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アルグリア戦記 ~1/31,104,000秒の世界~  作者: 虎口兼近
第4章 詐欺師飛翔編
33/40

第32話 廃神さん...傍観する(15)

毎月...3日...13日...23日......更新予定です。

●アルグリア大陸暦千五百三十八年三月十六日 

【帝都プロローズ~帝城プロロス~大広間】






【ノクレ・オーディス】

(ナークスさん、貴方を信じています。親友を、私は救いたい......)






 老商人は詐欺師が、この危機を脱する事を信じていた。




 (いな)、親友を救いたいと事情を話した時の詐欺師の目に、「承った!」と言う言葉に、嘘はなかった。




 老商人の直感が、そう告げていた。




 ジズード、すまない。




 お前の人生を、()じ曲げ、壊したのは私だ。




 たった一人の親友を裏切り、お前の未来を奪った。




 私にお前を憎む資格も、お前を糾弾する権利もない。




 老商人は、昔の親友に戻って欲しかった。




 あの誰にでも愛されたジズード。




 商会の誰にも相手にされず、風当たりの強かった私に、唯一手を差し伸べてくれた親友。




 私は、そんな親友に、心遣いに、(そむ)いた。




 覆水盆(ふくすいぼん)には返らず。




 だが、私は(たと)え元に戻れずとも、親友の苦しみを無くしたい。




 (いや)、それは烏滸(おこ)がましい。




 苦しむ親友を、唯々楽にして上げたかった。




 老商人が親友を案じ、詐欺師を信じ、己を罰そうと決意した時、頭に声が響いた。






【カルマ】

『ノクレ、お前は親友を信じているのか? ......』





 

 その声は、老商人に問い掛ける。




 お前を陥れ、商会を我が物とし、()してやお前の家族の命を奪ったかもしれない者を、信じるのかと?




 老商人は迷い無く言い切った、“信じる”と。




 老商人は語る。




 ジズードは、天涯孤独な身の上だった。




 それでも世間に背を向けずに、真っ当に生きて来た。




 そんな親友は、私を生涯の友と呼び、“たった一人の家族”だと、酔った時に呟いた。




 私の直感が、親友の言葉に、嘘は無いと告げていた。




 そんな親友の愛した女性を、知らずとは言え己の嫁として、親友の気持ちも知らずに、我が世の春を謳歌していた、己を私は許せないのですと。




 許せないんです、......と。




 私は声の主に、己の(あるじ)に問う。




 (あるじ)様、貴方様は一体、何者なのですか?




 声は告げる。




 “俺はお前で、お前の願いを叶える者だ”と。




 老商人は願う。




 親友を助けてくれと。




 親友の心を助けて欲しいと。




 己の命を捧げても、親友を助けて欲しいと、乞い願った。




 声は告げる。






【カルマ】

『その願い聞き届けた......』






 王城の大広間にいる己と詐欺師以外の、全てが詐欺師を二枚舌と断じ、嘲笑(あざわら)い蔑む中、詐欺師を(あたた)かい朱色の光が、優しく包み込んだ。






 FHSLG【アルグリア戦記】に於いて、称号とは二種類ある。先天的に獲得している称号と、後天的に獲得した称号だった。




 ミクナーク・ベニアスは、ナークス・アエニブスとなり、百年以上の間、己を(だま)し、(あざむ)いて来た。




 『二枚舌』は、アルグリア大陸中の人々の想いによって、獲得した後天的な称号である。




 他人を騙し欺くのが、通常の詐欺師なら、超一流の詐欺師は、己までも騙し欺く者である。




 超一流の詐欺師、ミクナーク・ベニアス。




 ミクナークは母を救えなかった、己が許せなかった。




 やがて、母の想いに気付いたミクナークは、弟ローグレスに全てを譲り、アルグリアの表舞台から姿を消した。




 それから百年以上の間、ナークス・アエニブスは己が別人であるとは、露ほども疑わなかった。




 それは、強力な自己暗示なのか、何かの如何様なのか、......真実を知るのは二人だけだった。




 ミクナーク・ベニアス本人と、その謎を解き明かした者である。




 ナークス・アエニブスの才能(スキル)は、《詐術Ⅸ》《話術Ⅸ》《奇術Ⅶ》《催眠術Ⅸ》《交渉術Ⅴ》《鑑定術Ⅲ》《礼儀作法Ⅲ》《薬術Ⅲ》《錬金術Ⅲ》《長剣術Ⅲ》の十枠である。




