第18話 マリーは妖術を習いたい!
何故走らされたか解らないレースは幕を閉じた。
優勝は基本的に真面目一徹で星一徹な犬人が優勝し賞品にガソリン一年分が贈呈された。
そしてリリアンは思った。
『結局何だったのよ!!』と
そもそも犬と猫の争いではあったが、
そもそも気まぐれなミーシャには勝負なんてどうでも良く、犬人が優勝したところで何が変わる訳もない。
強いて言えばウェアウルフがとても満足そうであるくらいか。
獣人の町のファミレスで、いつものリリアン一行の五人に加えて斉天大聖の計六人がモンスター召喚の入口に突入計画を立ててる訳なのだが、
実は一つの問題が発生していた...というより問題を先伸ばししている現実が迫っていた。
それはモンスターのふりしてダンジョンに入るのにあたり、白魔法属性のマリーだけは呪い装備でもモンスターとして誤魔化しが出来ないのだ。
そうなるとマリーだけはアビスにある人間の町にて本来の魔界の出入口で出国するしかないという結論になった。
マリーはリリアンと一緒じゃないと嫌だと一人だけ帰るのを拒否しているのだ。
「あんたさぁ、子供じゃないんだから一人で帰れば良いじゃんね。」
ミーシャがテーブルの上のクリームソーダのアイスをこねくり回しながらぼやく。
口の周りがアイスでベタベタなのでしかたなく隣のリリアンがナプキンでミーシャの口を拭いてあげる。
こうして見ると姉妹に見えるがミーシャは男の子である。
ミーシャの茶色のふわふわドレスは猫又であるミーシャの毛並みが変化しただけなので本人の意思とは無関係な女装となっている。
「そうじゃのぉ。リリアン君は指名手配犯じゃから仕方ないし、わしも正規のルートで帰ると城に連れ戻されて不都合じゃからのぉ。」
ジーニアスは人間の町では重鎮であるドルトンにマリーを人間の町に連れていってもらう事を提案したのだが、それはドルトンにも拒否された。
ドルトン的にはリリアンの側を離れる気は一切無いのだからだ。
そんな結論も出ない様な平行線の会議を黙って聞いていた斉天大聖が口を開いた。
「一つだけ...マリーの要望を叶える方法があるじゃん?」
それを聞いたリリアンがとてつもなく嫌な予感がした。
だってモンスターになれないならモンスターそのものになれと言うつもりじゃないかと思ったからだ。
「ちょっと、マリーに死ねとか言ったら全身の毛をサンダーで焼くわよ。」
リリアンがドスの利いた声で斉天大聖に注意する。
「惜しいけど違うじゃん。
そもそも僕だって白属性だけど、多分モンスターとして認識されるじゃん?」
「ってもあんた人間じゃないんでしょ?」
「いや、僕は元々人間で仙術と妖術を覚えたからじゃん?
だからマリー、君は僕と契約して魔法少女に...じゃなくて僕の弟子になって妖術を習えば良いじゃん。」
それを聞いたミーシャはクリームソーダをこぼす勢いで立ち上がった。
『あんたそれ思いっ切り外法じゃない!私達妖怪の一番のタブーよ!』
ミーシャの世界で普通の人間が妖術により心が悪に変わったり、人間が妖怪変化して人々を襲う事件などもある。
極希に修行を極めた僧侶が仙人と呼ばれたり、日本の修験者が極めて天狗と呼ばれる存在になるケースがあるにはあるが...
『それ!お願いします!』
マリーがやる気を見せたがミーシャが猛反発する。
『ダメよ!最悪人間やめる事になるわよ!』
『嫌よ、リリアンと離れるのは絶対に嫌!』
頑固なマリーを見てミーシャはリリアンにそっと耳打ちする...
(ねぇ、あの娘ってソッチの気があるん?)
(ソッチ?)
(なんか百合っぽいのよ、しかも微妙に病んでる感じだし)
(さぁ???昔から頑固な性格だし?)
