第6話 ボツ
第6話 ボツ
昨日。
俺は最後に、こう書いた。
今回は。
結構。
自信がある。
……あるんだけど。
なぜだろう。
最後にそう書いた途端。
ものすごく。
嫌な予感がしてきた。
結論から書こう。
嫌な予感というものは。
たまに。
恐ろしく正確に当たる。
◇
「ボツ」
ミドリは言った。
「…………」
俺は黙った。
「聞こえた?」
「聞こえた」
「じゃあ、その顔やめて」
「どういう顔だよ」
「ものすごく納得してない顔」
「納得してないからな」
昨日。
あれだけ苦労して考えた話だ。
朝から机に向かって。
何時間考えても出てこなくて。
図書館まで行った。
動物の本を読んだ。
昆虫も。
昔話も。
民話も。
機械も。
関係ありそうなものから。
関係なさそうなものまで。
散々見て。
それでも出なくて。
最後。
風呂に入って。
ようやく出てきた。
それを。
「ボツ」
たった二文字。
ひどくないか。
◇
「どこが駄目なんだよ」
「全部が駄目とは言ってない」
「じゃあ使えるだろ」
「そういう意味でもない」
「どっちだよ」
「だから説明するから聞いて」
ミドリが原稿を机に置いた。
正確には。
まだ原稿ではない。
プロット。
怪人の設定。
大まかな展開。
それをまとめたものだ。
ミドリは。
俺が描いた怪人の絵を指さした。
「まず、この怪人」
「格好いいだろ」
「うん」
「じゃあいいじゃん」
「話を聞いて」
「はい」
怒られた。
◇
「怪人そのものは面白いと思う」
「だろ?」
「能力も分かりやすい」
「だろ?」
「見た目も悪くない」
「だろ?」
「だから黙って聞いて」
「…………はい」
褒められているのに。
なぜ。
ボツになる。
意味が分からない。
「問題は、こっち」
ミドリが。
プロットの後半を指した。
「この展開だと、怪人の能力と主人公が戦う理由が、最後までうまくつながってない」
「つながってるだろ」
「時根の中ではね」
「俺が描いてるんだから、それでいいだろ」
「読者にも伝わらないと駄目でしょ」
「…………」
それを言われると。
弱い。
◇
説明された。
最初は。
反論した。
「いや、ここで分かるだろ」
「分からない」
「この台詞がある」
「その台詞だけじゃ足りない」
「だったら一個足せばいい」
「そうすると今度は、この場面がおかしくなる」
「じゃあ、ここを変える」
「そこを変えたら前半の伏線がなくなる」
「だったら前半も――」
そこで。
止まった。
「…………」
「分かった?」
「…………ちょっと待て」
「うん」
「これ」
「うん」
「直すっていうか」
「うん」
「ほとんど作り直しじゃないか?」
「そうね」
「…………」
ミドリ。
今。
ものすごく簡単に言ったな。
◇
「締め切り」
「知ってる」
「近いぞ」
「知ってる」
「昨日まで何日これに使ったと思ってるんだ」
「それも知ってる」
「だったら」
「だから今日言ってるんでしょ」
「もっと早く言えよ!」
「今日初めて見せられたのに、どうやって早く言うのよ!」
「…………」
「…………」
正論だった。
腹が立つ。
正論というものは。
なぜ。
腹が立っているときほど。
正確に飛んでくるんだろう。
◇
「でもさ」
俺は。
まだ粘った。
「これ、そんなに駄目か?」
「そんなにって?」
「全部やり直すほどか?」
「私は、やり直したほうがいいと思う」
「…………」
「部分的に直して出すことも、できなくはないと思う」
「じゃあ」
「でも」
ミドリが。
俺を見る。
「時根、それで納得する?」
「…………」
ずるい。
その聞き方は。
俺が。
「する」
と言えないことを。
こいつは知っている。
◇
漫画なんだから。
締め切りはある。
毎回。
百点のものなんて描けない。
時間がないなら。
ある程度のところで。
完成させなければならない。
分かっている。
プロなんだから。
分かっている。
でも。
今。
問題があると分かっているものを。
そのまま描けるか。
と言われたら。
「…………無理」
「でしょ?」
「お前、性格悪くなったな」
「高校のころから変わってません」
「そうだったか?」
