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勇者のかわりに魔王退治  作者: ミコにゃふ
【勇者のかわりに魔王退治】
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第19話 マリーは妖術を使いたい!

 獣人の町に来てから一ヶ月が経過しようとしていた。


気候は亜熱帯なのだが、生活するには便利な文化レベルが程よく高く、この町にも慣れて来た。



リリアンは斉天大聖の修行進捗が気になって、マリーと斉天大聖の修行場所へ訪問してみた。



「そろそろ一ヶ月くらいなんだけど、妖術と仙術の習得具合はどうなってるの?」


「はっはっは!見くびっては困るじゃん!丁度先ほど究極仙術をマリーちゃんは会得したじゃん!」



「そうなの?どんなの?やっぱり白魔法?」


矢継ぎ早の質問にまあまあと制して斉天大聖は人差し指を天に向けて説明を始めた。




「虎の如く火の如く人の作らざる繊細な心も維新なれば海をのみ女を喰らう!その繊細な心をあるがままに化身し波動を飛ばす!刹那の時に身を任せ思うがままに!それがすなわち極意なり!」


「おお!」

何だか良く解らないが感心するリリアンなのだが...


近くに居たミーシャが⋯


「...リリアン、悪いこと言わないから話し半分に聞いてたほうが身のためよ。」

ネタを知ってるミーシャはリリアンに注意を促す。



『PPPNからの~!』

マリーが頭上でパンパパンと手を打つ。


『タイガー!ファイヤー!サイバー!ファイバー!ダイバー!バイバー!ジャージャー!』


そしてマリーはくるくると舞う。



それ以降何も無いのかその場がシーン...と静まり帰る。



「...で?」

リリアンが斉天大聖に説明を求めると...


「これがテンションが上がるMIXと言う仙術じゃん!」



『そんな訳あるか!!!それ往年のアキバ!単なるアイドルの応援だわよ!!』

斉天大聖の背後に居たミーシャが斉天大聖の後頭部に突っ込みを入れた。



「駄目かどうかは逆召還してみれば判るじゃん?」


何だか自信がありそうな斉天大聖であった。




「ほほう!ならば今から逆召還を行うかのぉ!」


いつの間にか、ジーニアスとドルトンも合流して来た。



「リリアン様!食料やアイテムを倉庫に積め終わっただよ!いつでも出発大丈夫ですだぁ。」


ドルトンにはリリアンがあらかじめ旅の準備を頼んでいたのだ。



ジーニアスは自分の杖を空中に掲げると、地面にピンクの光が複雑に走り、巨大な魔方陣が姿を表した。


「ジーニアス教官、逆召還って特定の場所じゃないと駄目なんじゃなかったの?」


確かリリアンは人間の町でそんな説明をされてた気がした。



「ほっほっほ!ワシを誰じゃと思ってるんじゃ。魔法を極めしボルン王なるぞ。」


「...ああ...そうでした、レベル99でしたね。」


普段がオトボケ爺さんなのですっかり忘れていた。



「では、リリアン君は呪い装備を装着するんじゃ!マリー君はドルトン君と一緒に魔方陣に待機。ミーシャ君と斉天大聖君はどうするんじゃ?」


「もちろん行くわよ。早くこんな暑苦しい世界からオサラバだわよ!」


「僕も行くじゃん!早く帰ってマリカ遊びたいじゃん。」


「あんた、帰ってもレースやりたいのね⋯」



全員の意思を確認したジーニアスは魔方陣に貯めた魔力を開放する。

すると辺り一面が真っ白な空気に覆われてリリアンはいつの間にか意識を失っていたのであった。





「......くん!...アン君!」


誰かがリリアンを呼ぶ声が周囲にこだまする。

まだリリアンのはっきりしない視界で判るのは、薄ら寒い部屋に岩むき出しのゴツゴツした壁の部屋であった。

周囲の空間は広く、特に天井がはっきりしない程高い。


リリアンはベッドに寝かされているらしく、近くには巨大で豪華な椅子と壁の方には研究所っぽい器具や本棚があり、その本棚には見たことも無い様な古そうな本が多数並んでいた。



「リリアン君大丈夫かの?」


聞き慣れたジーニアスの声がリリアンの目を覚まさせた様だ。


「大丈夫ですけど、ここはどこですか?後、マリーや他のメンバーは?」


「ここのボルン大洞穴の最期の間である隣の仮眠室で寝ておるぞ?」


いつもののんびり口調で聞き流す所であったが...