ちなみにリリアンは恋愛感情にはとことん鈍い。
昔から夜這いのふりしてマリーの寝室には良く忍びこんだが、特にそんな兆候を感じなかったのもある。
「って事はアビスの魔力に精神汚染されてるわね。」
「うわっマジか!」
それを聞いたリリアンもさすがに青ざめた。
アビスに長年住むと角が生えたり、指が増えたりするのは聞いていたからだ。
精神汚染も当然ある。
対象法は一つ。マリーの体内の汚染された魔力を消費する必要がある。
仮に強引に帰れらせて、精神汚染されたまま元に戻らず、女性好きな女の子が女性客に色目を使う薬局になる。
もしくはマリーが実家に帰ると恋人がリリアンだと紹介したとする、そうなるとリリアンはマリーの親父さんに背中を刺される想像が出来た。
「...うん、マリー妖術覚えよう!それで汚染を抜こう!」
リリアンの了解を得たマリーが喜んでリリアンにぎゅっと抱きついた。
普段から友達同士で喜ぶ時には軽く抱き合う事はあった。
先程のミーシャの指摘でリリアンは気がついてしまった...
明らかにマリーはリリアンに抱きついた時、頬を染めて性的に興奮しているのを。
「ちょ!マリー!一回落ち着こう!」
リリアンはマリーをひっぺがした。
「とにかく斉天大聖さん、マリーの修行を頼むわ。私はもう一つの問題を片付けなきゃいけないのよ!」
これも先伸ばししていた問題ではあるのだが、4つの呪われた装備を本当に装備して大丈夫なのかと言う事だ。
こればかりは装備しなれば判らない博打である。
最悪、装備によって暴走したリリアンが町で暴れる可能性もあるし、そうなると退治されるのはもっと嫌であるからだ。
「ふむ...それについてじゃがリリアン君、ここで装備してみい。」
ジーニアスがお気楽にそんな事を言って来た。
「はあ?この前、装備したら外せないって教官言ってたじゃん!」
「大丈夫じゃ、ただしそのブルークリスタルロッドは手放すでないぞ?」
ジーニアスの言う通りにブルークリスタルロッドを持ちながら、何とか魔剣モラルイーターと魔鎧冷徹の鎧を身に付けた。
「......。」
リリアンは何も喋らない。
「どうじゃね?リリアン君。」
「ふっ...何も問題ない。我はいつも通りだ。」
武士の様な口調に変化した。
「リリアン様!格好いいだ!オラ惚れ直したズラ...」
「ああ?なんだ腐れ豚が!我に気安く声を掛けるなよ。首と胴体にお別れを言いたいのか?」
「あっこれ!ドルトン君。今はリリアン君に近づいてはいかんよ。」
ジーニアスの忠告は間に合わず、リリアンがドルトンの首根っこを片手で掴む。
黒いオーラと殺されそうな鋭い眼光でドルトンを睨むリリアン。
ボスキャラの風格だ!!
ドルトンは、そんなリリアンを見ても恍惚や憧れを持った表情をリリアンに送る。
「...そういやオークってゲームじゃボスキャラに媚びるキャラだっけか。」
雰囲気が変わったリリアンを見ても驚かないミーシャが感想を漏らす。
「...いやあれは単なる女好きじゃん。」
斉天大聖も注文したクリームソーダを飲みながら返答した。
とにもかくにも、レースが終わって一段階したところで本来の目的であるボルン大洞穴にモンスターとして潜入計画を実行するのであった。
その後リリアンは、殺気そのままだが暴れる様子も無く大きなソファに悠然と座っている。
「リリアン様!オラ肩をお揉みしますだ!」
ドルトンが媚びへつらいながらリリアンの肩に近づくも...
「腐った手で触るな!我が汚れる!」と睨むと、ドルトンは「ははぁ」と土下座をする。
もはや、この部屋に居るのはボスと部下である。
「んでリリアン、気分はどうなの?」
ミーシャが近くの屋台で買ったオレンジとアップルのジェラートを食べながらリリアンに質問する。
「...別に?特に変わった所は無いが?」
口調変化に関しては自覚は無い様子。
「ふむ、どうやら冷徹の鎧効果は残ってるがモラルイーターの理性破壊は制御されてる様子じゃのぉ。」
ジーニアスも興味深い様子だ。
ちなみに斉天大聖とマリーは時間がもったいないので先ほどから仙術と妖術を習いに行ってる。
元々白魔法の素質のあるマリーは直ぐに使える様になるとの事らしい。
「ところでお爺ちゃん、その禍々しい装備はちゃんと外せるんでしょうね?」
リリアンが仮に急に暴れてもミーシャは別に怖くはないが、せっかく買ったジェラートが無駄になったら嫌だから。
「うむ、ブルークリスタルロッドは攻撃力は皆無じゃが装備者は呪い耐性が付くんじゃよ。
だからボルン大洞穴に向かうリリアン君にロッドを盗んでも黙ってたんじゃが⋯
大臣達が廊下で嬉しそうにロッドを振り回すリリアン君を見ちゃったもんだから指名手配せざるを得なかったんじゃ。
まあその辺りはリリアン君が間抜けじゃったと言う訳じゃな。」
それを聞いたミーシャは笑っている。
「...おい、貴様ら。我を愚弄すると消すぞ...」
リリアンが怒りをあらわにすると何故かドルトンが手持ちの槍をミーシャに向ける。
「...はいはい、部下とボスごっこはもういいから。」
「こちらも質問なのじゃが、あの斉天大聖殿はどういった存在なのかな?」
ジーニアスの問いに10秒程沈黙した後、ミーシャが自信なさげに...
