第十二話 子供向け
第十二話 子供向け
この前、ミドリに言われた。
「モズキャッチャー、子供に人気出るんじゃない?」
その時は、そんなものなのかと思った。
悪役だぞ。
人の物を奪うし。
キットと戦うし。
原案に至っては、人間を早贄にしている。
どこに子供から好かれる要素があるんだ。
そう思っていた。
どうやら。
俺は子供というものを、あまり分かっていなかったらしい。
◇
今日、編集部へ行った。
打ち合わせがあったからだ。
別に珍しいことじゃない。
問題は、その帰りだった。
駅へ向かって歩いていると、前から親子が来た。
母親と。
小学生くらいの男の子。
その子が俺の横を通り過ぎる瞬間、突然叫んだ。
「モズキャッチャー!」
心臓が跳ねた。
一瞬。
俺のことが分かったのかと思った。
そんなわけがない。
俺は別に顔を売っているわけじゃない。
振り返った。
男の子は。
俺なんか見ていなかった。
電柱を見ていた。
「ここに置く!」
手に持っていた小さな玩具を、電柱の根元へ置こうとしている。
母親がすぐに止めた。
「駄目。置いていかないの」
「早贄!」
「それ、置いていったらなくなるよ」
「モズキャッチャーは置くよ」
「あなたはモズキャッチャーじゃないでしょ」
「今、モズキャッチャーなの!」
「じゃあ今だけやめなさい」
「やだ!」
「じゃあ玩具なくなっても知らないよ」
「……やめる」
早かった。
俺は少し離れたところで、しばらく立ち止まってしまった。
◇
子供が。
モズキャッチャーの真似をしていた。
それだけだ。
ただ。
妙な感じだった。
俺が机の上で考えたものを。
知らない子供が知っている。
しかも。
真似をしている。
早贄まで。
「…………」
いや。
早贄と言っても。
玩具を電柱の根元へ置こうとしていただけだけど。
これが原案だったら。
絶対に真似できない。
というか。
真似されてたまるか。
そう考えると。
テレビ版で「人間を突き刺す」から「物を高いところへ集める」に変えたのは。
本当に正解だったんだと思う。
原案の意味を残しながら。
子供が遊びとして真似できるところまで変えてしまった。
昨日までは。
テレビ向けに上手くマイルドにしたな。
そのくらいに思っていた。
でも。
実際に子供が遊んでいるのを見ると。
少し違って見える。
あれは。
ただ残酷なところを削ったんじゃない。
子供が自分の世界へ持ち帰れる形にしたんだ。
◇
帰りに本屋へ寄った。
特に用事はなかった。
ただ。
自分の漫画が置いてあるか見たくなった。
たまにやる。
自分で描いた本なんだから、当然家にもある。
なのに。
本屋に置いてあるのを見ると。
ちょっと嬉しい。
我ながら面倒臭い。
漫画の棚へ向かう。
あった。
『ビーストギア』。
平積み。
「…………」
前より。
増えている気がする。
気のせいかもしれない。
数えようかと思った。
やめた。
作者本人が、自分の本が何冊積まれているか数えているところを見られたら。
かなり恥ずかしい。
何でもない顔をして通り過ぎようとした。
その時。
後ろから声が聞こえた。
「これ、テレビのやつ?」
「そうそう」
振り返りたくなった。
我慢した。
「漫画もあるんだ」
「元々漫画らしいよ」
「へえ」
「テレビとちょっと違うって」
「怖い?」
「知らない」
「見てみようぜ」
「うん」
「…………」
俺は。
棚の反対側へ移動した。
別に。
盗み聞きじゃない。
たまたま近くにいただけだ。
多分。
◇
しばらくして。
二人組の子供が漫画を開いた。
どこを読んでいるのか。
気になる。
ものすごく気になる。
でも。
見に行けない。
作者本人が後ろから覗いていたら怖い。
だから。
棚の向こうで。
意味もなく別の漫画を手に取った。
「うわ」
聞こえた。
心臓に悪い。
「何これ」
どっちだ。
良い意味か。
悪い意味か。
