第20話 廃神さん...傍観する(3)
毎月...3日...13日...23日......更新予定ですが、アルグリア戦記が累計八万字達成するまで3日から毎日更新しています。集英社WEB小説大賞に本作を応募する為です。
作者には夢があります。“妄想ゲームの歴史を現実でゲーム化する”事です。コー○ー○○○ゲームスさんで、○○の野望のファンタジー版歴史シミュレーションゲームとしてゲーム化される中継点になる事を切に願って投稿します。
いつから本作が仮想小説だと誤解していた? 本作は作者の妄想ゲームの設定集を備忘録化したものです。勘違いさせたのならお許し下さい。
●アルグリア大陸暦千五百三十八年二月二十八日
【帝国アダーク領~ダポナ街道】
【ゲンタ・カトウ】
「その仮面、......見覚えがある! お前か? 十年前、里を襲い! おいらの母ちゃんを、笑いながら嬲り殺した、......道化の仮面の女は?」
少年は、豹変する。
今までの冷静さが激情の憤怒に変わる。
仮面の女は、醜悪な笑いを仮面に隠さず、少年を嘲る。
「ああ、あの時の餓鬼か。随分大きくなったな、ちっ、あの時やっぱり殺しておくべきだったな!」
少年は、激情の赴くままに、仮面の女に切り掛かる。
だが、切られた女は手応えもなく消えていく。
仇を討つ、母ちゃんの仇を。
少年が躍起になれば為る程、状況は悪くなっていく。
帝国遊撃騎士団の精鋭達が、闘う二人を取り囲み始めた。
「副団長、奴です!」
騎士の一人が、顎髭が穢苦しい壮年の男に声を掛ける。
「ほう、殿下は?」
「あちらに居られます!」
壮年の男は、覇気溢れる青年と何事か話すと合図を出した。
すると周りを囲む騎士達がある印を手で結び、何事か呪文らしき文言を口で唱え始めた。
【ゲンタ・カトウ】
「ぐっ、がっががががが。ぐっ、ぐわわわわわ!」
少年を拘束する様に地面からジャラジャラと鉄の鎖が這え出して、少年の首手足に絡み付く。
少年は激しく藻掻くが、鎖の拘束がしっかり絡み付き、その体を掴んで離さない。
【ヘルケンス・エルヴィス】
「まるで魔獣だな。感情に支配された獣の動きだ。少年よ、その方にも言い分があるだろうが我らには関係ない。我らは帝国の剣、一度抜かれた剣は敵を切らずに鞘に戻る事はない。色欲よ、さっさとその獣を殺せ。我らは直ぐ様ウイドへ出発する!」
壮年の男は、そう二人に告げた。
少年は叫ぶ。
それが、お前達帝国のやり方なのかと。
罪も無い者に罪を擦り付け、弁明も聞かないそれが帝国の誇りある騎士のする事なのかと。
壮年の男は笑う。
そうだ、それこそが帝国騎士だ。
帝国の意志が全て、剣である我らに己の思考・感情は要らないと。
目に見える事実が全てではないと。
【オフェリス・ベクシス】
「坊や、あなたの仇は私。では私の仇を知ってる? 闇森精霊人よ! あなた達闇森精霊人に私の両親は殺された。良い、坊や? 私は私の仇討ちをしているだけなの、諦めて死になさい!」
仮面の女の剣が、少年に突き刺さる。
その剣を滴り落ちる血が少年の意志を挫き、流れ落ちる血が少年の意識を薄れさせ、弱まる鼓動が少年の命が終わると告げる。
そうか、この女もおいらと同じだ。
両親を殺され、その憎しみを糧に生きて来たんだ。
......でも、でも、でも。
だからっておいらの母ちゃんを殺して良い訳が無い、嬲って殺して良い訳が無い!
里を襲い、父ちゃんを殺して良い訳が無い!
そして、今からばあちゃんまで殺しに行って良い訳があるか!