『最期の間!!!?私達ヤバいじゃん!』


ボルンどころかカルラーム大陸全体を混乱に陥れ諸悪の根源の魔王が居ると言うボルン大洞穴の最期の間である。



慌てたリリアンが腰の武器を探して気が付いた。

呪い装備は全て外れていてベッドの横に丁寧に置かれていた。

リリアン自体は薄着の軽装だ。



「やっとここに来れたのぉ。最近忙しくて放置気味じゃったからのぉ...随分汚れたもんじゃで...」



この大広間を自宅の様なジーニアスに違和感を感じるリリアン。



「あのぉ教官?ここを良く知ってる様子に見えるんですけど?」


そんな怪訝な様子のリリアンにジーニアスは好好爺な表情であっけらかんとこう言った。



「だってほら魔王ってワシだし(笑)」



『冗談は顔だけにしろよ糞ジジイ!いますぐ勇者としめ冥界へ送ってやろうか?』


『リリアン君!苦しいから首を締めるでないぞい!冷徹の鎧効果が出まくってるぞい!』


首を締めた腕を離し、地面に倒れたジーニアスの目の前にてヤンキー座りをするリリアン。



「さて教官、訳を聞きましょうかね。」


「いやぁその、リリアン君。その位置でそうやって座るとパンツ丸見えじゃぞ?」



その回答にはリリアンの腕に貯めたサンダーの魔法で答える。

ジーニアスは感電した。



「何で教官が魔王退治の為に勇者を募ってんのよ!自分を退治してくれと?」


「うーん...説明すると長いんじゃが...」



ジーニアスは語った。

そもそもボルン国含めたカルラーム大陸では、魔力を動力にした機械産業が発達しているのだが、最近エネルギー効率が著しく低下している事が判明していた。



理由は単純に世界全体の魔力枯渇。

魔力発生の源であるアビスの人口低下が理由らしい。

確かに薄暗い地下世界であるアビスはモンスターも多く、好んで住みたい人間など居る訳も無い。


犯罪者等を送り込む事で維持して来たものの近年限界が見えて来た。



そこで各地に穴を開けてモンスターを配置し、運悪く死んだ冒険者を魔界に送り込む計画を立てたのである。



「なるほど、じゃあ教官は私に殺されなさい。世界を平和にしてあげるから。」


いつの間にか手にした魔剣モラルイーターを手にしたリリアンがユラリとどす黒いオーラを纏いながら立ち上がった。

目の前の諸悪の根源を倒せば見事に解決だ。



『待て!リリアン君。そう単純な話しでは無いのじゃ!話せばわかる!』


「うん判るよ。とりあえず教官が悪いって事が。」



リリアンは勇者募集に志願してからアビスでの苦労が脳裏に走馬灯の様に巡る。



「今、この大洞穴システムを壊すと地上の産業が止まってアビスより酷い社会になるぞい。

人間は楽を覚えてしまえば後には戻れなくなるもんじゃよ。

リリアン君の必須アイテムの丸太小屋も稼働不能になるしのぉ。」


それを聞くとリリアンの手は止まった。

荷物が多く、トイレや身だしなみで困る女性冒険者はポータブル丸太小屋は必須アイテムであるからだ。



リリアンとジーニアスの小競り合いも落ち着いて来たら、リリアンはふと疑問に思った。



「ここまでたどり着いた冒険者ってどうなるの?この大洞穴って今まで攻略された事無いんでしょ?」


「...まぁ...あれじゃな。やっぱり聞きたいかの?」


思わせ振りなジーニアスの目線の先には赤黒いシミがチラホラと点在していた。



「うーん、教官を退治した方が平和な気がするんですけど~?」


「確かに一時的に平和になるじゃろなぁ、カルラーム大陸だけなら。」


ジーニアスは大ボスの部屋のモップ掛けを始めている。

そして余ったモップをリリアンにも投げた。

そのモップを受け取ったリリアンはジーニアスの隣に並んで同じ様に掃除を始めた。



「どういう事ですか?」


「リリアン君は他の大陸に行った事はあるかの?行けば判るがカルラーム人は他の大陸じゃ悪魔扱いじゃ。

すなわち義憤に燃えた他国は常にカルラーム大陸を滅べば良いと考えておる者も多い。

確かにカルラームはモンスターが多い...と言うよりモンスター発生の元凶じゃからの。


ではカルラームは大人しく他国に退治されろと国民に言えるかね?

残念じゃがワシはそこまでお人好しでは無いし、リリアン君はアビスを漫遊してモンスターが全員が悪では無い事を知ってるじゃろ?


