第十一話 早贄
第十一話 早贄
今日、モズキャッチャーの回が放送された。
先に結論を書いておく。
安心した。
かなり。
放送が始まるまでは、正直ちょっと怖かった。
別にモズキャッチャーの出来が悪いんじゃないかとか、そういう心配じゃない。
むしろ逆だ。
原作に忠実すぎたらどうしようと思っていた。
もちろん、そんなわけがないことくらい分かっている。
俺だって馬鹿じゃない。
漫画で描けるものと、テレビで流せるものが同じじゃないことくらい知っている。
しかも『ビーストギア』は子供も見る特撮だ。
俺の原案を、そのまま実写にできるわけがない。
会議でも話は聞いていた。
脚本も確認している。
だから、どうなるかは知っていた。
知っていたはずなのに。
放送が始まったら、妙に落ち着かなかった。
理由は分かっている。
モズの早贄だ。
◇
モズという鳥には、捕らえた獲物を木の枝や棘なんかに突き刺しておく習性がある。
いわゆる、モズの早贄。
俺がモズを怪人のモチーフに選んだ時、当然そこは使った。
使わない理由がなかった。
むしろ。
俺がモズを選んだ理由の一つだった。
問題は。
俺の原案では、その対象が人間だったことだ。
怪人に殺された人間が。
棒や杭に突き刺されている。
そういう絵を描いた。
今、自分で文章にすると。
そりゃテレビでは無理だろうと思う。
しかも日曜の夕方だ。
家族でテレビを見ている家だってあるだろうし、子供が夕飯を待ちながら楽しみにしている時間かもしれない。
そんな時間に、人間の早贄を見せてどうする。
分かっている。
分かっているんだけど。
原作者というのは面倒なもので。
変えてほしくない。
でも、そのままやられても困る。
両方思う。
◇
テレビ版のモズキャッチャーは。
当然、人間を杭に突き刺したりはしなかった。
代わりに。
モズキャッチャーは、奪った物を高い場所へ集めていた。
気に入った物。
欲しい物。
拾った物。
それを自分の「獲物」みたいに扱って、電柱や木の上なんかに引っかけていく。
人を殺して並べるんじゃない。
物を集めて。
高いところへ置く。
早贄の習性そのものは残っている。
でも。
見せ方はまるで違う。
「そうしたか」
思わず声が出た。
上手いと思った。
俺の描いたものを消していない。
でも。
そのままでもない。
子供が見ても大丈夫な形にしてある。
こういうのを見るたび。
特撮を作っている人たちは、すごいと思う。
俺なら。
多分。
削るか。
残すか。
その二つしか考えない。
でも。
この人たちは。
変える。
意味を残したまま。
形だけを変える。
それができる。
◇
途中。
モズキャッチャーが獲物を高い場所へ持っていく場面があった。
俺は。
そこでちょっと笑ってしまった。
怖くてじゃない。
安心して。
「ああ、これなら大丈夫だ」
誰に言ったわけでもない。
一人でテレビを見ながら言った。
原作を描いた時は。
あんなに気に入っていた場面なのに。
映像で人間が串刺しになっていなくて安心している。
自分でも勝手だと思う。
でも。
多分。
漫画を描いていた時の俺は。
その絵がどう見えるかしか考えていなかった。
怖い。
気持ち悪い。
異常。
怪人が人間とは違う生き物だと、一枚で分からせたい。
だから描いた。
テレビは違う。
その向こうに。
見る人がいる。
しかも。
子供がいる。
当たり前のことなんだけど。
自分の漫画がテレビになって。
初めて実感した気がする。
◇
放送が終わってから。
原案のモズキャッチャーを引っ張り出してみた。
久しぶりに見る。
「……ひどいな」
我ながら。
よく描いたと思う。
悪い意味じゃない。
これはこれで。
俺は好きだ。
多分。
今描いても。
原案なら同じようにすると思う。
だから。
テレビ版が正しくて。
原案が間違っている。
そういう話でもない。
俺のモズキャッチャーと。
テレビのモズキャッチャー。
同じ怪人なのに。
ちゃんと別の生き物になっている。
それが。
なんだか面白かった。
◇
放送が終わって少しした頃。
ミドリから電話が来た。
『見た?』
「見た」
『どうだった?』
「安心した」
『何に?』
「人が串刺しにならなくて」
少し間があった。
『なるわけないでしょ』
「知ってるよ」
『知ってる人の言い方じゃなかったけど』
「脚本も見てるし」
『じゃあ何を心配してたのよ』
「実際の映像を見るまでは分からないだろ」
『あんた、スタッフ信用してないの?』
「そういう意味じゃない」
『じゃあどういう意味?』
「……分からん」
電話の向こうで。
ミドリが笑った。
腹が立つ。
でも。
自分でもよく分からないんだから仕方ない。
『でも良かったじゃん』
「何が」
『ちゃんとモズだったでしょ』
「……まあな」
そこは。
本当にそう思う。
人間の早贄はなくなった。
でも。
モズの習性は消えていない。
俺がモズを選んだ意味も。
ちゃんと残っていた。
『子供にも結構人気出るんじゃない?』
「モズキャッチャーが?」
『うん』
「悪役だぞ」
『悪役が人気出ちゃ駄目なの?』
「駄目じゃないけど」
『だったらいいじゃん』
そういうものなのか。
俺には。
まだよく分からない。
◇
夜。
もう一度、録画したものを見た。
二回目は。
早贄がどうなっているかなんて気にせず見られた。
すると。
一回目には気づかなかったところが結構あった。
動き。
声。
音。
子供向けに少し大げさになった仕草。
原案のモズキャッチャーより。
随分。
分かりやすい。
そして。
ちょっと愛嬌がある。
「…………」
俺の描いた怪人なのに。
俺の知らない顔をしている。
不思議だ。
嫌じゃない。
むしろ。
少し嬉しい。
漫画の中でしか動かなかったものが。
俺以外の人間の手に渡って。
声をもらって。
身体をもらって。
別の形で生き始めている。
そういうことなのかもしれない。
ただ。
一つだけ。
気になった。
放送が終わってから。
モズキャッチャーのことを調べてみた。
感想が結構出ている。
その中に。
「モズキャッチャーかわいい」
というのがあった。
「…………」
かわいい?
俺は原案を見た。
人間を杭に突き刺している。
テレビを見た。
獲物を抱えて走っている。
もう一度。
感想を見る。
「かわいい」
「…………」
俺は。
しばらく考えた。
そして。
原案を閉じた。
まあ。
いいか。
子供に怖がられるより。
多分。
その方がいい。
ただ。
俺がモズキャッチャーを描いた時。
将来こいつを見て「かわいい」と言う人間が出てくるなんて。
本当に。
一秒も考えていなかった。
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企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
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本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




