第10話 捨てられないもの
第10話 捨てられないもの
今日は。
部屋を片づけた。
正確には。
片づけようとした。
結果から書けば。
あまり。
片づいていない。
なぜなら。
漫画家の部屋には。
捨てていいのか。
捨ててはいけないのか。
よく分からないものが。
多すぎる。
◇
きっかけは。
ミドリだった。
昨日。
野球を見に行った。
その帰り。
別れる直前に。
「そういえば」
ミドリが言った。
「何?」
「今度、部屋片づけたほうがいいよ」
「なんで」
「この前行ったとき、資料の山が増えてた」
「あれは必要なもの」
「床に置いてあるのも?」
「必要」
「椅子の上も?」
「必要」
「机の横も?」
「必要」
「全部?」
「全部」
「じゃあ、時根の部屋には不要なものが一個もないんだ」
「…………」
ある。
たぶん。
かなり。
◇
だから。
今日は。
片づけることにした。
原稿も。
予定より進んでいる。
少しくらい。
時間を使ってもいい。
そう思った。
まず。
机の横。
本。
資料。
ノート。
紙。
紙。
紙。
「…………」
多い。
俺。
こんなに。
紙を使っているのか。
漫画家なんだから。
当たり前なのかもしれない。
でも。
改めて見ると。
すごい。
◇
最初は。
順調だった。
必要。
不要。
必要。
不要。
これは残す。
これは捨てる。
古い雑誌。
もう使わない資料。
同じものが二枚あるコピー。
何を書いたのか。
自分でも分からないメモ。
「……これはいいだろ」
捨てる。
少し。
床が見えてきた。
やればできる。
俺。
片づけられる人間だった。
ミドリに。
見せてやりたい。
◇
そう思っていたら。
一冊のノートが出てきた。
「…………」
古い。
かなり。
古い。
表紙の角が。
潰れている。
開く。
「うわ」
昔の絵。
下手だ。
ものすごく。
下手。
「…………」
いや。
今の俺が。
昔の俺に。
下手と言うのは。
少し。
卑怯かもしれない。
でも。
下手だ。
◇
ページをめくる。
ヒーロー。
怪人。
武器。
乗り物。
意味の分からない機械。
設定。
台詞。
途中で終わっている漫画。
何を描きたかったのか。
今では。
分からないものもある。
でも。
分かるものも。
あった。
「…………これ」
今の。
『ビーストギア』に。
少し。
似ている。
もちろん。
そのままではない。
名前も違う。
姿も違う。
設定も。
全然違う。
でも。
どこか。
残っている。
◇
そういえば。
第1話の手記にも。
書いた。
『ビーストギア』は。
最初から。
今の形だったわけではない。
作って。
捨てて。
また作って。
描いて。
消して。
その繰り返しだった。
このノートは。
その。
捨てた側。
今の漫画には。
出てこなかったもの。
使われなかったもの。
ボツになったもの。
「…………」
なのに。
今見ると。
完全には。
消えていない。
◇
こいつの角。
あの怪人に。
少し。
使ったかもしれない。
こっちの。
腕。
これは。
ビーストギアの初期デザインに。
似ている。
この台詞。
「…………」
今の主人公は。
言わない。
でも。
考え方は。
少し。
残っている。
ボツにしたものを。
そのまま。
使ったわけじゃない。
覚えていたのかどうかすら。
分からない。
でも。
どこかに。
残っていた。
それが。
別の形になって。
今の作品に。
混ざっている。
◇
そう考えると。
少し前に。
ミドリからボツを食らった。
あの怪人も。
いつか。
何かに。
なるんだろうか。
漫画には。
使えない。
少なくとも。
今の形では。
使わない。
でも。
捨てていない。
俺の机の。
引き出しの中に。
まだ。
入っている。
「…………」
残しておこう。
やっぱり。
◇
片づけを再開した。
今度は。
少し。
遅くなった。
紙を一枚。
見る。
「…………」
使うかもしれない。
残す。
次。
「…………」
