第21話 驚異の逆ダンジョンと攻略
ボルン大洞穴最後の間⋯ジーニアスと妖怪コンビが魔法陣に消えてから、通称魔王の間には静寂が訪れていた。
ここに居るメンバーは、リリアンとマリーとドルトンのみと戦力的には非常に厳しい。
三人はここから帰る方法を考えていた。
とは言うものの、実際に考える役目はリリアンとマリーだけだ。
「ねぇ、マリー。ここからどう帰ろうか。」
「ときめく心!前向きな姿勢!折れない精神!キラリーン!」
「⋯考え役が私しか居ねぇ⋯」
リリアンは天を仰いだ。
「⋯冗談はさておき、ジーニアスさんを待つか、地道に攻略しか無いのでは?」
キラリーンは冗談だったらしい。
「⋯良かった。マリーがまともだった。
とりあえずダンジョン端末を見てみるかな。」
リリアンは情報端末を検索すると、地下500階層に町が形成されている様子。
501階からワープ罠があちこちにあり、とてもじゃないが踏破が困難で、なおかつ強いモンスターが沢山配置されていた。
近道とかは無さそうだ。
「⋯犬パーティは罠を踏んで999階近くまで来ちゃったんだね」
「運が良いのか悪いのか判らないですねぇ。」
マリーが何だか怪しい雰囲気な気がする。
「地道に登るかぁ!」
「「おーっ!!」」
ドルトンとマリーが元気よく返事をした。
リリアンがダンジョンを逆走するにあたり、
知性の無いモンスターはマリーの仙術かでどうにかして、
魔法耐性の高いモンスターはリリアンの呪い装備一式(呪い消滅には気付いてない)とドルトンの槍で蹴散らしながら攻略するつもりだった。
一直線の998階を通過し997階の階段を登ると、いかにもキザでタキシードを来た魔物が座っていた。
「うーむ、暇である。誰か召喚解除をして欲しい。」
ダンジョンを逆走しているので階段の前は、魔物の後ろ姿しか見えない。
「ちょっと、ここを通してくれない?」
『どわぁぁぁ!!!』
急に背後から話し掛けられたものだからボスがとても驚いた。
魔物が振り向くと、小娘二人とオークが立っていた。
「我の背後は魔王様の部屋のはずだが?」
当然の疑問である。
リリアンはジーニアスがしばらく異世界へ旅行している旨を伝えた。
「では!魔王直属の配下である貴方が現在の魔王様と言う訳ですな!!!」
「言い方が悪い!!!」
なんだろう、このデジャヴはとリリアンは思った。
「ならば魔王様!このバンパイアロードに露払いをお任せあれ!」
997階層のボスがやる気満々である。
「あのさ...私はどっちかと言うと勇者志望なんだけどな~。」
「はっはっは!私が主君と決めれば誰でも魔王と呼びますぞ!」
リリアンは鉱山の町の人の話を聞かないエルダーリッチを思い出した。
よくよく聞けばバンパイアロードはエルダーリッチとは親友らしい。
つまり類は友を呼んでいた訳である。
「はっはっは!実はですな親友から魔王様一行が無事に大洞穴へ入ったのを聞いていたのですよ!
何でも魔王様はかなりのドジっ娘との事を聞きましてな。
ならば私が出るしかあるまいて!!!」
「...だから私を魔王呼ばわりなのね。そういえばこの前冒険者が来たはずだけどバンパイアはやられちゃったの?」
ガルフォード達の事である。
「いえいえ、私は一度対戦した冒険者が居た場合は出現しない事に決めているのですよ!」
よくわからない設定である。
「何度も戦えてしまうと私を倒した時のドロップ品の価値が下がってしまうじゃないですか!わははは!」
「...なんかアトラクションの従業員っぽいんですけど...」
実はリリアンの考えは案外的を得ている。
ボルン大洞穴は内部で戦う冒険者達が使う魔力をアビスが吸い上げて地上の町のエネルギー源となっているからだ。
「...何かカルラームって案外平和な気がするわ。」
「私は貴重な薬草がさくさん収穫出来て楽しいですよ?」
「リリアン様に怪我が無いなら大丈夫ズ⋯大丈夫だ!」
ドルトンはオーク訛りを治したいらしい。
「魔王様!話が通じる場合は説得出来ますが、話が出来ない輩も多いのです!そういう魔物はわりと人を喰らいますぞ!」
いわゆるスタッフが後で美味しくいただきました的なやつだ。
その後10階層ごとに各ボス達が現れるが、魔王一行を護衛し続けているヴァンパイアロードのお陰でリリアンのダンジョン逆行は概ね順調であった。
もうすぐ500階層の町が近い。
最初の護衛ボスであるバンパイアロードは未だに付いて来ている。
「ところでバンパイアロードは持ち場に帰らなくて大丈夫なの?」
「うむ、我が魔王よ。実は500階層でトラブルが発生したと聞いて様子を見る予定でした。」
「へぇ~、ダンジョンの管理も大変だねぇ。」
「うむ、なので人手を増やして欲しいのですよ!