 ナークス・アエニブスの正体が、ミクナーク・ベニアスとして、才能(スキル)を見た場合、可笑(おか)しな点が浮かび上がる。




 神童と呼ばれ、ベニアスの明星と(うた)われたミクナークの才能(スキル)としては、(いささ)かお粗末な印象を受けるからだ。




 母の病の治療の為に、錬金術と薬術を極め、古の錬金王レジッド・カバデルアでさえ到達出来なかった、錬金術の最奥である、秘薬《エリクサー》を作成すると豪語した者の、才能(スキル)とは思えない。




 これらの才能(スキル)で、秘薬《エリクサー》を本当に作成しようとしていたならば、まさしく井の中の蛙と言えよう。




 また、防衛特化の騎士団を育成運営し、農業を基盤とした商業経済の体制を築いた者の才能(スキル)が、ナークス・アエニブスの才能(スキル)群で為し得るならば、詐欺師とは為政者としては、最適な職業なのかも知れない。




 だが、 廃人(ゲーマー)の中の廃人(ゲーマー)、【廃神(オーバーアウト)】と呼ばれた変態は、ナークス・アエニブスの情報表示の説明欄と、()()()()()()()()に目を付けた。




 説明欄には、ナークス・アエニブスは特異な詐欺師であり、引っ込み思案(じあん)な性格で、母親以外の者とは関係が築けないとある。




 引っ込み思案な詐欺師とは、不可解である。




 引っ込み思案な、母親としか関係が築けない詐欺師が、どうやって才能(スキル)《話術Ⅸ》《交渉術Ⅴ》を獲得し、育成出来たのか謎である。




 そして、ナークス・アエニブスが肌身離さずに身につけている、母親の形見の指輪の内側には、こう文言が刻まれている。




 “言霊(ことだま)に、想いを。言霊(ことだま)に、願いを。我は詐欺師なり。我は人を欺き、己を欺く者なり!”と。




 廃神(オーバーアウト)は思った、母親がそんな文言を(きざ)む訳は無いと。






 (あたた)かい朱色の光に、優しく包み込まれた詐欺師は、()()を思い出していく。




 職業欄の詐欺師の文字が(うごめ)き、変貌(へんぼう)し、才能(スキル)枠の才能(スキル)の文字が、蠢動(しゅんどう)し、変化していく。




 そして、封印が解かれた詐欺師の職業は、《改変師(かいへんし)》。




 顕現(けんげん)した才能(スキル)は、《改変術Ⅳ》《交渉謀術Ⅶ》《鑑定術Ⅸ》《礼儀作法Ⅸ》《薬術Ⅹ》《錬金術Ⅹ》《長剣術Ⅹ》《格闘術Ⅶ》《魔力回復Ⅹ》と特異(エクストラ)才能(スキル)《鬼才》。




 (あら)たに現れた称号は《改変者(イノベーター)》だった。




 改変者とは己の精神も、肉体も、能力も、()()さえも改変する力を、(ゆう)する者に与えられた称号で、称号効果は確率変動率を、()()で九十九・九九パーセントまで、()()で○・○一パーセントまで、()()()()()()()な、超不正行為(スーパーチート)のものだった。




 従来の交渉確率は、最大で成功確率が九十九パーセントで、必ず一パーセントの失敗確率が存在する。




 逆に言えば、最小でも失敗確率は必ず一パーセントで、それ以下の確率は存在しない。




 だが、そのアルグリア世界の(ことわり)を、○・○一パーセントまで下げられる。




 此れが、交渉確率ではなく、他の確率なら?




 そして、ミクナーク・ベニアスを部隊に編成出来れば、称号《改変者(イノベーター)》の効果で、味方部隊には接敵時(せってきじ)に能力向上効果【徐々に全能力が一パーセントづつ上昇していく】が、敵部隊には能力低下効果【徐々に全能力が一パーセントづつ低下していく】が発動すると言う、埒外不正行為(ウルトラチート)固有(ユニーク)称号だった。




 しかし、失敗時に(なにがし)かの罰則も与えられないが故に、次回発動待機時間(クールタイム)は二百四十時間を(ゆう)するのであった。


 




