第20話 驚異の逆ダンジョンと魔王
年間数組しか到達しないと云われるカルラーム大陸のボルン大洞穴に、今一組の冒険者が999階層の最深部へと挑まんとしていた。
前衛には全身を覆うフルプレートアーマーを装備した重戦士。
軽装だが俊敏に特化した武闘家。
誰よりも先頭に立ち 罠を警戒しているシーフ。
後衛にはカルラーム大陸では珍しいエルフで、リュートと言う楽器を持っているので吟遊詩人だと思われる。
残り二人は白魔法使いと黒魔法使いに違いない。
そして、ラスボスに挑む六人パーティーのメンバーにリリアンが知っている人物が混ざっていた。
『あいつ、何とかっていう拳法を使う犬だわ。』
ぜんぜん説明になっていない。
「なんじゃ?リリアン君。知り合いかの?」
「アビスに来るハメになったモンスターの湧くダンジョンで協力...してもらった記憶は無いけど案内をしてくれた武闘家よ。」
要領を得ないリリアンの説明。
ジーニアスはハテナ顔になった。
「んん?カルラーム大陸ではボルン大洞穴以外にモンスターの出現するダンジョンを掘った覚えは無いがのぉ。」
「でも教官。実際に存在してましたよ?モンスターは居ましたし(ドルトン)黒のオーブで一応破壊したはずですが...」
暇潰しに端末機を色々いじって遊んでいたミーシャが冒険者達の歩みが予想外に速い事をジーニアスとリリアンに伝えた。
それを聞いたジーニアスはリリアンにお願いをする。
「リリアン君、とりあえず呪いセットを装備してくれんかの。
久しぶりにワシが直接戦闘をする事になりそうなんじゃよ。だから一緒に戦っておくれ?」
『ええっ!嫌ですよ!何がおくれ?よ!それって魔王の手下役って事じゃないですか!
さっきの禍々しい魔王人形を出せば良いじゃないですか!』
「いやぁ...あの人形壊れててのぉ。このままじゃ達成感ゼロのハリボテダンジョンになってしまうんじゃよ。」
「それはそれで笑えて面白そうなんですけど~♪」
完全に部外者なミーシャが呑気に提案した。
「コラコラ!ミーシャ君は部外者なんじゃから発言を控えて貰おうかのぉ。」
とりあえず呪いセットを装備しないと話しが進まない様子なのでリリアンは仕方なく装備した。
この時点で冒険者達は魔王の間のすぐ近くへと迫っていた。
魔王の間の入り口が重苦しい音を立てて開く...
六人の冒険者達は狭い廊下から急に広い部屋が現れた事で動揺を隠せない様子。
冒険者達の一人である武闘家が部屋の中央に立っている一人の女性に見覚えがあるので酷く動揺した。
武闘家の名前はガルフォードと言う。
『お前!リリアンか?リリアンだよな?あれから消息不明なんでずっと探していたんだぞ!』
ガルフォードの問いかけにリリアンは無表情でたたずむ。
それよりもガルフォードは禍々しいオーラを放つリリアンの装備に目が離せなかった。
「...貴様など我は知らぬ!」
リリアンは無表情のままゆっくりとガルフォードに答えるのだが...
(ちょっ教官!他に何て答えたら良いのよ!凄い困るんですけど!)
リリアンは無表情じゃなく、実はただテンパっているだけである。
リリアンは事前に渡された通信機でジーニアスに問いかけた。
ちなみにテレパシー通信なので心の声はいつものリリアンである。
(すまん!リリアン君。ワシの準備にもう少し時間がかかりそうなんで、何とかもう少し時間を稼いでくれ!)
(えぇ...マジですかぁ?凄く自信が無いんですけど!)
「...何をしに来た愚民共よ。無礼が過ぎるなら魔王様より先に我が相手をするぞ。」
リリアンは腰の鞘に納められていた魔剣モラルイーターを抜く...
すると冒険者達の目には辺り一面に障気が満ちる様に見えた。
「出でよ!我が配下達よ!」
リリアンの号令で、ドルトン、猿の化け物、ハイテンション魔法少女が登場した!
ジーニアスは舞台装置でスモークを焚いた!
ラスボスを前にして冒険者達が雰囲気に呑まれている。
『その変な格好をした女はマリーか?じゃあそこのオークはドルトンだよな!!
