第32話 廃神さん...傍観する(15)
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●アルグリア大陸暦千五百三十八年三月十六日
【帝都プロローズ~帝城プロロス~大広間】
【ノクレ・オーディス】
(ナークスさん、貴方を信じています。親友を、私は救いたい......)
老商人は詐欺師が、この危機を脱する事を信じていた。
否、親友を救いたいと事情を話した時の詐欺師の目に、「承った!」と言う言葉に、嘘はなかった。
老商人の直感が、そう告げていた。
ジズード、すまない。
お前の人生を、捻じ曲げ、壊したのは私だ。
たった一人の親友を裏切り、お前の未来を奪った。
私にお前を憎む資格も、お前を糾弾する権利もない。
老商人は、昔の親友に戻って欲しかった。
あの誰にでも愛されたジズード。
商会の誰にも相手にされず、風当たりの強かった私に、唯一手を差し伸べてくれた親友。
私は、そんな親友に、心遣いに、背いた。
覆水盆には返らず。
だが、私は喩え元に戻れずとも、親友の苦しみを無くしたい。
否、それは烏滸がましい。
苦しむ親友を、唯々楽にして上げたかった。
老商人が親友を案じ、詐欺師を信じ、己を罰そうと決意した時、頭に声が響いた。
【カルマ】
『ノクレ、お前は親友を信じているのか? ......』
その声は、老商人に問い掛ける。
お前を陥れ、商会を我が物とし、況してやお前の家族の命を奪ったかもしれない者を、信じるのかと?
老商人は迷い無く言い切った、“信じる”と。
老商人は語る。
ジズードは、天涯孤独な身の上だった。
それでも世間に背を向けずに、真っ当に生きて来た。
そんな親友は、私を生涯の友と呼び、“たった一人の家族”だと、酔った時に呟いた。
私の直感が、親友の言葉に、嘘は無いと告げていた。
そんな親友の愛した女性を、知らずとは言え己の嫁として、親友の気持ちも知らずに、我が世の春を謳歌していた、己を私は許せないのですと。
許せないんです、......と。
私は声の主に、己の主に問う。
主様、貴方様は一体、何者なのですか?
声は告げる。
“俺はお前で、お前の願いを叶える者だ”と。
老商人は願う。
親友を助けてくれと。
親友の心を助けて欲しいと。
己の命を捧げても、親友を助けて欲しいと、乞い願った。
声は告げる。
【カルマ】
『その願い聞き届けた......』
王城の大広間にいる己と詐欺師以外の、全てが詐欺師を二枚舌と断じ、嘲笑い蔑む中、詐欺師を暖かい朱色の光が、優しく包み込んだ。
FHSLG【アルグリア戦記】に於いて、称号とは二種類ある。先天的に獲得している称号と、後天的に獲得した称号だった。
ミクナーク・ベニアスは、ナークス・アエニブスとなり、百年以上の間、己を騙し、欺いて来た。
『二枚舌』は、アルグリア大陸中の人々の想いによって、獲得した後天的な称号である。
他人を騙し欺くのが、通常の詐欺師なら、超一流の詐欺師は、己までも騙し欺く者である。
超一流の詐欺師、ミクナーク・ベニアス。
ミクナークは母を救えなかった、己が許せなかった。
やがて、母の想いに気付いたミクナークは、弟ローグレスに全てを譲り、アルグリアの表舞台から姿を消した。
それから百年以上の間、ナークス・アエニブスは己が別人であるとは、露ほども疑わなかった。
それは、強力な自己暗示なのか、何かの如何様なのか、......真実を知るのは二人だけだった。
ミクナーク・ベニアス本人と、その謎を解き明かした者である。
ナークス・アエニブスの才能は、《詐術Ⅸ》《話術Ⅸ》《奇術Ⅶ》《催眠術Ⅸ》《交渉術Ⅴ》《鑑定術Ⅲ》《礼儀作法Ⅲ》《薬術Ⅲ》《錬金術Ⅲ》《長剣術Ⅲ》の十枠である。
ナークス・アエニブスの正体が、ミクナーク・ベニアスとして、才能を見た場合、可笑しな点が浮かび上がる。
神童と呼ばれ、ベニアスの明星と謳われたミクナークの才能としては、些かお粗末な印象を受けるからだ。
母の病の治療の為に、錬金術と薬術を極め、古の錬金王レジッド・カバデルアでさえ到達出来なかった、錬金術の最奥である、秘薬《エリクサー》を作成すると豪語した者の、才能とは思えない。
これらの才能で、秘薬《エリクサー》を本当に作成しようとしていたならば、まさしく井の中の蛙と言えよう。
また、防衛特化の騎士団を育成運営し、農業を基盤とした商業経済の体制を築いた者の才能が、ナークス・アエニブスの才能群で為し得るならば、詐欺師とは為政者としては、最適な職業なのかも知れない。
だが、 廃人の中の廃人、【廃神】と呼ばれた変態は、ナークス・アエニブスの情報表示の説明欄と、母親の形見の指輪に目を付けた。
説明欄には、ナークス・アエニブスは特異な詐欺師であり、引っ込み思案な性格で、母親以外の者とは関係が築けないとある。
引っ込み思案な詐欺師とは、不可解である。
引っ込み思案な、母親としか関係が築けない詐欺師が、どうやって才能《話術Ⅸ》《交渉術Ⅴ》を獲得し、育成出来たのか謎である。
そして、ナークス・アエニブスが肌身離さずに身につけている、母親の形見の指輪の内側には、こう文言が刻まれている。
“言霊に、想いを。言霊に、願いを。我は詐欺師なり。我は人を欺き、己を欺く者なり!”と。
廃神は思った、母親がそんな文言を刻む訳は無いと。
暖かい朱色の光に、優しく包み込まれた詐欺師は、全てを思い出していく。
職業欄の詐欺師の文字が蠢き、変貌し、才能枠の才能の文字が、蠢動し、変化していく。
そして、封印が解かれた詐欺師の職業は、《改変師》。
顕現した才能は、《改変術Ⅳ》《交渉謀術Ⅶ》《鑑定術Ⅸ》《礼儀作法Ⅸ》《薬術Ⅹ》《錬金術Ⅹ》《長剣術Ⅹ》《格闘術Ⅶ》《魔力回復Ⅹ》と特異才能《鬼才》。
新たに現れた称号は《改変者》だった。
改変者とは己の精神も、肉体も、能力も、事象さえも改変する力を、有する者に与えられた称号で、称号効果は確率変動率を、最大で九十九・九九パーセントまで、最小で○・○一パーセントまで、自由に変動可能な、超不正行為のものだった。
従来の交渉確率は、最大で成功確率が九十九パーセントで、必ず一パーセントの失敗確率が存在する。
逆に言えば、最小でも失敗確率は必ず一パーセントで、それ以下の確率は存在しない。
だが、そのアルグリア世界の理を、○・○一パーセントまで下げられる。
此れが、交渉確率ではなく、他の確率なら?