髭ずらの男の声が少年の心に響く“目に見える事実が全てではない”と。
そうか、正しさって人の立ち位置の数だけあるんだ。
皆、正しいんだと。
じゃあ、おいらもおいらの正しさで、ばあちゃんと里を救おう。
FHSLG【アルグリア戦記】は、一人用やり込み型ファンタジー歴史シミュレーションゲームである。
圧倒的で熱狂的な愛好者が多いのは、現実世界の一秒間でゲーム世界(仮想現実世界)で三百六十日遊べる圧倒的なプレイ時間が挙げられる。
お気に入りのキャラクターを自分好みにカスタマイズして、お気に入りのキャラクターで何度も何度も同じ人生をやり直し歴史のもしもを楽しむ遊び方も出来る、プレイヤー次第で遊び方・楽しみ方の自由度は無限大の、やり込みし放題のゲームが、FHSLG【アルグリア戦記】だった。
プレイヤーは好きなキャラクターで遊びながら、ふと考える。現実世界でもやり直し出来たら良いなと。
プレイヤーは色々なキャラクターで遊びながら、ふと考える。キャラクター毎に物語が違って楽しいなと。
プレイヤーは敵対したキャラクターで遊びながら、ふと考える。このキャラクターはこんな思いで戦っていたのかと。
少年の目には、機械仕掛けの絡繰り時計の真っ赤な数字が“○○:○一:五九”と映っていた。
あと少しでおいらは死ぬ。
怖いよ、ばあちゃん。
でもおいら、ばあちゃんに死んで欲しくないんだ。
いつも口の悪いばあちゃん、いつも口煩いばあちゃん、もう一度だけ叱られたかったな。
おいら素直になれなくて、酷い事言ってごめんよ、ばあちゃん。
本当は大好きなんだ。
ばあちゃん、さよなら。
元気で長生きしてね。
ばあちゃん、おいら逝くよ。
父ちゃん、母ちゃん、おいらに力を貸しておくれよ。
ばあちゃんと里の皆を守りたいんだ。
少年は鎖で拘束されて動くはずのない右手をゆっくりと自分の胸元に入れ、見窄らしい紐に結ばれた二つの玉を握り締めた。
少年が握り締めた二つの玉は、父の形見の雷珠と母の形見の幻珠だった。
母ちゃんがおいらを守った様に、おいらがばあちゃんを護る。
父ちゃんが仲間を守った様に、おいらが里を護る。
●アルグリア大陸暦千五百三十八年二月二十八日
【帝国アダーク領~忍の里ウイド】
【コタロウ・フウマ】
「組衆! そなた達の命を貰い受ける。フウマよ! 北北西に進め! アルバビロニアとの国境を抜け、生き残れ! 只、生き残れ!」
頭領の号令で、傭兵忍者集団『フウマ』の組衆総勢四百余名が住民二万を逃がす為、血路を開かんと今まさに出撃しようとしていた。
【カルマ】
『待て! ......』
頭領が、
「全軍! ......」
と出撃の号令を掛ける途中で、瞠目した表情で固まった。
号令を待っていた配下の組衆頭達が当惑して、頭領を問い質すと、頭領は、
「暫し待て!」
と発したまま瞑目した。
頭領の頭に声が響く。
フウマの下忍の少年が里を抜け出し、たった一人で帝国遊撃騎士団と戦っていると。
今お前達が突破口を開かんと突撃すれば、全てが無駄になると。
今暫く待てば、包囲は自然と解けると。
頭領は問う。
少年一人に何が出来るかと。
お前の言葉が、嘘まやかしの類いではない証拠はあるのかと。
この時を逃せばフウマは終わると。
声は告げる。
只の少年が、マルカ王国から三日で里まで来られるのかと。
証拠はお前の懐にあるお前の息子からの書状だと。
この時を待てば、死傷者を出さずに乗り切れると。
頭領は再度問う。
息子の書状にあった最後の一文は、お前の事を指しているのかと。
一体お前は何者なのかと。
声は告げる。
“俺はお前で、お前の願いを叶える者だ”と。
頭領は願う。
フウマを守って欲しいと。
フウマの民を助けて欲しいと。
その為なら何でもするし、己の命も捧げると。
声は告げる。
【カルマ】
『その願い聞き届けた......』
そして、頭領達の前に傷付いた里の結界の守護者、五十余名が瞬時に現れた。
騒然とする組衆四百余名を抑え、頭領は出撃の中止と傷付いた五十余名の治療を命じたのだった。
●アルグリア大陸暦千五百三十八年二月二十八日
【マルカ王国とレイロック王国の国境付近】
【アカネ・アカツキ】
「くっ、やっとか......(ゲンタ、死なないで......)」
五人の集団が雪原を疾走している。
少女は、一人だけ先に向かった少年の安否を案ずる。
十年程前は、自分達三人と少年とで仲良く修行に精を出していた。
あの事件の後、少年は変わってしまった。
それまで皆を引っ張っていた少年が脱け殻の様に、また常に怖々した有り様に変わってしまった。
仲間は少年を助け様とするも、当の少年から拒絶され傷付き、その反動で少年を虐める。
そんな自分達が嫌で、また少年に当たってしまう。
本当は昔の様に仲良くしたいのに。
少女を含めた三人は、もう一人の仲間の安否を心から祈った。
●アルグリア大陸暦千五百三十八年二月二十八日
【帝国アダーク領~忍の里ウイド】
