第12話 魔界一武闘会(其の四)
『とうとう準決勝がやって来たぜ!
ここで上位四選手の紹介だぁ!!』
ステージ上でアナウンサー兼レフリーが本日行われる準決勝のレセプションが行われいるのだ。
さすがに準決勝ともなると会場の造りも豪華である。
巨大なドーム型格闘スタジアムで、切り替え一つでステージをプールに変えての変則マッチも可能だ。
動第一回戦では数百人規模の公民館クラスでも、ドーム型格闘スタジアムでは万単位の観客動員数である。
『まずは一人目!《吟遊詩人》のミスターJだ!』
準決勝者の一人にスポットライトが当たり、アナウンサーが経歴を紹介する。
『なんとミスターJは呪歌の使い手だ!』
呪歌とは歌を相手に聴かせる事で魔法に似た効果を発揮する技能。
なんとMP(魔法使いの素養)が必要無く魔法が使えない人が魔法使いっぽく振る舞えるので人気ある職業。
ただし吟遊詩人は歌の才能と、出来れば絶対音感が必要だ。
『二人目は《勇者》リリアン・ローズ!基本職は魔法使い。だが最近はアイテムの魔術師と噂されているぜ!
何と先日予定していたリリアン選手の準々決勝の相手のアンデットのシタイ選手がリリアン対パトリシア戦を観戦中にパトリシア選手の白魔法を流れ弾で受けた拍子に成仏したため、リリアン選手の不戦勝でした!!リリアン選手ラッキーガール!!』
物凄い歓声が沸き上がる。
しかしリリアンはやる気が無さそうに片手だけ上げて声援に答える。
「とりあえず速攻でリタイアするわよ…」
リリアンがマリーに相づちを送る…
元々上位四人狙いなので、リリアン的にはもう目的を果たしているから逃げる気満々だ。
『三人目はこの町の名物女将!《魔闘家》フランソワさんだぁ!』
大会の常連だけあってフランソワは大人気だ。
そんなフランソワはリリアンに向かってウインクする…
目は笑っていない…
あえて言うなれば、闘いになっても容赦なくやらせて貰うよ…と言った感じだ。
『そして四人目は!本当の姿はどうなんだ?の職業《探偵》でお馴染み!ドッペルゲンガーのドッペル君だ!』
「何よ!そのふざけた職業は!」と気になったリリアンは四人目を見た…
居るのは気配で判るのに見えない…
『ドッペル君の得意技は《変装》だ!ただしドッペル君が他人に化けた時には要注意!
もし貴方に化けられて姿を見ると死の呪いがかかると言う都市伝説があるぜ!』
ドッペル君本人を目の前にして都市伝説も無いと思うが…
『そして準決勝の第一試合はリリアンvsミスターJだぁ!!!』
アナウンサー兼レフリーがリリアンと《吟遊詩人》ミスターJを紹介した瞬間、ステージ中央に向かって規則的ライトアップされて、リリアンとミスターJの前にスポットライトによる光の道を作り出した。
ドライアイスによる煙がガンガン流れて、オーケストラによるBGMが勇ましい音楽を奏でる!
ステージ中央に導かれたリリアンとミスターJが相対する。
「よろしくじゃ…リリアン君」
挨拶と共にミスターJがリリアンに握手を求める。
「……あ、うん。」
どこかで聞いた様な声だと思ったたが、ミスターJの年齢は見た目が30歳前後の男である。
リリアンは出会った覚えは無い。
『互いに挨拶を交わしたところで戦闘開始だぁ!!!』
「あ!レフリー私リタイ…」
レフリー兼アナウンサーにリリアンはリタイア宣言しようとしたのだが…
ポロロ~ン…しゃらら~ん...
場違いなハープの音がバトル会場を沈黙の渦へと誘う…
『私は~…美しい~…』
『ふ・ざ・け・る・な!なめとんか!!』
ミスターJのあまりの陶酔っぷりを見てリリアンがリタイアを忘れて脳天にげんこつツッコミを入れた!
