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アルグリア戦記 ~1/31,104,000秒の世界~  作者: 虎口兼近
第4章 詐欺師飛翔編
27/40

第26話 廃神さん...傍観する(9)

毎月...3日...13日...23日......更新予定です。

●アルグリア大陸暦千五百三十八年三月十六日 

【アルバビロニア大帝国~帝城プロロス】






【ジズード・マラッセ】

「お待ち下さい! 大帝陛下! このミクナークは偽者、二枚舌に御座います!」






 二枚舌、......ミクナーク・ベニアスの代名詞である。




 ミクナークがアルグリアの歴史から姿を消して、百数十年。




 その間に幾人ものミクナークを名乗る偽者が現れては、化けの皮が剥がれ、また現れるを繰り返して来た。




 その余りの偽者の多さに、アルグリア大陸の住人は辟易して、ミクナーク・ベニアスの名は二枚舌、嘘つきの代名詞となったのである。

 





 くくくくく、ノクレの思惑は、何なのかは解らん。




 だが、このミクナークが偽者だと言う事は儂にも解る。




 本物のミクナーク殿下の右手には、火傷の痕があるはずなのだ。




 ローグレス陛下は、その火傷の痕を、聖痕だと仰っておられた。




 これを知っている者は、限られている。




 儂も知ったのは偶然だった。




 ミクナーク殿下の弟君であられるローグレス陛下から、直接聞いた思い出話だったからだ。




 お二人の母君であられたグレーテス様は、不治の病だった。




 グレーテス様を助ける為にミクナーク殿下は、錬金術の秘奥の一つであるエリクサーを求めた。




 しかし、誰も作成した記録もないエリクサーを作る事は、雲を掴むようなものだった。




 エリクサーは確かに存在する。




 何故ならば、迷宮王国と呼ばれる、アゾンテ王国の迷宮で手に入れた者がいたからだ。




 そのエリクサーの価値は天文学的であり、アルバビロニア大帝国が手に入れ、時の皇后様の命を救ったとある。




 そのエリクサーを作る過程で、ミクナーク殿下が負った傷を、ローグレス陛下は聖痕と呼んでおられた。




 それは決して比喩ではないと、ローグレス陛下は仰った。




 その傷を負ってからのミクナーク殿下は、自分の腕を火に翳しても炙っても焼けない肉体を得たとローグ陛下は儂に仰った。




 しかし、そんなミクナーク殿下でもエリクサー作成を為し得る事なく、グレーテス様はお亡くなりになった。




 ローグレス陛下は、儂に確かにそう仰った。




 ベニアスの明星と言われたミクナーク兄上にも、為し得ない事があったと、感慨に浸っておられた事を儂は思い出した。




 くくくくく、アルバビロニア大帝国大帝、アレキサンドロス・アルバビロニア陛下を欺いたとなれば、斬首は確実である。




 どんな手を使ってロシナンテ商会の商会長になったかは知らんが、お前の息の根を儂が止めてくれるわ!






【アレキサンドロス・アルバビロニア】

「ジズードよ! その方ここが如何なる場か、また誰に言っておるのか、解っておって申しておるのか? その方の言に間違いがあれば、その方の首が飛ぶのじゃぞ。その覚悟あっての物言いか?」






