↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時根の手記  作者: 時根脱才 


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/17

第十二話 子供向け

第十二話 子供向け


 この前、ミドリに言われた。


「モズキャッチャー、子供に人気出るんじゃない?」


 その時は、そんなものなのかと思った。


 悪役だぞ。


 人の物を奪うし。


 キットと戦うし。


 原案に至っては、人間を早贄にしている。


 どこに子供から好かれる要素があるんだ。


 そう思っていた。


 どうやら。


 俺は子供というものを、あまり分かっていなかったらしい。


     ◇


 今日、編集部へ行った。


 打ち合わせがあったからだ。


 別に珍しいことじゃない。


 問題は、その帰りだった。


 駅へ向かって歩いていると、前から親子が来た。


 母親と。


 小学生くらいの男の子。


 その子が俺の横を通り過ぎる瞬間、突然叫んだ。


「モズキャッチャー!」


 心臓が跳ねた。


 一瞬。


 俺のことが分かったのかと思った。


 そんなわけがない。


 俺は別に顔を売っているわけじゃない。


 振り返った。


 男の子は。


 俺なんか見ていなかった。


 電柱を見ていた。


「ここに置く!」


 手に持っていた小さな玩具を、電柱の根元へ置こうとしている。


 母親がすぐに止めた。


「駄目。置いていかないの」


「早贄!」


「それ、置いていったらなくなるよ」


「モズキャッチャーは置くよ」


「あなたはモズキャッチャーじゃないでしょ」


「今、モズキャッチャーなの!」


「じゃあ今だけやめなさい」


「やだ!」


「じゃあ玩具なくなっても知らないよ」


「……やめる」


 早かった。


 俺は少し離れたところで、しばらく立ち止まってしまった。


     ◇


 子供が。


 モズキャッチャーの真似をしていた。


 それだけだ。


 ただ。


 妙な感じだった。


 俺が机の上で考えたものを。


 知らない子供が知っている。


 しかも。


 真似をしている。


 早贄まで。


「…………」


 いや。


 早贄と言っても。


 玩具を電柱の根元へ置こうとしていただけだけど。


 これが原案だったら。


 絶対に真似できない。


 というか。


 真似されてたまるか。


 そう考えると。


 テレビ版で「人間を突き刺す」から「物を高いところへ集める」に変えたのは。


 本当に正解だったんだと思う。


 原案の意味を残しながら。


 子供が遊びとして真似できるところまで変えてしまった。


 昨日までは。


 テレビ向けに上手くマイルドにしたな。


 そのくらいに思っていた。


 でも。


 実際に子供が遊んでいるのを見ると。


 少し違って見える。


 あれは。


 ただ残酷なところを削ったんじゃない。


 子供が自分の世界へ持ち帰れる形にしたんだ。


     ◇


 帰りに本屋へ寄った。


 特に用事はなかった。


 ただ。


 自分の漫画が置いてあるか見たくなった。


 たまにやる。


 自分で描いた本なんだから、当然家にもある。


 なのに。


 本屋に置いてあるのを見ると。


 ちょっと嬉しい。


 我ながら面倒臭い。


 漫画の棚へ向かう。


 あった。


『ビーストギア』。


 平積み。


「…………」


 前より。


 増えている気がする。


 気のせいかもしれない。


 数えようかと思った。


 やめた。


 作者本人が、自分の本が何冊積まれているか数えているところを見られたら。


 かなり恥ずかしい。


 何でもない顔をして通り過ぎようとした。


 その時。


 後ろから声が聞こえた。


「これ、テレビのやつ?」


「そうそう」


 振り返りたくなった。


 我慢した。


「漫画もあるんだ」


「元々漫画らしいよ」


「へえ」


「テレビとちょっと違うって」


「怖い?」


「知らない」


「見てみようぜ」


「うん」


「…………」


 俺は。


 棚の反対側へ移動した。


 別に。


 盗み聞きじゃない。


 たまたま近くにいただけだ。


 多分。


     ◇


 しばらくして。


 二人組の子供が漫画を開いた。


 どこを読んでいるのか。


 気になる。


 ものすごく気になる。


 でも。


 見に行けない。


 作者本人が後ろから覗いていたら怖い。


 だから。


 棚の向こうで。


 意味もなく別の漫画を手に取った。


「うわ」


 聞こえた。


 心臓に悪い。


「何これ」


