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勇者のかわりに魔王退治  作者: ミコにゃふ
【勇者のかわりに魔王退治】
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36/39

最終話 魔王の代わりに勇者退治④アビス再び

 リリアンは悟った。


ジーニアスは国王として忙しいはずなのに、アビスの魔界一武闘会から卒業に至るまで、ほぼ付きっきりでリリアンのお守りをしていた。


しかも、リリアンに傷一つ負わせる処か、リリアンが攻撃する事すら無い様に立ち回っていた。



その事に気付いたリリアンは少し感動してジーニアスを抱きしめようと走った。


ジーニアスは穏やかに笑いながら両腕を広げてリリアンを向かい入れんとしている。



そしてリリアンはジーニアスの腰に手を回して抱きしめた瞬間、旅立ちから城から指名手配されて地上をコソコソと歩く屈辱の日々を思い出し、

ジーニアスを抱きしめたまま背中に回り込み、そのままの体制から三沢光晴(故プロレスラー)の雪崩れ式のドラゴンバックブリーカーを炸裂させた。


『指名手配にされた恨みじゃあ!!』


リリアンの弧を描く綺麗なブリッジの体制だ。



「あらあら♪リリアンちゃんパンツ見えるわよん♪」


パトリシアがブリッジの体制のリリアンのスカートをペロンとめくる。


その場に居たドルトンが手を合わせて拝む。



「...リリアン君が城の至宝を盗んだのが悪いんじゃあ!」


ジーニアスがピヨピヨ状態のまま抗議する。




翌日、ローズ亭の入り口には1ヶ月の臨時休業の札が掛かっていた。


とは言うものの商売がら地方や他国への仕入れ等々で、まとまった休業は珍しくはなく

近隣の住民や商店街の知り合いはさほど不思議に思わなかった。


だが、その実態は....まさか国王の密命で動き出したとは商店街の仲間は夢にも思うまい。



ハルクとリリアンの親子とドルトン。

異界の妖怪ミーシャはアビスへと出発していたのであった。


現在、ボルン城の地下に存在する入国ゲートの窓口で一行はアビスへと続く手続きを行っていた。

本来、流刑地であるアビスは罪人か社会見学かアビスに駐屯する兵隊くらいしか往き来しないのだが、リリアン達には非常に都合の良いメンバーが一人存在したのが幸いした。



それはボルン城地下に繋がるアビスの人間の町の支配者の息子であるオークのドルトンがいる事だ。


「リリアン様!私めに任せて下さい。無事にアビスを通過する事を全力でサポートさせていただきます!」



最近の都会暮らしですっかりオーク訛りが抜けて、相変わらずのシルクハットにタキシードのせいか、ここ最近は商店街の人にはオークにすら見られない事もある。


「そう言えば、猫族のみんなは元気かしらねぇ。」


ミーシャがお気楽に付いて来ている。

ミーシャの立場から考えると別に勇者退治に付き合う義理は無いのだが、元の世界の方がカルラーム以上に切迫しているとの事なのでリリアンに最後まで付き合うらしい。



「アビスか....結構久しぶりだぜ。」


「お父ちゃんアビスに行った事あるの?」


「そりゃ元冒険者だからアビスくらい普通に行くさ。ぶっちゃけ経験値効率が良いからな!がはは!」



ちなみにリリアンはアビスでは1レベルも上がっていない。



ボルン城地下から地下世界アビスにある人間の町へと降り立つと、出入口には強面(こわもて)の推定40歳位と思われる女戦士が仁王立ちしていた。


「お久しぶりです!お母様。」


ドルトンが最近身に付いた執事式のお腹に手のひらを当てて30度の角度でお辞儀をした。



「........。」


ドルトンがお母様と呼んだ女戦士は町で一番の戦闘力を持っているエリザベスであるのだが、ドルトンの変わり様に開いた口が塞がらないらしい。


それはそうだろうとリリアンは思った。

最初に人間の町へ入った頃のドルトンは今より二倍は太っていて、装備も蛮族スタイルな上に喋りはモンスター訛り丸出しであった。


今のドルトンは豚顔を誤魔化せば人間にしか見えない。

っていうかドルトンより豚っぽい顔したオッサン顔はいっぱい存在するんで、ボルン城下のリゾート村で庭掃除していても最近はオークだと気付かれた事が無かったりする。



「....ドルトンちゃんが不良になっちまっだ!!」


ムンクの叫びの様な顔をしたエリザベス。

だが、その直後にリリアンの後ろに立っている男に気がついた。


「....貴様、ハルク・ローズ!」


エリザベスは腰の剣を抜いたと思った瞬間にはリリアンの後ろに立っていた父親のハルクに切りかかっていた。


ハルクはエリザベスの剣を微動だにせずに腰の剣の柄でエリザベスの切っ先を受け止めていた。



「よお、エリー。久しぶりだな。」


『私をエリーと呼ぶな!!!!!』


ハルクは怒ったエリザベスの10連撃をヒョイヒョイ避ける。



「お父ちゃん!エリザベスさんと知り合いだったの!?」


「おう、昔となりに住んでた幼なじみだぜ。」



ハルクは余裕綽々でエリザベスをかわしているが、エリザベスのトーナメントで無敵の強さを目撃しているだけに父親の強さにリリアンが驚いた。


ドルトンは母親と自分の雇い主の喧嘩にオロオロとしている。



「ふん!まあいい。いつか倒してやるからな。」


全ての攻撃をかわされたエリザベスは息を整えて改めてリリアンを見た。


「最初に見た時に誰かの面影を感じていたんが、まさかハルクの娘とはな。

それならドルトンちゃんとの婚約は破棄だな。」


それを聞いたリリアンは満面の笑みでエリザベスに親指を立てて了承した!


