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勇者の盾は、もう要らず。  作者: あんころもち
第三歴 勇者の盾、その服飾。
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第一話

俺は今、とんでもなく困難な事態に遭遇していた。こんなことは、今までの人生の中で初めてかもしれない。あの魔王討伐の旅の道中にさえ、この難解には敵うまい。


 その、直面してしまった、とんでもなくとんでもない最低最悪の事態とは──


「……。すいません、あの、ちょうどいい服とか、無いんですけど……」


 ──この村に、俺に合うサイズの服飾が存在しない、という、人間の尊厳を掛けた、緊急にすぎる事態だ。





 事の発端は、あの俺崇拝事件から数日経ったある日の朝のこと。初めのうちこそ村中で怖がられていた(ごく一部では崇め拝まれていた)が、まあ、畑仕事なり資材の運搬なり、あと現職の門番なりで地道にそういった貢献を重ねていった結果、今ではどうにか避けられずに、どころかなんと、村の子供やお年寄りの方々に挨拶されたり遊びに誘われたり差し入れ持ってきてもらえるぐらいにまで好感を稼いでいた。


 ありがたい。素直にそう思う。特にここでは鎧を着なくていいのが、本当に助かっている。ここ最近は魔の軍勢や魔物がどこから襲ってくるか分からなかったから、脱ぐことが出来なかったんだよ……いやぁ、平和っていいもんだな。


 さて、今日も、そんな穏やかな一日を送るために頑張りまっしょい、と、マラヤの家(つっても長屋(アパート)みたいなとこだけど)の一室で目覚め、さあ、仕事にいくぞ、と玄関のドアを開けたその瞬間──着ていた上着が肌着もろとも、おもいっきり、裂けた。


 何事か、敵の奇襲か、俺の感知抜くなんてやるじゃねーか、とか警戒しながら周りを見てみたが、しかしなんの音も姿も見えず、おかしいなー、と首を傾げて目を正面に戻したところ……ドアに、元は服の一部と思わしき布の切れ端が、引っ掛かっていた。


 よくよく、ドアを、見てみれば──トゲ。その表面に、恐らくは劣化などで自然に出来たであろう無数のトゲがところどころ生えていた。


 なんだこれは、いったいどういうことだ、と頭を巡らせるものの、正直それどころではなかった。いやいくらボロくたってまさかこんなことで、ちょっとトゲに引っ掛かったぐらいで、そしてちょっと引っ張られたぐらいで破れてしまうなんて、まるで思いもしなかった。


 だが、まあ、破れたのが上半分でまだよかった。これで下半分がそうなってしまっていたら、俺は外を出歩けないところだった。


 とりあえず……仕事は、この村の服飾全般を取り扱っているおばちゃんのとこに顔出してからだな、と、仕事が出来ないことを村の人たちに少し申し訳無く思いつつ、早速上裸のまま、目的地まで向かい、到着し、替えの服を確保……しようと、したの、だが。


 ここで冒頭の俺の台詞が飛び出たわけだ……つまるところ、この服屋さんには、俺にぴったり、どころか俺の体を覆えるものすら存在しなかった。


 いや、俺も必死で探したし、無ければもう生地のままでも、最悪素材の草でも皮でも羽織る、とおばちゃんに頼み込みもした、が、それでもそもそも、その素材すらもう品切れに近いという。つーか少なくとも、こっちの体を隠すぐらい大きいやつはもう無い、とのこと。


 申し訳なさそうにするおばちゃんに、いいよいいよと笑顔で対応しつつ、さてどうしようか、と、今後の普段着兼仕事着の確保方法を考えていると、その謝り倒しのおばちゃんから、素材さえあれば一から俺の服を作ってくれるという。しかも一番に優先して。


 これは実にありがたい提案だった。何せ今朝破れたこいつが俺の最後の一張羅、それを破ってしまった今、上半身裸(このまま)で過ごすというにはあまりにも、村人の目が……辛い。恥ずかしい。


 しかし、材料、といっても、いったい何を集めればいいのか。一応おばちゃんにも聞いてみたが、『皮でも草でもなんでもいい』そうで、けれど生憎そういったものに疎い俺は、ちょっと……いや大分、困ってしまっていた。困り果てていた。


 こういうの、今までは考える必要なんて無かったからなぁ……山で暮らしていたころはもちろん、傭兵として活動しているときだって、基本は鎧姿で、中の服も店員さん任せだったから……うーん、どうしよ。誰か明るい人がいればいいのだけど。


 この図体で居座るわけにも、と、服屋をあとにした俺は、上裸のまま町を練り歩くわけにもいかず、かといって相談できる誰かも思い付かず、だから、なんともまあ情けないが、今の拠点であるマラヤの家に戻ったあと、部屋に籠ってこれからの計画を練ることにした……よし、堂々としてれば意外と恥ずかしくないもんだ、道中村人からは……やっぱり……変なやつを見るような目で見られたけど、うん、もう気にしない……気にしない!!

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