最終話 魔王の代わりに勇者退治③使徒パトリシア参上!
カラン!とドアベルが鳴り、ローズ亭に客が来た様子だ。
「おっと客だ。リリアン、話しの続きは閉店後だ。
「へい!らっしゃい。何か入り用ですかい?」」
ハルクが接客を始めた相手は、胡散臭い吟遊詩人風の30代の男であった。
リリアンにはとても見覚えがあった。
「って教かんっ...んぐっ!」
男が慌ててレジに座るリリアンの口を塞いだ。
吟遊詩人風の男はリリアンがアビスを旅していた時に同行していた国王ジーニアスが変装した姿であった。
『ちょっと兄さん、俺の娘に何をするんですかい?』
ジーニアスがリリアンの口を塞ぐのを見ていたハルクが指をポキポキ鳴らしながらジーニアスに迫って来た。
『いやいや!申し訳ない!決してそんなつもりは無いですじゃ!』
「お父ちゃん大丈夫、この人は旅してた時に世話になった人だから。」
『いやはやそうでしたか!これは愚娘がお世話になりました。』
ハルクは一転してへりくだった態度になった。
「正体現して大丈夫だよ教官、今この店にはミーシャとお父ちゃんしか居ないから。」
ミーシャはジーニアスの正体を知っているし、魔王側に付く事を決めてる父親に吟遊詩人の正体がバレたところで問題は無いだろう。
「そうか、ならば...」とジーニアスは変装を解いたら軽装の国王ジーニアスが現れた。
ジーニアスの姿を見たハルクは益々土下座を深々と下げた。
リリアンのトラウマ解消に魔法学校へと入れて金を積んで最高の教師をと頼んでみたら国王自ら教官を名乗り出てくれたという恩がハルクにはあるのである。
「...リリアン君!!ワシを助けておくれ!!!」
リリアンに対して土下座を始めるジーニアス。
父親のハルクもまだ土下座をしているので、まるで二人がリリアンに土下座をしている様に見えてしまっていた。
『ちょっと二人共止めてよ!私が何かやったみたいに見えるじゃない!』
リリアンが慌てて二人の土下座を止めさせた。
「...じゅうぶん何かをしまくったじゃないのよ。」
ミーシャがクスクス笑いながらやり取りを見ていた。
まずはハルクにジーニアスが魔王である事を告げて、アビスからボルン大洞穴までの旅の概要をかいつまんで説明した。
『...なるほどなあ、どうりで最近魔法道具の返品や不具合が増えたはずだぜ。』
ハルクも魔法道具の修理で最近忙しくなっていたのだ。
「っていうか、お父ちゃんは国王が魔王って驚かないのね。」
『当たり前じゃねぇか!ここは暗黒大陸で名高いカルラームだぜ?魔王が統治してて不思議があるかってんだい!』
「さようでございますか...強いなお父ちゃん。」
「あんたの性格って絶対に父親の遺伝だわ。」
ミーシャがしみじみ呟いた。
それはさておき、問題は心労で少し痩せたお忍びで隣町まで来たジーニアスである。
リリアンへの頼み事は決まっている。どうせ魔王を継いでくれって事だろうとリリアンは思っていた。
「あのさぁ教官、多少魔法が使える程度の魔法使い駆け出しの私がさあ、魔王をやれとか言われてもそりゃ無茶苦茶ってもんよ。」
それにであるのだが、リリアンの生命線であるミニチュア丸太小屋を駆使したアイテム物量作戦が基本なのだが、最近の魔動機関不具合が丸太小屋にも影響してて時々ドアが開かないトラブルが発生している。
そうなると女冒険者には少々致命的だ。
「わかっておる、この際魔王になってくれとは言わん!今回だけじゃ!今回だけワシの手足として動いておくれ!」
「わかった!わかったから土下座しなくて良いから!」
慌てて土下座をやめさせるリリアン。
そこでハルクが現在の状況と作戦と報酬をキッチリ聞いて来た。
