第25話 廃神さん...傍観する(8)
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●アルグリア大陸暦千五百三十八年三月十一日
【アルバビロニア大帝国~帝都プロローズ】
【ナークス・アエニブス】
「お客様、どうぞこちらへ......」
少年と執事の二人を、二階のある一画へ、従業員に扮した詐欺師が案内する。
その一画にある扉を開け、二人を先導して、進む詐欺師に少年は問う。
お前の名はと。
【ナークス・アエニブス】
「名乗り遅れ失礼しました。私の名は、ミクナークと申します。お耳汚しですが、お見知り置き頂ければ幸いです」
【アレキサンドロス・アルバビロニア】
「......」
少年に対して、失礼にならない範囲の自然なお辞儀をする従業員に扮した詐欺師。
少年は頷き再度問う。
我と以前に会った事があるかと。
詐欺師は答える。
初見であると。
少年はそれを聞き沈黙する。
そして、三人はある部屋へ入ると一瞬、微弱な魔力の波動を感じた。
詐欺師は何故か今、閉じた扉を開けて告げる。
この部屋に我が主が居りますと。
少年は、頷き何も言わずに進む。
執事は、それに従うも一切の警戒をしない。
二人が部屋に入ると、地精霊人の商人が少年に問う。
好みはと。
主語の無い問いに、少年は答える。
このままと。
商人は、頷き二人を豪華な長椅子へ導く。
少年は座り、執事はその背後に控える。
商人が合図をすると、従業員に扮した詐欺師が、お茶と茶請けを長机に用意し、商人の背後に控える。
【アレキサンドロス・アルバビロニア】
「久しいな、ノクレ。確か本国で失脚したと聞いたが......」
少年が、疑問を呈する。
商人は、朗らかに答える。
その通りですと。
少年は、大笑いする。
この商人は、アルグリア大陸中の全ての店も、己の家族の命も全てを喪失した。
その事実を知る少年は、大いに笑う。
全てを喪失した者の目と違う。
これから何かを為し遂げる、覚悟の目をその商人はしていた。
では、聞くのは無粋よな。
少年は思う。
全てを喪った者が為す商売ではない。
況してや、人の身で、為し得る事ではない。
一日でこの建物が、誰に作れ様か。
底知れぬ怖さを感じる。
只、底知れぬ高揚感も感じる。
為らば我が場を整え、最前列でその催しを見てくれるは。
少年は、商人に問う。
五日後の催しに参加するかと。
商人は、答える。
是非にと。
少年は、大笑いし商人に告げる。
後程、書状を届けると。
そして、少年と執事が部屋を後にする。
見送る商人と、二人に付き従う詐欺師。
詐欺師が、少年との別れ際に土産物を渡す。
少年は、感謝を告げ立ち去った。
【ナークス・アエニブス】
「舞台は整いそうですね......」
詐欺師は、己の左小指の指輪を触りながら、独り言ちた。
FHSLG【アルグリア戦記】に於ける商業とは、貨幣・物を介する物の取引・交換と言う仕組み以上に、アルグリア大陸制覇を狙う勢力にとり、勢力運営に重要な資金源である。
資金が底を突くと勢力は資源を売るか、他勢力から資金を奪うかしかない。
そうしなければ、何も行動が出来なくなると言う、非常に重要な因子である。
アルグリア大陸の勢力は、各月毎に税金を徴収する勢力もあれば、固定月に一括で税金を徴収する勢力と、各勢力毎に於いて区々である。
つまり、商会も己の属する国家(各勢力)に、税金を国家が定めた方法で納めなければならない。
そして、税金を納められない者は、国家の処罰の対象になる。
只、貧民街に住む等の一部の者達は、税金を納めない代わりに国家から国民と認められておらず、そこに居るがそこに居ない者として扱われる。
故に商会・国民であろうとも税金を払えない者は、罰則が国家から課せられる。
特に国家の恩恵を受ける商会が、税金を免れようと脱税をすれば見せしめの為、家財没収の上、親族一同斬首に処す国家も存在する。
●アルグリア大陸暦千五百三十八年三月十三日
【帝都プロローズ~ノール邸】
【キルギルス・ノール】
「そうか......」
大男は報告を受けた。
詐欺師から、例の物の獲得の見込みが立ったと。
だが、それは金では交換出来ないと。
詐欺師の腕、つまり誰かを騙す事の報酬が例の物だと。
大男は焦る。
大男の娘に、時間はないのだ。
もう、何時亡くなってもおかしくない。
それに、詐欺師の騙す相手が問題だ。
アルバビロニア大帝国、アレキサンドロス・アルバビロニア大帝陛下だと。
何の冗談だ。
悪い冗談にしか聞こえない。
只、詐欺師は、命に変えても例の物は手に入れると言う。
何故だ? 命欲しさにあの商会に潜り込んだのではないのか?
