第17話 キチキチマシン猛レース(本戦)
とうとう獣人レース開催日がやって来た。
八の字コースは上下区画それぞれ片道20キロメートルあり全長40キロメートル。
その町を四周するので160キロの大爆走だ。
立体交差の下がスタート地点とゴールを兼ねていて、審判席や貴賓席もスタート地点に用意されていた。
天気は晴れ。
絶好のレース日和と言えるのだが、アビスを覆う赤土の壁によりいつも夕焼けの様に真っ赤なのでいつも通りである。
そして審判席で一つの問題が発生していた。
審判長をやるはずのドルトンが過労でダウンしてしまったのだ。
その姿は以前のデップりしたお腹も少し引っ込み、もはや豚仮面のあんちゃんって感じである。
「あんたさあ、ちょっと頑張り過ぎなのよ。」
「...面目無ぇだ。オーク代表のおっ父の代理なんでついつい張り切ってしまっただよ...」
ドルトンが体調不良でダウンしたので、貴賓席のジーニアスがスタートの合図を行う事になった。
国王自ら身分を明かしてスタート台に立つ。
さすがのジーニアスも今日はお気楽じいさんの仮面を脱ぎ捨て、王族の衣装を身にまとい国王たる威厳に満ちている。
これにより単なる犬猫争いがボルン国王主催レースに格上げしてしまったのであった。
「...ここまで派手じゃと城の連中に見つかりそうじゃのぉ...でも楽しいのぉ。」
ジーニアスは楽しく諸国漫遊中なので正直なところ、まだ城へ帰りたくなかったりする。
スタート地点には救護班もあり、そこにはマリーが各種薬草を揃えてスタンバイしている。
マリーの持つ白魔法免許証は地上でば医師免許に等しく、アビスにおいては白魔法使いは基本的に居ないのでプラチナチケット扱いの超VIPなマリー。
リリアンは本戦招待選手としてむりやり出場。
レースを他人事で済ませるつもりのはずが豪快に巻き込まれた結果となった。
予選に参加していないリリアンはスタートグリップの最後尾にスタンバイした。
リリアン以外にも数人が最後尾組がいる。
どうやら本戦は予選に出場しなくてもエントリーが可能で、
予選の結果の時間差が、いわゆるハンディキャップ方式となる。
例えば一位と二位に5分差があるとすれば二位のスタートは一位の5分後となる。
つまり最後尾組は時間換算すると、半周遅れスタートとなるらしい。
「まあ、どうでも良いわ。怪我さえしなきゃ良いし。」
スタート横のピットエリアにはマリーが何やらリリアンに向かって叫んでいるが、おおかた頑張ってと言ってる様子だ。
ジーニアスはリリアンの姿を見つけると握りこぶしに親指を立ててウインクしながらグッジョブと言いたいらしい。
何がグッジョブなのか良く解らないが早く始まってもらえないかな~とリリアンはお気楽に思っていた。
ここでリリアンの格好を説明しよう。
獣人の国は極めてむさ苦しい気候である。
町の住民も涼しげな軽装なのは当然である。
んでリリアンなのだが、水着のビキニブラにへそ出しでミニスカートだ。
この時点で予選トップ集団は既にスタートしており、半周回ったトップ集団がスタートを待っているリリアンの横をすり抜けた時、リリアンのミニスカートが威勢良くヒラヒラ舞っていた。
「しまったぁぁぁ!!!」
あわててミニスカートを押さえても既に遅く、見物人の獣人ではない普通の男どもがリリアンの下半身をチラチラ見ている。
これは男の悲しいロマンシング性(SAGA)である。
目に入れば絶対に見てしまうのだ。
幸いなのは獣系の人間はリリアンのパンツに興味が無いくらいか。
マリーを呼んでスカートの上を抑える腰当てでも頼もうと思った矢先、リリアンのスタート時間が訪れてしまった!!
「こんちくしょおおおおお!」
掛け声に色気はないがサービス満点なリリアン号(普通の電動アシスト自転車)がスタートした!!