 くっ、大帝陛下の威圧が、儂を襲う。




 しかし、このミクナークは偽者なのは、確実である。






【ジズード・マラッセ】

「当然で御座います。私の身命に賭けまして真実で御座います!」






 FHSLG【アルグリア戦記】には、隠された(マスク)データが存在する。




 それは、製作運営会社である“インダストリア”が本気で、仮想現実世界に本物の異世界を作り上げたからこそ、存在するものだった。




 現実世界で、人は理想と現実の解離に苦悩する。




 人は苦しい現実があるからこそ、理想に現実を近付ける為に努力をする。




 中には才能に恵まれ、人が羨む現実を手に入れている者もいるかも知れない。




 でも、その者の理想と、その者を見て羨む者の理想は、同じではない。




 人其々に、理想と現実が存在する。




 その人が満足しているかどうかは、結局本人にしか解らない。




 そして、現実の自分では為れない者になれる世界が、FHSLG『アルグリア戦記』だった。




 その仮想現実世界に於いて、製作運営会社が隠された(マスク)データに込めた本気の想い。




 それは、プレイヤーの“可能性”だった。




 現実世界で為し得ない事も、想いと行動で可能になる、異世界アルグリアには態と隠している真実が多々ある。




 それをプレイヤー自身が感じ、覚り、応用する事で、仮想現実世界がもう一つの現実世界と為るのである。






【アレキサンドロス・アルバビロニア】

「ほう、そこまでの覚悟があるならば善し。その方の存念を申せ!」




【ジズード・マラッセ】

「ははっ。この自称ミクナーク殿下が偽者である証拠は、その右手の甲にあります。私はベニアス王国に本拠を持つ商人で御座います。ローグレス・ベニアス陛下とも、勿論お取り引きがあり、何度もお目通りをさせて頂いております。そのローグレス陛下より、ミクナーク殿下のあるお話を聞いた事を思い出しました。本物のミクナーク殿下には右手に大きな火傷があり、ローグレス陛下がその火傷を聖痕と仰っておられました。何でもその聖痕を持つミクナーク殿下は、火に焼かれない肉体を得たと私に言われたのです。もし、ここにいる自称ミクナーク殿下が本物であれば、炎に手を翳し、本物である事を証明をしては如何でしょうか?」




【ノクレ・オーディス】

「不敬だぞ、ジズード! 言い掛かりも甚だしい。私もミクナーク殿下、ローグレス陛下共に面識があるが、そのような話は聞いた事もない。ジズード、俺を憎むが余り正気を失ったか?」


 




 私は大帝陛下の御前であるにも関わらずに、不敬にも自分勝手に発言をしてしまいました。




 しかし、大帝陛下も誰も、私を叱責する者はいませんでした。




 只、私は突然そのような事を言い出した、ジズードを訝かしみました。




 そして、それを告げられたナークス・アエニブスの、魔法が解けていないか確認しました。




 詐欺師ナークス・アエニブスの魔法とは、嘘がばれなければ超一流の詐欺師ですが、暴露されれば三流以下に成り下がる、一種冗談のような魔法なのです。






【ナークス・アエニブス】

「ジズードさん、貴方は正しい。だが、ある意味間違っています。私の弟が貴方に話した内容は真実ではあるが、全てではない。私は不死身の肉体を得た訳ではありません。得たのは火に対する耐性と言う方が正しいでしょう!」