『何をするのだリリアン君!せっかく吟遊詩人を満喫しようと呪歌《自分に捧げるバラード》を歌っておった所を!』
『そんな呪歌聞いたこと無いわ!!!』
『ここにあるぞい!』
ミスターJが《えっへん》と胸をはる!
この時点でリリアンの怪しげセンサー(別名女の感)が、ミスターJは吟遊詩人などでは無いのを見破っていた。
そもそもリリアンの故郷リゾート村には観光客が目当ての旅の吟遊詩人が多く訪れる…
確かに吟遊詩人といえばナルシストとは必要技能だが、
客の空気を読んで歌声で客足を止めて、客が好みそうな曲を選んで静かに流すのが常識である。
目の前のミスターJをリリアン的に例えるなら。
日本人ならメガネとカメラ、中国人に自転車をも食べる的な偏見誇張された吟遊詩人である。
『むむ…ワシを疑っておるな?それなら我が呪歌を喰らえい!』
ポロロ~ンと言うよりジャジャ~ン!とハープを鳴らすミスターJ。
リリアンは一応…気合いを入れて待ち構える。
呪歌は魔法と違って精神的な効果が薄いので精神力が高い人間なら気合いを入れれば呪歌が通じないはずなのだ。
『《風と~♪雲の~♪精~霊~達よ♪我が召喚に~答えて♪目の前の~女を封じてくれ~!》』
ミスターJが謎の歌を歌い上げるとハープが淡く光る。
そのまま魔力の奔流をリリアンに向かって放とうとしたミスターJだが…
「をや?」
いつの間にかリリアンが居ない…
『そんな呪歌があるか!!!』
リリアンはミスターJが陶酔しながら唱えた呪文の最中に歩いてミスターJの背後へと回り、バックドロップをくらわせた。
バックドロップもリリアンの父の折檻108の技の一つだ。
『あんたのは!ただ黒魔法にメロディーを付けて唱えただけでしょうが!』
前のめりで倒れたミスターJの背中に馬乗りするリリアン。
『おおっと!これは禁断の女王様プレイか!少年には目の毒となるか!私はドキドキです!』
レフリー兼アナウンサーが盛り上がる。
しかしリリアンが行ったのは、座りプレイでも踏みつけプレイでは無く、馬乗りのままミスターJの顎を両腕で胸元まで上半身引っ張り上げた!
プロレス技キャメルクラッチだ!
これも父の⋯⋯以下略。
『さっさとギブアップしなさいよ!このエセ吟遊詩人がぁ!』
拉麺男も真っ青なキャメルクラッチがミスターJの背骨をギリギリと痛めつける。
ちなみにこの時点でリリアンは速攻でリタイアして、呪いの装備を貰って帰っちゃおう作戦をすっかり忘れていた。
すっぽん!!!!
間の抜けた音を聞いた瞬間リリアンの腕に手応えがなくなった…
いや…手元には顎がちゃんとある。
つまりミスターJの頭が取れたのだ!