これも。
何かになるかもしれない。
残す。
次。
これは。
怪人の顔。
ボツ。
でも。
目だけ。
使えるかもしれない。
残す。
次。
「…………」
気づいた。
これ。
片づかない。
◇
午後。
ミドリから。
電話が来た。
「何してる?」
「片づけ」
「え?」
「片づけ」
「時根が?」
「失礼だな」
「自分から?」
「そう」
「熱ある?」
「切るぞ」
「ごめん、ごめん」
笑っていた。
腹が立つ。
「で、片づいた?」
「…………」
「時根?」
「片づけてる途中」
「何時間やってるの?」
「それは関係ない」
「捨てられてないでしょ」
「…………」
「やっぱり」
「必要なんだよ」
「全部?」
「…………だいたい」
「昨日と同じじゃん」
「違う」
「何が?」
「今日は一枚一枚確認した」
「余計に駄目じゃん」
なぜだ。
◇
「ボツはボツで分けなよ」
ミドリが言った。
「ボツ?」
「使わない設定とか、デザインとか」
「捨てるの?」
「捨てろとは言ってない」
「じゃあ?」
「まとめておけばいいでしょ」
「…………」
「今使ってるものと一緒にするから、分からなくなるの」
「なるほど」
「今、初めて気づいたみたいな声出さないで」
「いや」
「高校のころからそういうところ変わらないよね」
「高校のころ、こんなに原稿なかっただろ」
「ノートは山ほどあった」
「…………」
覚えているのか。
そんなこと。
◇
電話を切ったあと。
箱を一つ。
用意した。
そこへ。
ボツになったものを。
入れていく。
昔のデザイン。
使わなかった設定。
途中で終わった話。
怪人。
ヒーロー。
武器。
落書き。
そして。
この前。
ボツになった。
あの怪人。
「…………」
箱に入れた。
◇
こうして見ると。
結構。
ある。
俺が。
作ったけど。
作品には。
ならなかったもの。
世の中には。
出なかったもの。
読者は。
知らない。
担当しか。
見ていないものもある。
俺しか。
知らないものもある。
たぶん。
このまま。
誰にも見せずに。
終わるものもある。
それでも。
俺が。
考えた。
描いた。
悩んだ。
その時間まで。
なくなるわけじゃない。
◇
箱の蓋を。
閉じた。
上に。
何か書こうと思った。
「ボツ」
……嫌だ。
ミドリに。
言われた。
あの二文字を。
わざわざ。
自分で書く必要はない。
少し考えた。
結局。
「保留」
と書いた。
「…………」
いい。
これなら。
まだ。
可能性がある。
◇
片づけが。
終わった。
と言いたい。
でも。
終わっていない。
床は。
朝より。
少し。
見えるようになった。
たぶん。
成功。
ということにする。
机の横には。
「保留」
と書いた箱がある。
その中には。
使われなかった。
俺の作品が。
入っている。
◇
変な言い方だけど。
少し。
安心した。
ボツになったから。
消えるわけではない。
使わなかったから。
なかったことになるわけでもない。
そこに。
ちゃんと。
残っている。
いつか。
使うかもしれない。
使わないかもしれない。
別の形に。
なるかもしれない。
分からない。
だから。
とりあえず。
残しておく。
◇
さて。
明日は。
原稿に戻る。
片づけもした。
少し。
気分も変わった。
机も。
前より。
広い。
これなら。
仕事も。
進む。
……と思う。
ただ。
一つだけ。
問題がある。
さっき。
「保留」の箱を。
机の横へ置いた。
邪魔だ。
「…………」
まあ。
いいか。
捨てるよりは。
ずっといい。
※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・設定・構成など、作品の根幹となる部分は作者が制作し、それらの設定や展開、作者からの指示をもとに、ChatGPTが文章作成・文章化を担当しています。作者とAIが相談・調整を重ねながら、一つの作品として制作しています。




