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時根の手記  作者: 時根脱才 


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8/12

第8話 いつもの喫茶店

第8話 いつもの喫茶店


 今日は。


 仕事をしなかった。


 正確には。


 仕事をしないつもりだった。


 結果から言えば。


 たぶん。


 少しだけ仕事をした。


 漫画家というのは。


 どこからが仕事で。


 どこまでが休みなのか。


 よく分からない。


     ◇


 昨日。


 少し変なことがあった。


 机に突っ伏して寝てしまって。


 朝。


 目を覚ましたら。


 途中だったはずのプロットが。


 最後まで完成していた。


 書いた記憶はない。


 でも。


 字は俺のものだった。


 内容も。


 俺が考えそうなものだった。


 だから。


 疲れていた。


 それで。


 完成させたことを忘れた。


 そういうことにした。


 小人が夜中にやってきて。


 俺の仕事を手伝ってくれた。


 なんてことは。


 もちろん。


 ない。


 ない。


 ……と思う。


     ◇


 問題は。


 その完成していたプロットを。


 ミドリに見せたことだ。


「いいじゃん」


 言った。


 本当に。


 言った。


 昨日。


 あれだけ。


 ボツ。


 と言われたものを。


 最初から作り直して。


 見せたら。


「こっちのほうが全然いい」


 とまで言われた。


 嬉しい。


 普通なら。


 ものすごく嬉しい。


 ただ。


 今回は。


 少し複雑だった。


 俺。


 最後のほう。


 書いた記憶がないんだけど。


 とは。


 言わなかった。


 言ったら。


 たぶん。


「寝なさい」


 で終わる。


 そして。


 しばらく説教される。


 さらに。


 食生活まで確認される。


 そこまで。


 簡単に想像できた。


 だから。


 黙っていた。


     ◇


 プロットが通った。


 なら。


 原稿を描かなければならない。


 当たり前だ。


 なのに。


 今日は。


 どうにも。


 机に向かう気になれなかった。


「…………」


 昨日まで。


 あれだけ締め切りを気にしていたのに。


 いざ。


 描くものが決まったら。


 少し。


 気が抜けた。


 だから。


 喫茶店へ行った。


 逃げたわけではない。


 休憩だ。


 まだ。


 原稿を始めてすらいないけど。


 休憩だ。


     ◇


 いつもの喫茶店。


 特別。


 何かがある店ではない。


 ものすごく有名なわけでもない。


 変わったメニューがあるわけでもない。


 コーヒーがあって。


 軽い食事があって。


 静かで。


 長くいても。


 あまり嫌な顔をされない。


 俺にとっては。


 それで十分だった。


 いつもの席に座る。


 コーヒーを頼む。


 ノートは。


 持ってきていない。


 今日は。


 仕事をしない。


 だから。


 持ってこなかった。


 偉い。


     ◇


 コーヒーを飲む。


 窓の外を見る。


 人が歩いている。


 店の中では。


 誰かが話している。


 食器の音がする。


 コーヒーの匂い。


「…………」


 いい。


 何も考えなくていい。


 今日は。


 漫画のことを。


 忘れる。


 そう思っていた。


 十分くらいは。


     ◇


 隣のほうから。


 声が聞こえた。


 親子だった。


 母親と。


 小さな男の子。


 別に。


 聞き耳を立てていたわけじゃない。


 近かったから。


 聞こえただけだ。


「それでね!」


 男の子が。


 一生懸命。


 何かを説明している。


 最初は。


 気にしていなかった。


 でも。


 聞き覚えのある言葉が出た。


『ビーストギア』。


「…………」


 コーヒーを飲む手が。


 止まった。


     ◇


 男の子は。


 この前の放送について。


 話していた。


 変身が。


 格好よかった。


 怪人が。


 怖かった。


 でも。


 最後に勝った。


 次は。


 どうなるんだろう。


 そんな話。


 母親は。


 全部分かっているのか。


 分かっていないのか。


「そうなんだ」


 とか。


「よかったね」


 とか。


 相槌を打っていた。


 男の子は。


 楽しそうだった。


 本当に。


 楽しそうだった。


「…………」


 不思議な感じだった。


     ◇


 この子は。


 俺を知らない。


 当然だ。


 俺が。


『ビーストギア』を描いている人間だなんて。


 知らない。


 たぶん。


 漫画も。


 読んでいない。


 テレビから。


 初めて。


『ビーストギア』を知った。


 だったら。


 この子にとって。


『ビーストギア』とは。


 テレビの。


 あれなんだ。


     ◇


 少し前。


 俺は。


 悩んでいた。


 漫画から。


 特撮になって。


 また。


 変わった。


 俺が最初に考えたものから。


 どんどん。


 遠くなっているような。