 どっちだ。


 良い意味か。


 悪い意味か。


「テレビと全然違う」


 俺は手にしていた本を開いたふりをした。


「こっち怖っ」


「マジじゃん」


「モズキャッチャーやば」


 そこか。


 よりによって。


 今日、そこを見るのか。


「これテレビでやらないの?」


「無理じゃね?」


「だよな」


「…………」


 小学生にも分かるらしい。


 俺は昨日まで。


 原作者だから変更に複雑な気分になるとか。


 原案の意味を残すのがどうとか。


 テレビとしての表現がどうとか。


 いろいろ考えていた。


 小学生。


「無理じゃね?」


 終わり。


 正しい。


 多分。


 こういうことを。


 難しく考えすぎるのが原作者なんだと思う。


     ◇


 二人はそのまま、漫画を読み続けていた。


 怖いと言ったくせに。


 閉じない。


 ページをめくっている。


 そこが。


 少し嬉しかった。


「テレビとどっちが面白い?」


「うーん」


 やめろ。


 その質問は。


 俺が近くにいる時にするな。


「テレビ」


「俺、漫画」


「…………」


 引き分けた。


 何と戦っているんだ、俺は。


 テレビ版だって『ビーストギア』だ。


 それでも。


 ほんの少し。


「漫画」と言った子の方へ心の中で礼を言った。


 我ながら小さい。


     ◇


 そのまま店内を歩いていると。


 雑誌のコーナーで足が止まった。


 子供向けのテレビ雑誌。


 表紙に。


 キットがいた。


「…………」


 大きい。


 俺の漫画より。


 ずっと大きく載っている。


 その隣には。


 モズキャッチャー。


 妙に楽しそうなポーズをしている。


「お前……」


 何をしている。


 原案では。


 そんなポーズは絶対にしない。


 気になって。


 中を少し見た。


 キットの紹介。


 能力。


 必殺技。


 怪人紹介。


 次回の見どころ。


 写真も多い。


 色も派手だ。


 そして。


 モズキャッチャー。


 子供向けの文章で。


 能力や特徴が説明されている。


 当然。


 人間の早贄なんて書いていない。


 代わりに。


『気に入ったものを集めるのが大好き!』


 と書いてあった。


「…………」


 大好き。


 そうか。


 大好きなのか。


 俺は知らなかった。


 俺が作ったんだけど。


     ◇


 しかも。


 紹介の横には。


 小さなモズキャッチャーのイラストまで載っている。


 口を大きく開けて。


 両手に物を抱えて。


 何だか楽しそうだ。


「…………」


 かわいい。


 いや。


 待て。


 昨日。


「モズキャッチャーかわいい」という感想を見て。


 俺は首をひねっていたはずだ。


 でも。


 この絵は。


 ちょっとかわいい。


「違う」


 小さく呟いた。


 何が違うのか自分でも分からない。


 原案と違うから、ということにしておく。


     ◇


 結局。


 その雑誌を買った。


 買うつもりはなかった。


 読むだけのつもりだった。


 でも。


 レジへ持っていった。


 自分が原作を書いた特撮が表紙になっている子供向け雑誌を。


 原作者本人が買う。


 かなり不思議な行為だ。


 レジの人は。


 当然。


 何も知らない。


「袋はご利用になりますか?」


「お願いします」


 袋に入れてもらった。


 少し恥ずかしかったから。


     ◇


 家へ帰って。


 テレビ版の資料と。


 自分の原案。


 それから。


 今日買った雑誌を机へ並べた。


 原案。


 怖い。


 テレビ版。


 分かりやすい。


 原案。


 人間を殺す。


 テレビ版。


 物を集める。


 原案。


 愛嬌なんてない。


 テレビ版。


 子供に「かわいい」と言われる。


 そして雑誌では。


『気に入ったものを集めるのが大好き!』


「…………」


 随分違う。


 でも。


 不思議と。


 別物には見えない。


 モズだ。


 どっちも。


 俺のモズキャッチャーだ。


     ◇


 多分。


 俺は今まで。


「子供向け」という言葉を。


 少し勘違いしていた。


 怖いものを怖くなくする。


 難しいものを簡単にする。


 残酷なものを消す。


 そういうことだと思っていた。


 でも。


 それだけじゃないのかもしれない。


 何を残すか。


 どこを変えるか。


 子供が見た時に。


 何を覚えて帰るのか。


 その怪人を。


 どう好きになるのか。


