第八話
というかそもそもの話、まず生きていることが疑問なんだよな……確かに、きちんと、止めが刺されるところを見ている。しかも間近で。その上解体されて運ばれる場面にだって、俺は立ち会った。
なのにこんなところで、こんな風に息と管を巻いているなんて、そこからちょっと、いや大分おかしい。
もしかして、子供……幼体? いやいや、魔物が卵産むなんて話、これまで聞いたことがねーぞ。大体魔物ってあれだろ、確か自然の魔力がより集まって形を成した精霊のなりそこないって話じゃん、だったら成体とか幼体とか、そういうの関係無しに一定のすがたかたちで現れるはずじゃん、あり得ねーじゃん、どういうことだよ、どういうことだよ。
ううん……けど、現実問題こうして目の前にいるし……舌ちろりながら俺たち探してんし……いや、まずそこらへんはあとだ、考えている場合じゃない、どうせ答えは見つからないし。
今は、こいつの対処法……確か、あのときは……ああ、そうだそうだ思い出した。
こいつってば、こうしていちいち風で獲物探すことからも想像つくだろうが、まず視力が、そして察知能力が低い。ほとんど風だよりだ。まあぶっちゃけて言えば、こんな巨体しているから、細かいものが見えづらいってのもあるだろうが……だからこそこうして俺と、あと俵と化したこの娘も、まだばくりといかれていない。
あと、確か、……そうだな、あのときのあいつは、なんだろう、やたらと柔かった気がする。
あれはほんの偶然だったんだが……幾度目かの撃退戦のとき、とあるやけになった傭兵が、見つからない苛立ち紛れに盾ぶん投げたことがあって、そんでそれが見事にあいつの身体に当たって、なんでか尖ってもないのにそのまま盾が皮膚突き破って貫通したことがあった。
あれは投げた張本人も、受けた本蛇も、見ていたやつらも驚いて、一瞬場が硬直したなぁ……なつかしい……
ま、ああやって普段身を隠して移動しているやつなんだ、それが実は脆い皮膚に当てられないため、ってのは、わりとありうる話かもな。
そうすると……そうだな、もしかすれば、本当にもしかすればの話なんだが……あのときのような固いものがあったなら、またこいつを、逃げざるを得ない状況にまで、追い込むことができるかもしれん。
どっちみちこのままじゃ逃げられないんだ、ならいっそのこと、立ち向かってみるのも、また一興。でも基本方針は逃げ・逃げ・とにかく逃げだ。ヤバイと思ったらすぐに転進、なるべく村落から引き離しつつ逃げ回る。こんなのが近くにいられたんじゃおちおち眠れやしない。いやある意味では就けるか、ただし永遠に、なんて冠が付くが。
さあ、そうと決まったなら、まずは武器、俺の場合はまず盾だ。盾さえあればこちとら誰にも負ける気はしない。まあ勝つ自信も無いが。盾だし。
もしくは尖っていて、そんでそれなりにでかいもの……それがうっかり頭にでも刺されば、死にはしなくとも相当な大打撃になるだろう。出来ればそのまま死んでほしいけど。
そうすると、そうなると、……ふむ、うん、ちょうどいいのは……よし。けど、そうするには……そうか、そうなるか、そうしよう。
なら、まずは、あれだ。その前に、適当な何かで、気を引く必要がある……つか、ほうしないと、ここから動くことすらままならないし。
てえと……うし、
「おおい、どうしたどうしたぁ! 俺はここにいるぜ、うどの唐変木ぅう!」
叫び、所在を知らせ、ついでに近くにあった木の枝をべきり。
そしてじゃあああああ! なんて聞きなれた威嚇を顔から垂れ流しながらこちらに向かって身を這いずらせてくる……やっぱおかしいな、あのときのあいつなら、こんなときでも、低く空を滑るようにして、一気に飛んでくるはず……こりゃ対応も違ってくるかも。
でも、今は……ちょい!
『──じぎゃ!?』
目潰し……よし、上手くいった、風のせいで片っぽの目ん玉に、折った枝が、尖った先から滑り込む。こいつは威力は低いが瞬間的な痛みは激しい、これなら……お。
「よし、風が、消えた……!」
身体にまとわりついていた透明な何か、まあ風なんだが、風が、すっぱりと絶ち消える……とはいえこれは、あの蛇が目に入った突然の異物に驚いて、思わず消してしまっただけ。あくまでも瞬間的なものだ。
だが、それだけあれば、今のところ……
「ふっ──」
森の奥へ、転進……しかしこれは逃走のそれではない。つーかこの程度で逃げられるなら傭兵の大半をあのときのあいつに食われちゃいない。いや、あれはまだ生態を理解できていなかったころの失態だから、また色々違ってくるのだが。
とにかく、まずあいつと距離を置く。そして再びかくれんぼだ。はは、昔殺し合ったときとはまったく逆になってきたな、ちょっと楽しくなってきた。
さあ、ここからが正念場だ、出来ればこの鉄火場にこの俵少女と、あと背中の荷物をまとめて降ろしたいところだが、そうすれば、籠はともかくマラヤが危ない、寝ていようが起きてようが間違いなく轢き殺されるか食い殺される。