そして、ミクナーク・ベニアスを部隊に編成出来れば、称号《改変者》の効果で、味方部隊には接敵時に能力向上効果【徐々に全能力が一パーセントづつ上昇していく】が、敵部隊には能力低下効果【徐々に全能力が一パーセントづつ低下していく】が発動すると言う、埒外不正行為な固有称号だった。
しかし、失敗時に某かの罰則も与えられないが故に、次回発動待機時間は二百四十時間を有するのであった。
【ミクナーク・ベニアス】
「俺が偽物だとお前等は思っている。そして、そこの耄碌した爺さんもそう断じた。では、俺が本物だと証明してやろう! 愚か者共よ!」
改変師は右手を鳴らし、目前の空中に、数多の素材を浮かべる。
曾て神童と呼ばれたベニアスの第一王子は、己の才能《神童Ⅹ》を、特異才能《鬼才》に昇華させ、過去に成し得なかった秘薬《エリクサー》を作り上げていた。
目の前で、合成され、錬金され、改変される素材が、虹色の光を輝かせながら、一点に集約する。
集約し、光の輝きが収まると、其処には虹色に輝く液体を湛えてた、硝子瓶が浮かんでいた。
【ミクナーク・ベニアス】
「爺さん、側室に不治の病に苦しんでいる妃が居るだろう? そのエリクサーが、俺が本物だと言う証拠だ! まあ、騙されたと思って試したらどうだ?」
改変師は、大帝にエリクサーを示し、煽り告げた。
【アレキサンドロス・アルバビロニア】
「ば、馬鹿な、......秘薬《エリクサー》の錬成だと?」
目の前で行われた、錬金術の秘奥である秘薬《エリクサー》の作成に、度肝を抜かれた大帝が、驚愕となる。
そして、エリクサーで側室が完治したとの報せを受けた大広間には、歓声が巻き起こった。
秘薬《エリクサー》の作成とは、彼の古の錬金王レジッド・カバデルアでさえ、成し遂げられなかったと言われる、錬金術の秘奥であり、それが今まさに、帝城の大広間で明かされたのである。
商人達は興奮に、我を忘れる者が出るほどの、熱気と、狂熱に包まれる。
小国が買えるほどの価値が、秘薬《エリクサー》にはあった。
商人達は、我先にと、改変師と縁を結ぼうと、擦り寄る。
しかし、改変者は商人達には、目も暮れずに、大帝に告げる。
「おい、爺さん。この不手際はどうやって、落とし前を付ける気だ?」
アルバビロニア大帝国の大帝に、掛ける言葉ではない。
しかし、大帝は愉快そうに改変師に尋ねる。
どうして欲しいと。
不遜な改変師は告げる。
弟の国が困ってる、それを助けてくれと、秘薬の代金に一人の罪人の身柄をくれと、その二点で手打ちにしょうと。
大帝は大声で笑いながら、其れらを快諾するのだった。
そして、改変師は己に抱きついて来た弟を“能無し”と呼び、静かに抱きしめた。
大帝は、詐欺師を本物のミクナークと認め、その約定通りに理不尽な言い掛かりで、ベニアス王国へ侵攻しようとしていたエルブリタニア帝国を掣肘した。
文句があるなら、掛かって来いと言わんばかりの大帝の物言いに、エルブリタニア帝国は、何故か大人しく従ったのだった。
【カルマ】
(......)
大広間で姿を消して、浮かぶ赤ちゃんが真っ裸で見つめる!
その視線の先には、項垂れた親友に、土下座して詫びる老商人の姿が映っていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
アルグリア大陸の東北東の端に位置するフューダー大王国の版図に、華厦山がある。
其処は十の災厄の一角、《白猿》の縄張りである。
大陸暦千二百二十九年十一月、華厦山に咲く白厦草を求めたブルクルデ王国が、《白猿》の理によって撲滅された。
《白猿》は、群れ無い。
《白猿》は、媚びない。
《白猿》は、孤高なり。
十の災厄は、神の神罰の代行者。
神々への感謝の祈りを忘れた者共に、不可避の天罰を与えるものなり。
To be continued! ......
次回【詐欺師飛翔編】が閉幕となります! ベスティアは、果たして如何なったのか?
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最後に、読者の皆様に感謝を、お読み頂き、ありがとうです!




