第十四話 売られている
第十四話 売られている
今日。
自分の作品に、値札が付いているところを見た。
いや。
漫画には前から付いている。
単行本だって売り物だ。
金を払って買ってもらっている。
だから。
今さら何を言っているんだと思う。
でも。
今日見たのは。
少し違った。
◇
編集部へ行った帰り。
駅前の玩具店に、『ビーストギア』の特設コーナーができていた。
最初は。
通り過ぎるつもりだった。
別に用事はない。
俺が買う必要もない。
そう思った。
でも。
入口のすぐ近くに。
大きなキッドの写真があった。
「…………」
足が止まった。
完全に。
向こうの思う壺だ。
◇
特設コーナーへ近づいてみると。
思っていたよりも、いろんな物が並んでいた。
キッドの人形。
変身ベルト。
メモリー。
小さな怪人フィギュア。
カード。
文房具。
子供用の服まである。
「…………」
本当に。
いろいろある。
俺が机に向かって漫画を描いていた時。
ここまで増えるなんて考えたこともなかった。
漫画の中でキッドが腰へ巻いていたベルトが。
今は箱に入って、棚に何個も並んでいる。
俺が適当にというわけではないけど、紙の上で形を決めたメモリーも。
プラスチックの玩具になっている。
その隣。
俺の目が止まった。
「…………」
ぬいぐるみ。
モズキャッチャーの。
ぬいぐるみ。
「お前……」
思わず声が出た。
◇
丸い。
柔らかい。
目が大きい。
羽も。
爪も。
全部かなり丸くなっている。
原案の面影がないわけではない。
顔をよく見れば。
確かにモズキャッチャーだ。
色も。
特徴も。
ちゃんと残っている。
でも。
殺した人間を早贄にするような顔では。
絶対にない。
この前。
子供向け雑誌を見て。
「お前、そんなに可愛い奴だったっけ」
と思った。
今日は。
もっとひどい。
本当に。
可愛くなっている。
◇
手に取った。
軽い。
柔らかい。
当たり前だ。
ぬいぐるみだから。
羽を触る。
ふわふわしている。
「…………」
何だろう。
妙に。
むずがゆい。
自分が考えた怪人を。
自分で抱えている。
しかも。
ぬいぐるみ。
俺は。
今。
何をしているんだ。
周りを見る。
誰も気にしていない。
そりゃそうだ。
ただの客だ。
俺が原作者だなんて。
誰も知らない。
◇
少し離れたところで。
親子がキッドのベルトを見ていた。
「これ欲しい!」
「誕生日まだ先でしょ」
「でも欲しい!」
「この前も別の買ったでしょ」
「これは違う!」
「何が違うの」
「変身できる!」
「できません」
「できる!」
「できません」
俺は。
少し笑った。
多分。
その子にとっては。
できるんだろう。
少なくとも。
腰に巻いて。
メモリーを差して。
ポーズを取る間は。
キッドになれる。
そういう意味では。
変身できる。
漫画の中でしか存在しなかったものが。
子供の遊びの中では。
本当に。
変身道具になっている。
◇
今度は。
メモリーを見た。
玩具用。
実際に音が鳴るらしい。
箱の裏に。
いろいろ説明が書いてある。
対象年齢。
遊び方。
注意事項。
ベルトへの装着方法。
「…………」
俺が最初に考えたメモリーは。
こんな物じゃなかった。
当然だ。
漫画の中の道具だ。
手に取れない。
音もしない。
電池もいらない。
紙に描けば。
それで終わりだった。
それが。
今は。
誰かが設計して。
誰かが試作品を作って。
誰かが安全性を確認して。
箱に入れて。
棚へ並べている。
漫画の一コマの向こう側に。
こんなにたくさんの人間がいる。
特撮を作っている時にも思ったけど。
まだ。
慣れない。
◇
箱の横には。
キッドの写真が載っていた。
メモリーを構えている。
その下に。
子供向けの大きな文字。
『キッドになりきれ!』
「…………」
俺は箱を戻した。
危ない。
こういうのを一つずつ見ていたら。
全部欲しくなる。
原作者だから資料として必要だ。
そう言えば。
多分。
いくらでも買える。
でも。
それをやったら。
部屋が『ビーストギア』だらけになる。
さすがに。
それは嫌だ。
多分。
◇
しばらく。
コーナーを見て回った。
別に。
買うつもりはなかった。
本当に。
なかった。
でも。
モズキャッチャーのぬいぐるみを。
ずっと持っていた。
「…………」
戻すか。
買うか。
戻す。
買う。
少し考えた。
棚へ戻しかけた。
すると。
妙に。
寂しく見えた。
「…………」
俺は。
もう一度持ち直した。
結果。
レジへ持っていった。
◇
「こちら一点でよろしいですか?」
「はい」
店員が。
モズキャッチャーを袋へ入れる。
俺は。
その様子を見ながら。
何とも言えない気分になった。
自分で作った怪人を。
自分で買っている。
もちろん。
原作者だから。
商品が売れれば。
まったく自分と無関係というわけでもない。
権利とか。
契約とか。
金とか。
考え始めれば。
いろいろある。
でも。
今は。
そういう話じゃない。
「ありがとうございました」
「どうも」
店を出た。
袋の中には。
モズキャッチャー。
歩くたびに。
袋の中で少し揺れる。
「…………」
変だ。
本当に。
◇
帰宅して。
机の上に置いた。
「…………」
原稿用紙。
資料。
ペン。
消しゴム。
その横に。
モズキャッチャーのぬいぐるみ。
似合わない。
かなり。
似合わない。
俺の机は。
基本的に。
可愛い物を置く場所ではない。
原稿。
資料。
飲みかけのコーヒー。
そんなものばかりだ。
そこに。
大きな目をしたモズキャッチャー。
