最終話 魔王の代わりに勇者退治⑤ダンジョン侵入
『さて皆様!心の準備はよろしいですかな?』
エルダーリッチが自ら書いた魔方陣の前で高らかな声を上げた。
対勇者隊には本人の激しい希望もありエルダーリッチが加わるつもりらしい。
これでメンバーはリリアンとハルクの父娘とオークのドルトン。
妖怪からはミーシャ、アンデットのエルダーリッチの5人パーティーとなる。
リリアンとハルクは防刃チョッキに防刃グローブとジュラルミン製の盾を持っているので、冒険者と言うよりALSOKのCMに登場しそうだ。
装備も怪しいがエルダーリッチが加入しているので、まともな冒険者から逆に退治されそうなメンバーだ。
特にアビスには用事が無いので、一行はさっさとボルン大洞穴の最下層に行くつもりであった。
のだが、エルダーリッチは最下層手前の階層にリリアン達を出現させた。
「どうしたの?最下層のボス部屋で良かったんじゃない?」
「うむ、我が魔王よ。どうやら最下層に人間が数人存在するらしいのだよ。」
「うわ、マジで?冒険者が魔王人形に挑んでるのかな。」
「いえ....残念ながら魔王人形は既に破壊された模様です。友人のバンパイアロードが守っている気配も感じませんな。それに人間からは闘気を感じないので、少なくとも戦闘中では無いようです。」
「....って事は勇者に最下層も制圧されたって事?」
「そう思われて間違いないでしょうな。」
魔王の間を拠点にして勇者を後ろから倒す計画が崩れた。
「仕方ないから私とお父ちゃんの二人で魔王の間に行ってみるわよ。ドルトンとミーシャは危ないかな。エルダーリッチは100%敵にしか見えないから絶対待機ね。」
「むう....仕方ありませんな。
おや?お待ち下さい!これは?!」
エルダーリッチが地面から灰色の土らしき物を集めていた。
「どうしたの?」
エルダーリッチは手のひらをリリアンに見せて言った。
「これは友人のバンパイアロードですぞ!!」
「⋯完璧完全に退治されちゃってるねぇ。」
「まったくですな。こうなると復活に時間がかかりますな。実に面倒ですな。」
「てか、灰になっても復活可能なのね。」
アンデットのしぶとさを実感するリリアンであった。
『おお!そうだ、リリアン様!そこに立って頂けますかな?』
エルダーリッチは簡単に段を作り、そこにリリアンを立たせる。
「なに?どうするの?」
「バンパイアの復活に邪神の神殿で生け贄と灰を捧げて祈りを捧げる訳でしてな、邪神殿はアビスにあるので戻るのは面倒です。なので手短な邪神様に祈りを捧げようかと思います。」
『私、邪神ちゃうわい!!!!!!』
『うわはは!祈る対象が邪神と思えば全て邪神なり!!!』
「その理屈だとぬいぐるみでも何でもいいじゃん!」
「ぬいぐるみじゃ私の気分が高まりませんぞ!!リアルな邪神が良いのですぞ!!」
『あんたは私を邪神と思ってんのかい!!』
漫才みたいなやり取りを聞いていたハルクがリリアンに言った。
「なあ、リリアン。人間やめんのはかまわんが女をやめるのはやめとけよ。せめて孫の顔だけは見たいから。」
『ちょっ!酷いよお父ちゃん!人間も女もやめてないから!』
ともあれバンパイアロードから情報が欲しいのでエルダーリッチが簡単に作った祭壇で待つことにした。
エルダーリッチは手のひらに灰を持ったまま土下座をして、晩御飯で食べる予定だった生の鶏肉をリリアンの足元に捧げ、鶏肉の上にバンパイアロードの灰を振りかけた。
何だかシェフが鶏肉に胡椒を振りかけてる様にしか見えないのだが、程なくして鶏肉から煙が上がりその煙が徐々に形を作り始めた。
「いや、酷い目に会いましたぞ。おお我が友人エルダーよ!毎度毎度すまんな。」
「うわはは!かまわんそ!アンデットは持ちつ持たれつなのである!!」
どうやら時々こうやって復活させあってるらしい。
バンパイアロードの情報によると、最下層は勇者一派に完全に乗っ取られているとの事だ。
システムコンソールがあるので大洞穴を勝手に弄られてるかと思いきや、一般の冒険者には端末機の意味すら解らないらしく破壊されただけで済んでる様子だ。
「おいリリアン、その端末機とやらは壊されるのは構わんのか?」
ハルクが最下層のボス部屋の様子を伺いながらリリアンに質問した。
