第十三話
なあ、マラヤ、これどうしたらいい……お、頷いてくれたぞ、笑ってくれたぞ、これならどうにかしてくれそうだ。さすが元王族だぜ、こういうときは頼もしい。
「ほら、あなたたち……もう、泣くのはやめなさい。彼も、それを望んではいません」
その、優しいながら、しかし確かに威厳を含めた言葉に、村人たちの大合唱が、徐々に、徐々に小さくなっていき、そして、改めて、なんか……じっと……俺を、見つめてくる。
え? なに、なんで? 俺またなんかやった? よし、なんか知らんが笑っとこう、困ったときは笑っときゃどうにかなるって父ちゃん言ってたし。
「ほら、見なさい──彼が求めているのは、あなたたちの涙などではなく、そう……あなたたちの、笑顔なのです」
は? いや、そんなこと言ってませんけど? なにをどう解釈したらそうなんの、もしかしてあれか、笑ってるからか、こうやって笑ってくれるのが俺の願いですよみたいな受け取りかたしたのかこれ、まずった厳めしい面でもしとくんだった……!
「そ、そんな……ほとんど会ったこともない、見ず知らずのおれたちに……なんで……え、怨恨だって、殺気だって、向けたってえのに……!」
そうだね、疑問だね、そもそもそんなこと望んでないからね、強いて言うならさっさとこの場がどんなかたちでも早く終わんねーかなってのが今の望みですね。
「分かっているはずでしょう、あなたたちも……彼の、全てを受け止める、まるで巨大な山のような寛大を。
わたしたちの、今も心の内で燃え続けている、人類への陰惨で、凄惨で、けれど身勝手な感情……それら全部を受けてくれる、と、そう言ってくれました。
自ら奨んで、あなたたちが笑えるように、その顔を曇らせるすべてを、──あなたたちの、ために」
なんか村人さんたちが、あ……ああ……とか、まるで動く死体みたいな声を出し始めたんだが。なんかお年寄りが両膝ついて両手を上げて何やらよく分からない文句を唱え始めたんだが。え、なにあれなにこれ怖い怖い怖い!
「なんて……なんて、おかただ。こんな、こんなの……認めるしかねえ……」
ざっ、と。幼い少年少女が、俺に向けて、頭を垂れて、跪く……あれ?
「「──どうか。どうか、懐深き、人間さま。
おれたち/わたしたちを。あらゆる脅威から、危険から、お守りください──」」
そして。まるで神にでも懇願するような、真摯と真剣を込めて──祈るように、すがるように、村の総意を、俺に向けて斉唱した。……あっっっれぇ??
「いと気高き人間よ。どうか彼らに、応えて上げてください……」
あれ、マラヤキャラ変わってない? なんでそんな神官みたいな口調なの態度なのおかしくない? おかしくなぁい?
いや、そりゃ魔族はそういった、なんだろう、こう、そういった宗教的信仰を重んじるところはちらちら見えてたよ? 戦ってるときも何かにつけて祈り捧げてたし。
でも、さすがにこれは……え、なに、俺今信仰対象になりかけてる? 嘘でしょ、なんでこんなことに……あ、マラヤてめえ率先して祈りの体勢整えんのやめろ、その胸に手を当てながら目を閉じるのやめろ、おまえがそんなことしたら引き返せなくなるだろ……! あ、ダメだ、もうダメだ、もうみんな同じポーズ取り始めやがった、これ完全に対象になったやつだ、このやろうふざけんなよ。
いや、確かにさ、俺この村の一員になりたいって言ったよ? 門番になったり男手になったりして村に住まわせてほしいって言ったよ? でもさ、これは違うじゃん、一員ってか一柱じゃん、ジャンル違うじゃん、なんでこんなことになってんだよ誰がここまでしろと言ったんだ、誰か時間を戻してくれ、あの平和だったあの頃に。
あー、でも、こうなっちまったからには仕方無い。今は神扱いを受け入れよう。なぁに時間はたっぷりあるんだ、根気強く誤解を解いていけばいい。それよりも俺は疲れた、どこでもいいから座って休みたい。
とにかくなんでもいいからてきとーになんか言って収めよう……
「ああ、任されたとも。
君たちの平和は。この私が──全て、引き受けた」
途端、沸き上がる歓声──と──振り上げられる腕、抱き合う人々、止まない《神》コール。しまった適当にもほどがあった、なんで俺は自分の首を自分で折ろうとするのか、まったくもって成長しない。
「あ、ナイス……なんかうやむやになった今がチャンスよ、さっさとあたしの家までいきましょう?」
え? あ、まさか、こうなることを見越してあんなに盛り上げたってのか……や、だとしてもやりすぎじゃね、俺明日からどんな顔で生きていけばいいの、神っぽい面ってどんな顔だよ、教えてくれよ……いや、うん、付いていきますけど、ねぇ……?
「ほら、はやく行くわよ──」
ああ、分かった、分かったから手を引っ張るってのはやめてくれ、ガキじゃないんだ、前を歩いてくれればちゃんと付いていける……ったく。
こりゃ、まだまだ楽隠居は、できそうにないな……