「…………」
でも。
少し。
悪くない。
◇
机へ座って。
原稿を始めようとした。
でも。
視界の端に。
ずっといる。
「…………」
気になる。
位置を変えた。
まだ見る。
反対側へ向けた。
後頭部が見える。
それはそれで。
なんか可哀想だ。
「何やってんだ、俺」
結局。
元へ戻した。
◇
夜。
ミドリから電話が来た。
『今日、玩具店寄った?』
「何で知ってる」
『知らないよ』
「…………」
『何、その反応』
「何でもない」
『怪しい』
「別に」
『何買ったの』
「何で買った前提なんだ」
『買ったんでしょ』
「…………」
『何』
「モズキャッチャー」
『何を?』
「ぬいぐるみ」
電話の向こうで。
沈黙。
そのあと。
笑われた。
『あんたが?』
「悪いか」
『いや、悪くないけど』
「笑うな」
『だって』
「何だよ」
『自分で描いた怪人のぬいぐるみ買って帰ったの?』
「そうだよ」
『かわいい』
「うるさい」
『モズキャッチャーが?』
「違う」
『あんたが』
「切るぞ」
『待って待って』
まだ笑っている。
本当に腹が立つ。
◇
『でも』
ミドリが少し落ち着いた。
『嬉しいでしょ』
「…………」
『違う?』
「まあ」
『ほら』
「何だよ」
『最近、ちょっと素直になったね』
「なってない」
『なってる』
「なってない」
『前だったら、絶対そんなの買わなかったでしょ』
「…………」
それは。
そうかもしれない。
「前はまだ売ってなかっただろ」
『そういう意味じゃない』
「じゃあどういう意味だよ」
『前のあんただったら、自分の描いたものが可愛くされるたびに、もっと面倒臭い顔してたってこと』
「今もしてる」
『ぬいぐるみ買うくらいには気に入ってるじゃん』
「資料だ」
『今それ言う?』
「資料」
『はいはい』
完全に。
信じていない声だった。
◇
少し前まで。
テレビ版を見るたび。
俺の原案と違うところを探していた。
別に。
文句を言うためじゃない。
気になるから。
どう変わったのか。
どこを残したのか。
そればかり見ていた。
子供向けの漫画の話をされた時も。
最初に考えたのは。
「俺の『ビーストギア』がどう変わるか」
だった。
でも。
今は。
少し違う。
俺の描いたものが。
俺の知らない形になっている。
それを。
前ほど怖いとは思わなくなった。
変わる。
でも。
なくなるわけじゃない。
俺の原作は。
俺の原作として残る。
その横に。
別のものが増える。
◇
机の上。
モズキャッチャーのぬいぐるみ。
原案のモズキャッチャー。
子供向け雑誌のモズキャッチャー。
全部。
違う。
でも。
全部。
同じ名前で呼ばれている。
そのうち。
もっと増えるんだろうか。
玩具。
漫画。
ぬいぐるみ。
服。
文房具。
もしかしたら。
もっと変なものまで。
「…………」
そこまで考えて。
少し笑った。
何が出ても。
もう。
前ほど驚かない気がする。
多分。
◇
ただ。
一つだけ。
どうしても慣れないものがある。
値札だ。
モズキャッチャー。
価格。
何円。
「…………」
俺が。
何日も考えて。
何枚も描き直して。
どんな鳥を使うか。
何をさせるか。
どう怖くするか。
そんなことを考えながら作った怪人が。
今は。
棚に並んで。
何円。
分かっている。
商品なんだから。
当たり前だ。
漫画だってそうだ。
単行本にも。
ちゃんと値段が付いている。
でも。
何でだろう。
ぬいぐるみになると。
急に。
すごく現実的になる。
◇
触れるからだろうか。
机の上に置けるからだろうか。
抱えられるからだろうか。
よく分からない。
漫画は。
読んでもらうものだった。
テレビは。
見てもらうものだった。
でも。
玩具は。
子供が持つ。
遊ぶ。
一緒に寝るかもしれない。
外へ持っていくかもしれない。
モズキャッチャーのぬいぐるみを抱えて。
「モズキャッチャー!」
とか言って走る子供が。
どこかにいるのかもしれない。
「…………」
それを考えたら。
なんか。
変な気分になった。
でも。
嫌じゃない。
◇
今日。
初めて。
『ビーストギア』が。
漫画でも。
テレビでもなく。
物として。
世の中にあるんだと。
実感した。
俺が知らない家の。
知らない子供の部屋に。
キッドのベルトが置かれているかもしれない。
メモリーが転がっているかもしれない。
モズキャッチャーが。
枕元にいるかもしれない。
俺は。
その子のことを知らない。
その子も。
俺のことなんて知らない。
でも。
俺が考えたものだけは。
そこにいる。
「…………」
すごいことなのかもしれない。
多分。
◇
さっきから。
ぬいぐるみが。
こっちを見ている。
「…………」
原稿をやれ。
そう言われている気がする。
多分。
気のせいだ。
でも。
締切が近い。
だから。
机の端に置いて。
原稿を始めることにした。
モズキャッチャーに。
見張られながら。
俺は漫画を描いている。
少し前の俺が見たら。
多分。
何をやっているんだと。
言うと思う。
俺も。
そう思う。
でも。
悪くない。
※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・世界観・キャラクター設定・物語構成・展開の方向性など、作品の根幹となる部分は作者が制作しています。それらの原案や設定、作者との相談・修正・指示をもとに、ChatGPTが文章化、表現の調整、推敲などを担当しています。作者とAIが互いに案を出し、検討と修正を重ねながら、一つの物語として完成させています。




