第十三話 もう一つの漫画
第十三話 もう一つの漫画
今日。
ミドリから妙な話を持ちかけられた。
「もう一本、『ビーストギア』の漫画を作らない?」
最初。
意味が分からなかった。
「もうあるだろ」
「知ってる」
「俺が描いてる」
「それも知ってる」
「じゃあ何を作るんだよ」
「だから、もう一本」
「…………」
会話になっていない。
少なくとも。
俺にはそう思えた。
◇
今日は打ち合わせの日だった。
いつものように原稿の話をして。
次の展開を確認して。
修正するところを言われて。
俺が文句を言って。
ミドリが聞き流して。
大体いつも通りだった。
その打ち合わせが一通り終わったところで。
ミドリが一冊のファイルを机の上へ置いた。
「新しい企画」
「また?」
「嫌そうな顔しない」
「今の漫画と特撮で十分忙しい」
「だから、あんたに描けとは言ってない」
「じゃあ何だよ」
ミドリがファイルを開いた。
表紙には。
『ビーストギア 児童向けコミカライズ企画』
と書かれていた。
「…………」
嫌な予感がした。
◇
「児童向け?」
「そう」
「今の漫画じゃ駄目なのか」
「駄目ってわけじゃない」
ミドリはそう言ってから。
少し考えた。
「でも、小学生にはちょっときつい」
「…………」
昨日。
本屋で聞いた言葉を思い出した。
「こっち怖っ」
「無理じゃね?」
小学生に。
はっきり言われた。
「……読んでたぞ」
「誰が?」
「小学生」
「どこで?」
「本屋」
「なんであんたがそれ知ってるの」
「近くにいた」
「何してたの?」
「別に」
「まさか自分の漫画読んでる子を見張ってた?」
「見張ってない」
「じゃあ何してたのよ」
「たまたま聞こえただけだ」
「怪しい」
「うるさい」
話が逸れた。
◇
ミドリが企画書を指で叩く。
「特撮が始まってから、低い年齢の子にも『ビーストギア』が知られるようになってきたでしょ」
「らしいな」
「らしいなって。原作者でしょ」
「子供に聞いて回るわけにいかないだろ」
「それはやめて」
「やらないよ」
「とにかく」
ミドリが続ける。
「テレビを見て漫画にも興味を持ってくれる子が増えてる。でも、今の原作は少し年齢が上なのよ」
「中学生くらい?」
「その辺からかな。高校生にも読まれてるし」
「別にいいじゃないか」
「いいよ。それはそれで」
ミドリは否定しなかった。
「今の漫画を変えろって話じゃないから」
俺は。
そこで少しだけ警戒を解いた。
◇
「じゃあ何をする」
「テレビを見てる小学生くらいの子が、そのまま読める『ビーストギア』を作る」
「漫画で?」
「漫画で」
「誰が描く」
「新人」
「…………」
また。
引っかかった。
「新人?」
「若い子。まだ連載経験はないけど、絵がいい」
「俺より?」
「そういう面倒臭い質問しないで」
「してない」
「したでしょ」
「確認しただけだ」
「何を確認したのよ」
ミドリが呆れた顔をする。
「別に、あんたと競わせるために連れてくるわけじゃないから」
「分かってる」
「本当に?」
「分かってるって」
多分。
◇
企画書の中には。
何枚か絵が入っていた。
キット。
怪人。
戦闘場面。
俺の漫画とは。
全然違う。
「…………」
「どう?」
ミドリに聞かれた。
すぐには答えなかった。
線が柔らかい。
表情が大きい。
身体のバランスも。
俺の描くものより少し親しみやすい。
キットも。
俺のキットより。
随分。
子供が好きそうな顔をしている。
「違うな」
「そりゃ違うでしょ」
「俺の絵と」
「同じだったら別の人に描いてもらう意味ないじゃない」
「まあ」
ページをめくる。
怪人。
怖さは残っている。
でも。
俺の絵ほど生々しくない。
血が飛び散るような絵もない。
それでも。
ちゃんと怪人に見える。
「…………」
まただ。
特撮を初めて見た時と。
少し似ている。
俺が作ったものなのに。
俺には描けない『ビーストギア』。
◇
「話は?」
「基本的にはテレビ版を入口にする予定」
「原作じゃなくて?」
「原作も使う。でも、そのままじゃ無理でしょ」
「…………」
「モズの早贄とか」
「分かってるよ」
「本当に?」
「この前十分分かった」
小学生にも言われた。
無理じゃね?
