第16話 キチキチマシン猛レース(予選)
獣人の国では、現在着々とレースの準備がとり行われていた。
スタート地点には大会運営委員会の仮設事務所が設置されており、レース参加のエントリーが受付を兼ねていた。
獣人の町は、元々大まかに町が四分割されていた。
町には東西南北の舗装道路と、町の外周を囲む舗装道路がある。
分かりやすく言うと田の字に舗装道路がめぐらされており、右上と左下の区画を使う8の字型のターマック形式レースとなっている。
右下と左上の区画はレースが邪魔にならない様に生活用かレース観戦客の移動用。
田の中心は立体交差と電光掲示板になっており、レース経過は町の中心部に行けば大体把握出来る仕組みになっていた。
まさにレースの為に設計された町だ。
元々、獣人の町自体は古くからあった。
猫人、犬人、亜獣人、余所者用が元々分かれていたのが舗装道路を引くのにとても都合が良かったのだ。
レース文化も昔は徒競走だけなのが、つい最近ミーシャが車輪とモーターをもたらしたせいで、ルールがその都度曖昧なのもカオスでエキサイティング。
車種は二輪以外でも可能で特に決まったレギュレーションも無いので妨害でも何でもありのルールである。
町中がハイテンションになっている最中、リリアンが一人だけ不機嫌であった。
「あのさぁ、別にこんなイベントに参加しなくて早く逆召還で地上に帰りたいんですけど~...」
「何を言っとるリリアン君、町に活気があるのは良い事じゃぞ!」
ジーニアスは、国王という立場上町が盛り上がる事は喜ばしい訳で、見届けたい気持ちも解らなくはないのだが...
「あらあら、リリアンとても皆さんが楽しそうで良いですよ。私も販売が楽しいのです。」
マリーもレースイベントには乗り気だ。
これまでの道中、マリーが採取し過ぎた薬草もいい加減増えすぎた。
そこで、マリー特製のドリンク剤を露店販売してみたら意外と売れ行きが良い。
そうなると財政担当リリアンにとっては、旅立ち時より増えている資産を考えれば、リリアンも文句を言いつつも参加しているといった具合だ。
ドルトンとミーシャは町外れにある草レース場で参加者のマシンチェックをしている。
いくらレギュレーションフリーとは言えども、常識を越えた殺意満点のマシンは町中を走るレースだけに却下されるからだ。
現在受け付け担当はジーニアスである。
国王みずから受け付けはどうかと思うリリアンだが、ジーニアス本人はいたく気に入ってる様子。
「教官、王宮衛兵に見つかっても知らないよ~」
「大丈夫じゃ、ボルン城の連中は獣人の国がこんな様子になっとるなんて夢にも思っとらんわ。」
『ちょっと待ったぁ!』
エントリーの受け付けも終了間近になってきた頃、一人のリーゼントに革ジャンの男が、往年のお見合い番組の如く乱入して来た。
「その犬猫勝負に異種連合も参加させてもらうぜ!」
異種連のリーダーであった。
「この町のリーダーを決めるんだろ?なら少数派も権利があるはずだ。」
異種連のリーダーが受け付けのジーニアスではなく、リリアンの隣にいるミーシャに話し掛けた。
「参加は自由よ。私は別に獣人の町のリーダーが誰だろうと知った事じゃないのよ。」
この基本的に終始投げやりなミーシャの態度と性格が、猫人には反社会的で格好良く見えるらしい。
ミーシャが何を言っても「兄貴!カッコいい!」とプラスにとらえてしまう。
「リリアン!レース後で逆召還とやらに行く時に私も絶対呼びなさいよね!置いて行ったら承知しないわよ!」
リリアンにそれだけ伝えるとミーシャは猫人達の群れへと向かった。
「ねぇ教官、ミーシャどこに帰りたがってるのかな?」
「多分じゃが異世界じゃないかのぉ、その国は獣人の亜種もいるらしいからの。昔のワシの仲間にサムライもいたからのぉ。」
「ふーん、なるほど。ミーシャの国へ行くとなると船で何ヶ月もかかりそう。」
リリアンは異世界を、この星のどこかにある国だと思っている。
さて、問題の獣人国レースだが犬人と猫人と異種連合以外に個人出場を含めて30人のエントリーが決定した。
翌日に草レース場にてタイムトライアルを行い、タイムが良い順番に本選のスタート位置が決定する。
わりと暇なリリアンが予選会場の草レース場を見物に行くと、かなり色々な車種がある事に驚いた。
車種の形状の豊富さから察するにレースそのものが、速さだけで競うものではないのを感じた。
大まかに言うならタイヤの数である。
二輪車は燃費が良く速くて小回りが利く反面、乗り手が無防備で妨害攻撃に弱い。