「そうです」
「覚えてない」
「都合の悪いことは昔から覚えてないよね」
「…………」
そんなことはない。
たぶん。
◇
ミドリが帰った。
机の上には。
昨日作ったプロットがある。
怪人がいる。
自分で描いた怪人。
昨日は。
結構いいと思った。
今も。
怪人自体は。
悪くないと思っている。
でも。
話が駄目だ。
いや。
駄目という言い方は。
少し違うかもしれない。
このままでは。
俺が描きたかったものにならない。
そこまで。
分かってしまった。
「…………」
知らなければよかった。
いや。
駄目だ。
それは。
完全に駄目な漫画家の考え方だ。
◇
腹が立つ。
今日は。
ものすごく。
腹が立つ。
だから。
せっかく手記なんてものを書いているんだから。
書いておく。
ミドリの馬鹿。
何日かかったと思ってる。
締め切り近いんだぞ。
図書館まで行ったんだぞ。
風呂から飛び出して。
忘れないように。
急いで書いたんだぞ。
かなり。
いいと思ったんだぞ。
それを。
「ボツ」
だぞ。
二文字。
せめて。
もう少し。
こう。
言い方というものが。
あるんじゃないだろうか。
◇
もう描かない。
今日は。
描かない。
知らない。
締め切りも。
知らない。
漫画家も。
辞める。
「…………」
いや。
漫画家は辞めない。
それは困る。
俺が。
◇
さっき。
夕飯を食べた。
今日は。
ちゃんと食べた。
ミドリに言われたからではない。
たまたまだ。
食べながら。
またプロットを読んだ。
「…………」
やっぱり。
気になる。
言われたところが。
ものすごく。
気になる。
昨日まで。
全然気にならなかったのに。
一度。
「ここ、おかしくない?」
と言われると。
そこしか見えなくなる。
怪人の能力。
主人公の動機。
前半の伏線。
最後の戦い。
確かに。
少し。
ずれている。
「…………くそ」
腹が立つ。
ミドリに。
ではない。
たぶん。
気づかなかった。
昨日の俺に。
◇
結局。
机に向かった。
描かないと言ってから。
そんなに時間は経っていない。
自分でも。
もう少しくらい。
意地を張れと思う。
新しい紙を出した。
最初から。
考える。
怪人は。
残したい。
能力も。
できれば残す。
なら。
問題は。
話だ。
主人公が。
なぜ。
こいつと戦うのか。
そこから。
もう一度。
「…………」
白い紙を見る。
昨日も見た。
今日も見る。
明日も。
たぶん見る。
漫画家って。
白い紙を見る仕事なんじゃないだろうか。
◇
そういえば。
没になったプロットを。
捨てようと思った。
思っただけだ。
結局。
捨てていない。
怪人の絵も。
残してある。
使わない。
少なくとも。
今のままでは。
漫画には使えない。
ミドリにも。
そう言われた。
でも。
捨てるのは。
なんとなく。
嫌だった。
何日も考えた。
調べた。
悩んだ。
描いた。
結果。
使えなかった。
だからといって。
最初から何もなかったことになるわけじゃない。
俺が。
考えたものだ。
だったら。
残しておく。
いつか使うかもしれない。
使わないかもしれない。
それでもいい。
◇
さて。
愚痴を書いていたら。
結構な量になった。
手記って。
便利だな。
誰にも見せる予定がないから。
好きなことを書ける。
ミドリにだけは。
絶対。
見せない。
特に。
最初のほう。
見られたら。
たぶん。
次の打ち合わせが。
ものすごく気まずい。
だから。
これは。
俺だけのものにしておく。
で。
そろそろ。
仕事に戻る。
締め切りは。
俺が怒っていても。
待ってくれない。
明日。
この手記を読み返したとき。
「何をこんなに怒ってるんだ」
と。
笑えればいい。
今は。
まだ。
ちょっと無理だけど。
※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・設定・構成など、作品の根幹となる部分は作者が制作し、それらの設定や展開、作者からの指示をもとに、ChatGPTが文章作成・文章化を担当しています。作者とAIが相談・調整を重ねながら、一つの作品として制作しています。