「テレビと全然違う」
俺は手にしていた本を開いたふりをした。
「こっち怖っ」
「マジじゃん」
「モズキャッチャーやば」
そこか。
よりによって。
今日、そこを見るのか。
「これテレビでやらないの?」
「無理じゃね?」
「だよな」
「…………」
小学生にも分かるらしい。
俺は昨日まで。
原作者だから変更に複雑な気分になるとか。
原案の意味を残すのがどうとか。
テレビとしての表現がどうとか。
いろいろ考えていた。
小学生。
「無理じゃね?」
終わり。
正しい。
多分。
こういうことを。
難しく考えすぎるのが原作者なんだと思う。
◇
二人はそのまま、漫画を読み続けていた。
怖いと言ったくせに。
閉じない。
ページをめくっている。
そこが。
少し嬉しかった。
「テレビとどっちが面白い?」
「うーん」
やめろ。
その質問は。
俺が近くにいる時にするな。
「テレビ」
「俺、漫画」
「…………」
引き分けた。
何と戦っているんだ、俺は。
テレビ版だって『ビーストギア』だ。
それでも。
ほんの少し。
「漫画」と言った子の方へ心の中で礼を言った。
我ながら小さい。
◇
そのまま店内を歩いていると。
雑誌のコーナーで足が止まった。
子供向けのテレビ雑誌。
表紙に。
キットがいた。
「…………」
大きい。
俺の漫画より。
ずっと大きく載っている。
その隣には。
モズキャッチャー。
妙に楽しそうなポーズをしている。
「お前……」
何をしている。
原案では。
そんなポーズは絶対にしない。
気になって。
中を少し見た。
キットの紹介。
能力。
必殺技。
怪人紹介。
次回の見どころ。
写真も多い。
色も派手だ。
そして。
モズキャッチャー。
子供向けの文章で。
能力や特徴が説明されている。
当然。
人間の早贄なんて書いていない。
代わりに。
『気に入ったものを集めるのが大好き!』
と書いてあった。
「…………」
大好き。
そうか。
大好きなのか。
俺は知らなかった。
俺が作ったんだけど。
◇
しかも。
紹介の横には。
小さなモズキャッチャーのイラストまで載っている。
口を大きく開けて。
両手に物を抱えて。
何だか楽しそうだ。
「…………」
かわいい。
いや。
待て。
昨日。
「モズキャッチャーかわいい」という感想を見て。
俺は首をひねっていたはずだ。
でも。
この絵は。
ちょっとかわいい。
「違う」
小さく呟いた。
何が違うのか自分でも分からない。
原案と違うから、ということにしておく。
◇
結局。
その雑誌を買った。
買うつもりはなかった。
読むだけのつもりだった。
でも。
レジへ持っていった。
自分が原作を書いた特撮が表紙になっている子供向け雑誌を。
原作者本人が買う。
かなり不思議な行為だ。
レジの人は。
当然。
何も知らない。
「袋はご利用になりますか?」
「お願いします」
袋に入れてもらった。
少し恥ずかしかったから。
◇
家へ帰って。
テレビ版の資料と。
自分の原案。
それから。
今日買った雑誌を机へ並べた。
原案。
怖い。
テレビ版。
分かりやすい。
原案。
人間を殺す。
テレビ版。
物を集める。
原案。
愛嬌なんてない。
テレビ版。
子供に「かわいい」と言われる。
そして雑誌では。
『気に入ったものを集めるのが大好き!』
「…………」
随分違う。
でも。
不思議と。
別物には見えない。
モズだ。
どっちも。
俺のモズキャッチャーだ。
◇
多分。
俺は今まで。
「子供向け」という言葉を。
少し勘違いしていた。
怖いものを怖くなくする。
難しいものを簡単にする。
残酷なものを消す。
そういうことだと思っていた。
でも。
それだけじゃないのかもしれない。
何を残すか。
どこを変えるか。
子供が見た時に。
何を覚えて帰るのか。
その怪人を。
どう好きになるのか。
どう遊ぶのか。
そこまで考えて作る。
それが。
