!」


 聞こえたのだろう。蛇が顔を上向かせ……おそい(・・・)


 ぐっ、と。握った拳に力を、そうだな、大体七割ぐらいでいいか、それぐらい力を込め──自由落下に乗せて、腕を弓につがえた矢のように引き、


 そいつを、そいつの額に向けて──振り下ろすように、叩き付けた。


 途端、響く、強烈な、狂暴な、まるで命を全て(そこ)から吐き出すような、そんな死にまみれた咆哮。の、寸後、辺りの全てが数秒揺れるぐらいの地響きと共に地面に墜落する。ついでにこっちも着地っと、とと。


 そりゃあそうだろう。こいつにとって、上からの大衝撃なんて予想外の想定外。そんなところからの一撃など、例え備えていたとしても、とても耐えきれるものじゃない。ましてそれが、たかが矮小な人間に与えられたものなら、ああ、尚更だろう。


 さあ、いよいよ本番だ。いくら地面に叩き落としたっても、たかが人間大の拳じゃ致命傷にはならない。いや、一応それなりに力は込めたから、とりあえず……脳みそぐらぐらでちょっと動けなくなっているだろうが、けれど結局その程度だ。


 そして拳ではここまでが限界だろう。いくら俺が常人離れした力を持っていたところで、さすがに千人規模で退治するような化け物を、それ一本では討ち果たせない。


 だから、ここからは、自然様の力を借りる……と言っても魔法じゃない。そもそも使えないし。


 俺が言っているのは……この大蛇の、そしてこちらの周りに倒れるように折れている、──大木群のことだ。


 よいしょっ、と。うーん、さすがに大蛇と比べると爪楊枝ってなもんだが、なに、数だけは大量にある……これなら充分に押しきれるだろう。


 さあて、さっさとこいつを蛇からハリネズミに転()させてやるとするか……!


 まず一つ、『ぎ、』

      二つ、『じゃ、』

         三つ、『ぎぁ、』

            四つ、『……っ』


 あと『ぎぎ、』めんどい『がぁ、』から『ぐぅ、』とにかく『げぇ、』たくさぁん!!『ごあああああああぁ!?!?!?』


 はい、顔面から背中の羽に掛けてきっちりキレイに大自然の恵みで固めてやった、これでこいつはもうどうしようもない。これを抜く力は素のこいつに無いし、飛んで引き抜こうにも、風で抜こうにも、その源である羽も丁寧に壊してやったからな。まあ羽ぶっ刺してる途中恵み足りなかったんで自前の槍(拳ともいう)で風穴空けてやったが、まあ誤差だよ誤差。


 けど、うーん……やっぱり、こいつ、なんか……弱いなぁ……いや、脆いのはそのまんまだし、生態や能力もそうなんだけど、こう……出力? ていうの? それがなんか、低い……ような……いや。


 いや、それは今考えるべきじゃない、な。むしろそれは、この現状じゃ喜ぶべきことだ。なんにせよ、命の危機ってやつを、こうして乗り越えられたんだから。

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