反省しない四人と、校内放送
翌朝。
俺が教室に入ると、いつもとは違う空気を感じた。
「おはよう、湊」
「……おはよう」
佐藤健太が、少し心配そうに俺を見た。
「大丈夫か? 一昨日の動画、すごいことになってるぞ」
「動画?」
「SNSで拡散されてるんだよ。学校まで特定されて、かなり騒ぎになってる」
「……そうなんだ」
正直、驚きはあった。
ただ、俺はもう、あの四人のことを考えるのに疲れていた。
自分がどう見られるかよりも、今は隣にいてくれる人を大切にしたかった。
「湊くん」
教室の入り口から、聞き慣れた声がした。
振り向くと、雪乃が立っていた。
「おはようございます」
「おはよう、雪乃」
雪乃は俺の隣まで歩いてくると、自然な動作で俺の手を握った。
「……昨日、ちゃんと眠れましたか?」
「うん。大丈夫だよ」
「本当ですか?」
「本当」
雪乃は俺の顔をじっと見つめたあと、安心したように微笑んだ。
「なら、よかったです」
その光景を、教室の何人かが見ていた。
そして、少し離れた席では、小鳥遊美月がこちらを見つめていた。
「……何よ、あれ」
美月の隣で、莉子が小さく舌打ちする。
「動画のせいで、朝から最悪なんだけど」
「……自業自得じゃないの?」
近くにいた葵が、思わず口を挟んだ。
莉子が勢いよく振り返る。
「は? 何それ」
「だって、湊くんが本気だったのを知ってて笑ったんでしょ?」
「だから、罰ゲームだったって言ってるじゃん」
「罰ゲームなら何をしてもいいの?」
葵の問いに、莉子は答えられなかった。
そこへ大輝がやってきた。
「おい、莉子。お前、動画のこと何とかしろよ」
「はあ? 何で私が?」
「お前が言い出したんだろ!」
「撮影したのはあんたでしょ!」
「俺は撮っただけだ! 拡散したのは翔だろ!」
「お前ら、朝からうるせえよ!」
翔が苛立った様子で割って入る。
「そもそも、こんな大ごとになるなんて思わなかったんだよ!」
「じゃあ、湊くんが傷つくのはどうでもよかったの?」
雪乃は思わず、そう尋ねていた。
三人が一斉にこちらを見る。
「……は?」
大輝が不機嫌そうに眉をひそめた。
「いや、だからさ。あれは冗談だったんだって」
「俺は、冗談だと思って告白したわけじゃない」
「だから、それは……」
「もういいよ」
俺は大輝の言葉を遮った。
「今さら何を言われても、俺はもうお前たちを信じられない」
大輝が口をつぐむ。
翔も、莉子も、何も言わなかった。
そのときだった。
『二年生の相沢大輝さん、山田翔さん、橘莉子さん、小鳥遊美月さん。至急、職員室まで来てください』
校内放送が、教室中に響き渡った。
一瞬、教室が静まり返る。
「……え?」
美月の顔がこわばった。
「何で、私まで……?」
「知らねえよ」
翔は明らかに動揺していた。
大輝は、さっきまでの強気な態度を失っている。
「……まさか、学校が本気で動いたのか?」
莉子は唇を噛んだ。
「そんなわけないでしょ。ちょっと呼び出されるだけよ」
そう言いながらも、その声には余裕がなかった。
四人は周囲の視線を浴びながら、教室を出ていった。
残された教室では、ひそひそと話し声が広がっていく。
「学校も、さすがに放置できないよね」
「外部からも苦情が来てるらしいよ」
「これで反省してくれればいいけど……」
俺は窓の外へ視線を向けた。
あの四人が、これからどんな処分を受けるのか。
それは、俺には分からない。
ただ、一つだけ確かなことがあった。
俺はもう、あの頃のように美月の顔色をうかがったりしない。
彼女の言葉に期待したりもしない。
俺には、俺を大切にしてくれる人がいる。
「湊くん?」
雪乃が、そっと俺の手を握り直した。
「どうしました?」
「……いや。何でもない」
「そうですか?」
雪乃は少しだけ首を傾げると、俺の肩に寄り添った。
「何かあったら、私に話してくださいね」
「ああ。ありがとう」
その温かさに、俺は自然と笑みを浮かべた。
職員室へ向かった四人が、これから何を告げられるのか。
そして、自分たちの行動がどれほど大きな問題になったのかを理解するのは、もうすぐだった。