「うん、これから勇者の居る階層に昇るんだから、ネームドモンスターとかを勝手に召喚されて足止め喰らう方が面倒だわ。それに端末機はジーニアス教官なら作り直すでしょ。」
『そんな事より、地球に帰る魔方陣はどうなのよ!!!』
ミーシャが異世界に帰還する魔方陣は最下層にしか無い。
「うーん....あの様子だと消されてるわねぇ。」
リリアンが見たところ、ミーシャの帰還魔方陣の場所で冒険者達が酒盛りしている時点で魔方陣がどうなっているかは想像が付くと言うものだ。
「うわぁ面倒臭いわねぇ....」
一応ジーニアスというアテがあるので悲観はしていないミーシャだが、状況が状況だけに帰還魔方陣を用意してくれるとしたら全てが終わった後であろう。
とりあえず当面の拠点が必要なので最下層を制圧しなおす事に決めた一堂だが....
「バンパイアロードを倒すくらいだから強いよねぇ。」
リリアンがどうにか穏便に冒険者を追い出す方法を考える。
「おいリリアン、そんな事は簡単だぜ?奴らはたった五人だ。
エルダーの旦那、ちょっと俺の頼みを聞いてくれ。」
ハルクがエルダーリッチに何かを頼んだ後でリリアンにはポータブル丸太小屋から酒を持って来いと頼んだ。
「それは良いけどどうするの?」
「なあに、使える奥の手はこっちの方が上って事よ。」
準備が整えられるとハルクは酒を持って冒険者達に近づいて行った。
冒険者達五人は最下層に男が一人現れた事で警戒する。
『おい!貴様何者だ?最下層にたった一人だと?!!!』
そんな冒険者達の警戒をハルクは鼻で笑う。
「俺様はLV99だ。こんなダンジョンなんて一人でも散歩程度だぜ?」
そう言いながら懐の冒険者免許を見せた。
ハルクの冒険者免許を見た冒険者達は一気に態度を変えた。
『なんと!レジェンド様でしたか!』
冒険者の間ではLV99のカンスト(パラメーターが限界の状態)した人はレジェンド様と呼ばれる事が多い。
何故ならLV10までは1日もあれば何とか上がるが、LV90クラスだと必要経験値が億単位となる
。
ちなみにスライムの経験値が1なので某
ラグナ○クオンライン並の鬼畜さである。
「それにしてもボスが居ねぇじゃねぇか。お前さん達が頑張ったのかい?」
『勇者殿の力を借りましたが、その通りであります!!』
「ふーん、すると勇者殿はここには居ないんだな?」
『はい、500階層の拠点へ帰りました!!』
「そうかい、ありがとよ。んじゃボス片付けたら飲もうと思ってた酒だがお前さん達にやるよ。上物なんだぜ?」
酒瓶を受け取った冒険者達は喜びいさんで再び酒盛りを始めた。
のだが、冒険者達が輪になって座っている場所に見知らぬ魔方陣がうっすらと浮かんでいるのを冒険者達は気付いていなかった。
ハルクが片手を上げて合図する。
すると輪になって座っている冒険者達のど真ん中に骸骨顔に死神の鎌を持ったエグイオーラを放つアンデットが浮かんで来た。
『うわはは!!!!!』
エルダーリッチである。
冒険者の常識で、決して挑んではいけないモンスターが三種類存在する。
まずは、あらゆる精神攻撃を操るガス生物のバグベアード。
世の中全てに絶望せし深淵の王....という勝手な世論が流れてる魔王ジーニアス。
そして全てを憎み全ての生命を触れるだけで消滅させるエルダーリッチである。
よくよく考えると、三種類のうち二種類がリリアンの身内なので邪神呼ばわりされても不思議ではない。
そんな訳でハルクの用意した強い酒を飲んだ冒険者がエルダーリッチのドレインタッチをかわせる訳も無く、冒険者達は一瞬で無力化してしまった。
ちなみにハルクの願いでエルダーリッチには殺さない程度に手加減して貰っている。
何故ならエルダーリッチに殺された人間はリッチになる。
エルダーみたく話しが通じるなら良いが、リッチと言えば大抵精神が崩壊していて見境無く襲ってくるのがオチである。
めでたく最下層を奪還した一行は、さしあたり500階層の様子を見る為に一応端末機を起動してみた。
外装は壊されたものの、中の基板は生きていた。
上手く起動したところを見ると魔方陣は壊されたがシステムは掌握されていなかった。
操作に不慣れなリリアンがうろ覚え操作で500階層の画像を表示してみると....
