第33話 廃神さん...傍観する(16)
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●アルグリア大陸暦千五百三十八年三月十六日
【帝都プロロース~ノール邸】
【ベスティア・ノール】
「あ、ああ......パパ!」
パパ、ごめんなさい。
パパよりも先に死んじゃうなんて、ごめんなさい。
親不孝な娘で、ごめんなさい。
パパ、今までありがとう。
本当にありがとう。
パパ、怖いよ。
パパ、死にたくないよ。
パパ、私......ママの様に、人に元気を与えられる、歌が唄いたかったな。
ママ、死んだら、......会えるかな?
ママ、......パパを守って!
私の為に苦しんだ、パパを守って!
私が死んだら、パパは楽になるかな......。
私が死んだら、パパはママが亡くなった時の様に、苦しむかな......。
ああ、苦しい。
ああ、目が見えない。
ああ、何も聞こえない。
ああ、何も感じない。
私、......死ぬんだ。
ごめんなさい、パパ。
そう心の中で私が呟いた時、私の頭の中に、妖精さんの声が響いた。
【カルマ】
『もう、思い残す事はないかい?』
うん、妖精さん、大丈夫だよ。
パパの事が心配だけど、パパは私よりも大きいし、強いから大丈夫......。
......でも、ママみたいに為りたかったな。
ママは凄いんだよ、私が落ち込んでいても、歌を唄って元気づけてくれるの!
私も大人になったら、ママみたいな歌が唄いたかったな......。
私もママに成ったら、子供に唄って上げたかったな......。
パパ、......大丈夫だよね妖精さん?
パパは、......私が死んでも大丈夫だよね妖精さん?
『......』
何故黙っているの妖精さん、......大丈夫だと言ってよ、ねえ妖精さん?
『大丈夫な訳がないよ。ベスもそれは解っているだろ? ......』
妖精は問う。
母親が亡くなった時の、父親はどうだったのかと。
母親が亡くなった時、少女はどう思ったのかと。
もし、父親が亡くなったら少女はどう思うのかと。
ママが亡くなった時、哀しみで、大きなパパが消えてしまいそうだった。
私は、哀しくて、胸が張り裂けそうだった。
そんなの決まっている。
嫌に決まっている。
パパが死ぬなんて、嫌だ!
私は妖精さんに問う。
妖精さん、あなたは一体、何の妖精さんなの?
妖精は告げる。
“俺はお前で、お前の願いを叶える妖精だ”と。
少女は願う。
パパを助けてくれと。
己が死んだ後の、父親を見守って下さいと。
己を失った父親を助けて欲しいと、乞い願った。
声は告げる。
【カルマ】
『その願いは、......聞けないな! だって、ベスは死なないから! 代わりにベスの別の願いを一つだけ、聞き届けよう......』
少女はその言葉に驚き、叶えられる願いは何かと想像しながら、その目を安らかに閉じたのだった。
●アルグリア大陸暦千五百三十八年三月十七日
【帝都プロローズ~ベニアス王国大使公邸】
【ナークス・アエニブス】
「昨日は、大変失礼を致しました!」
【ローグレス・ベニアス】
「兄上、如何したのですか?」
昨日、帝城の大広間で会った時とは、別人の兄の姿に、弟は当惑していた。
ナークスは事情を説明した。本当は、ミクナーク・ベニアスではない偽者だと。
不治の病に侵された少女を助ける為に、一芝居を打ったと。
大広間で皆が見たものは、己の幻術だと。
人は見たいものを見て、見たくないものは見ないと。
私は、その見たいものを見せただけだと。
確かに、大帝に渡した秘薬は本物だが、全て己の奇術であると。
大帝に願った二つのものは、己を信用させる為の方便だったと。
ローグレス陛下にだけは、真実を述べて置きたかったと。