『うおお!勇者リリアン選手!勇者にあるまじき首狩りギロチン殺法強制敢行!リングは血の海だぁ!!!』
アナウンサー兼レフリーが盛り上がっているが、リリアンの持っている頭は単なるマスクであり、リリアンのお尻の下にはミスターJが普通にピヨピヨと気絶していた。
そしてリリアンがミスターJの素顔を見て驚く…
『ちょっ!国⋯じゃなくてジーニアス教官じゃん!』
王様と言いかけたのをちょっと躊躇った。
リリアンの驚いた声でミスターJが気絶から復活する。
『教官!こんな所で何をしてんのさ!』
「はてさて…ジーニアス?その様なダンディな名前など知らぬのぉ…」
ミスターJ改めリリアンの師匠ジーニアス教官がとぼける…
「…いや…ほら、マスクが脱げちゃったし…」
『はうあ!!!』
ようやくジーニアスがリリアンの手に握られたミスターJマスクの存在に気付く。
「…審判…ワシはギブアップですじゃ…」
ジーニアスががっかりしながらステージから降りた…
『えーっと…ミスターJ選手!まだ戦えるのでは?』
「良いのじゃ…ミスターJは死にましたのじゃ…」
ジーニアス教官のギブアップ宣言をうけて、レフリーがリリアンの勝ち名乗りを上げようとした時だった…
『あ!ごめん!私もリタイア!』
そもそも戦うつもりが無かったのだが、ミスターJの怪しさに思わずツッコミを入れたに過ぎない。
試合の盛り上がりに欠ける事でギャラリーのブーイングが飛んできたが、もし決勝に進んでしまうと対戦者は絶対にフランソワさんだ。
そんな怪物を相手にしたら、負けた挙句にドルトンの嫁に決定である訳だ。
それはリリアン的に御免こうむりたい。
そんな訳で準決勝は両者リタイアで幕を閉じた。
尻すぼみな結果に観客のブーイングが止まらないが、リリアンは気にせずマリーと二人で退場したのであった。
そんな訳で、もはや選手でもなんでもないリリアンは選手専用控室から即刻退去させられ、上位入賞賞品の《ちょっぴり呪われた強くなる剣》を貰って武闘会を去ったのでした。
さて…魔界一武闘会の会場入り口前に、リリアンとマリー…そしてジーニアス教官の三人が立っていた。
「負けたら酷く冷たいのね…」
「全くじゃの…これだから魔界は…」
リリアンとジーニアス教官がブチブチと文句を言う。
魔界は勝者こそ全てであり敗者には何も残らない…一応剣は貰ったが。
「あのあの…リリアン!その杖を…」
マリーがリリアンの腰で神々しい存在感を放つ杖を指した。
『そうだった!ちょっとジーニアス教官!重要指名手配なんて酷すぎじゃん!お陰様でこんな陰気な世界まで落ちちゃったんだからね!』
ガッツリ盗んだ事は棚上げである。
「ホッホッ…いやぁワシは別に持って行かれても構わなかったんじゃが、《例えブルークリスタルロッドがリリアンを呼んでた》としてもボルン国王にもメンツがあるんでなぁ。
まぁ…指名手配に関しては諦めるのじゃ。」
忘れているかも知れないがジーニアス教官は魔界と地上の両方のカルラーム大陸を治める国王である。
「杖が呼ぶ?」
「これはあくまでも予測なんじゃが…ブルークリスタルロッドは故郷に帰りたかったんじゃ。
そこで旅立つリリアンを自分自身の主と決めて一緒に行くつもりじゃった…違うかのぉ?」
ジーニアス教官がブルークリスタルロッドに語り掛けた。
杖は何も答えずに先っぽに鎮座している青水晶が輝くだけだ。
「それってつまり天空国へ行けと?」
「そういう事じゃな…まぁ…いつかは天空国へたどり着くよ。
全ての冒険者は必ず一度は天空国にたどり着くのが運命みたいなもんじゃからなぁ…」
ジーニアス教官が魔界の赤い空に向かってしみじみ呟く。
もしかするとジーニアス教官も昔は冒険者だったのかも知れない気がするリリアンだった。
『…ってそれより私達を地上に戻してよ!
