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時根の手記  作者: 時根脱才 


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第5話 何も浮かばない日

第5話 何も浮かばない日


 今日は。


 本当に。


 何も浮かばなかった。


 何も。


 ここまで何も浮かばない日は、逆に珍しい。


 いや。


 漫画家をやっていれば、珍しくもないのかもしれない。


 でも。


 少なくとも今日は。


 朝から机に向かって。


 昼になって。


 夕方になって。


 結果。


 ほぼ何もできなかった。


 こういう日を手記に残して何になるんだとも思う。


 ただ。


 特撮化が決まったとか。


 放送が始まったとか。


 そんな大きな出来事ばかり書いていたら。


 何年かあとに読み返した俺が。


「こいつ、ずいぶん順調な漫画家人生だったんだな」


 とか勘違いするかもしれない。


 そんなわけがない。


 だから。


 今日は。


 何も浮かばなかった日のことを書いておく。


     ◇


 朝。


 机に向かった。


 原稿用紙を置いた。


 シャープペンを持った。


 ここまでは完璧だった。


「…………」


 そこから。


 何も起きなかった。


 白い。


 紙が白い。


 当たり前だけど。


 昨日も白かった。


 昨日の最後に。


「まずいな」


 とは思った。


 締め切りが近い。


 なのに。


 次の話が、まだまとまっていない。


 正確には。


 考えているものはいくつかある。


 怪人の案もある。


 戦わせたい場面もある。


 台詞も少しある。


 でも。


 つながらない。


 怪人だけ格好よくても駄目だ。


 能力だけ面白くても駄目だ。


 そいつが出てきて。


 誰と戦って。


 何が起きて。


 最後に何を残すのか。


 そこまで見えないと。


 俺は。


 どうにも描き始められない。


「…………」


 考える。


 一時間。


 まだ考える。


 二時間。


 コーヒーを淹れる。


 考える。


 トイレに行く。


 戻る。


 考える。


 窓を見る。


 考える。


 机を見る。


 考える。


 時計を見る。


「嘘だろ」


 昼だった。


     ◇


 こういうとき。


 机に向かい続けるべきなのか。


 一度離れるべきなのか。


 いまだに分からない。


 粘っていれば。


 突然、何かが出てくることもある。


 逆に。


 何時間粘っても。


 本当に何も出てこないこともある。


 今日は。


 たぶん。


 後者だった。


「出よう」


 声に出した。


 誰もいないのに。


 最近。


 一人で喋ることが増えた気がする。


 漫画家って。


 こうなるんだろうか。


 俺だけかもしれない。


     ◇


 図書館へ行った。


 なぜ図書館なのか。


 自分でもよく分からない。


 何か。


 ある気がした。


 ものすごく曖昧だ。


 でも。


 アイデアがないときなんて。


 そんなものだと思う。


 欲しいものが分かっているなら。


 たぶん。


 もう半分くらい答えは出ている。


 分からないから。


 探しに行く。


     ◇


 最初に。


 動物の本を見た。


 怪人を考えるなら。


 やっぱり。


 生き物は強い。


 形が面白い。


 能力も面白い。


 人間にはないものを。


 最初から持っている。


 爪。


 牙。


 羽。


 毒。


 甲殻。


 擬態。


 電気。


 人間から見れば。


「そんなものまで持ってるのか」


 と思うような生き物が。


 普通にいる。


 漫画家が一生懸命考えた能力より。


 現実の生き物のほうが。


 よっぽど変だったりする。


 何冊か読む。


「これは使えるかも」


 思った。


 メモする。


 次。


 昆虫。


 読む。


 メモする。


 次。


 鳥。


 次。


 海の生き物。


 気づけば。


 怪人の資料探しになっていた。


「違うな」


 今日は。


 怪人だけを考えに来たわけじゃない。


 話だ。


 物語。


 だから。


 棚を変えた。


     ◇


 昔話。


 民話。


 伝承。


 神話。


 そういう本を眺めた。


 子供のころ。


 こういう話を読むのが好きだった。


 今でも好きだ。


 昔話って。


 よく考えると。


 かなり変なものが多い。


 動物が喋る。


 人間が別のものに変わる。


 知らない場所へ連れていかれる。


 約束を破ったら大変なことになる。


 助けた相手から恩返しされる。


 欲張った人間が痛い目を見る。


 怖い話もある。


 残酷な話もある。


 でも。


 最後まで読むと。


 妙に頭に残る。


 何百年も残っている話には。


 やっぱり。


 残る理由があるんだろう。


 そう思いながら。


 またメモした。


     ◇


 そのあと。


 機械の本も見た。


 乗り物。


 道具。


 昔の発明。


 工場。


 どうしてそこへ行ったのかは。


 もう覚えていない。


 棚を見ながら歩いていたら。


 気づいたらそこにいた。


 でも。


 これはこれで面白い。


 機械は。