魔王様のお力を是非に!」
「それは教官に言ってほしいなぁ。」
一応、ダンジョンに異常が発生した場合はボルン城まで報告が来る事にはなっている。
ジーニアスが城に居た時点では問題があったとは聞いていない。
もっとも元々エグい難易度のダンジョンだけに小さな問題は日常茶飯事なのでもしかすると報告をスルーした可能性もある。
「ですから城への報告を兼ねて500階層を視察しようと思った次第なのですよ。」
「そういえば500階ってボスは居ないのね。」
歴代の冒険者達は、下の階層へと行く為にダンジョンを改造し休む為の町を形成していた。
いわゆるセーフゾーンだが。
「元魔王様は、ダンジョンを改造されてもリセットしなかった様子ですぞ。
本来500階層には我に匹敵するする悪魔アークデーモンが設置されていた様子ですが、リポップさせる気は無いと聞きました。」
そんな訳でリリアン達は500階層の町へと入った。
500階層の町は各フロアに点在する休憩地点と違い階層まるごとをくり抜いた大きな町となっており、冒険に必要なアイテム屋や武器を修復する鍛冶屋が営業している。
まあ、そこまではリリアンの想像の範囲であるのだが、町の途中で変な大段幕に書いてある文字が気になって仕方なかった。
その大段幕には『今流行りの地下アイドル!スイートBRNリサイタル連日開催!』と書いてあった。
数人の女の子達が踊るイラストと大段幕の最後の一文に斉天大聖プロデュースの文字が...
「...あいつ魔法陣で異世界に帰ったと思ったら...」
「むう⋯魔王様!とんでない程の聖気が満ちてますぞ!我ですら気を抜くと昇天しそうです!!」
ヴァンパイアロードの存在が薄れていた。
ヴァンパイアロードの指摘通り、ダンジョンの空気感が地上の町の空気に近い。
かなり長い間、魔性の大地のアビスに居たリリアンも、この白魔法の魔力に満ちた空気を吸うと少し鼻がムズムズしてくる。
劇場と思われる建物の前にはファンと思わしき冒険者達がアイドルメンバーで誰推しかで盛り上がり褒め称えあっている。
そんなファン達が集まり一種異様な空気感が辺りを熱気で包む。
「...斉天大聖は絶対この建物にいるわよね。」
アイドルファンの冒険者達を避ける為に、劇場の正面入り口を避けて裏口を探すと、すぐに斉天大聖を見つけた。
裏口の門は熱狂過ぎるファンの侵入を防ぐ為に強そうなガードマンも守っていた...