ちなみにだが、マシントラブルやドライバーが走行不可能では無い限り、この獣人レースはリタイアが認められていない。
『ふんがぁぁぁ!!!!こんなレースとっとと終わらせてやるぅぅぅぅ!!』
したがってリリアンは猛ダッシュでアシスト自転車を漕いでいた。
「あら、恥女さん良い眺めだわね。」
いつの間にかリリアンはミーシャに追い付いていた。
『誰が恥女よ!!てかこの前の練習の時に教えて頂戴よ!!』
「別にあんたのパンツに興味無いもん。」
もしドルトンが元気ならば、さぞかし至福のレースだっただろうが残念ながら救護場所で安静中だ。
もはやチラリズムではなくモロ出しリリアンではあったが、少し心の余裕が出たのか周囲の異様な状況に気が付いた...と言うか焦げ臭かった。
「あのぉ...ミーシャさん?周りが燃えてる様に見えるのは蜃気楼かな?」
「スポンジってさ...燃えやすいの知らなかったの?」
ミーシャがそう言いながら何かをリリアンにぶつけた。
すると、ぱしゃ!っと軽い音と共にリリアンがずぶ濡れとなった。
「ほら、私からの差し入れだよ。」
どうやらミーシャが投げたのは水風船、さしあたりリリアンの肌の火傷は回避出来そうだが⋯
「......!!」
リリアンはあわてて胸を押さえた。
リリアンのビキニブラは白いのだ、白い水着が濡れると...
「んじゃ頑張ってね~恥女さん。」
『あのガキ殺すぅ!!』
リリアンの肌の火傷はしないで済みそうだが、心の火傷は半端ない状態だ。
その直後、リリアンの背後から人間の男のレーサーがリリアンを抜こうとした時、リリアンのあられもない姿を思わず見てしまいカーブを曲がれず正面のガードレールに接触大破してしまいリタイアした。
「これは...凄く恥ずいわ...」
片手は透けた胸を押さえる為にミニスカートは完全無防備で、スカートも濡れているので時おり太ももに張り付いて気持ち悪い。
炎の熱気と走行の風でとにかく早く乾かそうと必死に急ぐリリアンだが少し勘違いをしていた。
ミーシャの投げた水風船に入っていた液体は水ではない。
実はヌルヌルローションなのだ。
ローションはシャワーでも浴びないかぎり落ちないのだ。
「これは⋯どうしたものかな。」
馴れない自転車の片手運転になるべくスカートがめくれない様に走ると、どうしても遅くなってしまい人目に晒される時間が逆に増える悪循環。
それに道路には障害物のスポンジの残骸を避ける時は両手でハンドルを握る必要があり、ハンドルを切るとローションの効果でブラがズレるのも困りものだ。
そんなリリアンが葛藤と戦っている頃、救護班でひと悶着起きていた。
絶対安静のドルトンがベッドから出ようとするからである。
リリアンの状況を耳にしたドルトンがゾンビの如く起き上がりレース場へ向かおうと必死だ。
「駄目ですよぉ。リリアンから絶対安静って言われてるんですからぁ。」
マリーがドルトンを必死に止める。
「離してくんろぉ!オラはリリアン様を見たいズラぁ!!」
ドルトンのエロスパワー全開。
八の字コースの上半分を回り終える頃、スタート地点の上を走る立体交差に差し掛かるのだが、数人のレーサーがバイクを降りて下に向かって何かを投げていた。
気になったリリアンもアシスト自転車を降りて下を覗くと観客がコース上に降りて何かを拾っている。
何かを投げている張本人はウサギ人の女性で、彼女が着ている大きなエプロンにはピョン子菓子店の刺繍が施されていた。
「何をやってんの?」
リリアンが声を掛けるとウサギ人の女性がクリッとした目でリリアンを見つめ返して箱を手渡した。
「貴方も手伝って?うちの新製品なのよ。」
要するにお菓子を観客にばらまいて自分の店のアピールをしていただけだった。
別にレースを急ぎたい訳でもないリリアンは、せっかくなので箱の中のお菓子をウサギ人の隣に立ってばら蒔く...のだが。
主に人間の男の観客が大騒ぎを始めた。
ミニスカートのリリアンが絶妙なアングルで立っていれば当然と言えば当然だ。
リリアン本人は箱を抱えているので見られてる自覚は無い。
この日を境に、獣人の町にリリアングラビア非公式ファン倶楽部が発足されるのだが、その事にリリアンが知るすべは無い。
そんな事はさておき、お菓子撒きのファンサービス中にリリアンは箱の中に面白い物を発見した。
「え?余ったお菓子?お駄賃にプレゼントするわよ?」
ウサギ人女性の了承を得て、リリアンは自分の計画に酔いしれていた。
その時のリリアンの顔はデスノートの八神月よりも悪い顔をしている。
ただ立体交差に設置された電光掲示板ビジョンに映されたリリアンのモロパンツ丸見え。
いい加減気が付いてと下の観客の近くにある救護室のマリーがハラハラした表情で立っていた。
「ほっほっほ、リリアン君は盛り上げてくれるのぉ。」
貴賓席のジーニアスも好好爺な表情で観客用のマルチビジョンに映し出された丸出しリリアンを見て呟く。