「大まかに言うと神様...って言えなくもないかな。
妖怪って現世の人間のサブカルチャーの影響を受けやすくて、昔は普通の人間の格好だったけど西遊記って物語が一般的になると猿の化身に変わった感じ?」
その説明でジーニアスが納得したのを見て逆にミーシャはジーニアスを不思議に思った。
「お爺ちゃんってさ...何者?」
「この国の王じゃよ。ただ、訳あってお主達が居た異世界の存在も知っとる。」
実はジーニアスは若いに頃冒険者をしていた時、異世界人に遭遇した事があり、カルラーム大陸の地上の町が産業や工業が発展しているのは異世界の知識なのだ。
「どうりで、この町って私の拙い知識なのに妙に受け入れられた訳ね。」
この町で発展したバイクとアスファルトの事である。
「それはそうと...お喋りなリリアンが無口だと気持ち悪いんですけど~?」
「???我はいつも通りだ。そうだろうドルトン。」
「はっ!その通りでございますだ!」
とりあえず、絡みづらいリリアンには装備を外して貰う。
リリアンが鎧を脱いでる時はドルトンが妙に残念そうだった。
「何と言うかモンスター冥利に尽きるズラよ。」
「まあ私達妖怪も習性に縛られてるから解らないでも無いわよ。」
装備を外したリリアンはキョロキョロと周りを見た。
「何かスッキリしていた頭がモヤがかかった気分なんですけど。」
「そりゃまあ、冷徹の鎧は知性がフル活動して計算高くなるからのぉ。」
「ふーん...何かずっと着ていたい気分だわ...」
リリアンがバーサーカーレベル1になって判った事がある。
全ての悩みが飛んで解放された気分になるのだ。
それは麻薬の様な甘美な誘惑だ。
「...凄く危険な物体ね。」
この冒険が終わって家に帰ったらジーニアスに預けて封印を誓うリリアンであった。
斉天大聖のマリー仙術特訓待ちのリリアンとジーニアスとドルトンとミーシャはマリーの様子を見に来たのだが...
「ねぇミーシャ、あれ何?」
いつも純白のふわふわドレスのマリーが、Tシャツとブルマになって光る棒を持って振り回していた。
斉天大聖もTシャツになっていて、そのプリントに一年一組「お兄ちゃん」と書いてあった。
「斉天大聖ってさ、超が付くオタクなのよ...しかもアイドルオタク。」
斉天大聖が日本に来た初日、秋葉原で迷っていた時に偶然にアイドルのコンサートを見た時からドハマリしたのである。
「マリーがおかしなキャラに変化しない?」
リリアンが指した先には斉天大聖とマリーがオタ芸の基本であるロマンスを踊っている。
「大丈夫じゃない?知らないけど。」
『んな、無責任な!』
「じゃあさ、ややオタクに感化されたマリーと夜這いも辞さない百合系エロスマリーとどっちが良い?」
それは選択肢でも何でもない。
ミーシャとリリアンが会話していると、マリーがリリアン達が来ている事に気が付いた。
『ヤッホー!リリアン。みんなのアイドルマリーちゃんだお!キラリーン!!』
一瞬の沈黙の後、リリアンは斉天大聖に詰め寄り片手で首根っこを締め上げた。
「...ちょっと待て貴様。マリーに何を吹き込んだ?」
ちなみに冷徹の鎧は着ていない。
「どおしたのリリアン。マリーちゃんは大丈夫だお?」
「その口調だと痛いアイドルおばさん思い出すからやめて~。」
一方その頃、天空国のとある一軒家。
「へくちっ!!!」
「どうしたのお母さん風邪?」
「ううん、みんなのアイドルはいつも噂されるものなのよ!」