全ての人間や種族はそれぞれ事情があるんじゃ。


じゃから他人の価値観を勝手に押し付けられて、こちらが黙って大人しく殺されるいわれはこれっぽっちも無いわなぁ。」


ジーニアスの長話が終わる頃には大ボスの部屋は綺麗になっていた。



「そろそろ寝てるマリー達を起こします?」


「そうじゃのぉ、ワシは侵入中の冒険者をモニターで監視しとるから、リリアン君に任せるよ。」


そう言いながらジーニアスは机にある端末機を操作し始めた。



ボルン大洞穴は999階層あり。

所々で歴代の冒険者が築いた休憩所も存在する。

また、ボルン大洞穴の入り口には冒険者の町もあり、世界中から集まった何百人と言う冒険者が日々攻略に勤しんでいる状況だ。



「へぇ~面白いわね。何だかゲームマスターみたいだわね。」


『うわお!ミーシャ居たの?ああびっくりした。』


リリアンの背後にはいつの間にかミーシャが立っていた。


隣の部屋で寝ていた所、リリアンとジーニアスの話し声が聞こえて来た方向に歩いたら丁度ジーニアスが端末機を起動した時に出くわした次第である。



「そうじゃのぉ、ミーシャ君の言ってる事は的を得ているぞい。

実際、この端末機でボルン大洞穴の難易度調整も可能じゃぞい。」


「へぇ~、ちょっと面白いですね教官。こっちのボタンは何ですか?」

と言いながらリリアンは赤いボタンを押してみた。



『あ!こらリリアン君ダメじゃぞい!

今、浅い階層でネームドモンスターが発生したぞい!』


モニターでは冒険者達のど真ん中に発生した強大なモンスターが暴れて冒険者が阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。



「あ~あ、リリアンやらかした~。」


妖怪であるミーシャは人間の味方ではあるものの人間の生き死ににはさほど感慨は無い。



『どうしよう教官!私、人殺しちゃった!』


リリアンがうろたえる。



「大丈夫じゃリリアン君。冒険者達を見てみぃ?」


モニターに映った冒険者は仲間をネームドモンスターに殺されたものの、悲壮感と言うより少し喜んでいる様に見えた。



「何ですか?この人達マゾですか?」


「ネームドモンスターは驚異じゃが、倒した時に得られるドロップ品が強力なんじゃよ。」



殺された冒険者は待機していた僧侶に生き返りの魔法を受けて立ち上がった。


「ほう!僧侶の居るパーティーとは強そうじゃのお。」


何だかジーニアスも楽しそうだ。



「ところでリリアン君。このモンスターを倒した時の報酬をどうするんじゃ?」


『ええ!私が決めるんですか?』


「だって召喚したのはリリアン君じゃからの。」


「...じゃあお詫びに豪華なのお願いするわ。」



かくして攻略組の冒険者達に第5階層には隠しモンスターが存在していて、豪華な装備品を落とすという噂が流れる事になるのであった。



「何か私が魔王になった気分なんですけど?」


「ははは、エルダーリッチ君の言い方をすれば(うっかりJk魔王)にレベルアップしたのぉ。」



『そんなレベルアップ嬉しく無いわよ!』


リリアンの絶叫が大ボスの部屋にこだました。



「おはようございま〜す!キラリーン!」


「マリー⋯そのキャラのままなのね⋯」


「まぁ大丈夫じゃろ。もうここらアビスじゃないから、汚染が抜けてるなら元に戻るんじゃないかのぉ。」



「それにしても、薄暗い所じゃん。仙術的はもっとイルミネーションして欲しいじゃん。」


「イルミネーションしたボス部屋は嫌じゃのぉ⋯」



ドルトンも起きてきて全員集合した時、端末機から警告が鳴り響いた。


画面には赤い文字で接近中と点滅している。



「教官、これ何ですか?」


「これは998階層に冒険者が来たと言う意味じゃよ。

そんな訳で支度するぞい!リリアン君も手伝いなさい。」



ジーニアスの説明によると998階層は長い一本道で攻略には最短でも半日かかるとの事だ。


リリアンとミーシャはジーニアスに連れられてやって来たのは、リリアンが目覚めた端末機のある部屋の隣にある最終決戦の間であった。


そこには巨大な椅子とその椅子に座っているのは巨大なラスボスで、後はだだっ広い空間があるだけのシンプルな構造になっていた。



ラスボスは頭は牛っぽい動物で手は何本もあり、身体全体を巨大な魔法使いのローブを来ていて、いかにも強そうな出で立ちなのだが...


「そいつはワシが留守の時に起動しとる巨大人形じゃよ。

今はワシが居るもんだから動かんよ。」



ジーニアスは椅子の後ろのレバーを引くと巨大ラスボス人形が地面に収納された。


それと同時に天井いっぱいに侵入してきた冒険者達の姿が浮かんで来た。

そしてその冒険者の中に一人だけリリアンに見覚えがある人物がいた。

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