第9話 球場へ
第9話 球場へ
今日は。
野球を見てきた。
なぜ。
漫画家の手記に。
突然。
野球の話が出てくるのか。
俺にも。
よく分からない。
ただ。
今日は。
そういう日だった。
◇
原稿は。
進んでいる。
珍しく。
かなり。
順調に。
プロットは通った。
描くものも決まっている。
昨日。
喫茶店で。
少しだけ。
使えそうなものも思いついた。
あとは。
描く。
ひたすら。
描く。
そういう段階だ。
だから。
朝から。
描いた。
昼まで。
描いた。
昼飯を食べて。
また描いた。
気づけば。
夕方。
「…………」
肩が痛い。
首も痛い。
腰も。
少し痛い。
漫画家って。
もう少し。
健康的な仕事には。
できないんだろうか。
◇
そんなとき。
電話が鳴った。
ミドリだった。
「原稿、どう?」
「描いてる」
「進んでる?」
「進んでる」
「本当に?」
「なんで疑うんだよ」
「時根だから」
「理由になってない」
「なってる」
ひどい。
長い付き合いだからって。
言っていいことと。
悪いことがある。
「今日、ちゃんと寝た?」
「寝た」
「布団で?」
「寝た」
「ご飯は?」
「食べた」
「何食べた?」
「…………」
「時根?」
「食べた」
「何を?」
「パン」
「それだけ?」
「コーヒーも」
「それは食事じゃない」
また始まった。
◇
結局。
原稿の話より。
生活について。
注意された。
担当編集者って。
漫画家の食事まで。
管理する仕事だっただろうか。
違うと思う。
少なくとも。
出版社の求人票には。
たぶん。
書いていない。
ただ。
高校のころから。
ミドリは。
こういうところがある。
昔から。
人のことを。
よく見ている。
俺は。
漫画のことを考えていると。
それ以外が。
かなり適当になるらしい。
自覚は。
少し。
ある。
◇
「ところで」
ミドリが言った。
「今日、野球行かない?」
「野球?」
「チケットもらった」
「誰の?」
「仕事関係」
「俺、原稿あるんだけど」
「進んでるんでしょ?」
「進んでる」
「だったら数時間くらい休んだら?」
「締め切り」
「間に合うんでしょ?」
「…………たぶん」
「じゃあ決まり」
「決まってない」
「六時に駅ね」
「おい」
「遅れないで」
「ちょっと待て」
「じゃあ」
「ミドリ」
切れた。
「…………」
勝手だ。
本当に。
◇
そして。
俺は。
六時に。
駅にいた。
なぜだ。
いや。
行くと決めたのは。
俺なんだけど。
◇
球場。
久しぶりだった。
人が多い。
ものすごく。
多い。
俺は。
基本。
一人で仕事をしている。
だから。
たまに。
こういう場所へ来ると。
人間って。
こんなにいるんだな。
と思う。
「何その顔」
「人が多い」
「球場なんだから当たり前でしょ」
「分かってる」
「引きこもりすぎ」
「仕事してるんだよ」
「知ってます」
ミドリが。
少し笑った。
◇
試合が始まった。
俺は。
野球に。
ものすごく詳しいわけではない。
ルールは。
分かる。
選手も。
有名な人なら。
何人か知っている。
でも。
毎試合見るほどではない。
だから。
最初は。
普通に。
見ていた。
投げる。
打つ。
走る。
守る。
「おお」
打球が。
思ったより。
速い。
テレビで見るのと。
全然違う。
投げる球も。
速い。
というか。
怖い。
あれを。
打つのか。
◇
しばらくすると。
俺は。
別のところを。
見始めていた。
投手が。
投げる前。
打者を見る。
捕手を見る。
走者を見る。
守備を見る。
打者も。
投手を見ている。
構える。
待つ。
投げる。
一瞬。
動く。
「…………」
面白い。
何が。
と言われると。
うまく説明できない。
でも。
面白い。
相手が。
次に何をするのか。
考える。
速い球が来るのか。
変化するのか。
走るのか。
待つのか。
お互い。
相手のことを。
ずっと考えている。