【ヒサメ・ハットリ】
「ゲンタ、ゲンタ、......ゲンタ、......」
老婆は涙を流しながら、その涙を拭おうともせずに一心不乱に一つの蝋燭で激しく燃え続け、段々と小さくなって行く命炎を、たった一人の孫の安否を、祈っていた。
そして、その炎が小さく小さく、小さくなって......消えた。
老婆は孫の名を呟き、小刀を静かに抜き放ち、その刀を逆さに持ち変え、切っ先を己の喉元に当て、亡き娘と亡き義息と孫の名を呟き、今まさに己の喉を刺し貫こうとした時、頭に声が響いた。
【カルマ】
『ゲンタの想いを踏み躙るのか? ......』
老婆の頭に声が響く。
少年がたった一人で戦い、死んでも守ろうとした自分の祖母が自決して、少年は喜ぶのかと。
少年の死は報われるのかと。
少年の想いを踏み躙るなと。
老婆は語る。
たった一人の娘も死んだ。
その娘の夫、義息も死んだ。
そして、たった一人の孫も今死んだと。
声は告げる。
少年は、最後まで自分の祖母の身を案じていたと。
少年は、最後まで自分の祖母に長生きして欲しいと願っていたと。
少年は、最後まで自分の祖母に謝罪と感謝を呟いていたと。
老婆は問う。
己だけ生きろと言うのかと。
己だけ生き延びて何の意味があるのかと、せめてあの世で孫達と一緒に暮らしたいと。
そして、お前は誰だ、一体何者だと。
声は告げる。
“俺はお前で、お前の願いを叶える者だ”と。
老婆は願う。
孫を助けてくれと。
孫を助けて欲しいと。
己の命と交換して、孫を助けて欲しいと乞い願った。
声は告げる。
【カルマ】
『その願い聞き届けた......』
ボッと、静かに蝋燭に火が灯った。
その火は次第に大きく大きく、大きく燃え出した。
その命炎が揺らめく蝋燭には、老婆の孫の名が刻まれていた。
●アルグリア大陸暦千五百三十八年二月二十八日
【帝国アダーク領~ダポナ街道】
【ゲンタ・カトウ】
「ばあちゃん、......ありがとう」
少年は己の父と母の形見の宝珠を握り締めながら、祖母に謝罪し、感謝する。
ばあちゃん、ごめんよ。
先においら逝くよ。
ごめんよ、ばあちゃん。
ばあちゃん、今までありがとう。
本当にありがとう。
ばあちゃん、怖いよ。
ばあちゃん、死にたくないよ。
ばあちゃん、おいら......やっぱり、ばあちゃんが大好きだ。
少年の左目に機械仕掛けの絡繰り時計の真っ赤な数字が、“○○:○○:○九”を映す。
少年は己のMP(魔力)とMSP(精神力)を暴走させ、父の形見の雷珠と母の形見の幻珠に己の全てを注ぎ込む。
少年の握り締めた二つの宝珠が、眩しく輝きを増して行く。
次第に段々大きく大きく、大きく光り輝きを増し少年の胸元から、朱黄色の雷が生え、四方八方へ茨の棘蔦の如く暴れ出す。
それと同時に、朱紫色の稲妻も少年の胸元から生え、四方八方へ茨の棘蔦の如く蠢き根を伸ばす。
異常を感じた仮面の女が、右手の剣を抜こうとするも少年の体からびくともしない。
そこで、左手の拳で狂った様に殴り付けるも少年は瞑目してびくともしない。
周囲の騎士達も異常を察し、退避しろと叫ぶ。
少年から迸る朱黄色の雷と朱紫色の稲妻が、帝国遊撃騎士団《双頭の竜》を覆い隠す様に光の強さを最大限増し、一瞬にして少年の胸元の二つの宝珠に全ての光が吸い込まれた瞬間、大爆発を起こした。
アルグリア大陸暦千五百三十八年二月某日、反乱を策謀した罪により、逆賊フウマを討伐に向かった帝国遊撃騎士団《双頭の竜》が壊滅的被害を受け討伐軍は崩壊した。
アルグリア大陸暦千五百三十八年三月某日、傭兵忍者集団『フウマ』は、カルマの元に集いアルグリア大陸から一時姿を消す事となる。
【カルマ】
「あぅあぅあぅ!『ゲンタ、行くぞ!』」
寒風吹く中、空中に浮かぶカルマが真っ裸で告げる!
その視線の先には、漆黒の衣を着た五体満足な少年が元気一杯に返答する姿が映っていた。
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アルグリア大陸のバロック王国とベニアス王国に隣接した東に位置する普精霊人種の国家、シイトス王国は小国ながらも軍事・経済・生産に力を注ぎ、列強犇めく東部地域で必死に生き残る道を模索していた。
隣国のベニアス王国とは、婚姻同盟を結び協力体制にはあるが、東部で圧倒的勢力圏を持つフューダー大王国の前では、シイトス王国の命運も風前の灯火だった。
アルグリア大陸に風が吹く、その戦風が今まさに東方から吹き大陸を席巻しようとしていた......その事を知るものは、その風だけかも知れない。
To be continued! ......
ご都合主義満載! 次回から、新章【詐欺師飛翔編】が始まります!
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最後に、読者の皆様に感謝を、お読み頂き、ありがとうです!
【2020/07/19 改訂しました】