大男は思考世界を構築し、答えを導き出そうとする。
何故、あの詐欺師は俺の娘の為に命を賭けるのか。
答えは、一向に出なかった。
●アルグリア大陸暦千五百三十八年三月十五日
【帝都プロロース~ノール邸】
【キルギルス・ノール】
「糞、糞、糞! ......」
大男は苦しむ娘の口に、回復薬を少しづつ挿し入れながら、苦悩に苛まれていた。
詐欺師を介さず直接に、件の商会と取引すれば良かったのではと。
刻一刻と衰弱していく娘に、大男は治癒を司る光神アリエスに祈る事しか出来なかった。
●アルグリア大陸暦千五百三十八年三月十六日
【アルバビロニア大帝国~帝城プロロス】
【アレキサンドロス・アルバビロニア】
「今日は双方共に、有意義な商談をしてくれ!」
アルバビロニア大帝国の大帝自ら仕切る、大商談会。
この大商談会の大帝の目的は、大帝国内の商業の活性化による税収の増加である。
双方の片方である貴族の目的は、自領への商人の誘致及び、自領の特産物の流通経路の強化である。
そして、もう片方の商人の目的は、新興の商人は後ろ楯を求めて、古参の商人は新たな仕入れ先と販路の開拓である。
只、今回は通常の商談ではなく、件のロシナンテ商会が参加する情報が知れ渡っていた。
その為今回は貴族も商人も、ロシナンテ商会との縁を求めて、この大商談会に参加している者が殆んどであった。
【ジズード・マラッセ】
「馬鹿な! 何故貴様が此処に居る?」
帝城プロロスの大広間に、怒号が鳴り響く。
場違いな怒号に不快な周囲の貴族と商人達は、何者が言い争っているのかと聞き耳を立てる。
そんな中、二人を知る者は一触即発の場面に息を飲む。
片や、アルグリア大陸全土に販路を持つ《オーディス商会》の商会長ジズード・マラッセ。
片や、そのオーディス商会の前商会長ノクレ・オーディス。
二人を知る人集りが、大きく輪をつくる。
【ノクレ・オーディス】
「久しぶりですね、ジズード」
何で、こ奴が此処に居る? 報告では、ザッドロ王国で奴隷として売られたとあった。
何にせよ、俺に仇為す者だ。
対峙する俺達に、一人の地精霊人が近付き、ノクレに告げる。
「ノクレ会長、どうされました? 大帝陛下がお呼びで御座いますぞ!」
うん? ノクレの手の者か、はて何処かで会った覚えがあるような。
俺に睨まれた地精霊人は、屈託なく笑い俺に話し掛ける。
「お久しぶりですね。マラッセさん。私ですよ、お忘れですか?」
俺は怪訝な顔をして、その老年の地精霊人の顔を見詰める。
「な、あ、貴方様は! ミクナーク殿下!」
俺がまだ若き時にお会いした、ベニアス王国王兄ミクナーク・ベニアス殿下の、面影がある顔に、喋り方に驚愕する。
しかし、何故ミクナーク殿下がノクレと一緒にいるのだ?
