「外に出よう」
「外に出よう」
今日は、ミドリに半ば強制的に外へ連れ出された。
理由は簡単で、ここ数日まともに家と編集部しか往復していなかったからだ。
自分ではそこまでひどい生活をしているつもりはなかったのだけれど、昨日電話で、
「今日何食べた?」
と聞かれて、
「パン」
と答えたあと、
「いつのパン?」
と聞き返され、少し考え込んだのがまずかったらしい。
「明日、昼に出てきて」
「打ち合わせ?」
「違う」
「じゃあ何?」
「外に出るの」
「今も外には出てるよ。コンビニとか」
「そういう意味じゃない」
それ以上の説明はなかった。
担当編集というのは、作家の食生活や散歩まで管理する仕事なのだろうか。
たぶん違うと思う。
◇
待ち合わせ場所へ行くと、ミドリはもう来ていた。
いつもの仕事の時とは少し違う服を着ている。
「今日、なんか違うね」
そう言ったら、ミドリが少しだけ嬉しそうな顔をした。
「分かる?」
「うん。編集部にいる時よりちゃんとしてる」
「……そういう言い方しかできないの?」
「褒めたつもりなんだけど」
「もういい」
なぜか機嫌が少し悪くなった。
女性の服について感想を言うのは難しい。
下手なことを言わない方がいいのかもしれない。
「それで、どこ行くの?」
「まだ何も決めてない」
「決めてないの?」
「時根君を仕事場から出すのが第一目的だったから」
「じゃあ達成したね。帰っていい?」
「駄目」
即答だった。
◇
結局、駅の周辺を適当に歩くことになった。
本屋を覗いたり、雑貨屋へ入ったり、少し遅めの昼を食べたりした。
本屋には『ビーストギア』関連のものも置かれていたけれど、今日はなるべく見ないようにした。
せっかく外に出たのに、結局仕事のことばかり考え始めたら、ミドリに何を言われるか分からない。
「珍しい」
店を出たところでミドリが言った。
「何が?」
「『ビーストギア』の棚、見なかったでしょ」
「一応見えたよ」
「近づかなかった」
「今日は仕事じゃないんでしょ」
そう答えると、ミドリはなぜか満足そうに頷いた。
「そう。今日は仕事じゃないの」
「何回も言わなくても分かってる」
「分かってないから言ってるの」
意味が分からない。
◇
しばらく歩いたあと、ゲームセンターへ入った。
別に目的があったわけではない。
入口の近くを通った時、ミドリが少し足を止めたからだ。
「入りたい?」
「時根君は?」
「どっちでも」
「じゃあ入る」
中は思った以上に騒がしかった。
電子音と音楽と、何かが当たった時の派手な効果音があちこちから聞こえてくる。
僕はゲームセンターへまったく来ないわけではないけれど、最近はほとんど縁がなかった。
「こういうところ、高校の時以来かも」
「嘘。前に一回一緒に来たでしょ」
「いつ?」
「忘れてるの?」
「……何年前?」
「もういい」
また機嫌を損ねたらしい。
今日だけで何回目だろう。
僕は悪くないと思う。
たぶん。
◇
クレーンゲームが並んでいる一角で、ミドリが立ち止まった。
中に小さなぬいぐるみがいくつも入っている。
丸っこい動物のキャラクターだった。
「欲しいの?」
「見てただけ」
「そう?」
「そう」
そう言いながら、結構長く見ている。
これは欲しいということではないのだろうか。
僕は財布を出した。
「ちょっとやってみる」
「え?」
「取れたら得だし」
「その発想でクレーンゲームやる人、初めて見た」
百円玉を入れる。
アームを動かす。
下ろす。
ぬいぐるみをつかむ。
持ち上がる。
落ちる。
「……弱くない?」
「そう簡単に取れたら商売にならないでしょ」
「これ、つかむ気ある?」
「機械に文句言わないの」
二回目。
落ちた。
三回目。
位置は少し動いた。
「時根君、妙なところで負けず嫌いよね」
「ここまで使ったら取らないと損だろ」
「それ、一番危ない考え方だから」
分かっている。
でも、ここまで来ると引けない。
◇
結局、何回やったのかは書かないことにする。
後から計算すると少し落ち込む金額だった。
ただ、最後には取れた。
出口へぬいぐるみが落ちた時、思わず声が出た。
「よし」
ミドリが横で笑っている。
「そこまで本気になると思わなかった」
「最初の一回で取れなかったのが悪い」
「誰が?」
「機械が」
「絶対違う」
僕は取り出し口からぬいぐるみを拾った。
手のひらより少し大きいくらいで、近くで見ると結構かわいい。
「はい」
そのままミドリへ渡した。
「え?」
「欲しかったんでしょ」
「……いいの?」
「僕が持ってても仕方ないし」
言ったあと、ミドリが少し黙った。
「何?」
「別に」
