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勇者の盾は、もう要らず。  作者: あんころもち
第三歴 勇者の盾、その服飾。
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第十一話

 なら。次に起こすべき行動は、


 木を抱えたまま(・・・・・・・)


あいつの巨大な身体に(・・・・・・・・・・)



勇気を以て飛び込む(・・・・・・・・・)こと。


 だが、自慢じゃないが、俺はそんなに身軽じゃない。恐らくは、なにも持っていない普段でさえ、あいつのいる紺碧にはたどり着けないだろう。


 飛ぶことさえ出来れば、そして、そこから飛び乗ることさえ出来れば。正直、荷物を抱えている自分にとっては、この距離は、高すぎる。どうにかして、あの生け簀(そら)から、引きずり下ろしてやらねば、こちらの敗北は揺るぎないままだ。


 とはいえ、どうするか。そうするには、まず、頭なり尻尾なりをひっ叩いて、無理矢理身を縮こましてやらなければならはい。そうするには、──そうか、そうだな、それしかないか。


 肩に担いでいるお嬢ちゃんには、ちぃとばかしひどい目にあってもらうが、……まあ、死ぬよりはましってことで。できればこのまま気ぃ飛んでたほうがきっと幸せだろうが、……これからすることを考えると、うん、……ごめん。


 さあ、それじゃ、作戦決行といこう。なに、そんな難しいもんじゃないさ──だって。


 だってただ、無防備に、血の垂れている範囲まで行って、堂々と立ち尽くすだけなんだから。


 そう。どうせ動きなんて、わかったところで捉えられない。だったら相手から近づいてもらえばいい。単純な話だ。


 だが、当然、これには大きな、それこそ目に見えている捕食(リスク)があり、そして当たり前だがそうなったらどうしようもなくなって死ぬ。さすがに息潰されて消化液吹っ掛けられたらどうしようもない。俺だって立派な生物だし、ちょっと無理。


 だからこれは、策というより、賭け。しかも目に見えて分の悪い、どころか歴戦の賭博師だって全裸で逃げ出す部類の危機一髪(ハイリスク)


 けれどその分、見返りも大きい……何せこいつに勝てば、あの強者揃いの傭兵たちが数年がかりで死に追いやった災害を、今度はたった一人で蹴り潰せる……ようになるかもしれないんだから。


 というよりそうしないとどっちみち死ぬ。勝たなきゃ死ぬ。負けたら死ぬ。だから俺は、この賭けに、いくら分が悪かろうと勝たなくてはならない。新居のために、ご近所さんたちのために、なにより自分のために……ん、あー、別に自分のためではないか、じゃあ……


 今、こうして抱えている、彼女(生命)のために。


 ……ってことで、どうよ。ちょっとはかっこついたかな? いや、誰についたのかは知らんけれども。


 おっと、じゃあかっこつけついでに、空に指でも投げ出して、にやっと笑って、


「どうしたくそ蛇、そのでっけえ図体は飾りかよ、自分よりよっぽど小さい相手にいちいち姿隠してこそこそ牙を研いでるたぁ、なぁんて情けない野郎だぁ……くけけ、恥ずかしくないのかよ、たかだか顔面に一発かまされて、そんでちっとばかし擦り傷できたぐらいで、もう臆病風に吹かれちまったのかぁあ? 

ああ、そうだ、そうだよなぁ! 風吹かすのはお前の得意技だもんなぁ! ごめんなあ、お前の唯一の特技バカにしちゃってさぁ! もうなにも言わねえからさ、その臆病風(そよかぜ)、びゅーびゅーに吹かせちまって構わねえぜええぇ? そんでしまいにゃ、そのまま逃げ帰っちまっても、俺はなぁんもなぁんも言わねえさ、ああ言わねえとも!


さあ、存分に吹かせてくれよ……お前の心臓にぴったりの、大きな大きな臆病風を、さぁ!」


 にやにやと、にやにやと。あらんかぎりの嘲罵(ちょうば)嘲謔(ちょうぎゃく)冷嘲(れいちょう)を乗せて、侮辱し、凌辱し、これ以上無いって思えるくらいの屈辱を与える。与えられたか? わからん、そもそも言葉が通じるかわからん。


 だが、通じなくとも、この長い長い大声で、俺の居場所はばっちり知れただろう。


 だから……ほら。もう、風が、探るための、隠すためのそれから、もう、捕らえるための暴風へと変わりつつある。まあこんな程度じゃ、背中の籠は揺らせても俺の体は小揺るぎもしないけど。


 そして、音。暴れ狂う竜巻じみた風に負けないぐらいの羽音が、ばざ、ばざ、ばざとこちらの耳朶(じだ)を否応なく叩きまくる。


 さあ、もうすぐ、もうすぐだ。もうすぐ俺と彼女と、ついでに服の運命が決まる。生か死か、その残酷な二者択一を、自分の意思とはいえ半ば無理やり強いられる。


 大丈夫。別に緊張しちゃいない。こんな修羅場は、今まで幾度も乗り越えさせられてきた。だから今回も、軽い気持ちで、そこらの石段でも飛び越える感覚で、ひょい、とこなしてやろう──

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