『...斉天大聖!何をやってんのよ!』
リリアンが驚きの声を上げると、その声に気付いたガードマンが喜び満面でリリアンに向かって来た。
『おお、リリアンと我が弟子じゃん!』
斉天大聖は大洞穴最下層から飛ばされていた時500階層に居たらしい。
斉天大聖は異世界へ帰る気が無かったのだ。
町にオークが突然現れた時に一時町が騒然としたものの、斉天大聖とマリーの説得でドルトンは監視付きで滞在を許された。
やはり女の敵であるオークは肩身が狭い。
斉天大聖は500階層へワープした後、暇潰しにアイドルのヲタ芸特訓を町の広場で続けていると、
吟遊詩人や踊り子の女の子達が興味を持ち、
段々と人数が増えたのでステージのある酒場でダンスを披露していたところ、娯楽の少ない町だけに連日大盛況となり現在に至る事となった。
しばらく劇場の中を進むとリリアン達はプロデューサー室と書かれたプレートの部屋へ案内された。
「せっかく来てくれたところで悪いんだけど、これからスイートBRNのコンサートがあるじゃん。
...それと、リリアンに伝えたい事もあるじゃん...マリーはまだ精神汚染されたままじゃん。
そのまま地上へ行かす事は出来ないじゃん。」
普段からハイテンションの斉天大聖が珍しく口ごもる。
「...あのねリリアン...私は当分の間、師匠に修行を受けようと思うの。」
「...え?」
リリアンは驚いた。
「師匠の特訓は楽しかったし、このまま地上へ帰っても薬屋を継ぐ事が出来ないと思うの。」
「...えっと...地上に戻らなくていいの?」
一緒に帰るつもりでいたリリアンにしてみれば晴天の霹靂である。
小さい頃からリリアンが物事を考えて、それにマリーが付いてくるのが日常だったからだ。
「うん、私の心が蝕まれているのは解ってたの。」
「...そうなんだ。うん、マリーが決めた事だから反対はしないよ。だってマリーは私の親友だもんね。
斉天大聖が許したら地上へ帰ってお父さんを安心させなさいよ。」
500階層をまともにすすめば半月は掛かるからだ。
「大丈夫、この建物に一階へ昇るエレベーターがあるじゃん。」
『まぢで?』
冒険者達のダンジョン改造が予想外に早いようだ。
リリアンは別にダンジョンが簡略化されたところで困らないが、ダンジョンマスターであり現役の魔王であるジーニアスには困る問題だろうと想像した。
「マリーとは一度ここでお別れだね。私もドルトンと一度地上に帰るんだけど...」
そう言いながらリリアンはドルトンを見た。
ドルトンはアビスの時に手に入れた英国紳士衣装でいた。
「オラはリリアン様と共に行くに決まってるだ!」
「地上はモンスターの肩身が狭いから大洞穴に居たほうが安心なんだけどなぁ。」
勿論リリアンの説得など無意味である。
ドルトンは死ぬまでリリアンの従者となる事を決めているからだ。
「ドルトン!あんた近隣のオークを締めれる?
あんたには言ってなかったけど、私は一度オークに拐われた事があるの。」
一度自宅に帰るとなると、ドルトンはただでは済まないだろう。
「多分、私以上にお父ちゃんはオークを恨んでる。
そりゃ一人娘が拐われたんだからね。」
リリアンの真面目な話をドルトンは正座で聞いていた。
違った、ドルトンは正座しながら大泣きしていた。
『だからか!一度拐った女にはオークの呪いがかかり、オークの目には絶世の美少女に見えるんだ!
オラはリリアン様をそんな目で見ていたのか!!』
ドルトンの号泣が止まらない。
それはそうだろう、自分が一生従うと決めた精神の正体が呪いと知った時の絶望感。
もし何らかの方法でリリアンの呪いが解けたら、自分はリリアンがどう見えるかドルトンは怖かった。
『こんな卑しい目なんか!オラは要らないだ!!』
持ってた槍で自分の目を刺そうとした時、リリアンがドルトンの手を取って止めた。
「早まらないでね。私の呪いはブルークリスタルロッドを持った時にとっくに切れてるのよ。」
「じゃあ!オラがリリアン様を美少女に見えてたのは?」
単なるリリアンの生まれつきの素質である。
改めてリリアンの生涯従者を誓ったドルトンは、涙を拭い、槍を構えてリリアンの後ろへ立った。
リリアンとドルトンは、マリーの案内でボルン大洞穴の地上一階にある町の直通エレベーターへと乗り込んだ。
「それじゃマリー元気で頑張ってね。」
「うん!リリアンも頑張ってね。」
最後に親友同士抱きしめあった後、エレベーターの扉が閉じてエレベーターは地上へと上がりだした。
そして、まともに潜れば半月掛かるダンジョンを一時間足らずでエレベーターは地上一階へと到着したのであった。