 生き物とは違う。


 目的があって作られている。


 切るため。


 運ぶため。


 持ち上げるため。


 測るため。


 つなぐため。


 壊すため。


 人間が。


「こうしたい」


 と思ったから。


 その形になっている。


 生き物の形と。


 機械の形。


 全然違うようで。


 組み合わせると。


 意外と面白い。


「…………」


 少しだけ。


 頭の中で何かが動いた。


 ただ。


 まだ。


 形にはならない。


     ◇


 結局。


 図書館にはかなり長くいた。


 ノートには。


 いろいろ書いた。


 動物。


 昆虫。


 昔話。


 機械。


 思いついた台詞。


 使えるかもしれない設定。


 怪人の形。


 意味の分からない落書き。


 最後のほうには。


 腹が減った。


 とまで書いてあった。


 これは。


 たぶん作品には使えない。


     ◇


 家に帰った。


 机に座った。


 図書館で書いたメモを並べた。


「…………」


 分からない。


 いっぱい調べた。


 いっぱい書いた。


 なのに。


 話はできていない。


「何しに行ったんだ、俺」


 少し。


 本気で落ち込んだ。


 締め切りは。


 図書館へ行っている間も。


 ちゃんと近づいている。


 当たり前だ。


 俺が資料を読んでいるからといって。


 時間が待ってくれるわけじゃない。


 ミドリの顔が浮かんだ。


 まずい。


 非常に。


 まずい。


     ◇


 もう今日は諦めよう。


 そう思った。


 風呂に入った。


 風呂くらい。


 漫画のことを忘れようと思った。


 湯船につかった。


「…………」


 図書館で見たものが。


 頭の中に出てきた。


 動物。


 昔話。


 機械。


 さっきまで。


 何をどう組み合わせても。


 しっくりこなかった。


 なのに。


 風呂に入って。


 もう考えないと決めた途端。


「あ」


 出た。


「…………」


 待て。


 今。


 何か。


 つながった。


 こうして。


 こっちを。


 いや。


 それなら。


 あの怪人の案が使える。


 でも。


 そのままだと弱い。


 だったら。


 動機を逆にする。


 そうすれば。


 戦う理由も。


 最後の場面も。


「…………!」


 急いで風呂から出た。


 身体を拭く。


 服を着る。


 机へ行く。


 ノートを開く。


 書く。


 忘れる前に。


 とにかく。


 書く。


 字が汚い。


 自分でも読めるか怪しい。


 でも。


 今はいい。


 出てくるものを。


 全部。


 書く。


     ◇


 十分くらいだったと思う。


 手を止めた。


 ノートを見る。


「…………」


 ある。


 話になっている。


 少なくとも。


 朝。


 真っ白な紙を見ていたときより。


 ずっと。


 見えている。


「なんで風呂なんだよ」


 今日。


 何時間。


 机に座っていた。


 何時間。


 図書館にいた。


 何冊。


 本を読んだ。


 それで出なかったものが。


 考えるのをやめた途端。


 出てきた。


 理不尽だ。


 本当に。


     ◇


 でも。


 たぶん。


 図書館が無駄だったわけじゃない。


 今日見たものが。


 どこかに残っていて。


 頭の中で。


 勝手に混ざったんだと思う。


 そういうことにしておく。


 じゃないと。


 今日一日の大半が。


 本当に無駄だったことになる。


 それは。


 少し悲しい。


     ◇


 今。


 机の横には。


 今日借りてきた本が積んである。


 ノートには。


 新しい話の案がある。


 まだ。


 完成じゃない。


 明日の朝。


 読み返したら。


「何だこれ」


 となる可能性もある。


 漫画家をやっていると。


 夜中に思いついた名案ほど。


 朝。


 恐ろしいものに変わっていることがある。


 だから。


 まだ信用しない。


 でも。


 今日は。


 これでいい。


 朝から何も浮かばなかった。


 何時間考えても。


 何も出なかった。


 図書館へ行っても。


 結局。


 答えは見つからなかった。


 それでも。


 最後には。


 一つ。


 出た。


 何もできなかった日だと思っていたけど。


 こうして書いてみると。


 何もできなかったわけではないらしい。


 さて。


 問題は。


 これを。


 ミドリに見せて。


 何と言われるかだ。


「いいじゃん」


 と言ってくれればいい。


 たぶん。


 大丈夫だろう。


 今回は。


 結構。


 自信がある。


 ……あるんだけど。


 なぜだろう。


 最後にそう書いた途端。


 ものすごく。


 嫌な予感がしてきた。


※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・設定・構成など、作品の根幹となる部分は作者が制作し、それらの設定や展開、作者からの指示をもとに、ChatGPTが文章作成・文章化を担当しています。作者とAIが相談・調整を重ねながら、一つの作品として制作しています。

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