「欲しくなかった?」
「欲しかった」
なら問題ない。
ミドリはぬいぐるみを両手で持って、しばらく眺めていた。
さっきまでより明らかに機嫌が良くなっている。
「そんなに欲しかったなら最初から言えばよかったのに」
「時根君が自分で気づいて取ってくれたからいいの」
「何が違うの?」
「全然違う」
やっぱり分からない。
◇
そのあと、いくつかゲームをした。
ミドリは思ったより負けず嫌いだった。
対戦ゲームで僕が一回勝ったら、もう一回と言われた。
また勝ったら、さらにもう一回。
「そろそろやめない?」
「次で最後」
「それ、さっきも言ったよ」
「今度こそ最後」
四回目で負けた。
「勝った」
「満足?」
「うん」
「じゃあ帰ろう」
「何その態度」
「こっちは三勝一敗だよ」
「最後に勝った方が勝ちなの」
「そんなルール聞いたことない」
高校時代も、こんな感じだった気がする。
仕事の話をしないで二人で出かけること自体は、昔から何度かあった。
ただ、担当と作家という関係になってからは、どこかで必ず原稿や締切の話が混ざる。
今日は珍しく、それがほとんどなかった。
◇
ゲームセンターを出る頃には、もう夕方になっていた。
「思ったより長くいたな」
「楽しかった?」
「まあ」
「まあ?」
「楽しかったよ」
言い直すと、ミドリが笑った。
「なら良かった」
「何が?」
「最近ずっと難しい顔してたから」
「してた?」
「してた」
自覚はなかった。
でも、考えてみればここ数日は、作品の規模がどうとか、読者の期待がどうとか、原作者としてどうあるべきかとか、そんなことばかり考えていた。
もちろん考える必要はある。
でも、一日中考え続けたところで答えが出るわけでもない。
「確かに今日はあんまり考えなかったな」
「でしょ?」
「ネームのこと途中で一回考えたけど」
「考えてたの?」
「一回だけ」
「今日くらい完全に忘れなさいよ」
「漫画家にそれは無理じゃない?」
何を見ても、何かに使えないか考える。
店の内装。
道を歩いている人。
会話。
ゲームの演出。
職業病みたいなものだと思う。
「でも、まあ」
僕は続けた。
「外に出るのも悪くないね」
「今さら?」
「最近ずっと机の前だったし」
「じゃあまた行きましょう」
「暇があったらね」
ミドリが一瞬止まった。
「暇は作るの」
「締切が」
「それを言うと思った」
◇
駅で別れる時、ミドリはまだぬいぐるみを持っていた。
「袋に入れなくていいの?」
「いい」
「持ちにくくない?」
「いいの」
何がそんなにいいのか分からない。
「じゃあ、また編集部で」
「うん」
数歩離れたところで、ミドリが振り返った。
「今日はありがと」
「何が?」
ぬいぐるみを少し持ち上げる。
「ああ。それ」
「大事にする」
「そこまで高い物じゃないよ」
「値段の話してない」
「……そう」
よく分からなかったけれど、本人が喜んでいるならいい。
◇
家に帰ってから、机へ向かった。
不思議なことに、昨日まで引っかかっていたネームの一か所が、わりと簡単に決まった。
別にゲームセンターで何か大きなヒントを得たわけではない。
ただ、一日別のことをして頭が少し空いたのだと思う。
ずっと机に座っていれば仕事をしている気になるけれど、座っている時間と進む量は必ずしも同じではない。
これは漫画家になってから何度も学んだはずなのに、締切が近づくと忘れる。
ミドリが外へ連れ出したのも、たぶんその辺を心配していたんだろう。
高校の頃から、僕が一つのことを考え始めると周りが見えなくなるのを知っている。
担当になってからは、それに締切まで加わった。
そう考えると、ずいぶん面倒をかけている気がする。
今度何か奢った方がいいかもしれない。
今日ぬいぐるみを取ったから、それで帳消しということにはならないだろうか。
……ならないか。
◇
ところで、さっきミドリからメッセージが来た。
部屋に置いたらしいぬいぐるみの写真だった。
机の上に、妙に丁寧に置かれている。
『今日は楽しかった』
と書いてあったので、
『僕もいい気分転換になった』
と返した。
しばらく返事が来なかった。
そのあと、
『そう』
だけ届いた。
何か変なことを言っただろうか。
女性は難しい。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
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ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




