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時根の手記  作者: 時根脱才 


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9/12

第9話 球場へ

第9話 球場へ


 今日は。


 野球を見てきた。


 なぜ。


 漫画家の手記に。


 突然。


 野球の話が出てくるのか。


 俺にも。


 よく分からない。


 ただ。


 今日は。


 そういう日だった。


     ◇


 原稿は。


 進んでいる。


 珍しく。


 かなり。


 順調に。


 プロットは通った。


 描くものも決まっている。


 昨日。


 喫茶店で。


 少しだけ。


 使えそうなものも思いついた。


 あとは。


 描く。


 ひたすら。


 描く。


 そういう段階だ。


 だから。


 朝から。


 描いた。


 昼まで。


 描いた。


 昼飯を食べて。


 また描いた。


 気づけば。


 夕方。


「…………」


 肩が痛い。


 首も痛い。


 腰も。


 少し痛い。


 漫画家って。


 もう少し。


 健康的な仕事には。


 できないんだろうか。


     ◇


 そんなとき。


 電話が鳴った。


 ミドリだった。


「原稿、どう?」


「描いてる」


「進んでる?」


「進んでる」


「本当に?」


「なんで疑うんだよ」


「時根だから」


「理由になってない」


「なってる」


 ひどい。


 長い付き合いだからって。


 言っていいことと。


 悪いことがある。


「今日、ちゃんと寝た?」


「寝た」


「布団で?」


「寝た」


「ご飯は?」


「食べた」


「何食べた?」


「…………」


「時根?」


「食べた」


「何を?」


「パン」


「それだけ?」


「コーヒーも」


「それは食事じゃない」


 また始まった。


     ◇


 結局。


 原稿の話より。


 生活について。


 注意された。


 担当編集者って。


 漫画家の食事まで。


 管理する仕事だっただろうか。


 違うと思う。


 少なくとも。


 出版社の求人票には。


 たぶん。


 書いていない。


 ただ。


 高校のころから。


 ミドリは。


 こういうところがある。


 昔から。


 人のことを。


 よく見ている。


 俺は。


 漫画のことを考えていると。


 それ以外が。


 かなり適当になるらしい。


 自覚は。


 少し。


 ある。


     ◇


「ところで」


 ミドリが言った。


「今日、野球行かない?」


「野球?」


「チケットもらった」


「誰の?」


「仕事関係」


「俺、原稿あるんだけど」


「進んでるんでしょ?」


「進んでる」


「だったら数時間くらい休んだら?」


「締め切り」


「間に合うんでしょ?」


「…………たぶん」


「じゃあ決まり」


「決まってない」


「六時に駅ね」


「おい」


「遅れないで」


「ちょっと待て」


「じゃあ」


「ミドリ」


 切れた。


「…………」


 勝手だ。


 本当に。


     ◇


 そして。


 俺は。


 六時に。


 駅にいた。


 なぜだ。


 いや。


 行くと決めたのは。


 俺なんだけど。


     ◇


 球場。


 久しぶりだった。


 人が多い。


 ものすごく。


 多い。


 俺は。


 基本。


 一人で仕事をしている。


 だから。


 たまに。


 こういう場所へ来ると。


 人間って。


 こんなにいるんだな。


 と思う。


「何その顔」


「人が多い」


「球場なんだから当たり前でしょ」


「分かってる」


「引きこもりすぎ」


「仕事してるんだよ」


「知ってます」


 ミドリが。


 少し笑った。


     ◇


 試合が始まった。


 俺は。


 野球に。


 ものすごく詳しいわけではない。


 ルールは。


 分かる。


 選手も。


 有名な人なら。


 何人か知っている。


 でも。


 毎試合見るほどではない。


 だから。


 最初は。


 普通に。


 見ていた。


 投げる。


 打つ。


 走る。


 守る。


「おお」


 打球が。


 思ったより。


 速い。


 テレビで見るのと。


 全然違う。


 投げる球も。


 速い。


 というか。


 怖い。


 あれを。


 打つのか。


     ◇


 しばらくすると。


 俺は。


 別のところを。


 見始めていた。


 投手が。


 投げる前。


 打者を見る。


 捕手を見る。


 走者を見る。


 守備を見る。


 打者も。


 投手を見ている。


 構える。


 待つ。


 投げる。


 一瞬。


 動く。


「…………」


 面白い。


 何が。


 と言われると。


 うまく説明できない。


 でも。


 面白い。


 相手が。


 次に何をするのか。


 考える。


 速い球が来るのか。