のだが⋯



『おっ母ぁ!それは無いダヨ!オラは一生リリアン様に付いていくと決めてるんだぁ!!』


某巨人の星の明子姉ちゃんばりの涙目で母親であるエリザベスに訴えるドルトン。


「ドルトン、訛りが戻ってるわよ。」


リリアンがすかさず突っ込んだ。

そもそもリリアン自身がドルトンを男と思っていないので婚約なんて言葉は空耳アワーである。



「それはそうとエリー。お前さんがここに来て俺たちを迎えに来たって事は国王から連絡が来てるって訳だよな?」


エリザベスはアビスの人間の町では町長婦人という立場なので、往来の場所では発言を控えるのだがハルクの問いには肯定的な態度を取った。



「今回、例の男と対決する際に国王が想定した遊撃隊メンバーに主戦力がハルクだけでは心配との事なので、私たちはお前達の呪い装備の調達を頼まれたんだが....なんだ?お前達の奇妙な装備は!!」



実はハルクとリリアンは、アビスを含めてカルラーム大陸では誰も来ていないだろう装備を用意していた。


ハルクの見た目はその辺りのおじさんが普通に着ていそうなねずみ色のチョッキ。

なのに、先ほどのエリザベスの切撃で傷一つつかなかった上に、ハルクの黒い手袋でエリザベスの切っ先をわしづかみにしたのである。



「えーっと、何て言ったっけ?」


リリアンがエレベーターから遅れて先ほど到着した少女に質問した。

現れた少女⋯では無くて男の娘ミーシャである。


「高密度カーボンファイバープレートよ。軍隊以外にも警備会社でも普通に常備されている対防刃に特化した素材よ。

こちらの世界だと鱗鎧に近いけど軽さは段違ね。

ちなみにアマゾンで15000円から売ってるわよ。」


エリザベスはミーシャの言葉の大半が理解不能だったが、見た目が単なる布なのに、異常な防御力を先程実感しただけに信じるしか無かった。



「ただ..魔法に対する防御力がゼロなんだよぁ。」


ハルクが防刃チョッキの埃を払いながらボヤく。


「当たり前よ!私達の世界では魔法なんて....無い事も無いわね....」


よくよく考えると外国の妖怪の中に妖力と違う術を使う魔女という一族が存在する事を思い出した。


そんなミーシャが取り寄せた防刃装備を見てエリザベスはため息をつく。

そもそもエリザベスがここに居る理由は、ジーニアス王の依頼でアビスで高級な装備をリリアン達に渡す予定なのであったのだが..


「私が来た意味はまるで無しね。」


「まあ、俺も地上で手広くやらせて貰ってるんでね。」



「わかったわ、私は帰るけどドルトンちゃんしっかり頑張りなさい。」


「了解しました。」


ドルトンは去っていく母親の背中に向かってお辞儀をした。



そんなリリアン一行は勇者を背後から倒すべく、再びアビス側からボルン大洞穴の最下層へと向かう。

....のだが、獣人の町の付近にある魔方陣のゲートを作動させるには強力な魔法使いが必要だった。


以前はジーニアスがいたので何とかなったのだが、今回は転送魔法を使える仲間を探さなくてはならなかった。


一応リリアンにも転送魔法の知識はあるのだが、いかんせん冒険者レベルが低くて使えない。

仮にレベルを上げたところでリリアンの命中率の低い癖は健在であり。

そんな桃鉄のぶっ飛びカードみたいな転送魔法に命を預けることはリリアン自身もゴメンである。



「となると、誰が転送魔法を使うんだ?」


ハルクがリリアンに問い掛けた。



「実はアテはあるのよ。あるにはあるけどねぇ。」


リリアンが言葉を濁すのは、なるべく会いたくない人物だからであるが、戦力的にはこれ以上無い位の該当者。



リリアンの案内で到着したのはミスリル鉱山の町である。

ちなみに道中はミーシャの要請で獣人の町からバイクを調達しており、移動に関してはアビスを数日で町を往き来可能だ。


「ここの町長よ。」


リリアンのアテとはエルダーリッチである。

鉱山を探検した時にエルダーリッチが転送魔法を使っていたのを覚えていたのだ。


そしてリリアンが鉱山の町に入った瞬間に盛大にずっこけてしまった。



【歓迎!JK魔王一行様!】の横断幕が盛大に風に揺られていたからだ。



『誰が魔王よ!!!!』


リリアンが登りに向かって怒鳴った。



『うわはは!うっかりJK魔王様!お待ちしておりましたぞ!!おっと、そういえば卒業されたんでしたな!ならば、うっかり魔王様ですな。うわはは!!!』


エルダーリッチがリリアンの前に現れた。



アンデットの独特なオーラを感じたハルクが腰の剣を抜こうとした。


『おっと御仁!!私は崇高なるエルダーリッチであるが、こちらのうっかり魔王様の忠実なる下僕につき、決して怪しい者ではありませんぞ!!うわはは!!!』



「....なあリリアン。色々と聞きたい事が出来たんだが。」


「うん....お父ちゃん。それに関しては私も言いたい。」



ハルクは何故なのか解らないがエルダーリッチは、リリアンを気に入っているのだけは伝わった。

「⋯うっかりJKって何だ?」

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