「...リリアン君の父親らしく地味にガメツイのぉ...」
ローズ亭への報酬はボルン城に関わる魔法道具の一部の流通を任せる事でハルクは納得した。
要するに城に対する巨体なコネである。
「まず勇者の根城なんじゃが、ボルン大洞穴500階層の例の地下劇場に居を構えてるらしいのぉ。」
「えっ?じゃあマリー達は大丈夫なの?」
「事態を察したマネージャーの斉天大聖が地上一階に劇場を移転した様子じゃの、野外ライブは反魔王軍の娯楽になっとるようじゃ。」
とりあえずマリーは無事そうなのを安心したリリアンだが、静観者を決めていたミーシャが驚いた。
『あの糞猿!向こうがピンチだってのにそんな所で油売ってたの?』
ミーシャの世界も妖怪同士の戦争中で、ミーシャ側の妖怪が劣勢。
斉天大聖は攻撃力が高いので、こちらで遊ばれては非常に迷惑以外何者でもないのである。
ミーシャは妖力が弱く、妖怪のリーダーに一時的に疎開してと言われて再びリリアンの所に遊びに来た次第だ。
だが、ただ遊び来た訳でもなく。
向こうの争いに何か役に立つアイテムが無いだろうかと思い、アイテムが豊富なリリアンに会いに来たと言う訳である。
「リリアン様、お客様が訪ねて来たから案内して来ただよ。」
外で掃除をしていたドルトンが道に迷っていた訪問者に声を掛けたらローズ亭のリリアンを探しているとの事なので連れて来たらしい。
だが、物騒な状況でリリアンに会いに来る人物など想像も付かないのだが...
その人物がローズ亭に入って来た瞬間、場の空気感が一転した。
「はぁい!リリアンちゃんお元気してたぁ?パトリシアちゃんが会いに来たよ!」
『げげっ!ミニスカアイドルおばさん!』
その人物はリリアンがアビスの人間の町のトーナメントで対戦した経験のある天空国出身の天使(っても人間)でピンクのフリフリドレスにパンツもろ見えミニスカで40過ぎの超絶に痛々しいおばさんのパトリシア・ムーシェイドであった。
「事態は何となく察っしてるわよ~♪パトリシアちゃん天才!」
汚物を見る様な目でリリアンは冷ややかにパトリシアを見ている。
ハルクとミーシャは、あまりにも場違いな客に対して空いた口が塞がらない。
「おばさん...パンツ見えてるわよ。」
『だから!見せてるから良いのって前に言ったじゃない!ぷんぷん!!』
『だからおばさんのパンツなんか見たくないって言ってんじゃあ!!!』
リリアンがパトリシアの胸元を掴んでグイグイ揺さぶる。
老人のジーニアスならともかく、壮年のマッチョ親父のハルクは目のやり場に困っている。
そんな父親を見るのが嫌なリリアンは、さしあたりパトリシアを下半身が隠れるレジに座らせる事にした。
「そうそう!大事な用件でカルラームに来たのよん♪こっちに勇者ちゃんが暴れてたりしない?」
「...今丁度その事で相談していた所よ。」
リリアンは勇者が反魔王軍を結成して町を占拠して今まさに王都へ向かわんとしている状況を説明した。
『やっぴぃ!パトリシアちゃんナイスタイミング!』
パトリシアがぴょんぴょん跳ねる。
『見えるから飛ぶなぁ!!』
リリアンがパトリシアを押さえつける。
「そろそろ話しを聞かせてくれんかのぉ、あまり良くない予感がするがのぉ⋯」
「あらあら、お爺ちゃん居たの?また一段と老け込んじゃってどうしたの?」
『居たわい!』
「むぅ...色々と動じない教官を突っ込ませるとは....」
リリアンは思わずうなった。
「あのね勇者ちゃんがこの前天空国に現れて魔を滅ぼす宝珠をくれって来たのよぉ。」
『なんだってぇ!!!』
ジーニアスがMMRのキバヤシさんの如く驚いた。
「凄いよねぇ。白の試練[天空の塔]を地道に昇って来たのよ。」
