第四話
「……分かりました。けれどこちらも、だからはいそうですかと言って退けるほど、生半可な覚悟でここまで来たわけじゃない……
どうすれば、この村に、置いていただけますか」
悪意の視線。それらに晒されながら、しかしそれでもぐるりと周りを見渡して、最後、困ったように眉を寄せる村長に、手と言葉を差し向ける。
村長は、そんな俺の、(端から見れば)決意を表した問いに、しばし顎先に手を置いて考え込み、そして数分。
「……門番に。なりたいのでしたな」
はい。問いに答えを返す。
「ならば、きみがやるべき事は。ただ一つ……」
強さを。彼の口から、絞り出すように、言葉が落ち。
「何物にも負けぬ、脅威になど決して負けぬ、唯一無二の強さを。この村の住人全てに──示してくれ」
強さを示せ。村長はそう言った。しかしあの村で一番強い、というか真っ当に戦える人材などおらず、昔の大衆小説のように、村一番の誰かと決闘、などという展開には当然ならず、いやそっちの方が楽だったけど、まあ、でなければ、と頼まれたのが──
「村の食料を狙って襲う、害獣の駆除、ね……」
まあ、分かりやすい話だ。村の益になる、ついでに俺の実力も計れる、まさに一石二鳥。なるほど長を任されるぐらいの器量はある。
で、その際に俺がズル、ないしそのまま逃げないようにと見張りで付けられたのが、
「まったく……村長も頭固いんだから……あと、普通に面倒ね、これ……」
と、こうして愚痴をこぼしている腐れ縁の彼女、というわけだ。ちなみに害獣の巣の案内役でもある。
まあ、彼女の場合は、頼まれた買い物をこなせなかった罰も含まれているだろうし、当人もそれを理解しているのか、決して面倒、と言う以外の毒を漏らす事は、今のところしていない。
さて、とりあえず、わりと険しい獣道の道すがら、こちらが打ち倒すべき害獣についての詳細を、案内役に尋ねてみたところ……まあ、なんというか、これもありふれた話なのだろうが、……猪。
この辺りに出没する猪の群れに、あの魔族の村は非常に追い詰められていた。
まあ、たかが猪、と思う奴もいるだろう。中には、あの、かつて世界の半分を実質支配していた魔族が、なんとも情けない、とも。
しかし侮る事無かれ、猪とは意外と頭のいい動物で、さらに言えば警戒心がとても強く、特に成熟したものなんかは人間が仕掛けた罠にも中々掛かろうとしない。ましてこんな魔物しかいない大陸で、立派に生のサイクル築けているやつらだ、その逞しさたるや推して知るべし、といったところだろう。俺も山で暮らしている時期は結構苦労させられたもんだ。
さらに、聞けばその猪ども、その表皮と脂肪と筋肉から、半端な武器での攻撃を悉く弾き、さらには魔に対する免疫まで獲得しているらしく、昔彼女が全力で炎の魔を浴びせたところ、まったくもってびくともしていなかったという。
だもんで、もはや村の奴らも退治する事を諦め、今では神に捧げる供物のような感覚で、その襲来を大人しく受けてしまっているのだとか。
なるほど……猪の退治なんざ、どうせ食料確保ついでのそれだと思っていたが、確かにこれは、力を示すにはうってつけの仕事みたいだな。
しかし、群れ、群れか……いや、別にどんな数でどんな衝撃でどんな風にぶつかられても、俺にとってはぶっちゃけ大した事は無いのだが、数が多いとなると、退治は、結構手間になるかも、だなぁ……
うーん、せめて巣の周りを、奴らが通れないよう塞ぐ事が出来れば、もう少し面倒が無くなるんだが……もしくは何かで追い立てて一方向に集める、とか……いや、無理か。そいつら火ぃ恐がんねーんだもんな、だったらケツから追ってってどうこうってのは……うーん。
だとすれば、俺に出来る事は……まあ、うん、あれぐらいか。ぐらいだな。でも、そうすると……結構、びっくりするんだよなぁ……でもそれ以外は、出来んか。出来んな、よし、腹に力込めていくか。
しっかし、あの村も、いくら資材が少ないとはいえ、俺に着の身着のままで向かわせるとは、なんとも中々……いや、うん、多分人間が信じきれないから、なんだろうし、あわよくば……てのも……あるだろうし……うん、うん、まあ、これからだよなこれから。まずはこの依頼を終わらせて、少なくとも村に居れるぐらいの信頼を稼がないと、だ。
しかし、その群れってのは、随分と奥深くにいるんだなぁ……もう村から結構歩いたと、思うんだが……いや、そうか、猪だもんな、体力に物言わせりゃこれぐらいは余裕か。まして燃料なら襲撃で補給できるんだもんな、そりゃあ……ちっと遠かろうと襲いに来るわな。
けど、これまで歩いた獣道を見てみっと……結構、でかいな……横幅はもちろん、高さも……近くの木の、彼女の高さぐらいにある枝がぽっきりと折れちまってるし……こりゃ、退治は苦労しそうだな……特に俺は、動物を殺せないし。
だから、退治……っても、この近くから追い払うって形に、なるだろうな……まあ、どうしても、というなら、この付いてきているこの娘にとどめを刺してもらっておえっぷ……いや、駄目か。駄目だな。流石に、他人に、命を奪わせては……それに俺への試練だし、ここは自分でどうにかするのが妥当、か。




