第8話 いつもの喫茶店
第8話 いつもの喫茶店
今日は。
仕事をしなかった。
正確には。
仕事をしないつもりだった。
結果から言えば。
たぶん。
少しだけ仕事をした。
漫画家というのは。
どこからが仕事で。
どこまでが休みなのか。
よく分からない。
◇
昨日。
少し変なことがあった。
机に突っ伏して寝てしまって。
朝。
目を覚ましたら。
途中だったはずのプロットが。
最後まで完成していた。
書いた記憶はない。
でも。
字は俺のものだった。
内容も。
俺が考えそうなものだった。
だから。
疲れていた。
それで。
完成させたことを忘れた。
そういうことにした。
小人が夜中にやってきて。
俺の仕事を手伝ってくれた。
なんてことは。
もちろん。
ない。
ない。
……と思う。
◇
問題は。
その完成していたプロットを。
ミドリに見せたことだ。
「いいじゃん」
言った。
本当に。
言った。
昨日。
あれだけ。
ボツ。
と言われたものを。
最初から作り直して。
見せたら。
「こっちのほうが全然いい」
とまで言われた。
嬉しい。
普通なら。
ものすごく嬉しい。
ただ。
今回は。
少し複雑だった。
俺。
最後のほう。
書いた記憶がないんだけど。
とは。
言わなかった。
言ったら。
たぶん。
「寝なさい」
で終わる。
そして。
しばらく説教される。
さらに。
食生活まで確認される。
そこまで。
簡単に想像できた。
だから。
黙っていた。
◇
プロットが通った。
なら。
原稿を描かなければならない。
当たり前だ。
なのに。
今日は。
どうにも。
机に向かう気になれなかった。
「…………」
昨日まで。
あれだけ締め切りを気にしていたのに。
いざ。
描くものが決まったら。
少し。
気が抜けた。
だから。
喫茶店へ行った。
逃げたわけではない。
休憩だ。
まだ。
原稿を始めてすらいないけど。
休憩だ。
◇
いつもの喫茶店。
特別。
何かがある店ではない。
ものすごく有名なわけでもない。
変わったメニューがあるわけでもない。
コーヒーがあって。
軽い食事があって。
静かで。
長くいても。
あまり嫌な顔をされない。
俺にとっては。
それで十分だった。
いつもの席に座る。
コーヒーを頼む。
ノートは。
持ってきていない。
今日は。
仕事をしない。
だから。
持ってこなかった。
偉い。
◇
コーヒーを飲む。
窓の外を見る。
人が歩いている。
店の中では。
誰かが話している。
食器の音がする。
コーヒーの匂い。
「…………」
いい。
何も考えなくていい。
今日は。
漫画のことを。
忘れる。
そう思っていた。
十分くらいは。
◇
隣のほうから。
声が聞こえた。
親子だった。
母親と。
小さな男の子。
別に。
聞き耳を立てていたわけじゃない。
近かったから。
聞こえただけだ。
「それでね!」
男の子が。
一生懸命。
何かを説明している。
最初は。
気にしていなかった。
でも。
聞き覚えのある言葉が出た。
『ビーストギア』。
「…………」
コーヒーを飲む手が。
止まった。
◇
男の子は。
この前の放送について。
話していた。
変身が。
格好よかった。
怪人が。
怖かった。
でも。
最後に勝った。
次は。
どうなるんだろう。
そんな話。
母親は。
全部分かっているのか。
分かっていないのか。
「そうなんだ」
とか。
「よかったね」
とか。
相槌を打っていた。
男の子は。
楽しそうだった。
本当に。
楽しそうだった。
「…………」
不思議な感じだった。
◇
この子は。
俺を知らない。
当然だ。
俺が。
『ビーストギア』を描いている人間だなんて。
知らない。
たぶん。
漫画も。
読んでいない。
テレビから。
初めて。
『ビーストギア』を知った。
だったら。
この子にとって。
『ビーストギア』とは。
テレビの。
あれなんだ。
◇
少し前。
俺は。
悩んでいた。
漫画から。
特撮になって。
また。
変わった。
俺が最初に考えたものから。
どんどん。
遠くなっているような。
そんな気がした。
ミドリにも。
話した。