なあ、リリアン!本当にどうしてしまったんだよ!俺...お前の事を気に入ってたんだせ!』
(ひょう!リリアンってモテモテ~♪)
ミーシャが通信に割り込んで来た。
(良かったのぉ。とりあえず嫁の貰い手はありそうじゃぞい。)
ジーニアスもミーシャに乗っかって来た。
『(あんた達...後で殺すわよ!そんな事より教官まだですか?)』
(後10分で何とか。)
『おい、リリアン。俺だよ、ガルフォードだよ。』
ガルフォードがリリアンの目の前に立つ。
ガルフォードの目にはリリアンの表情はとても虚ろに見えた。
...が、本当は通信中なのでそちらに気を取られているだけだ。
『(この展開で10分持たせるとか地獄以外何物でも無いんですけど!
いっそ嘘ぴょんってバラしてもいい?)』
(こりゃリリアン君!そんな事したら大洞穴に来る冒険者が来なくなるではないか!ボルン大洞穴以上の魔力供給源は無いんじゃからな!)
ガルフォードはリリアンの目を覚まさせようと抱きしめて来た。
もし恋人同士ならときめく展開なのではあるが、残念な事にリリアンはガルフォードを犬としか思っていない訳で...
『...貴様!我に触るな汚らわしい!』
『ふんごぉぉ!!!』
ドルトン大激怒で槍を構えた。
リリアンはモラルイーターを横凪ぎに振りガルフォードを冒険者達の方向へぶっ飛ばした。
それが冒険者達の戦闘体制を促してしまった。
『プロテクション!アンチマジック!リジェネイト!フォースフィールド!』
後衛に控えていた白魔法使いが支援魔法を唱えはじめる。
同時にフルプレートの戦士が剣を抜いた。
『(ちょっと教官!何か始まっちゃってんですけど!)』
(リリアン君...がんばれ!)
『(教官!無責任は許しませんよ!
マリー!覚えたての仙術お願い!)』
そんなやり取りをしている事は露知らず、冒険者達はリリアンから一定の距離を保ったままだ。
そしてリリアンは冒険者達の次の攻撃は予測がついていた。
前衛が後衛をガードしつつ、後ろの黒魔法使いが遠距離魔法を飛ばす。
『輝く未来!ときめく心!あふれる愛!目覚める運命が世界を包む!キラリーン!!』
マリーのキラリーンという呪文?でピンクのキラキラしたオーラがリリアン達を包んだ。
一応ハイプロテクションに分類される白魔法。
テンションを高めて魔法防御を上げる効果がある。
薄暗いダンジョンだと逆に不気味である。
ガルフォードが両手にオーラを纏ってリリアンに飛び込んで来た!!
『リリアン!目を覚ませぇぇぇぇ!!!』
(ちょっ!この人達、超 目が怖いんですけど!!)
『我に近づくな...』
リリアンの剣とガルフォードの拳が交差する。
その瞬間、リリアンの魔剣モラルイーターが特殊能力が発動した。
モラルイーターの能力は装備者の理性を壊す代わりに攻撃力が増す。
つまりガルフォードが再びリリアンにぶっ飛ばされた。
しかもガルフォードの胴着がざっくり裂けている。
『ふ...ふふ...あははは!貴様らは死ね!!』
リリアンのバーサーカーモードが発動した。
(教官!自分の身体が言うこと聞かないです。)
(うむ、じつに面白い。過去のバーサーカーもリリアン君と同じなのかも知れないのぉ。)
(感心してないで、早く出て来て下さいよ!)
(仕方ないのぉ...もう少し粘って欲しかったんじゃが、頼りない中ボスじゃわい。)
『誰が中ボスだコラ!!!』
リリアンは思わず声を出してしまった。
その声を聞いた冒険者達はびっくりして立ち止まる。
『リリアン!意識があるのか!!』
ガルフォードが詰め寄り始めたところで、ボスの間の照明が暗転した。
急に部屋が明るくなるとバーサーカーリリアンの背後に巨大なドラゴンが表れた。
バーサーカーのリリアンも背後の重圧に思わず振り返る。
『なっ!』
(リリアン君、ワシじゃよワシ♪)
冒険者達もリリアンどころの騒ぎではなくなった。
リリアンの隣には人間の大きさと同じくらいの茶虎柄の猫も佇んでいる。
これはミーシャだというのはリリアンも予想がついた。
何故なら茶虎柄はミーシャの普段着の色と同じだからだ。
『にゃ~♪』(戦闘はしないって約束で参加してみたり。)
「何か⋯世界の半分をくれそうな竜じゃん。」
妖怪組は呑気だ。
魔王が現れた!