 そんな気がした。


 ミドリにも。


 話した。


 自分の『ビーストギア』じゃなくなっていく感じがする。


 なんて。


 今思うと。


 ずいぶん。


 面倒くさいことを言った。


 いや。


 今でも。


 その気持ちが。


 なくなったわけではない。


 原作者なんだから。


 たぶん。


 これからも。


 何か変わるたびに。


 気になる。


 でも。


 隣で。


 楽しそうに話している子供を見ていたら。


 少し。


 違うことを思った。


     ◇


 俺には。


 俺の『ビーストギア』がある。


 最初に考えたもの。


 漫画にしたもの。


 描かなかったもの。


 没にしたもの。


 全部。


 俺は知っている。


 でも。


 この子には。


 この子の『ビーストギア』がある。


 日曜日に。


 テレビをつけて。


 ヒーローが変身して。


 怪人と戦って。


 来週を楽しみにする。


 それが。


 この子の。


『ビーストギア』。


「…………」


 だったら。


 それで。


 いいのかもしれない。


     ◇


 もちろん。


 だから。


 何を変えられてもいい。


 なんて。


 思ってはいない。


 そこは。


 別だ。


 原作者として。


 言うべきことは言う。


 残したいものは。


 残したいと言う。


 納得できないものがあれば。


 話す。


 たぶん。


 これからも。


 そうする。


 でも。


 最後に。


 出来上がったものを。


 誰かが見て。


 楽しんで。


 その人の中に。


 その人なりの『ビーストギア』ができる。


 そういうことも。


 あるんだろう。


     ◇


 男の子が。


 突然。


 立ち上がった。


「変身!」


 小さな声だった。


 母親に。


「お店の中だから座りなさい」


 と言われた。


 すぐ。


 座った。


「…………」


 危なかった。


 笑いそうになった。


 いや。


 少し。


 笑った。


 たぶん。


 顔に出ていた。


     ◇


 声をかけようか。


 一瞬。


 思った。


「それ、俺が描いたんだよ」


 と。


 言ったら。


 驚くだろうか。


 信じないかもしれない。


 でも。


 やめた。


 今。


 この子にとって。


 大事なのは。


 隣の席にいる。


 疲れた漫画家ではない。


 テレビの中で。


 格好よく戦っている。


 ヒーローだ。


 だったら。


 それでいい。


     ◇


 親子が。


 先に店を出た。


 俺は。


 もう一杯。


 コーヒーを頼んだ。


 仕事をしないために。


 来た。


 喫茶店。


 だったはずなのに。


「…………」


 何か。


 書きたくなった。


 ポケットを探す。


 ペン。


 ある。


 紙。


 ない。


 仕方ない。


 店員に。


 紙ナプキンを一枚もらった。


 そこに。


 思いついたことを。


 少し。


 書いた。


 台詞。


 場面。


 怪人の動き。


「…………」


 結局。


 仕事をしている。


     ◇


 家に帰って。


 今。


 これを書いている。


 机の横には。


 喫茶店から持って帰ってきた。


 紙ナプキンがある。


 文字だらけ。


 端には。


 怪人らしきものまで。


 描いてある。


 何だこれ。


 休憩とは。


     ◇


 でも。


 今日は。


 行ってよかった。


 アイデアが出たから。


 ではない。


 いや。


 それも。


 ありがたいけど。


 俺の知らないところで。


 俺の知らない人が。


『ビーストギア』を見て。


 楽しみにしてくれている。


 それを。


 初めて。


 すぐ近くで見た。


 漫画を描いていると。


 基本。


 一人だ。


 机に向かって。


 紙を見る。


 描く。


 読んでいる人の顔なんて。


 見えない。


 テレビだって。


 俺が見ているのは。


 テレビ画面だけだ。


 その向こうに。


 誰がいるのかなんて。


 分からない。


 でも。


 今日は。


 一人。


 見えた。


 それで。


 十分だった。


     ◇


 さて。


 明日から。


 原稿を描く。


 今度こそ。


 本当に。


 描く。


 プロットは。


 通った。


 話も。


 決まった。


 あとは。


 俺が描くだけだ。


 それと。


 今日は。


 ちゃんと布団で寝る。


 昨日みたいに。


 目を覚ましたら。


 知らない間に原稿が進んでいる。


 なんてことは。


 たぶん。


 もうない。


 ……ないほうが。


 いい。


 締め切りだけ考えると。


 少し。


 惜しい気もするけど。


※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・設定・構成など、作品の根幹となる部分は作者が制作し、それらの設定や展開、作者からの指示をもとに、ChatGPTが文章作成・文章化を担当しています。作者とAIが相談・調整を重ねながら、一つの作品として制作しています。

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