「漫画みたいだな」
「何が?」
「いや」
口に出ていたらしい。
◇
ヒーローと。
怪人。
戦う。
殴る。
蹴る。
必殺技。
それだけなら。
簡単だ。
でも。
本当に。
それだけで。
面白いのか。
相手が。
何をしてくるのか。
考える。
それを。
どう崩すのか。
逆に。
相手も。
こちらを読んでいる。
だったら。
戦いの中に。
もっと。
駆け引きがあってもいい。
「…………」
まずい。
また。
仕事のことを。
考えている。
◇
「時根」
「ん?」
「今、漫画のこと考えてたでしょ」
「考えてない」
「嘘」
「野球見てた」
「目が仕事してた」
「何だよ、それ」
「高校のころからそういう顔する」
「どんな顔だ」
「使えるもの見つけた顔」
「…………」
怖い。
こいつ。
なんで。
分かるんだ。
◇
試合は。
面白かった。
途中。
大きな当たりが出た。
球場全体が。
一気に。
沸いた。
「うおっ」
俺も。
声が出た。
知らない人たちが。
一斉に。
立つ。
叫ぶ。
拍手する。
すごい。
テレビでは。
分からない。
音。
空気。
振動。
ああ。
こういうものなのか。
と思った。
◇
そこで。
ふと。
『ビーストギア』の特撮を。
思い出した。
漫画と。
映像。
同じ話でも。
違う。
テレビで見る野球と。
球場で見る野球も。
違う。
どちらが。
本物。
ということではない。
どちらも。
野球だ。
でも。
伝わってくるものが。
違う。
「…………」
なんとなく。
少し前まで。
自分が悩んでいたことが。
また。
別の角度から。
見えた気がした。
◇
帰り。
駅まで。
ミドリと歩いた。
「どうだった?」
「面白かった」
「よかった」
「また行ってもいい」
「じゃあ、またチケットあったら誘う」
「原稿がなければな」
「原稿がない漫画家って、いつ?」
「…………」
「ないでしょ?」
「まあ」
「じゃあ、また誘う」
「勝手だな」
「今日も来たじゃん」
「…………」
それを言われると。
何も言えない。
◇
家に帰った。
机に座った。
原稿を見る。
「…………」
少しだけ。
描くつもりだった。
本当に。
少しだけ。
でも。
球場で見た。
投手と打者の。
あの感じ。
相手を見る。
考える。
読む。
外す。
また読む。
それを。
戦闘に入れたら。
どうなる。
「…………」
気づけば。
ノートを開いていた。
◇
結局。
今日も。
休めていない。
ただ。
悪くない。
机に向かって。
何時間考えても。
出ないものがある。
図書館で。
出ることもある。
喫茶店で。
出ることもある。
球場で。
出ることもある。
漫画家という仕事は。
たぶん。
机に座っている時間だけが。
仕事ではない。
だから。
今日。
野球を見に行ったのも。
仕事。
ということに。
できないだろうか。
できる。
たぶん。
できる。
そういうことにしておこう。
◇
さて。
今日は。
ちゃんと寝る。
机では。
寝ない。
あの一件以来。
少し。
気をつけている。
今のところ。
記憶にない原稿が。
勝手に増えたりは。
していない。
やっぱり。
あの日は。
疲れていただけなんだろう。
そう思う。
それより。
今日。
思いついた戦闘。
明日の朝。
もう一度。
読み返してみよう。
使えそうなら。
少し。
原稿に入れる。
ただ。
ミドリには。
野球を見ながら。
漫画のことを考えていたとは。
言わない。
せっかく。
休ませようとして。
連れ出してくれたんだから。
そこは。
黙っておく。
※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・設定・構成など、作品の根幹となる部分は作者が制作し、それらの設定や展開、作者からの指示をもとに、ChatGPTが文章作成・文章化を担当しています。作者とAIが相談・調整を重ねながら、一つの作品として制作しています。