「やっぱり勇者は元地下劇場に居るわねぇ」
ミーシャも覗いている。
このメンバーではパソコンを知っているのはリリアンとミーシャだけで操作はミーシャに任せている。
「完全に武装してるところを見ると、私達の事は完全にばれてるっぽいわ。
ってな訳だから、心して挑む必要が....」
ミーシャが後ろを見ると、装備とアイテムを吟味しているリリアンとハルク。
グレードアップした三又の槍を振って稽古中のドルトン。
灰にされた恨みで黒いオーラ全開のバンパイアロード。
能天気に高笑い中のエルダーリッチ。
「....心配無用だわね。」
そろそろ勇者退治に出発しようかとリリアンが発言しようとした時なのだが、父親のハルクがリリアンに言った。
「....なあリリアン。一言だけ言わなければならないんだが..」
「何よ、急に真面目な顔をして。」
「....逃げんなよ。」
『失礼な!逃げる訳無いじゃないの!』
『ちょっとリリアン!!ここに居るのがバレてる!!!』
ミーシャの叫びと同時に、勇者が全員の前に現れた!
勇者はテレポートが使える様子。
『やあ!皆さんご機嫌よう。
ここに来るまで大変だったでしょう?
そして!私の花嫁を送り届けてくれてありがとう!』
勇者は、そこまで言ったらリリアンの腰を抱いて
一緒に消えてしまった!
早く気が付いたドルトンが急いでリリアンの手を取ろうとしたが間に合わなかった!
『リリアン様ぁぁぁ!!!!!!』
ドルトンの叫びはダンジョン最下層に虚しく響いた。
『くそ!!またしても、あの野郎!!』
ハルクを含めて残りのメンバーは急いで階層を登った。
500階層まで上がる道中は楽そうなメンバーだが、ハルクの足でも最短5日かかる。
『うわはは!!!!!邪王様の為の露払いは私めにお任せあれ!!!!!』
昇ってる最中はエルダーリッチが片っ端から無双しまくって後ろのメンバーは出番があまり無かった。
「くそ!早く向かわないとリリアンがどうなるか判らないぜ!」
ハルクは判らないと言いながら、リリアンの処遇は予想していた。
「ったく、来年お祖父ちゃんとか呼ばれるのは勘弁して欲しいぜ!」
ハルクの言葉を聞いて一番ショックなのはドルトンだ。
その時、ハルクは無双しているエルダーリッチを見て気が付いた!
『お前さん!階層無視して500階層へ向かってくれないか?』
「むむ!それは構わないが、我のスピードでも邪神様まで半日後になるぞ!」
「いや邪神って⋯いや、突っ込んでる時間すら惜しい!すぐ行ってくれ!」
エルダーリッチはすぐに天井へと消えていった。
「薄い同人誌みたいなグヘヘ展開は勘弁して欲しいわねぇ。」
ミーシャも心配そうだ。
階層を登るにつれて、モンスターの他に人間の冒険者も増えてきた。
ただし、勇者の洗脳を受けた冒険者だが。
かなり焦っている一行は容赦無くボコって最速で突き進む。
500階層、冒険者の町。
500階層以下の冒険者が全滅しているとは夢にも思っていないのか500階層の冒険者達は平和そうであった。
しかし、突如現れたエルダーリッチがドレインタッチで阿鼻叫喚の町になっていた。
「ワハハハ!神気のせいで邪神うっかり魔王様の位置が掴めないのである!しかも入れないのである!」
エルダーリッチは地下劇場の前で困っていた。