子供向けにするということなのかもしれない。
俺の原案を。
薄めているわけじゃない。
別の方向から。
濃くしている。
そんな気がした。
◇
考えてみれば。
俺が子供の頃に好きだったものだって。
そうだったのかもしれない。
作者が本当は何を考えて作ったのかなんて。
知らなかった。
設定を全部理解していたわけでもない。
ただ。
格好いいとか。
怖いとか。
面白いとか。
真似したいとか。
そういう理由で好きになった。
それでよかった。
だったら。
今の子供たちが。
モズキャッチャーを見て。
「かわいい」
と思っても。
別にいいのかもしれない。
俺の想定と違うだけで。
間違ってはいない。
◇
さっき。
ミドリに電話した。
「お前の言った通りだった」
『何が?』
「モズキャッチャー」
『何かあった?』
「子供が真似してた」
『ほら』
得意そうだった。
腹が立つ。
「早贄やってた」
『え?』
「玩具を電柱のところに置こうとしてた」
『びっくりさせないでよ』
「俺もびっくりした」
『でも人気あるんじゃない?』
「みたいだな」
『嬉しい?』
「…………」
『何、その間』
「嬉しいよ」
これは。
本当だ。
『じゃあ素直に喜べばいいじゃん』
「それができたら苦労しない」
『面倒臭い原作者』
「うるさい」
電話の向こうで。
ミドリが笑った。
その笑い方が。
昔から変わらない。
『でも、良かったじゃん』
「何が」
『あんたの描いたものを、子供が好きになってくれたんでしょ』
「……まあ」
『それって結構すごいことだと思うけど』
「…………」
言われて。
少しだけ。
返事に困った。
『何?』
「いや」
『また面倒臭いこと考えてる?』
「考えてない」
『嘘』
「切るぞ」
『はいはい』
電話を切った。
◇
机の上には。
原案のモズキャッチャー。
テレビ版の資料。
今日買った子供向け雑誌。
三つのモズキャッチャーがいる。
一番最初に作ったのは。
俺だ。
でも。
今、一番たくさんの子供が知っているモズキャッチャーは。
多分。
俺が描いた姿じゃない。
「…………」
少し前の俺なら。
そこに引っかかったかもしれない。
俺の方が本物だ。
こっちが原作だ。
そう思ったかもしれない。
今も。
全く思わないわけじゃない。
原作者だから。
でも。
今日。
電柱の前で。
「今モズキャッチャーなの!」
と言っていた子供を見た。
あの子にとっては。
テレビのモズキャッチャーが。
モズキャッチャーなんだろう。
それで。
いい。
多分。
◇
どっちが本物なのか。
少し考えた。
原案。
特撮。
雑誌。
どれも。
同じ名前で。
少しずつ違う。
でも。
元になったものは同じだ。
だったら。
どれか一つだけを本物にする必要もないのかもしれない。
俺の描いた『ビーストギア』。
テレビの『ビーストギア』。
子供が遊びの中で作る『ビーストギア』。
全部。
同じところから。
別の方向へ伸びている。
そう考えると。
少し。
面白い。
◇
ただ。
雑誌に載っているモズキャッチャーの紹介文。
『気に入ったものを集めるのが大好き!』
これだけは。
何度読んでも。
ちょっと笑う。
俺は原案を開いた。
人間が早贄にされている。
雑誌を見る。
『気に入ったものを集めるのが大好き!』
原案を見る。
雑誌を見る。
もう一度。
原案を見る。
「…………」
お前。
そんなに可愛い奴だったっけ。
※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・世界観・キャラクター設定・物語構成・展開の方向性など、作品の根幹となる部分は作者が制作しています。それらの原案や設定、作者との相談・修正・指示をもとに、ChatGPTが文章化、表現の調整、推敲などを担当しています。作者とAIが互いに案を出し、検討と修正を重ねながら、一つの物語として完成させています。