自分の『ビーストギア』じゃなくなっていく感じがする。
なんて。
今思うと。
ずいぶん。
面倒くさいことを言った。
いや。
今でも。
その気持ちが。
なくなったわけではない。
原作者なんだから。
たぶん。
これからも。
何か変わるたびに。
気になる。
でも。
隣で。
楽しそうに話している子供を見ていたら。
少し。
違うことを思った。
◇
俺には。
俺の『ビーストギア』がある。
最初に考えたもの。
漫画にしたもの。
描かなかったもの。
没にしたもの。
全部。
俺は知っている。
でも。
この子には。
この子の『ビーストギア』がある。
日曜日に。
テレビをつけて。
ヒーローが変身して。
怪人と戦って。
来週を楽しみにする。
それが。
この子の。
『ビーストギア』。
「…………」
だったら。
それで。
いいのかもしれない。
◇
もちろん。
だから。
何を変えられてもいい。
なんて。
思ってはいない。
そこは。
別だ。
原作者として。
言うべきことは言う。
残したいものは。
残したいと言う。
納得できないものがあれば。
話す。
たぶん。
これからも。
そうする。
でも。
最後に。
出来上がったものを。
誰かが見て。
楽しんで。
その人の中に。
その人なりの『ビーストギア』ができる。
そういうことも。
あるんだろう。
◇
男の子が。
突然。
立ち上がった。
「変身!」
小さな声だった。
母親に。
「お店の中だから座りなさい」
と言われた。
すぐ。
座った。
「…………」
危なかった。
笑いそうになった。
いや。
少し。
笑った。
たぶん。
顔に出ていた。
◇
声をかけようか。
一瞬。
思った。
「それ、俺が描いたんだよ」
と。
言ったら。
驚くだろうか。
信じないかもしれない。
でも。
やめた。
今。
この子にとって。
大事なのは。
隣の席にいる。
疲れた漫画家ではない。
テレビの中で。
格好よく戦っている。
ヒーローだ。
だったら。
それでいい。
◇
親子が。
先に店を出た。
俺は。
もう一杯。
コーヒーを頼んだ。
仕事をしないために。
来た。
喫茶店。
だったはずなのに。
「…………」
何か。
書きたくなった。
ポケットを探す。
ペン。
ある。
紙。
ない。
仕方ない。
店員に。
紙ナプキンを一枚もらった。
そこに。
思いついたことを。
少し。
書いた。
台詞。
場面。
怪人の動き。
「…………」
結局。
仕事をしている。
◇
家に帰って。
今。
これを書いている。
机の横には。
喫茶店から持って帰ってきた。
紙ナプキンがある。
文字だらけ。
端には。
怪人らしきものまで。
描いてある。
何だこれ。
休憩とは。
◇
でも。
今日は。
行ってよかった。
アイデアが出たから。
ではない。
いや。
それも。
ありがたいけど。
俺の知らないところで。
俺の知らない人が。
『ビーストギア』を見て。
楽しみにしてくれている。
それを。
初めて。
すぐ近くで見た。
漫画を描いていると。
基本。
一人だ。
机に向かって。
紙を見る。
描く。
読んでいる人の顔なんて。
見えない。
テレビだって。
俺が見ているのは。
テレビ画面だけだ。
その向こうに。
誰がいるのかなんて。
分からない。
でも。
今日は。
一人。
見えた。
それで。
十分だった。
◇
さて。
明日から。
原稿を描く。
今度こそ。
本当に。
描く。
プロットは。
通った。
話も。
決まった。
あとは。
俺が描くだけだ。
それと。
今日は。
ちゃんと布団で寝る。
昨日みたいに。
目を覚ましたら。
知らない間に原稿が進んでいる。
なんてことは。
たぶん。
もうない。
……ないほうが。
いい。
締め切りだけ考えると。
少し。
惜しい気もするけど。
※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・設定・構成など、作品の根幹となる部分は作者が制作し、それらの設定や展開、作者からの指示をもとに、ChatGPTが文章作成・文章化を担当しています。作者とAIが相談・調整を重ねながら、一つの作品として制作しています。