それだけ述べると、ナークスは公邸を辞去した。
「ローグ、私の言った通りだったでしょう?」
「ふふふふ、レーテ。私がいくら愚か者でも、騙されないよ。君が教えてくれた、兄上が国を去った理由を聞いた後では、尚更ね」
ミクナーク・ベニアスが国を、弟の元を去った理由は二つあった。
一つは、ミクナークが居ては己に頼ってしまい、ローグレスの本当の意味での独り立ちが出来ないから。
もう一つは、母グレーテスに捧げる秘薬エリクサーを作成する為に、アルグリア九賢者の一人、錬金王レジッド・カバデルアを探す旅に出たからだった。
つまり、大帝に渡した秘薬エリクサーこそが、ナークス・アエニブスが、ミクナーク・ベニアスである証拠だと言えた。
超大国アルバビロニア大帝国でも、秘薬を側室に使うのを疎んだのかは知らないが、喩え疎んだとしても、秘薬エリクサーの価値の証明に他ならない。
今も昔も、秘薬一つで小国が買える事実は変わらなかった。
「それに、匂い。小さい時から、嗅ぎ続けた兄上の匂いを、私が間違える事も、忘れる事もないからね」
「ふふふふ、じゃ一体彼は、何をしに此処に来たのかしら?」
「決まっているよ! 兄上は、今も昔も変わらない。人を騙すのが、大好きだからさ!」
地精霊人と、普精霊人の夫婦は笑いながら、公邸から去っていく地精霊人を、二階の窓辺から見送るのだった。
●ブルーアース暦一年二月四日(アルグリア大陸暦千五百三十八年三月十七日)
【迷宮都市バベル】
【ジズード・マラッセ】
「此処は一体?」
【ノクレ・オーディス】
「......」
迷宮都市バベル。迷宮《バベルの塔》を中心に、放射線状に拡がる区画整理された町並み。街行く人々には活気があり、人々の顔には笑顔が溢れていた。
ジズードは迷宮都市の偉容に唯々驚き、ノクレは迷宮都市の活気に唯々唖然として、声も出なかった。
【カルマ】
『二人には、程々に働いて貰うつもりだから、よろしく!』
二人は、己達の雇い主の言葉に、唯々頷くだけだった。
ジズードが、ノクレを陥れた内幕はこうだった。
最初は、己を苛むノクレの心を癒す為に、打った芝居だった。
己を責めている親友に、一泡吹かせる騙し芝居のはずだった。
ノクレは勘が良いので、騙すには本気のお膳立てが必要だった。
そのお膳立ての一つである、ノクレが脱税を指示した偽造の証拠を、正義感の強い従業員が本物と思い、国に訴えてしまった。
驚いたジズードは、全て嘘で、騙し芝居だと言い出そうにも、事が大きく成り過ぎて、怖くなり口を嗣ぐんでしまった。
ノクレの妻子にしても、実際は今も元気に生存している。
妻子が亡くなったと言う話は、火災が起こった事実と、脱税した大商人を嫌った者の嘘話だった。
二人はお互いが謝り合い、和解した。
共に商才の才覚が優れている二人は、アルグリア大陸ではオーディス商会とロシナンテ商会の経営統合を図り、ブルーアース世界では、空間転移装置ゲートを活用した新たな商売の仕組みで、マラッセ商会を立ち上げ、二つの世界で残りの人生を謳歌し、働かされるのだった。
●アルグリア大陸暦千五百三十八年四月八日
【帝都プロローズ~ロシナンテ百貨店】
【ベスティア・ノール】
「皆さん、聞いて下さい! 私達の新曲『プロローズ』です! 暁の~♪ ......」
【観衆】
「「「「「うわぁぁぁぁぁ~!!!」」」」」
ロシナンテ商会の百貨店の二階、遊戯施設の一画の催し会場で、毎日一回、歌の講演が行われていた。
現在、歌を唄っているのは、ロシナンテ商会専属歌姫集団である、『四十七枚の花片』で、四十七人の個性豊かな乙女達が、唄って踊る舞台表現で、連日観客を魅了していた。
FHSLG『アルグリア戦記』に於いて、歌と踊りで民衆を鼓舞する職業『歌い手』になる事も、『歌姫』と言う民衆を魅了し鼓舞する職業になる事も、夢ではなかった!