な、なんだと。
あの件のロシナンテ商会の商会長がノクレだと! 馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な!
こ奴を罠に嵌め、こ奴の商会を乗っ取って、まだ三ヶ月も経ってないぞ!
そんな短時間で、アルバビロニア大帝国の帝都プロローズの一等地に、五階建ての店舗を持つなど、どう考えても無理だ。
何かの絡繰りがあるはずだ。
そうでなければ、辻褄が合わない。
その時、俺はミクナーク殿下の右手にあるべきものが無い事に気付いた。
ニヤリ、くっくくくくく。
なるほど、そう言う事か。
【アレキサンドロス・アルバビロニア】
「ノクレよ、久しいな。そちが今噂のロシナンテ商会の商会長とは、驚いたぞ?」
玉座に座る大帝が、跪き頭を垂れる二人の地精霊人の、一人に話し掛ける。
商人である地精霊人は、恐縮するも答える。
世は諸行無常に御座いますと。
大帝は、商人の隣にいる詐欺師を誰何する。
商人は、この方はベニアス王国の王兄であるミクナーク殿下だと答える。
大帝は、再度誰何する。
本物かと。
はっ、と。
誰何された詐欺師は、端的に答える。
初めて御意を得ますと。
詐欺師は大帝に告げる。
今やロシナンテ商会の百貨店を知らない、プロローズの住民は居りませんと。
ついては、ロシナンテ商会として、大帝に提案があると。
アルバビロニア大帝国が、ロシナンテ商会の後ろ楯になって頂ければ、アルバビロニア大帝国の他の大都市にプロローズと同じ店舗を展開しますと。
大帝は、大いに満足げに頷くと詳しい話を別室でしようと告げる。
すると、一人の商人が進み出て、大帝の前に跪く二人を糾弾する。
【ジズード・マラッセ】
「お待ち下さい! 大帝陛下! このミクナークは偽者、二枚舌に御座います!」
●アルグリア大陸暦千五百三十八年三月十六日
【帝都プロローズ~ノール邸】
【キルギルス・ノール】
「全員を集めろ! もう待てない! 百貨店を襲うぞ! 何処かに例の物があるはずだ!」
魘される娘を、薬師に任せ、大男は部屋を飛び出し部下に告げる。
朦朧とする意識の中、少女は妖精を呼び告げる。
【ベスティア・ノール】
「妖精さ、ん! パパを、お願い! マ、マ! パパをお、願い! パパ......! もう直ぐ、......楽にな、るから、ね!」
【カルマ】
(くっ! ......)
少女が魘され、幻を掴む様に手を伸ばす先で、姿と気配を消し空中に浮かぶカルマが苦悶する!
その視線の先には、己の死よりも、一人になる父親を案じる少女の姿が映っていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
アルグリア大陸の西南西に位置するテスラ王国は、龍精霊人が統治する連邦国家で、バクラ砂漠と呼ばれる大砂漠が、領土の五分の四を占める商業国家でもある。
水源に都市を展開し、独自の流通網で経済を廻している。
アルグリア大陸の中で、テスラ王国の位置付けは強国であるが、他国を侵さない中立国家である。
その為、他国からの亡命者は多い。
しかし、永住するには、気を修得しなければならない。
例え、自国民でも十八歳の成人の儀式までに、気を扱えない者は国外追放となる。
他国を侵略せず、自国も侵略させない国是を掲げるテスラ王国では、幼児から気を練り、気を纏い、気を遣う。
国民は幼き時から武を嗜む、国民総兵士と言われる戦闘民族の集合体がテスラ王国である。
To be continued! ......
ご都合主義満載! 【詐欺師飛翔編】の締めの33話までお付き合い頂ければ、幸いです!
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最後に、読者の皆様に感謝を、お読み頂き、ありがとうです!
【2020/07/21 改訂しました】