冒険者達は魔王戦の為に防御や強化の呪文を既に唱え終わり、いざ最終決戦!かと思っているのは冒険者達だけである。
『(この戦闘は長引くとこちら側でボロが出そうなんで短期決戦...というか一撃で終わらせるぞい。
今から三分間程息を止めるんじゃ。)』
ジーニアスの忠告を聞いたリリアン達は息を止めて待機する。
そして二人の息止めを確認した所で魔王に扮したジーニアスが咆哮と共にブレスを吐いた。
竜のブレスと言えば恐怖を誘発し混乱させるのが常識なのだが、ジーニアスのブレスは紫色の毒霧であった。
予想外のブレス攻撃に冒険者達は防御の姿勢をとったものの、毒霧は容赦無く吸い込んでしまっている。
冒険者達は全員その場に倒れて全滅した。
リリアンは冒険者達は痺れて倒れた程度かと思っていたのだが冒険者達の身体が腐り溶けはじめると、あまりの苦痛で冒険者達はのたうち回り、かろうじて意識のあるガルフォードがリリアンに助けを求めているのが見て取れた。
そんな、あまりの凄惨な光景にリリアンは嫌悪感を感じ...てもいない。
冷徹の鎧と魔剣の効果で大胆不敵な笑みさえ浮かべている。
ただし、リリアンの精神の通信機ではジーニアスに散々文句を言っていた。
『(ちょっと教官!なんてエグイもの見せるのよ!魔王なんだからもう少し気のきいた攻撃とか無かったの?)』
「毒霧は排気したんで、もう喋って大丈夫じゃぞい。」
戦闘が終わったと同時にリリアンの呪い装備も外れてしまった。
『説明になってません!酷すぎです!』
「まあまあリリアン君、これから冒険者達を部屋の隅にある魔方陣へ放り込むぞい。」
巨大龍のままのジーニアスが半分溶けた冒険者達を魔方陣に置いた。
すると魔方陣が光を放ち冒険者達が消えてしまった。
「この魔方陣はどこに転送されるんですか?」
「冒険者達が最後に加護を受けた神殿じゃな。いわゆる『おお勇者よ、死んでしまうとは何事じゃ』とか言われるんじゃよ。ちなみに肉体再生費用はボルン国が負担しとるからアフターケアも万全じゃ。」
「...ふーん、復活と冒険のループって風車のハムスターみたいだわねぇ、私の世界のゲームっぽいわ。」
ミーシャが最後に遊んでたウィザードリィを思い出していた。
冒険者達の転送が終わった所でジーニアスはいつものお爺さんに戻り、普段は魔王の代わりに奮闘していた魔王人形の様子をチェックしてみた。
「これは...完璧に壊されとるわい!」
ジーニアスが驚いた。
「攻略した冒険者が居たんじゃないですか?」
「いや、それだと地上の町がエンディング代わりの大騒ぎをするはずじゃが、そんな報告を聞いてはおらんぞ?」
「私達がアビスで騒いでた時に壊されたんじゃないですか?」
リリアン達がアビスに居た期間は約1年間で、その間に誰かが最下層に来た可能性は高い。
「...うーむ。とりあえず魔王人形は録画しとるはずたから画像再生してみるかのぉ...」
ジーニアスが魔王人形の背中にある再生ボタンを押すと壊される直前の映像が空間にあらわれた。
すると一人の男が魔王人形に戦いを挑んでいる映像が流れる。
『あの人!私を助けてくれた勇者じゃない!一人で最下層に来たの?』
単独で最下層をくぐり抜けるのは自殺行為の難易度である。
そして魔王人形と勇者の戦闘はゆうに一時間を越えていた。
「魔王人形って教官より弱いんですか?」
「...いや、簡単に壊されると面倒じゃからワシより強く設定しとるはず...それにしても城で送り出した時の勇者はそこそこ強くはあったが、これ程短期で強くなるのは難しいはずじゃがのぉ。」
「そうよねぇ、ゲームじゃないんだから単純にモンスター倒したからってポンポンとレベル上がる訳じゃないわよね。...あの勇者が人間ならね。」
ミーシャが意味ありげに呟いた。
「どういう事?」
リリアンの問いかけにミーシャが勇者が持っている剣を指した。
「これってリリアンが持ってる剣に似てるわよね。魔剣何とかってやつじゃね?」