現実世界で歌姫を目指す乙女達の多くが、一部で心が乙女な者達が、ベスティア・ノールでプレイをした。
ベスティア・ノールの薄幸の物語を、歌の力で覆す物語は、戦闘が苦手な女性達から、絶大な支持を集めたのだった。
ベスティア・ノールの才能は、《魅了Ⅲ》《歌声Ⅴ》《舞踏Ⅱ》の三枠で、プレイヤーの好み次第でカスタマイズも出来て、戦闘系の才能を組み込み、《歌の戦乙女》の職業に付く者もいた。
不治の病も治す『癒やしの歌』で、多くの人々の心と体を癒やし、『戦いの歌』で、万の軍勢を率いて将兵の心と身体を鼓舞する、歌の力とは偉大であった。
斯く言うカルマも、ベスティア・ノールで完全制覇を成し遂げていた。
【アレキサンドロス・アルバビロニア】【ミクナーク・ベニアス】
【レイブルグ・ロシェ】【キルギルス・ノール】【観衆】
「「「「「ビー! イー! エス! ティー! アイ! エー! ベスティア! ラブ♪」」」」」
催し会場の一番前の前列に、桃色の半被と鉢巻きをした集団が、《四十七枚の花片》を独特の掛け声と、振り付けで応援していた!
「おい、爺さん! 良い歳して、若い娘の追っかけは、格好が悪いんじゃないのか?」
「煩い! ベスちゃ~ん♥ うぉぉぉぉぉぉぉ~!」
森精霊人の少年と地精霊人の老紳士が、桃色半被に鉢巻きを巻いて、集団演舞で応援をしている!
その傍らでは、少年の執事が同じ格好で、熱烈な応援を繰り広げていたのは言うまでもない。
「マリア、......見ているか? 俺達の娘が、うっうううう......」
「首領! 振り付けが間違っていますぜ!」
親馬鹿な大男は涙を流しながら、大男の手下の小男は、そんな大男に注意をしながらも、集団演舞で《四十七枚の花片》の舞台を盛り上げる!
【カルマ】
『夢が叶ったね、ベス♪ ......』
催し会場の舞台袖の空中で、姿と気配を消したカルマが真っ裸で微笑む♪
その視線の先には、母と同じ歌姫へと変貌を遂げようとする少女と、其れを見守る親馬鹿と、歌姫愛好家の爺達の姿が映っていた。
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アルグリア大陸の東南東に位置する旧ガイアス公国領のナダリス領に於いて、水精霊人と海精霊人の混成軍が反逆の産声を上げた。
エルブリタニア帝国は其れに対して、帝国第三皇子ベリトリアス・エルブリタニアを擁する、討伐軍を向かわせた。
ベリトリアスは、次期皇帝候補としては、嫡子ラクトリウスと次男レクトリウスに遅れを取ってはいるが、六男カリトリアスが行方不明の現状では、皇帝争いの第三位に付けている。
先頃、アダ―ク領での領民の反乱鎮圧に於いて、大敗を喫したラクトリウスは、一命を取り留めたが未だ意識が戻ってはいなかった。
混迷を迎えている帝国の次期皇帝争いに、ナダリス領の反乱が如何様な影響を与えるのかは解らない。
だが、運命の歯車がカタコトと音を発てたのを、時代は聞き逃さなかった。
To be continued! ......
第4章【詐欺師飛翔編】が終了しました!
次回、新章【傭兵騎士団乱舞編】が、スタートします!
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最後に、読者の皆様に感謝を、お読み頂き、ありがとうです!