ジーニアス教官は王様なんだから何とかなるでしょうが!』
目の前の国王という大きなコネを利用しない商人は馬鹿である。
そんな格言があるかはともかく、国王のコネなら全身呪われた装備による怪物召喚で地上に帰るという回りくどい方法を取らずに済む。
『それに教官!なんで魔界に居るのよ。王さまがお城抜けて大丈夫?』
「いや重ね重ね申し訳ないんじゃが、今のワシはお忍びで諸国漫遊の旅をする吟遊詩人ミスターJなのでな…ワシも城の連中に見つかると厄介なのじゃよ…」
つまるところ、ジーニアス国王も息抜きで諸国漫遊中な訳である。
「ちりめん問屋のご隠居じゃないんだからさぁ...んじゃ教官のテレポート魔法で帰るのは?」
それを聞いたジーニアス国王ががっかり顔をリリアンに向ける。
「あのなぁリリアン君。
何故テレポート魔法は一般的じゃあないのかは授業で教えたじゃろ。」
「行き先がズレたら壁の中ってやつでしょ?」
「そうじゃ、仮に自宅へ帰るとするとイスやテーブルや家具もそうじゃが、何か小物があっても身体に取り込んでしまうんじゃ。ましてや人間や魔物が居たらデビルマンの完成じゃぞい。」
術者だけじゃなくて、テレポートに同行する者もテレポート先のイメージが必要なので、集団テレポートは危険と言われている。
そこまで言われるとテレポート魔法が恐ろしく感じるリリアン。
「え?じゃあこの丸太小屋も危険なんですか?」
話しを聞いていたマリーが預かっているミニチュア丸太小屋を差し出した。
「良い質問じゃ。その小屋のドアがあるじゃろ?ドアが開く範囲=その空間には障害物が無いのが確定するんじゃよ。何か邪魔な物があれば扉が開かないじゃろ?」
つまりリリアン達が魔方陣でこちらの世界へ来れたのは魔方陣に邪魔な物が無いからであり、ドルトンが大穴をふさいでいたから魔物が召喚されなかった訳なのである。
『おぉい!リリアン様~上手くいっただなぁ!!』
ジーニアスのテレポート魔法口座が終わった頃、観客席から見ていたオークのドルトンがリリアン達へとやって来た。
『あのオークはなんぞい?』
「リリアンの家来さんなのです!」
『何がどうなればオークがフレンドになれるんじゃ?』
そこでリリアンはジーニアスにアビスへ来た経緯と地上に帰る為に集めるバーサーカー装備一式でリリアンを魔物と召喚の魔法陣を誤認させる説明をした。
『それは...良い思いつきじゃの。わしとしても都合が良い。』
うんうんと頷くジーニアス。
「何が都合が良いのよ。」
「ワシが帰る時な?
役所の出国審査で国王だと白状して帰るつもりじゃったっだが。
その後でどうしても大臣どもに怒られるじゃろ?
リリアン君の方法ならこっそり帰れそうじゃ。
それにボルン大洞穴も見に行く予定もあったんじゃよ。」
そんな訳で魔法使いLV99ジーニアスが仲間になった。
「バーサーカー装備か...となると、この賞品の剣と後3つじゃのぉ。」
『教官!ちょっぴり呪われた武具の種類を知ってるの!?』
「当たり前じゃよ。この賞品の剣はモラルブレイカーといい、本人が戦ってレベルアップする度に性格が残虐になる剣じゃ。
レベル1のリリアン君にとっては、本当にちょっぴり呪われた程度になる。
次に必要なのは冷徹の鎧。その鎧を装備すると冷静になる効果がある。」
「ふーん冷徹の鎧か、何か良さそうじゃない?私って昔から落ち着きがないって言われるし。」
「そうか?冷静になりすぎて人を殺めても何とも思わなくなるんだぞい?」
「...それはちょっと私のキャラじゃないなあ。」
「次に心眼の兜。効果は常に相手の弱点が光ってみえる、欠点は人混みに行くと、全ての人間がいちいち光って眩しいんじゃ。
ウイングブーツ、これは厳密には呪われておらんが足音消えるだけで空を飛べる訳ではない。
この四種の装備のシナジーがあれば...バーサーカーと言うより暗殺者じゃのぉ!」
「なるほど、そういえば呪われた装備って装備すると外せなくなるじゃない?その辺どうなの?」
「勿論外せなくなるに決まっておるわい!」
『ダメじゃん!』
~続く~