【ミクナーク・ベニアス】

「俺が偽物だとお前等は思っている。そして、そこの耄碌(もうろく)した爺さんもそう断じた。では、俺が本物だと証明してやろう! 愚か者共よ!」






 改変師は右手を鳴らし、目前の空中に、数多(あまた)の素材を浮かべる。




 曾て神童と呼ばれたベニアスの第一王子は、己の才能(スキル)《神童Ⅹ》を、特異(エクストラ)才能(スキル)《鬼才》に昇華させ、過去に成し得なかった秘薬《エリクサー》を作り上げていた。




 目の前で、合成され、錬金され、改変される素材が、虹色(にじいろ)の光を輝かせながら、一点に集約する。




 集約し、光の輝きが収まると、其処(そこ)には虹色(にじいろ)に輝く液体を(たた)えてた、硝子瓶(がらすびん)が浮かんでいた。






【ミクナーク・ベニアス】

「爺さん、側室に不治の病に苦しんでいる(きさき)が居るだろう? そのエリクサーが、俺が本物だと言う証拠だ! まあ、騙されたと思って試したらどうだ?」





 改変師は、大帝にエリクサーを示し、(あお)り告げた。




【アレキサンドロス・アルバビロニア】

「ば、馬鹿な、......秘薬《エリクサー》の錬成だと?」




 目の前で行われた、錬金術の秘奥である秘薬《エリクサー》の作成に、度肝(どぎも)を抜かれた大帝が、驚愕となる。




 そして、エリクサーで側室が完治したとの報せを受けた大広間には、歓声が巻き起こった。




 秘薬《エリクサー》の作成とは、()(いにしえ)の錬金王レジッド・カバデルアでさえ、成し遂げられなかったと言われる、錬金術の秘奥であり、それが今まさに、帝城の大広間で明かされたのである。




 商人達は興奮に、我を忘れる者が出るほどの、熱気と、狂熱(きょうねつ)に包まれる。




 小国が買えるほどの価値が、秘薬《エリクサー》にはあった。




 商人達は、我先にと、改変師と縁を結ぼうと、擦り寄る。




 しかし、改変者は商人達には、目も暮れずに、大帝に告げる。




「おい、爺さん。この不手際はどうやって、落とし前を付ける気だ?」




 アルバビロニア大帝国の大帝に、掛ける言葉ではない。




 しかし、大帝は愉快そうに改変師に尋ねる。




 どうして欲しいと。

 



 不遜(ふそん)な改変師は告げる。




 弟の国が困ってる、それを助けてくれと、秘薬の代金に一人の罪人の身柄をくれと、その二点で手打ちにしょうと。




 大帝は大声で笑いながら、()れらを快諾するのだった。

 



 そして、改変師は己に抱きついて来た弟を“能無し”と呼び、静かに抱きしめた。




 大帝は、詐欺師を本物のミクナークと認め、その約定通りに理不尽な言い掛かりで、ベニアス王国へ侵攻しようとしていたエルブリタニア帝国を掣肘(せいちゅう)した。




 文句があるなら、掛かって来いと言わんばかりの大帝の物言いに、エルブリタニア帝国は、何故か大人しく従ったのだった。






【カルマ】

(......)






 大広間で姿を消して、浮かぶ赤ちゃんが真っ裸で見つめる!




 その視線の先には、項垂(うなだ)れた親友に、土下座して()びる老商人の姿が映っていた。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






 アルグリア大陸の東北東の端に位置するフューダー大王国の版図(はんと)に、華厦山(かかざん)がある。




 其処(そこ)十の災厄(アンタッチャブル)の一角、《白猿(はくえん)》の縄張り(テリトリー)である。




 大陸暦千二百二十九年十一月、華厦山(かかざん)に咲く白厦草を求めたブルクルデ王国が、《白猿(はくえん)》の(ことわり)によって撲滅(ぼくめつ)された。




 《白猿(はくえん)》は、群れ無い。




 《白猿(はくえん)》は、()びない。




 《白猿(はくえん)》は、孤高(ここう)なり。






 十の災厄(アンタッチャブル)は、神の神罰の代行者。





 神々への感謝の祈りを忘れた者共に、不可避(ふかひ)天罰(てんばつ)を与えるものなり。








 To be(続きは) continued(また次回で)! ......

次回【詐欺師飛翔編】が閉幕となります! ベスティアは、果たして如何なったのか?


改変師が格好いいと思った人は、★評価・ブックマーク登録・感想よろしくお願いします!


最後に、読者の皆様に感謝を、お読み頂き、ありがとうです!

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