 どう遊ぶのか。


 そこまで考えて作る。


 それが。


 子供向けにするということなのかもしれない。


 俺の原案を。


 薄めているわけじゃない。


 別の方向から。


 濃くしている。


 そんな気がした。


     ◇


 考えてみれば。


 俺が子供の頃に好きだったものだって。


 そうだったのかもしれない。


 作者が本当は何を考えて作ったのかなんて。


 知らなかった。


 設定を全部理解していたわけでもない。


 ただ。


 格好いいとか。


 怖いとか。


 面白いとか。


 真似したいとか。


 そういう理由で好きになった。


 それでよかった。


 だったら。


 今の子供たちが。


 モズキャッチャーを見て。


「かわいい」


 と思っても。


 別にいいのかもしれない。


 俺の想定と違うだけで。


 間違ってはいない。


     ◇


 さっき。


 ミドリに電話した。


「お前の言った通りだった」


『何が?』


「モズキャッチャー」


『何かあった?』


「子供が真似してた」


『ほら』


 得意そうだった。


 腹が立つ。


「早贄やってた」


『え?』


「玩具を電柱のところに置こうとしてた」


『びっくりさせないでよ』


「俺もびっくりした」


『でも人気あるんじゃない?』


「みたいだな」


『嬉しい?』


「…………」


『何、その間』


「嬉しいよ」


 これは。


 本当だ。


『じゃあ素直に喜べばいいじゃん』


「それができたら苦労しない」


『面倒臭い原作者』


「うるさい」


 電話の向こうで。


 ミドリが笑った。


 その笑い方が。


 昔から変わらない。


『でも、良かったじゃん』


「何が」


『あんたの描いたものを、子供が好きになってくれたんでしょ』


「……まあ」


『それって結構すごいことだと思うけど』


「…………」


 言われて。


 少しだけ。


 返事に困った。


『何?』


「いや」


『また面倒臭いこと考えてる?』


「考えてない」


『嘘』


「切るぞ」


『はいはい』


 電話を切った。


     ◇


 机の上には。


 原案のモズキャッチャー。


 テレビ版の資料。


 今日買った子供向け雑誌。


 三つのモズキャッチャーがいる。


 一番最初に作ったのは。


 俺だ。


 でも。


 今、一番たくさんの子供が知っているモズキャッチャーは。


 多分。


 俺が描いた姿じゃない。


「…………」


 少し前の俺なら。


 そこに引っかかったかもしれない。


 俺の方が本物だ。


 こっちが原作だ。


 そう思ったかもしれない。


 今も。


 全く思わないわけじゃない。


 原作者だから。


 でも。


 今日。


 電柱の前で。


「今モズキャッチャーなの!」


 と言っていた子供を見た。


 あの子にとっては。


 テレビのモズキャッチャーが。


 モズキャッチャーなんだろう。


 それで。


 いい。


 多分。


     ◇


 どっちが本物なのか。


 少し考えた。


 原案。


 特撮。


 雑誌。


 どれも。


 同じ名前で。


 少しずつ違う。


 でも。


 元になったものは同じだ。


 だったら。


 どれか一つだけを本物にする必要もないのかもしれない。


 俺の描いた『ビーストギア』。


 テレビの『ビーストギア』。


 子供が遊びの中で作る『ビーストギア』。


 全部。


 同じところから。


 別の方向へ伸びている。


 そう考えると。


 少し。


 面白い。


     ◇


 ただ。


 雑誌に載っているモズキャッチャーの紹介文。


『気に入ったものを集めるのが大好き!』


 これだけは。


 何度読んでも。


 ちょっと笑う。


 俺は原案を開いた。


 人間が早贄にされている。


 雑誌を見る。


『気に入ったものを集めるのが大好き!』


 原案を見る。


 雑誌を見る。


 もう一度。


 原案を見る。


「…………」


 お前。


 そんなに可愛い奴だったっけ。


※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・世界観・キャラクター設定・物語構成・展開の方向性など、作品の根幹となる部分は作者が制作しています。それらの原案や設定、作者との相談・修正・指示をもとに、ChatGPTが文章化、表現の調整、推敲などを担当しています。作者とAIが互いに案を出し、検討と修正を重ねながら、一つの物語として完成させています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。