第十二話
しかし、事はそう簡単に終わらない。会合が終わり、さて、あんたの家を新しく建ててもらわないとね、それじゃあ建つまであたしの家に来なさいよ、なんてすっかり(あっちだけが)打ち解けた彼女に連れられて、ついでに村を案内されているところ──さっき見た反発連中が俺と彼女の前に立ち塞がった。
予想はできていたこと、だった、が、まさか彼女と別れないうちから来るとは、そこだけ予想外だった。しかしどうしよう……連中の内訳、じいさんとばあさん、それにちょっと幼い少年少女だぜ? さすがに、暴力に訴えるのは、今の俺だと少しだけ心が痛む。昔だったら躊躇い無く盾の汚れになっていたところだが。
けど、こうして敵対されて改めて感じたが、ほんとうに戦えるやつがほとんどいない。じいさんとばあさんはともかく、このうら若き少年少女は、将来性はあれども今は……そうだな……昨日戦った猪一頭を、あ、ちっさいほうな、そいつを束になってぎりぎり殺せないぐらいの気迫しか感じられない。それも辛勝すらできずに惜敗だろう。世は無情だね。
であれば余計に、ここでことを荒立てるのは得策じゃあないだろう。わざわざ戦いへの恐怖を植え付けて、この子たちの立派にある未来を潰したくはない。当然、ご年配の方々も、その膨大な年月によって蓄えた知識を無為にするような真似も控えたい。いや、既に隣で手に火の玉作っているお嬢ちゃんには悪いけれども。つーか喧嘩っぱやいな、やめろよ。おまえ一応元王族だろ、もっと慎みを持てよ慎みを。
だから、ここは……そうだな……
「……。きみたちの、ひとに対する恨み、辛み、苦しみ。俺はそれを、分かった、などとはとても言えない。
人間は、恨まれて、当然のことをした。だから復讐されても、それは当たり前の、自然の報いなんだと、そう言えてしまうほどの罪を、きみたちに犯してしまった……」
一歩、彼らに向けて強く踏み出し、両手を広げ、胸を張り、さらけ出す──自身の急所、その全てを。
その態度、行為に、少なくとも反抗される、と予想していたであろう彼らの間に、動揺と、驚愕が、広がっていく、のが、見えた。
「いいだろう。ならばいくらでも殴ってくれ。罵ってくれ。痛め付けてくれ。苦しめてくれ。恨んでくれ──暴力を、気の済むままに振るってくれ。
それが贖罪になるなどちっとも思わない。思えない。思いたくない、が……けれど。
けれどそれで、この私を、人間という存在を、たったわずかでも受け入れられるようになるのなら──
私は、いくらでも、きみたちの非難に晒されよう……!」
そして、そこから、目を閉じる。いやこれ別に、これから起きるであろう暴力に備えて、目に攻撃が入らないようにあらかじめ塞いだってだけなんだが……なんだろう、なにやら、騒がしい。特に目の前、目の前がざわざわと、何やら慌てたような声やら怒った声やら、果ては涙に濡れた声やらが飛び交っている。
あれ、てっきりみんなで囲んで袋叩きにでもすんのかなー、と思ったんだが……ちゃんと叩いてもいいよーって伝えたし。
まあ、俺は大抵の力じゃ傷一つ付かんし、殴られるだけでこの場が収まるなら安いもんだよ。でも、せめてマラヤには伝えるべきだったかな、あいつ俺がそうなったら速攻で暴力返ししそうだったし……いや、うん、今さらだよな、とりあえず相手方の反応待ってからでも「……どうして……」ん?
「どうして、あんたは、そんな、……そんなことが言えるんだよ!? おれ、おれたちは……あんたを、あんたを殺すつもりで……つもり、で……!」
ん?
「そうだ、おれたちは、ここに来たとき、あんたの前に来たとき、あんたの命を奪うつもりだった……人間にされた仕打ち、所業、そのすべての責任を、あんた一人に押し付けて、そっちが悪い、悪いってことにして、全部、全部……あんたのことなんてこれっぽちも考えずに、ただ、人間だからって、それだけで……」
んん?
「でも、そうだ……そうだよな。人間だって、都合があった。魔族の命を奪ってでも、取り戻さなきゃいけない平和があった……そうでなくたって、殺されそうになったんだ、生きるためにそうしちまったこともあっただろう……
でも、おれたちは、そんな、それを……あんたの都合を、事情を、見ないふりして……こっちの、怨恨だけを……考えて……なのに……」
んんん?
「なのに! なのにあんたは、それを、おれたちの恨みも、辛みも、苦しみも……っ、受け止めてくれる、と、示してくれた。無理に共感するでなく、同情するでなく──ただ、おれたちの心を。それに及ぶ行為を、すべて受け入れてくれるのだと。
じゃあ、……ダメだ。おれには、少なくともおれには、出来ねえ。こんな、こんなに、魔族に寄り添ってくれる、人間を……責める、せめることなんか、……できねえ、よお!!」
んんんんんん?? え、今なにが起こってんの、確か俺別に殴られてもいいよってのをちょっと堅苦しく言っただけだよね、むしゃくしゃをぶつけてもいいよって許可しただけだよね、なんでこんなことになってんの、なんで目の前から涙の大合唱が聞こえてくんの、おかしい……おかしくないか、この状況。
えっと、これ、どうすっかな……どう収拾つけようかな……とりあえず、こういうときは人に相談しよう。




