第十話
「そんじゃ言い出しっぺの俺からな……っても、もうほとんど済ませちまってるけど、とりあえず……改めて一通り。
俺の名前はライト・サンド。元……傭兵だ」
流石に勇者うんぬんってのは……言わない方がいいだろう。これから仲良くやってこうってときに、いきなり自分の種族滅ぼしかけた元凶の筆頭の一味だった、って紹介は……ねえわな、うん。
「え、あ、あたしのばん、番ね……じゃあこっちも一通り。
あたしの名前は、マラヤ。マラヤ・ダイクロアイト……今は、村娘をやってるわ」
自分で言っておかしかったのか、くすり、と笑み、……よし、明るい、明るいやつだ、助かった……「元・魔王の娘でもあったけど」は?
「え? なに、まお……なん、なんて?」
まずい、すごくまずい、ものすごくまずい……今、彼女はなんて言った、まおう? まおうのむすめ? いやいや落ち着け、きっと俺の聞き間違いだよ、たぶんあれだ、あの……そう! マオ、マオさんの娘さんって言ったんだよ、そうだそうだよ間違いな「なーんて……もう、意味の無い肩書きだけどね。もう、おとうさま、殺されちゃったし……」だめだ聞き間違いじゃなかったくっそこういうときだけ優秀な俺の耳が憎い、俺も勇者みたいに肝心なところで耳遠くなるスキル欲しかった……!
やっばい、すっげぇ気まずい、一方的にとても気まずい……いや、だってこいつの親殺したの、直接的ではないとはいえ俺じゃん、俺と勇者とその一行じゃん……流石にこれから世話になるやつの親殺しの咎背負ったまま、俺こいつと心から笑い合える気がしねーよ、だって殺っちゃってるじゃん、こいつの顔見るたびに気まずさがぶり返してくるじゃん、もうご近所付き合いとか不可能じゃん……
「どうしたの? ……あ、気にしないで。確かに人間がおとうさま……死なせちゃったのは……ちょっと、まだ、もやもやしたのが、残ってる、けど……別に、あんたに殺されたわけじゃないんだから」
すいません、殺したの俺です、正確には俺の元仲間が殺ってしまいました、俺もそれに荷担してます……すごい、なにこの気まずさ、心苦しさ、尋常じゃない、キッツい、お腹きりきりしそう。
「それに……あたしってば、ほら、あれよ、いわゆる妾の子ってやつでさ……そんなに優遇されてなかったのよ。おかあさまが生きてたら、どうか分からなかったけど……あたしがまだ幼かった頃に、病気で、死んじゃって……だからおとうさまに引き取られて……そこには、ほかにもきょうだいがいたけど……そっちの方が可愛がられてたし……」
やめて。痛々しい過去を痛々しい顔で痛々しく話すのやめて。俺たちまだ会ってそんな経ってないじゃん、やめてよそんな話でこっちの心えぐってくんの、いや悪気無いんだろうし、自分下げてこっちの境遇に同調しようとしてるだけなんだろうけど……それでも……
「ほかのきょうだいたちは、みーんなあたしより優秀でさ……でも、だからだろうね、みーんなあの戦争に出て、……みーんな、死んじゃった……」
おっっっっっっっも! いやおっもい、やめ、やめろよ、俺の心は俺の体よりそんな丈夫じゃないだぞ、これ以上負荷かけるとぱりんだぞぱりん、だからもうや、やめ──
「いや、別にね、そのことは……みんな死んじゃったことは、そんなに気にしてないの、そんな話したこともなかったし。むしろあたしのことを、髪の色にかこつけて不可能の蒼なんて呼んでバカにしてたぐらいよ。
いくら王位継承権が最低だからって、いざというときの予備だからって……いくらおとうさまの血を引いてるとは思えないくらい魔法が下手だったからって、ちょっと言い過ぎだー、って、そう腹を立ててた。好きじゃなかった。きらいだった……」
でも。彼女の声が、まるで泣き出す手前の子供のように、僅か、濡れ。
「でも、死んでほしいほどじゃ、なかった……知らなかったわ。
例えきらいなやつらでも、身近な人が……いなくなっちゃう……っていうことが……こんなに、苦しくて、辛くて、……悲しい、だなんて……」
少し。少しだけ。彼女の語る声に、目に、湿り気が宿り。けれど、彼女は、なかない──涙を流さない。
それは、きっと、全てが、大戦の全てが終わったときに、そして家族が戻ってこなかったときに……流し尽くして、しまったからだろう。
覚えがある。俺にも、この娘の、今味わっている感情には、覚えがある。
けれどそれは、こんな、彼女のように、もう割りきった思い出のように語れる内容ではないし……こんな、彼女のように、きれいなまま、面に出せる感情でもなかった。
すげぇなあ……素直に、心から、そう思う。
俺は、まだ、どうにもできない……どうしようもない。あの時の、あの記憶は、……いや、やめておこう。これ以上辛気臭くなることもない。
「……そうか。そんな、ことがあったのか……いや、ただの自己紹介が、なんかちょっと、湿っぽくなっちまったな……」
だから俺は、笑う。笑って誤魔化す。決して内心を悟られぬよう。これ以上自分の心を傷付けぬよう。
「ううん、勝手に話したのはあたしのほうだし……こっちこそごめん、ここまで、言うつもりは、なかったんだけど……ふふ、外で過ごす夜が怖くて、ちょっとおしゃべりになっちゃったのかしら……」
乗ってくれる。ありがたい。実はもう、こっちも、心の余裕は、あまりなかった。
「いや、こっちもそっちのことが知れて、まあ、……これからの関係が、滑らかに築けていけそうでよかったよ……」
どうにかこうにか、彼女にそう言葉を返し、それじゃあ、といってごろん、とその身を、俺にとっては慣れた硬い石床に横たえる。