確かにリリアンの魔剣に似ていた。
そうなると勇者が強ければ強い程に対価を支払っているはずだ。
人間らしさと言う対価を。
「ふむ、あれだけの強さなのに戦闘をまともにこなしているとは凄まじい精神力じゃのぉ。」
剣術はある程度ならば少々馬鹿でも力さえあれば、そこら辺の腕自慢にはなれるものの。
達人クラスとなると力に加えて知恵や冷静沈着さも必要となるものである。
やがて魔王人形が動かなくなり戦闘が終了した。
だが魔王人形を倒した勇者の目は、明らかに精神崩壊し正気を保っていなかった。
魔王人形を倒した後もゾンビの様に部屋を徘徊し壁を殴ったり部屋の装飾品を破壊したりを繰り返している。
やがて勇者は部屋の片隅にある、先ほど冒険者達を送信した魔方陣を踏んだ瞬間に消えてしまった。
後に残ったのは壊されさ魔王人形と静寂をも持って動画は終了した。
「...魔王人形を倒した時に精神を完全に魔剣に喰われたみたいね。そう考えるとこれってエグイ剣だわ~。」
リリアンは他人事のように魔剣モラルイーターを杖代わりに腕掛けにしていた。
リリアンは精神を全て捧げる程の戦闘力を望んでいないので、ちょっと強い剣程度でしか考えていない。
余談だが本来魔剣は呪いの効果で一度装備したら呪いを解くまで外せないのだが、リリアンの持つブルークリスタルロッドの特殊効果で呪いの部分は完全消滅しており。
実は精神力を鍛えれば鍛える程、強さだけが無限に上がる魔剣というより聖剣化しているのをリリアンどころかジーニアスすら気付いていない。
更に言うと冷徹の鎧も呪いだけが消滅しており、ただの計算力が上がる鎧に変わっている。
このブルークリスタルロッドの特殊能力は元の持ち主であるジーニアスも知らない。
そもそも魔王であるジーニアスも呪いに困る訳じゃないからだ。
「教官、勇者ってどこに消えたんですかねぇ?」
「ふーむ...判らんのぉ。発動した人間の思い浮かんだ場所に転送される仕組みじゃからのぉ。」
先ほど冒険者達を送り出した時は、ジーニアスが神殿へと思って飛ばした訳である。
「お二人さん、和んでる所悪いんだけどちょっと聞いて良いかしら?その魔方陣って発動した人間の思った場所に行くって事は私が使うと元の世界に戻れたりするかしら?」
それを聞いたジーニアスがポンと手を叩いた。
「そういえばその通りじゃ!一度行った場所に行ける魔方陣じゃから異世界人のミーシャが異世界に飛べるのは道理じゃの。最初はミーシャが異世界人と思わんかったから考えもしなかったぞい。」
「やっぱり!なら良かったわ。私は家に帰れるわ。この世界は原始的過ぎてウンザリしてたのよ。んじゃ私は今から帰るわ。」
そう言ってミーシャと斉天大聖が魔方陣に入ろうとした時、ジーニアスとリリアンが止めた。
『ちょっと待って、私も異世界行きたい!』
『ワシも一度異世界に飛ぶぞい!』
ジーニアスとリリアンがハモった。
「私と同じ事を考えたわね教官?」
「うむ、一度飛べば魔方陣の設置が可能じゃからの。」
つまり何か不測の事態に陥った場合、奥の手は無数にあった方が有利なのは冒険者の基本である。
それにリリアン的に異世界の便利グッズにほ非常に興味があるからだ。
とは言ってもマリーとドルトンを放置する訳には行かないので、今回は異世界に行ってすぐに戻るつもりだ。
どうせ一度行ってしまえば、後は魔方陣でどうにかなるからだ。
「じゃが、リリアン君。君は駄目じゃ。
リリアン君は転送先のイメージに不安がある。
今回はワシだけ向かうぞい!
ああ、大臣達にワシからの伝言と手紙を渡しておくれ。
指名手配は解除してもらうからの。」
リリアンは指名手配解除の手紙を貰った。
そんな訳でミーシャは異世界の地球へと帰る事となった。
時々、リリアンがミーシャの家に訪ねて来てはアイテムを仕入れて帰る事になるのだが、それはまた別の話しなのである。