 変化するのか。


 走るのか。


 待つのか。


 お互い。


 相手のことを。


 ずっと考えている。


「漫画みたいだな」


「何が?」


「いや」


 口に出ていたらしい。


     ◇


 ヒーローと。


 怪人。


 戦う。


 殴る。


 蹴る。


 必殺技。


 それだけなら。


 簡単だ。


 でも。


 本当に。


 それだけで。


 面白いのか。


 相手が。


 何をしてくるのか。


 考える。


 それを。


 どう崩すのか。


 逆に。


 相手も。


 こちらを読んでいる。


 だったら。


 戦いの中に。


 もっと。


 駆け引きがあってもいい。


「…………」


 まずい。


 また。


 仕事のことを。


 考えている。


     ◇


「時根」


「ん?」


「今、漫画のこと考えてたでしょ」


「考えてない」


「嘘」


「野球見てた」


「目が仕事してた」


「何だよ、それ」


「高校のころからそういう顔する」


「どんな顔だ」


「使えるもの見つけた顔」


「…………」


 怖い。


 こいつ。


 なんで。


 分かるんだ。


     ◇


 試合は。


 面白かった。


 途中。


 大きな当たりが出た。


 球場全体が。


 一気に。


 沸いた。


「うおっ」


 俺も。


 声が出た。


 知らない人たちが。


 一斉に。


 立つ。


 叫ぶ。


 拍手する。


 すごい。


 テレビでは。


 分からない。


 音。


 空気。


 振動。


 ああ。


 こういうものなのか。


 と思った。


     ◇


 そこで。


 ふと。


『ビーストギア』の特撮を。


 思い出した。


 漫画と。


 映像。


 同じ話でも。


 違う。


 テレビで見る野球と。


 球場で見る野球も。


 違う。


 どちらが。


 本物。


 ということではない。


 どちらも。


 野球だ。


 でも。


 伝わってくるものが。


 違う。


「…………」


 なんとなく。


 少し前まで。


 自分が悩んでいたことが。


 また。


 別の角度から。


 見えた気がした。


     ◇


 帰り。


 駅まで。


 ミドリと歩いた。


「どうだった?」


「面白かった」


「よかった」


「また行ってもいい」


「じゃあ、またチケットあったら誘う」


「原稿がなければな」


「原稿がない漫画家って、いつ?」


「…………」


「ないでしょ?」


「まあ」


「じゃあ、また誘う」


「勝手だな」


「今日も来たじゃん」


「…………」


 それを言われると。


 何も言えない。


     ◇


 家に帰った。


 机に座った。


 原稿を見る。


「…………」


 少しだけ。


 描くつもりだった。


 本当に。


 少しだけ。


 でも。


 球場で見た。


 投手と打者の。


 あの感じ。


 相手を見る。


 考える。


 読む。


 外す。


 また読む。


 それを。


 戦闘に入れたら。


 どうなる。


「…………」


 気づけば。


 ノートを開いていた。


     ◇


 結局。


 今日も。


 休めていない。


 ただ。


 悪くない。


 机に向かって。


 何時間考えても。


 出ないものがある。


 図書館で。


 出ることもある。


 喫茶店で。


 出ることもある。


 球場で。


 出ることもある。


 漫画家という仕事は。


 たぶん。


 机に座っている時間だけが。


 仕事ではない。


 だから。


 今日。


 野球を見に行ったのも。


 仕事。


 ということに。


 できないだろうか。


 できる。


 たぶん。


 できる。


 そういうことにしておこう。


     ◇


 さて。


 今日は。


 ちゃんと寝る。


 机では。


 寝ない。


 あの一件以来。


 少し。


 気をつけている。


 今のところ。


 記憶にない原稿が。


 勝手に増えたりは。


 していない。


 やっぱり。


 あの日は。


 疲れていただけなんだろう。


 そう思う。


 それより。


 今日。


 思いついた戦闘。


 明日の朝。


 もう一度。


 読み返してみよう。


 使えそうなら。


 少し。


 原稿に入れる。


 ただ。


 ミドリには。


 野球を見ながら。


 漫画のことを考えていたとは。


 言わない。


 せっかく。


 休ませようとして。


 連れ出してくれたんだから。


 そこは。


 黙っておく。


※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・設定・構成など、作品の根幹となる部分は作者が制作し、それらの設定や展開、作者からの指示をもとに、ChatGPTが文章作成・文章化を担当しています。作者とAIが相談・調整を重ねながら、一つの作品として制作しています。

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