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勇者の盾は、もう要らず。  作者: あんころもち
第二歴 勇者の盾、その転職。
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第六話

 あれじゃあ魔を介した自然現象なんて効きづらいはずだ。だって吹き出している魔がそのまま他の魔に対しての防御になってやがるからな。しかも当ててもその瞬間に毛が弾けて魔の撹乱地帯(ジャミングエリア)を無理矢理生み出し、そもそも魔を使った現象そのものを起きづらくするおまけ付き……だろうな。じゃなかったら、魔が得意な魔族がここまで手こずる事は無かっただろうし……大体同じような事する魔物やつと戦った事あるし……


 あの時は、俺の魂を消そうとしやがった元仲間の魔法使いが、すげーぶちぶち文句言ってたなぁ……なんか“せっかくきちんとした魔を使っても全然上手くいかない、まるで丁寧に丹精込めて手ずから作った自慢の料理に、横合いからいちいちたくさん文句言われてるみたい”とかなんとか。詳しい事は、確か聞いたんだが、俺には理論とかさっぱり分からんかった。


 なんかー、たしかー、普通魔法ってのは、そこらにいる自然の精霊さんに自分の魔力(ご飯)あげて現象起こしてもらうんだけど、周りに強い魔力をばらまかれると、何かそいつらがそれらに目移りして上手くいかなくなるとか。とりあえず大変だなー、って思った記憶がある。俺使えないからよくわかんないけど。

 

 それを、踏まえると……え、あれ、本当にただの猪……? どっかの魔物の変異種だったりしない……? 


「にしても……おかしいわね……確か、まだ巣は先のはずなのに……」


 へえ。となると、こいつは、たまたまこの近くを見回っていた巡回ってわけか。そりゃあ群れなんだから巣の周辺を見張るやつぐらい出てくるわな。思ったよりも知恵があるようで、厄介厄介。


 となると……早めに気絶なりなんなりさせねーと、仲間をごろごろ呼ばれる可能性があるな……別にそうされても、俺一人なら死なない自信があるが、……今は道連れもいる事だし……流石に、ちょっと、困る。


 なら、さっさと意識を絶ってやることにしよう。幸い一撃くらいなら、ぎりぎり耐えられるだろうし、


「ブ、ガ、」


 おっと危ない、もう仲間呼ぼうとしていやがる、さすが獣は判断が早い……が、


「はい、」


 ぐっ、と一気にふところへ、勢い殺さずそこから屈んで、


「黙れー」


 そのまま地面を、ちょいとばかし蹴り飛ばし、そのまま顎を狙ってかち上げアッパー──ぎぎぎ、なんて分厚い何かを殴ったような、いや実際殴ってんだが、そんな反発と手応えが、ほんの数瞬腕と拳に走った


「──ギュッ!?」


 寸後。それまで脅威を撒き散らしていた巨大猪は、こちらが与えた衝撃のままに、その身を結構高い上空へと投げ出した。まあ投げ出させたんだが。高度はちょっとミスったけど。こんな高くに飛ぶほど強く殴ってないはずなんだけど……っと、まあとにかく──はい、これで終わり。


 簡単だったな、意外と脆かったな、結構軽い手応えだな。これならもう少し加減した方がいいかもしれうっぷ。


 やっべ、動物殴ったから結構吐き気が……やっぱり一撃が限度だな、それ以上は俺の心が耐えきれんっとと、地面を揺らさないよう猪ちゃん受、け、止め、て……おっととと結構でかい、けど持てる、むしろ見た目よりは軽い。


 すまんなー、殴った拍子に牙折れちったなー、まあこれも竜に食われたと思って勘弁してくれな。


「あ、え……え?」


 俺が猪ちゃんを、音を立てないようにゆっくりと下ろしていると、そこでなにやら同行者が、気が抜けたような、あるいは今しがた気が入ったような声を上げる。


 大方、目の前で起こった事態に処理能力が付いてこれてなくて、そんでようやく今追い付いたってとこか。


 確かに……普通のやつは……こんなでっけーもん殴っただけで飛ばせないもんな、そりゃ無理もないか、驚くのも。


 だが、これで俺の実力の一端ぐれーは示せたかな? 村に向かう道中は、そういうの見せる機会無かったからな、主に勇者一行に追いたてられていたせいで。


「あ、あん、た……そんなに……」


「おー、まあこれぐらいなら余裕ってやつよ。俺も一応、あの大戦で最前線走ってたからな」


 ひらひらと。殴った方の手を何度か振り、そんでちょっとだけどやっ、と笑う。まあこんなもん、勇者一行の中じゃ自慢した方が恥ずかしいことだが……いや、もう違うんだし、これぐらいはさせてもらわんと。ていうかしたいし、えっへん。


「さ、こんなことよりも……行こうぜ、巣。

どうしたってさっきの殴った音は聞こえちまっているだろうし……だったら先回りして、まだ気づいてない奴らの先手を取っておきてーし」


 俺の言葉に、ぎこちなく頷いた彼女は、まだ少しだけ現実を受け止めきれていないような、そんな呆けたふらふらな足取りで、それまで止めていた歩をまた進め始めた。


 ……その際、すっかり牙と心を失っている猪を見て、うわ、とドン引きしたような声をあげたのを、俺は見逃さなかったし、ついでに言うと、……なんかちょっぴり傷付いた。





 さあ、あれから案内に従って歩くこと、こっちの感覚でほんの少し。それまで立ち並んでいた木々をゆっくりと抜けると、少しだけ開けた原っぱに到着した。


 少しだけ、と言ったのは、俺から見て正面、そこに思わず見上げてしまうほどの高い高い岩の壁が、原っぱを区切るように切り立っていて、そこのやや中心(といっても縦ではなく横だが)にぽっかりと穴が空いていた。


 なるほど、あれが巣の入り口ってわけか。ありゃあ中々だだっ広い。あの猪のサイズでも楽々だろう……だからこそ、その群れの拠点になったのだろうが。


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