正しい。
「子供向けに話を整理して、怪人も少し親しみやすくする。でも、『ビーストギア』じゃなくなるほど変えるつもりはない」
「誰が決める」
「編集部と漫画家さん。それから特撮側とも調整することになると思う」
「…………」
俺は企画書を閉じた。
「嫌?」
ミドリが聞いた。
「嫌とは言ってない」
「顔は嫌そうだけど」
「考えてるだけだ」
他人が。
俺の漫画を漫画にする。
変な話だ。
特撮は。
まだ分かる。
映像になる。
俳優が演じる。
スーツが動く。
媒体そのものが違う。
でも。
漫画を。
別の漫画家が漫画にする。
同じ紙の上で。
同じコマで。
同じ吹き出しを使って。
俺とは違う『ビーストギア』を描く。
「…………」
不思議だ。
正直。
少し怖い。
◇
「テレビ版ができた時も」
ミドリが言った。
「最初、似たような顔してたよ」
「そうか?」
「してた」
「覚えてない」
「私は覚えてる」
「嫌だったわけじゃない」
「知ってる」
「ただ」
「自分の手から離れるのが変な感じするんでしょ」
「…………」
先に言われた。
「何」
「いや」
「違った?」
「大体合ってる」
「でしょ」
幼なじみというのは。
こういう時。
面倒臭い。
◇
俺はもう一度。
新人漫画家の絵を見た。
キットがいる。
俺のキットじゃない。
でも。
キットだ。
怪人がいる。
俺の線じゃない。
でも。
どの生き物をモチーフにして。
どんな能力を持つのか。
ちゃんと分かる。
「この人」
「うん」
「『ビーストギア』好きなのか?」
「かなり」
「そうなのか」
「企画の話したら、すごかったよ」
「何が」
「食いつきが」
「…………」
「原作も全部読んでる」
「全部?」
「全部」
「テレビから入ったんじゃなくて?」
「原作から」
「…………」
それを聞いて。
少しだけ。
見方が変わった。
単純だと思う。
でも。
俺の漫画を読んで。
その上で。
自分ならこう描く。
そう思ってくれた人間がいる。
悪い気はしない。
◇
「分かった」
俺は企画書を閉じた。
「やっていい」
ミドリが少し笑った。
「本当に?」
「ああ」
「意外と早かったね」
「ただし」
「ほら来た」
「何だよ」
「絶対何か言うと思った」
「条件がある」
ミドリが腕を組む。
「聞くだけ聞く」
「監修は俺がやる」
「…………」
「何だよ」
「本気?」
「当たり前だろ」
「今の連載やって」
「うん」
「原稿描いて」
「同じだろ」
「特撮の脚本や設定も確認して」
「してる」
「打ち合わせも出て」
「出てる」
「その上で、もう一本の漫画の監修?」
「そう」
ミドリは。
しばらく俺を見た。
「できるの?」
「できる」
「できるかどうかじゃなくて」
「今できるって言っただろ」
「いつやるの?」
「…………」
それは。
考えていなかった。
◇
「寝る時間削るとか言わないでよ」
「まだ言ってない」
「顔に書いてある」
「書いてない」
「高校の時から変わってないんだから分かる」
「何が」
「何かやりたいこと増えると、とりあえず睡眠削ればいいと思うところ」
「…………」
否定できない。
「でも」
俺は言った。
「監修はしたい」
これは。
譲れなかった。
「別に全部俺の言う通りに描けって意味じゃない」
「うん」
「それなら俺が描けばいい」
「そうだね」
「子供向けに変えるのもいい。絵が違うのもいい。話を変えるのも」
一度。
言葉を止める。
「でも」
俺が作ったものが。
どうしてそうなっているのか。
そこだけは。
知っていてほしい。
「モズなら、なんでモズなのか」
「うん」
「能力なら、なんでその能力なのか」
「うん」
「そこを知らないまま変えてほしくない」
ミドリは。
少し黙った。
さっきまでの。
呆れた顔ではなかった。
「分かった」
「本当か?」
「監修、あんたにする」
「よし」
「ただし」
「何だよ」
「今の連載の締切、一回でも落としたら考え直す」
「何でだよ」
「当たり前でしょ」
「原作者だぞ」
「原作者でも締切は守って」
「監修から原作者を外すのか?」
「必要なら」
「横暴だろ」
「締切落とす方が横暴」
「まだ落としてない」
「これから落としそうだから言ってるの」
「落とさない」
「本当に?」
「多分」
「今、多分って言った」
「言ってない」
「言った」
「言ってない」
「言った!」
◇
結局。
監修は。
俺がやることになった。
多分。
いや。
ちゃんとやる。
締切も。
守る。
多分。
……これは書かなかったことにしたい。
◇
家へ帰ってから。
もう一度。
企画書を見た。
新人漫画家が描いたキット。
俺とは違う。
特撮とも違う。
でも。
昨日考えたことを思い出した。
どれが本物なのか。
俺の漫画。
テレビ。
子供向けの雑誌。
そして今度は。
もう一つの漫画。
「増えるなあ……」
思わず呟いた。
俺が一人で考えていた頃には。
こんなことになるなんて思っていなかった。
一つだった『ビーストギア』が。
少しずつ。
枝分かれしている。
俺の知らない方向へ。
でも。
根っこは。
まだ俺のところにある。
だから。
そこだけは。
ちゃんと見ておきたい。
◇
ただ。
問題が一つある。
今の連載。
特撮。
新しい漫画の監修。
企画書を閉じて。
今日やる予定だった原稿を見る。
「…………」
ミドリの言葉が。
頭の中で聞こえた。
『そこまであんたできるの?』
「できる」
一人で答えた。
時計を見た。
「…………」
もう。
結構いい時間だった。
俺は原稿用紙を前にして。
少し考えた。
そして。
コーヒーを淹れた。
睡眠時間は。
まだ。
削っていない。
多分。
※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・世界観・キャラクター設定・物語構成・展開の方向性など、作品の根幹となる部分は作者が制作しています。それらの原案や設定、作者との相談・修正・指示をもとに、ChatGPTが文章化、表現の調整、推敲などを担当しています。作者とAIが互いに案を出し、検討と修正を重ねながら、一つの物語として完成させています。