 そう言いながら詐欺師の男は、燭台の一つを左手で持ち、己の右手に燭台の火を翳したのでした。




 大商談会の場は(さなが)ら劇場の舞台と化し、衆目が詐欺師に集まりました。




 詐欺師は己の右手を火で炙りながら、ジズードに語りかけました。




「ジズードさん、貴方が聞いた話は正しい。しかし、それは真実の一部でしかない」




 詐欺師が炙り続ける右手の甲に、火傷の痕が浮かび上がってきました。




「私の甲に火傷の痕が浮かび上がるのは、火に炙られた時なのです」




 そう言いながら、詐欺師は燭台を机の上に戻しました。




 え、この詐欺師は実は本物のミクナーク殿下なのかと、私も唖然としました。




 大帝は衛兵を呼び、ジズードを拘束させ、大広間から退出させるように命じました。




 しかし、詐欺師は大帝に慈悲を請いました。




 ジズードの言った事も、真実の一部であると。




 確かにこの場で言う事ではなく、やりようはいくらでもあったと。




 態々この場で言及せずとも、大帝の面子と私への不敬も、幾らでも回避出来たと。




 そこで、詐欺師は大帝に慈悲と併せて、ある事を願いました。




 それこそ、ジズードを嵌める()()()()でした。




 詐欺師は大帝に、私ノクレ・オーディスの、身の上を話出しました。




 その内容は、ここにいる私を知る商人なら、誰もが確信していた事でした。




 詐欺師は己への非礼を許す代わりと言ってはなんだがと言いながら、法を司る神ライブラの真偽の誓約書を取り出し、ジズードに誓約を迫ったのでした。




 嘘偽りがないのであれば、その誓約書に署名(サイン)をせよと。




 その誓約書の内容は、一つの質問に対し一切の嘘偽りを申さないと言うものでした。




 ジズードとしては、ここでこの誓約書に署名(サイン)しなければ、不敬罪で死罪なのですから否応ありませんでした。




 誓約書に署名(サイン)をしたジズードに、詐欺師はこう言いました。




「ジズードさん、ノクレ・オーディスは本当に脱税をしていたのですか?」




 私はジズードの策略により、脱税の罪を捏造され、全ての責任を取って斬首の刑に処せられる所を、ローグレス陛下の慈悲により、奴隷追放の刑となり生き延びたのでした。




 しかし、私の妻も子供も、もうこの世にはいません。




 何故なら、私の家族は()()火災が起こり、全員亡くなっていたからでした。




 ライブラの真偽の誓約書の誓約を破りし者は、必ず天罰により死に至ります。




 それが法を司る、天空神ライブラの裁きなのです。




 脂汗を流しながら、葛藤するジズードは沈黙したままでした。




 そうです、答えない事でしか、ジズードが助かる道はないのです。




 嘘を付けば、ライブラ神の天罰により死ぬ。




 本当の事を言えば己が私を騙し、全財産を奪った事が暴露され破滅する。




 しかし、そのジズードの様と沈黙こそが己の不正を雄弁に語っているのでした。






●アルグリア大陸暦千五百三十八年三月十六日 

【帝都プロロース~ロシナンテ商会百貨店付近】






【キルギルス・ノール】

「野郎共、すまん......お前らの命を俺にくれ!」






 大男の言葉に答える男達は、ロシナンテ商会の百貨店に攻め込む意思表示を示した。




 煌々とした光が漏れる百貨店に、プロローズの裏社会を統べる大男の号令で、今まさに野獣の如き無頼漢の群れが襲い掛かろうとしていた。






●アルグリア大陸暦千五百三十八年三月十六日 

【帝都プロロース~ノール邸】






【ベスティア・ノール】

「パ、パパ、ごめんね。心配ばかりかけて、ごめんね。マ、ママ......よ、妖精さん、パパを守って! おね、お願い!」






 (うな)される少女の寝台の真上で、姿と気配を消して空中に浮かぶカルマが苦悶する!




 その視線の先には、己の苦しみよりも一人になる父親を案じる、命の灯火が今まさに消えようとする少女の姿が映っていた。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






 アルグリア大陸の北西に位置する聖カリダド教国は、創造神カリダドを主神とした十二の神々が守護する宗教国家である。




 創造神カリダドの教えを、アルグリア大陸全土に広める事を第一義にしている聖カリダド教国は、その教えに従わない国々を、聖戦と称して滅ぼしていた。




 その聖戦の主力となる聖堂(カテドラル)騎士団とは、創造神(カリダド)教に帰依したアルグリア大陸中の、各国家の貴族籍の者達で構成されている。





 

 時に人類は正義を叫び、敵対者を攻め滅ぼす。

 



 果たして正義とは、絶対的なものなのであろうか。




 聖カリダド教国は、正義の国であると、創造神(カリダド)教の信者達は声高に叫ぶ。




 立場の数だけある正義に、絶対を求める愚か者に、神の神罰が下る日も近かった。








 To be(続きは) continued(また次回で)! ......

ご都合主義満載! 【詐欺師飛翔編】の締めの第33話までお付き合い頂きければ、幸いです!


ノクレ、疑いが晴れて良かったねと思った人は、★評価・ブックマーク登録・感想よろしくお願いします!


最後に、読者の皆様に感謝を、お読み頂き、ありがとうです!


【2020/07/21 改訂しました】



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