魔の大陸の試練がボルン大洞穴なら、天空国の試練が天空の塔だ。
実は仕組みと目的(魔力回収)が一緒である。
「教官、魔を滅ぼす宝珠ってなんですか?」
リリアンはそんなアイテムが存在しているなど聞いた事が無かった。
「白のオーブじゃ。」
「白のオーブ?黒のオーブなら知ってるし、うちに在庫が沢山あるわよ?」
「基本的には同じ物なんじゃが、魔力を込めて爆発させるのが黒のオーブに対して祈りを込めたのが白のオーブなんじゃ。」
リリアンは戸棚から黒のオーブを一つ持って来て見つめた。
「祈りを込める?どうやって?」
魔力と違って祈りは何かがある訳ではないのだが。
「そうじゃ、ただ祈っただけの玉じゃ。但し何千年分の信仰心がこもった玉じゃがな。」
ちなみに黒のオーブの魔力チャージは5分程度で済む。
「でねでね聞いて!勇者ちゃんってば白のオーブをあげないって言ったのに、勝手に持ち出しちゃったのよ?酷いと思わない?」
パトリシアはぷんぷんと言いながら激オコリ状態だ。
「ところで勇者ちゃんって名前は何?」
パトリシアの質問に皆はハテナ顔になった。
「そういえば知らないわ。教官は知ってる?」
リリアンはジーニアスに聞いたが...
「初めて城に来た時から名乗ってないのぉ。いわゆる真名隠しじゃな。魔物退治を生業にしとると呪いが怖いんで名乗らない場合があるんじゃ。」
「真名とか(笑)中二病かっちゅうの。
これで眼帯とかし始めたら中二病こじらせだわ。」
ミーシャがクスクス笑う。
真名はともかく信仰心を込めた白のオーブなら、単純にアンデッドに特効かエリアヒールとかの回復魔法の効果くらいしか思い浮かばない。
「リリアンちゃん、信仰心を舐めちゃ駄目よ。
信仰心も過ぎればバーサーカー。
世間一般で言うなら狂信者ね。
神の名の元に!とか言っときながら、自分の信仰心に酔いしれて、
挙句の果てに自分が神の代弁者だ!とかイキってくるのよ!
自分に賛同しない者が現れたら、神に背く愚か者!とか言って勝手に断罪するし。
本当、マジ迷惑なのよ!!
こちとら一般市民に断罪とかするかっちゅうの!」
神様側にも溜まる物があるらしい。
「だからねぇ、私は白のオーブを回収に来たって事なのよん♪」
そう言いながら両腕で胸をギュッと寄せるセクシーポーズを決めるパトリシア。
お色気ムンムンでる。来月で41歳の春だが。
ジーニアス考案の対勇者作戦なのだが、勇者率いる反乱軍を制圧するために、どうしても地上の正規兵を指揮しないといけない。
だが地下500階層に居ると思われる勇者に対して
、個別の撃破要員を編成する必要がある。
なんせ狭いダンジョンでは軍隊など役立たずであるからだ。
「そこでリリアン君には特別隊として999階層から行動して欲しいんじゃ!」
『また、あのダンジョンを逆走しろってか!!』
以前はヴァンパイアロードの案内があってスムーズに進んだが、それでも2週間かかった。
衣食住をミニチュア丸太小屋に依存してなかったら、延々とダンジョン野宿で気が滅入る。
現在は丸太小屋の起動が不安定。
食事と寝床はともかく、トイレと風呂は女性冒険者には困る。
ヴァンパイアロードは500階層の神気に当てられて昇天してしまっている。
そこでジーニアスはパトリシアを見た。
「大丈夫よん!頼まれた通りリリアンちゃんの安全は保証しちゃうもん♪」
「...頼まれた?」
リリアンがその単語に引っかかる。
「そうよん♪お爺ちゃんから頼まれて来たんだから。白のオーブの件もあったしね♪」
『これ!パトリシア君。内密にと言ったじゃろうが!』
どうやらパトリシアはジーニアスに頼まれて天空国から来たのが本来の目的らしい。