攻撃時も片手はハンドルを持ったままだから攻撃力も低い。
三輪車はスピードは二輪車より劣るものの、足で舵を切る事が可能な為、乗り手の両手が結構自由なので妨害攻撃をやりやすい。
四輪以上は小回りを捨てた防御特化型。もしくは二人乗りでナビシートの人が攻撃に徹する事が可能だが、車体が重いぶんだけ燃費とスピードが遅いといった具合だ。
いよいよ予選が始まるとハチャメチャ具合が予想以上に酷かった。
てっきりリリアンはレースと聞いていたのでスタートからゴールまでをヨーイドンで行うものと思っていた。
まず全員スタート時に鉄パイプ等を背中に仕込む。
スタート前は攻撃禁止なのか全員静かであった(殺気はムンムン)。
スタート直後は鉄パイプ同士の殴り合い勃発カオス状態。
ある程度距離が離れると物の投げあいが始まった。
観客からの物の投げ入れもあり、それを拾って使うレーサーもいた。
「何だこれ?」
リリアンが審判席に偉そうに座っているドルトンに聞いた。
相変わらずタキシードのままなので偉そう度に磨きがかかっている。
「獣人は野蛮ズラ、どうしても血みどろの争いは避けられないだよ。まだルールがあるぶん前よりは大人しくなっただな。」
「...これで大人しいのか...」
まず二輪車が逃げる。
ここまでは良いのだが、スピードの遅い四輪以上が周回遅れになるまいと、周回遅れになる瞬間に車に搭載している武器で襲う。
周回遅れに失敗した二輪車が道路外に飛ばされ、リタイアもしくは復帰に時間がかかり、逆に周回遅れになるといった具合か。
三輪車は背後の四輪以上に気をつけながら、四輪以上からの攻撃で失速した二輪車にとどめを刺す。
鉄球みたいな物まで投げている者もいる。
「あれ危ないんじゃない?」
「鉄パイプ以外は全部スポンジだから大丈夫だべ。」
『あれ全部スポンジかい!!』
良く見れば鉄球に見える球がアスファルトの上で軽く跳ねていた。
しかし邪魔なのは確かである。
二輪車はスポンジでも転倒してしまうし、三輪車も危ない。
そうなると、唯一四輪以上はスポンジをものともしないので有利か?
全員が持ってる鉄パイプは攻撃用に使えるが、うっかり奪われて手放すと致命的なので、降りそそぐスポンジを打ち返すバットとしての役割が多い。
そろそろ予選が終盤になって来た。
二輪車の半数が妨害により要メンテナンスで四輪以上は燃費効率の悪さが響き上位10位以内は厳しく、三輪車と残った二輪車での上位争いとなっている。
ちなみにミーシャは三輪車タイプで5位前後をキープしていた。
ミーシャの三輪車の特徴はモーターが他より小さく、前輪に足こぎペダルが付いている。
要は電動三輪自転車である。
見た目が幼女のミーシャがキコキコ漕いでる姿は妙に似合ってて可愛い。
ミーシャは決してスピードは速くはない、他の出場者との違いは鉄パイプ装備ではなく手にはめた大きな球だろう。
だれかが近づくと巨大なスポンジグーパンチが炸裂するのみだ。
「ミーシャのあれって盲点だよね。スポンジパンチは四輪に効かないだろうけど、三輪車だから四輪より速いもんねぇ。」
「リリアン様、そろそろトップが決まったズラ。」
ドルトンがゴール地点を指した先には二輪車の犬人が悠然と仁王立ちしていた。
犬人リーダーのウェアウルフだ。
ウェアウルフの二輪車の特徴は、なんとモーター無しである。
細いフレームに細いタイヤに変則ギアチェン、つまりぶっちゃけロードバイク式自転車だ。
いかにも脚力特化のウェアウルフらしい。
上位四名は全て犬人で全てロードバイクだった。
ロードバイクの利点は燃料補給無しで本人達の有り余る脚力の力業。
常に集団をキープし、定期的に先頭を交代し風避けとなり体力消耗をなるべく控えるチームプレイ。
まさに犬人らしい集団行動であった。
その後ミーシャの三輪車が到着した。
犬人四天王はミーシャに対して偉そうな態度であるがミーシャは気にしていない。
「このレースってさ、車輪にさえ乗ってりゃ良いだけなのね」
リリアンが苦笑いしながら感想を独り言で喋っていると...
「そうよ、今頃解ったの?この世界のモーターって思ったより出力無いのよねぇ。
私の世界で言うと二気筒のスーパーカブくらいの排気量しか無いんじゃないかしら。
私が見た事があるバイクってタケルのスクーターしか見たことないから。
テレビでF1レースは観た事はあってもエンジンの仕組みは大まかにしか理解らないもん。」
と、ミーシャがリリアンに解説してくれるものの、ミーシャの喋る単語の半分以上は理解不能なリリアンなのであった。




